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108.迷宮へのいざない

 美咲からの手紙を読んだ小川は、椅子の背もたれに体重を預けた。


「帰還の可能性はゼロではないと言いつつも、実質ゼロ、ですか」


 神託の内容を読み解いた結果、小川は美咲と同じ結論に到達した。


「そもそも、僕ら4人が同じ世界から来ているという保証もないし、そうなると更に帰還の可能性は低くなるのかな? 僕は構わないけど、茜ちゃんと美咲ちゃんは帰してあげたかったな」


 小川は手紙を机の上に置き、天井を向いて目頭を揉んだ。

 と、ノックの音が響いた。


「はい、どうぞ」


 小川が答えると、扉を開けてアンナが入ってきた。


「オガワ先生、レポートができた」

「ああ、アンナ君か。どうだい? 仕上がりの方は」

「自分で理解している範囲は網羅したつもり。過不足を確認して貰いたい」

「わかった。しばらく預かるよ。それで、練習の方はどうだい?」


 小川にレポートを手渡しながら、アンナは少し暗い表情を見せた。


「まだムラがある。治ったり、治らなかったり」


 アンナの治癒魔法の訓練は順調とは言い難い状態だった。

 治癒魔法が発動することもあるが、まったくの不発となるケースもある。

 そのブレが、どこに依存するのかがまだ不明確だった。


「発動することがあるということは、基本となるイメージは問題ないと思うんだよね。そうするとまだ知識不足があるのかもしれないかな」

「知識不足ならすべて失敗するのでは?」

「アンナ君はまだ勉強中だからね。何か余計な雑念のようなものが入り混じって失敗することがあっても不思議ではないよ」

「……なるほど。精進する」


 ◇◆◇◆◇


 同じ頃、ミサキ食堂にフェルがやってきていた。


「あれ? プリン食べに来たの?」


 美咲の問い掛けにひとまず頷いたフェルは、カウンター席に腰を下ろした。


「それもあるけどね。ミサキに相談があるんだ」


 よじよじと、隣の席によじ登ってきたエリーを抱っこして髪を撫でつつ、フェルは真剣な面持ちでそう言った。

 フェルとエリー、ふたり分のプリンを皿に乗せて、美咲が戻って来ると、フェルはエリーを椅子の上に戻す。


「相談? 珍しいね。私で役に立てること?」

「んー、とりあえずプリン食べてから話すね。感謝を」

「かんしゃをー」


 フェルとエリーがプリンを食べ始めるのを見ながら、美咲はプリンが入っていた容器を手早く洗う。

 エリーはプリンを食べ終わると、そのまま外に出て行った。


「さて、それで私に相談って何?」

「うん。今度迷宮探索に行こうと思ってるんだけど、メンバーに入らない?」

「迷宮? 白の迷宮?」

「白はさすがに無理だよ。青の迷宮。黄色に上がった時から、迷宮に潜ってみたいなって思ってたんだ」


 フェルは、青の迷宮に潜り、アーティファクトを探してみたいと美咲に告げた。

 フェルの傭兵のペンダントの色は、美咲と同様、黄色である。

 しかしフェルの実績は、主に美咲の魔素のラインに頼ったところが大きい。

 また、受けた依頼の大半は、魔物退治である。

 傭兵として成長するには、新しい何かを求める必要があると、フェルは考えていたのだ。


「フェルの考えは分かったけど……迷宮について教えて貰えないかな。どこにあるとか、どういう場所だとか」

「白の迷宮は知ってるんだよね?」

「名前だけね」

「そっか、ミサキだもんね」

「その納得のされ方はちょっとひっかかるものがあるんだけど」


 フェルは青の迷宮が王都北西にあること、迷宮には、地表よりも多く魔物が棲んでいること、入り口付近は文字通り迷路になっていること、迷宮の中にはなぜかアーティファクトと呼ばれる宝が出現することがあることを告げた。

 迷路を踏破し、魔物と戦い、どこかに眠る宝を探す、と聞き、美咲は人間に都合がよすぎると感じた。


「ねぇフェル、その迷宮って誰かが管理しているの? そうでなければなんでアーティファクトはいつまでもなくならないの?」

「管理しているのは女神様だって話だよ」


 この世界には女神は実在する。

 声を聴き、姿を見たことがある美咲は、それで追及を諦めた。


「そっか、女神様がやってるなら仕方ないね……で、メンバーは誰と誰なの? 私とフェルだけってことはないよね?」

「前衛がベルとキャシー。出来ればアンナも加えてチームを作りたいかな。でもアンナについては未定。王都で勉強中だからね」

「えーと、フェル、ベル、キャシーに私、あと、アンナ? 私達以外、みんな緑だったと思うけど、大丈夫なの?」

「迷宮の中は魔素が濃いから魔法使いには有利だと聞くし、もともと、青の迷宮は、青の傭兵なら挑戦して生きて帰って来られる難易度らしいから大丈夫じゃないかな」

「ふーん……なんで私?」

「ミサキのアブソリュート・ゼロに期待しているんだよ。あれがあれば、大抵の魔物は凍り付くからね」

「インフェルノじゃないんだ?」

「うん。なんか、迷宮の中では火魔法はできるだけ使うなって話があるんだ」


 なんでだろうね? と、フェルは首を傾げた。


「それで、行くとしたら、いつからいつまで?」

「来月。期間は一カ月程度かな。アカネもマリアさんもいるから食堂は大丈夫だよね?」

「あー、うん。ちょっと考えさせてもらえる?」

「勿論。でもできればよい返事を期待してるね」


 ◇◆◇◆◇


 翌日、美咲は食堂の調理をすべて茜に任せてみた。


「美咲先輩、一応問題なさそうですよ?」

「こちらも問題はありません」


 事情を聞いた茜とマリアは、美咲不在でも問題なくミサキ食堂を回していけると太鼓判を押した。

 必要な食材は、魔素の循環の際に山ほど呼び出して茜のアイテムボックスにも十分に入っている。

 後は、美咲が覚悟を決めればそれで迷宮探索の参加が決まるのだ。


「あの、ミサキさん。私も以前、迷宮に潜ったことがありますけど、パーティがしっかりしていれば、比較的安全ですよ」

「あ、マリアさん、迷宮探索の経験者だったんだ。どんな場所ですか?」

「青の迷宮だと、入り口付近は本当に迷路ですね。迷路の地図は迷宮入り口付近で買うことも出来た筈です。迷路を抜けて階段を降りると、その先は屋内なのに空が見える山岳っぽいエリア、そこを抜けると草原みたいな場所ですね。その先は行った事がないので分かりませんけど」

「迷宮の中なのに空が見えるって事は、天井がないんですか?」


 それなら、迷路の壁の上を歩いて行けばよいのでは、と、美咲が尋ねると、マリアは首を横に振った。


「屋内なのに空があるんです。雨が降ることもありましたけど、偽物の空だって話ですよ」


 茜が目を輝かせる。


「おー、なんか行ってみたいですねー」

「茜ちゃんが私の代わりに行く?」

「スカウトされたのは美咲先輩じゃないですか。私はお呼びじゃないですよ」

「んー、話を聞く限り、私も役に立つかどうか怪しいんだけど……あ、マリアさん、どんな装備があるといいか、教えて貰えますか?」

「はい……とは言っても、私も踏破したわけじゃないので参考程度ですけど、戦える格好に加えて、食糧、マント、光の魔道具、水の魔道具、火の魔道具あたりですね。食料は……って、ミサキさんは収納魔法が使えるんだから、好きに持って行けますね」

「え? 今、なにを言いかけたんですか?」

「大したことじゃないですよ。収納魔法が使えない人は、食料は出来るだけ乾燥したものを持って行かないと、荷物になるんです。重いし、嵩張るし、私は食料で一番苦労しましたね……ミサキさんはむしろ武器を考えた方がいいかもしれませんね。レイピアは持たないんですか?」


 相変わらず、美咲の武器はマインゴーシュ一本だけだった。


「正直、武器を使う自信がないんだよね」

「なら、盾を持つのも手ですよ。小さな盾をひとつ腕に固定しておけば、魔法を使うまでの一瞬を凌げるかも知れませんし」

「なるほど」


 防御特化の魔法使いということか。と、美咲は納得した。


「美咲先輩、飛び道具はどうですか?」

「無理。当たるわけないし、弓で狙ってる暇があったら魔法を使った方が確実」

「んー、クロスボウとかあるといいんですけどねー」

「だから弓なんて使えないってば」

「なに言ってるんですか、美咲先輩。弓とクロスボウは別物なんですよ」

「そうなの? どっちも弦で矢を飛ばすんだよね?」

「クロスボウはボルトとか言うらしいですけどね……まあ、このあたりでは開発されていないみたいだから、ないものねだりですけど」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

剥離骨折の方は、体重を掛けなければ痛まないというレベルまで回復しました。

難しい場所らしく、完治はしなさそうです。

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