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102.お菓子のレシピ

「ところで茜ちゃん、なんでわざわざオーブンの魔道具なんて作ったの? うちのキッチンにも一応ついてるよね?」


 ミサキ食堂には、オーブンの魔道具が設置されている。


「あのオーブンって温度調整が難しいじゃないですか。予熱しても温度が中々安定しないし、狙った温度になったのか分からないし、温度を一定に保てないし」

「ってことは、まさか温度指定が出来るオーブンを作ったの?」

「そうですそうです。それと、指定した温度を維持するような仕組みも取り付けました」

「それは便利そうだね」


 ミサキ食堂にあるオーブンには、庫内温度を一定に保ってくれるような便利な仕組みはついていない。

 そろそろいい感じかな、という感覚に頼って温度調整を行うため、使い慣れていないと失敗することも多いのだ。


「とりあえず日本のオーブントースターに近い感覚で使えますよー」

「それは嬉しいね。ところでパウンドケーキの方は順調そう?」

「はい、今のところ順調そうです」

「エリーちゃん、喜んでくれるといいね」

「はい」


 ◇◆◇◆◇


「わー、あまくておいしー!」


 パウンドケーキを頬張りながらエリーが笑顔を見せた。

 尻尾がピンと立って、左右にゆらゆらと揺れている。

 茜はそれを嬉しそうに眺めている。


「みんな、紅茶、淹れたよ。マリアさん、どうかしました?」


 美咲が紅茶をテーブルに並べると、マリアが固まっていた。


「……いえ、その……紅茶ですか? いつものセンチャじゃなかったのでちょっと驚いただけです」


 食事の時に出している煎茶とは異なるお茶が出てきて、マリアは驚いているようだった。

 ちなみに、陶器のカップに入っていることや、金属のスプーンがついていることについては既に馴染んでしまっており驚きはない。


「うん。普通の紅茶だから安心して飲んで。あ、煎茶の方がよかった? なんなら淹れるけど」

「いえ、紅茶も好きですよ。2種類もお茶を用意してるなんて、なんだか貴族様みたいですね」

「この町にだって喫茶店とかあるんだから、大げさだよ。あ、エリーちゃんのにはお砂糖入ってるから」

「ありがとうございます」


 ◇◆◇◆◇


 パウンドケーキはエリーに好評だった。

 お腹がいっぱいになったエリーは、すぐに電池が切れたように眠ってしまったので、今はマリアが部屋で世話をしている。


「美咲先輩、レシピ集とか呼べませんか?」

「レシピ? なんの?」

「お菓子のです。エリーちゃんにいろいろ作ってあげたくって」

「んー? レシピ集……買った事あったかなぁ?」


 美咲はお菓子のレシピ集を呼んでみた。しかし、出てこなかった。

 料理のレシピ集は呼べたが、おかずのレシピ本で、お菓子類のレシピは載っていなかった。


「載ってなさそうですねー……あ、雑誌とかありませんか?」

「雑誌? 雑誌……ああ!」


 美咲はバレンタイン特集の雑誌を呼び出した。内容はチョコレート関連のレシピだった。

 続いてクリスマス特集の雑誌を呼ぶと、こちらもケーキなどのレシピが載ったものが出てきた。


「ありがとうございます。そうです。こういうレシピが見たかったんです。これでエリーちゃんにまたいろいろ作ってあげられますねー」

「うん。でも材料は気を付けてね。この世界にあるものだけで作れるようにしておかないと、マリアさんやエリーちゃんが自分で作ろうとしたときに困っちゃうから」

「あー、そうですね。気を付けます……んー、チョコレートケーキは大丈夫ですよね。この世界、チョコはありますし。ナッツ類は試行錯誤が必要かなー」

「お酒はマリアさんかフェルに聞くといいかも知れないね。アルコール度数の高いお酒を何種類か紹介して貰っておけば、いろいろ応用が効くと思うよ」


 美咲の言葉に、茜は首を傾げた。


「応用ってどういうことですか?」

「ケーキにお酒で風味を付けたり、練り込む果物をお酒に漬けたり、かな」

「あー、なるほど。この世界に蒸留酒ってあるんでしょーか?」

「あるらしいよ。今度、フェルでも誘って一緒に酒場に行ってみよう」


 ◇◆◇◆◇


 広場で魔道具の露店を片付けていたフェルを捕まえた美咲と茜は、フェルを誘って酒場に向かった。


「ミサキとアカネが酒場に誘ってくるなんて珍しいね」

「うん。ミストの町で手に入る、酒精の強い、香りがいいお酒について教えて貰いたくってね」

「フェルさん、宜しくお願いしまーす。いろいろ教えてください」


 茜がペコリと頭を下げた。


「いいけど、飲むんだよね?」

「飲まないよ。お料理に使いたいんだけど、どういう種類があるのかがよく知らないから教えて貰おうと思って」

「へえ、研究熱心だね。ミサキ食堂に新しいメニューでも増やすつもりなの?」

「茜ちゃんが甘味を研究してるんだ」


 甘味と聞いて、フェルの目が光った。


「それは楽しみだね。アカネ、頑張ってね」

「完成したら、フェルさんも食べてくれますかー?」

「勿論だよ。でも甘味か。そういうことなら、蒸留酒で香りが強いものがいいんだね?」

「そうですね。あと甘いお酒なんかも」


 ふむふむと頷いていたフェルが、片手をあげてオーダーを始めた。

 待つことしばし。コップに入ったお酒がテーブルに並んだ。


「まずはウイスキー」

「あ、ウイスキーはあるんだね……でも色は付いてないね?」


 美咲の問いに、フェルは不思議そうな表情を見せた。


「色? ウイスキーは無色透明でしょ?」


 この世界のウイスキーは、蒸留したものを甕に詰めただけの代物で、樽で寝かせたりはしていない。

 そのため、焼酎のように無色透明の状態で売られているのだ。


「で、こっちがウイスキーベースでいろいろ漬け込んだお酒。漬け込む果物の種類によって、色も名前も味も違ってるんだよ。お勧めはこれかな」


 フェルは、黄色っぽいお酒を茜に見せた。


「ミカンみたいな匂いがしますねー」

「そう、何種類かの柑橘類を漬け込んだもので、味も甘いよ」

「へー、漬け込んだ果物は取り出しちゃってるんですか?」

「うん、酒場ではね。もしも漬け込んだ状態のが欲しければ、酒屋に行けば売ってるよ。あとは、蒸留酒じゃないけど、お菓子作りに使えそうなのが、これ」


 別のコップを茜に差し出す。

 僅かに泡が出ている。


「エール……じゃなさそうだし、何なんですか?」

「蜂蜜酒。蜂蜜の風味がしておいしいんだ、これが」

「なるほど。お菓子には合いそうですねー」


 ◇◆◇◆◇


 注文したお酒はフェルが全部飲み切った。

 それらの代金を支払った美咲達は、フェルに酒屋の場所を教えて貰い、倉庫街のそばの酒屋を尋ねることにした。

 なお、フェルはこれから本格的に飲むそうで、酒場で別れてきた。


「さすが酒屋さんだけあって、いろんな種類のお酒があるね。とりあえず何種類か買ってみて、いろいろ試してみようか」

「ですねー。すみませーん! どなたかいらっしゃいませんかー」


 店頭で店員を呼ぶ茜。

 その声に、がっしりした体格の店員が店の奥から出てきた。

 首元には緑の傭兵のペンダントが見えている。


「はいよ。おや、通り名持ちがふたりか。酒かい?」

「はい……店員さんも傭兵なんですね。ええっと、お酒に柑橘類を漬け込んだものと、ウイスキー、蜂蜜酒をお願いします」

「甕で買ってくのかい?」

「んー、ウイスキーは小さい瓶で。他は甕でお願いします」


 使えなかった場合はフェルに飲ませればよい、と、茜はウイスキー以外は甕で買うことにした。


「あー、茜ちゃん、私が買っておく?」

「いえ、ミストの町の中で買えるんですし、大丈夫ですよー」


 店員は茜が注文したものを店内の台の上に並べた。

 甕の大きさは、美咲の顔よりも二回りほど大きかった。


「それで、あとで食堂の方に運べばいいのかい?」

「収納魔法があるので、持って帰ります」

「おー、さすが蒼炎使いだ。それじゃお代は全部で、えーと、2300ラタグになるよ」

「はーい、大銀貨2枚に銀貨3枚っと」

「毎度ー」


いつも読んで頂き、ありがとうございます。

しばらくいろいろ忙しくて更新が遅くなってしまうかもしれません。

最近、ツイッターを始めました。ツイッターの見過ぎで忙しいわけではありません(>_<)

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