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103.お絵描き

 酒を買った翌日から、茜の試行錯誤が開始された。

 まず最初は、美咲が呼び出した雑誌に載っていたレシピを、この世界で買える材料だけで再現した。

 出来上がったものの半分は、エリーでもそのまま美味しく食べられるものだったが、残り半分はビターな味付けだったり、お酒をそのまま振り掛けた大人向けのもので、エリーには食べられない、もしくは食べさせられないものだった。

 大人向けのビターな味付けのお菓子は、エリーでも食べられるように材料の分量を調整し、お酒を染み込ませるものについては、予めアルコールを飛ばすなどして、これもエリー向けに調整した。


 エリーが美味しく食べられるものが完成すると、茜は完成したレシピをノートにまとめ始めた。


「アカネおねーちゃん、なにしてるの?」


 茜の膝に乗り、ユラユラと尻尾を揺らしながらエリーは茜の顔を見上げ、そう尋ねた。


「んー? ケーキの作り方を書いてるんだー。これがあれば、エリーちゃんが大きくなったときに、自分でケーキ、作れるからねー」


 エリーは目を丸くした。


「おー、すごーい」


 エリーは茜の膝の上で足と尻尾をパタパタさせる。エリーが膝から落っこちないように茜はペンを置いてエリーを抱きしめた。


「ほら、暴れたら危ないよ」

「ん!」


 ◇◆◇◆◇


「アカネー、ケーキ出来てる?」


 そんなある日、フェルがミサキ食堂に顔を出した。


「あ、フェルさん。ちょうどよかったです。お酒をいっぱい使ったケーキがあるんですよ。持って行って貰えませんか?」

「ん? どゆこと? 貰えるものは喜んで貰っていくけど」


 カウンター席に座りながら、フェルはそう答えた。


「お酒を使うケーキには、酒精が飛んでるものと、残ってるものがあるんですけど、酒精が残っている方が……まー、ちょっと味見してみてください」


 茜は数種類のケーキを小さく切り分け、皿に乗せて、フェルの前に出した。


「美味しそうだね……うん。しっとりしてて美味しい。でも、どれも結構お酒が強いね」

「これが酒精が残ってるケーキなんですけど、置いとくと間違えてエリーちゃんが食べちゃいそーで」

「あー……子供にはちょっと危ないね。酔っちゃうかもだし」

「そーなんです。なのでフェルさんに食べて貰おうと思ってたんですけど、量が多いから丸ごと持って行って貰おうかなって思ってたんですよー」


 茜の言葉に、フェルは目を丸くした。


「いいの? 材料費、結構掛かってるでしょ、これ。チョコや砂糖をこれでもかって使ってるよね。大人の味だけど、逆に言えば、大人向けなら売れると思うよ。ミサキ食堂で出したら売れると思うんだけど」

「気にしないでください。あー、でもお酒の相談とか、また乗ってくださいねー」

「そんなことでよければ、いつでも言ってよ」


 茜はケーキが乗った皿を何皿も取り出し、フェルの前に並べた。


「それじゃこのケーキ、お皿ごと持って行ってください」

「ありがとう。お皿はあとで持ってくるね」


 フェルは皿ごとケーキを収納魔法でしまい始める。


「あ、フェル、来てたんだ」


 二階から下りてきた美咲は、ケーキの乗った皿を見てすべて察したようだ。


「フェル、そのケーキは食べ過ぎると太るだけじゃなく、酔っ払うから気を付けてね」

「ミサキは食べたの?」

「味見だけでやめた。お酒が強すぎて……。うちで食べられたのはマリアさんくらいかな……茜ちゃんがエリーちゃん向けに調整したのはみんな美味しく食べられたんだけどね」

「ふうん。それにしても、本当にアカネも甘味作れたんだね。ニホン人て凄いね。それじゃ、これはいただいてくね。あ、アカネ、酒場でみんなに振舞ってもいい?」


 最後の一皿を収納して、フェルは立ち上がった。


「どーぞ。あ、よかったら感想聞いて来てくださいよ。参考にしてもっと美味しくしたいので」


 ◇◆◇◆◇


「美咲先輩、色鉛筆って出せますか? セットのやつ」


 ミサキ食堂の営業が終了し、後片付けをしている時に、茜がそう尋ねてきた。


「色鉛筆? うん、出せると思うよ」


 美咲が試しにと呼んでみると、24色の色鉛筆が出てきた。


「おー、あ、あと鉛筆削りのちっちゃいやつって出せます?」

「どうだったかなぁ」


 美咲が念じると、小さな鉛筆削りがコロンと手のひらに落ちてきた。


「よかったー、これ、エリーちゃんにあげてもいーですか?」

「あ、いいね。エリーちゃん喜びそう。それじゃ、これもあった方がいいよね」


 美咲はスケッチブックを呼び出して茜に手渡した。


「ありがとーございます。って何を?」


 両手を前に出したままの美咲に茜が聞くのと、美咲が呼び出しを使ったのはほぼ同時だった。

 トートバッグ、スケッチブック数冊、絵具、2Bの鉛筆、絵筆数本が次々に現れた。

 それらを手早くトートバッグにしまった美咲は、トートバッグごと茜に手渡した。


「水彩絵の具はエリーちゃんにはちょっと早いかもだけど、一応呼んどいたよ」

「ありがとーございます。美咲先輩も過保護ですねー」

「そ? 選択授業に美術を選んでたから、思い付くのを一通り呼んでみただけなんだけどね」


 ◇◆◇◆◇


 友達と遊んで帰ってきたエリーの前で、茜はマンガのような絵を描いてみせた。


「アカネおねーちゃん、これシッポあるね?」

「エリーちゃんだよー。で、こっちがマリアさんねー」

「おかーさん? こんなにおめめ、おっきくないよ」

「あー、デフォルメ絵はダメかー」

「茜ちゃん、最初の絵がマンガ風っていうのはどうなの? 貸して」


 茜からスケッチブックを受け取り、美咲はサラサラと鉛筆を走らせる。

 何カ所か、指でこすって濃淡をつけ、スケッチブックをエリーに手渡す。


「おー、アカネおねーちゃんだ!」

「うぐぐ、美咲先輩にこんな特技があるなんて……」

「だから、選択授業は美術だったって言ったでしょ? この程度ならなんとか描けるよ」

「ミサキおねーちゃん、こんどはおかーさんかいて」

「んー、それより、エリーちゃんも絵を書いてみようよ。んー、最初はこれ」


 美咲はリンゴを呼び出し、テーブルに置いた。

 色鉛筆を渡すと、エリーはリンゴの絵を描き始めた。


「んー、じょうずじょうず……茜ちゃん、どうしたの?」

「私がエリーちゃんに教えてあげようと思ってたのに」

「一緒に練習したら? エリーちゃんのライバルってことで」

「ん? んん? それもいーですねー。それじゃ美咲先輩が先生ってことで」

「人物画はマリアさんとかフェルにモデルを頼むといいよ」


 そうと決まれば。と、茜もスケッチブックを取り出してリンゴの絵を描き始めた。


 ◇◆◇◆◇


 エリーのお絵描きは、わずか数日で、子供の絵描きのレベルを越えた。

 一緒に描いている茜の描き方を見て、それを柔軟に取り入れており、茜よりも少し下手というレベルに到達していた。

 今ではデフォルメと言う概念もなんとなくではあるが理解している風だった。


「マリアさん、もしかしたらエリーちゃんは絵の天才かもしれません」

「狐人は狩りの本能がありますからね。獲物の特徴を掴むのは人より上手いかもしれませんね」


 人物画のモデルをしながらマリアはそう答えた。


「おかーさん、うごいたら、めっ!」

「はいはい。これでいいのね?」

「ん!」


 美咲はエリーと茜の後ろからふたりの描いている絵を確認し、いくつか指摘をする。

 エリーは線の引き方にまだ迷いがあり、結果、スケッチブック全面を使って描くような絵では、場所により縮尺が変わってしまっている。全体の輪郭を決めて、パーツを置いていくようにと言うと、それだけでかなりの上達が見られた。

 茜の方は、特徴を捉えかねていた。

 人間しかいない世界から来た茜からすると、マリアの耳は、それだけで大きな特徴となるため、そこにばかり注意が行ってしまっており、全体を見るとどこかおかしい。美咲は、骨格を意識して描くようにと指摘すると、エリーの頭と、マリアの頭を見比べ、修正するごとに、不自然さがなくなっていく。


「……肖像画なんて、お貴族様みたいですね。エリー、大丈夫?」

「ん!」

「エリーちゃん、じょうずですよ……これは将来絵描きで食べていけるかもですね」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

ここのところの春の嵐にやられ、風邪をひいてしまいました。

多分風邪なんだと思います。スギ花粉はもう収束しつつあるんだから。

ヒノキの花粉症じゃないと、思いたい。。。


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