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101.モグラ退治

 モグラ退治の準備には5日を要した。

 ふたつの罠を連結し、一方にモグラが掛かった時点で棒が地上に出てくるような仕掛けが施されたそれは、速やかにモグラの通り道に仕掛けられた。

 それに伴い、美咲とフェルの両名も、罠から20mほど離れた位置で待機を始めた。

 なお、罠の位置には場所を見失わないように小さな旗が立てられている。


「……ミサキー、これ、思ったより退屈だね」

「待つだけだからねー……ほら、静かにしてないと、モグラが警戒して寄って来ないかもだよー」


 虎のゴーレムの時のように大きな足音などの予兆がないため、美咲達は小さな旗が立てられた付近に棒が出てこないかをじっと見ていなければならない。

 地味に神経を使う作業に、美咲も疲れを隠せなかった。


 太陽が中天にかかる頃、旗がパタリと倒れた。

 次いで、トンネルから棒が飛び出し、ガリガリと言う音が響く。


「ミサキ!」

「……炎槍!」


 青白い炎槍が棒の付近に着弾する。

 盛り上がった土が一瞬で蒸発し、トンネルが露呈する。


「もう一発! ……炎槍!」


 トンネル内の罠も融解し、モグラの姿が一瞬だけ地上に現れた。

 それで終わりだった。

 しばらく待っても動きがない。

 だが、着弾点は地面が蒸発し、陽炎が立っている。熱くて近付けたものではない。


「アブソリュートゼロ、撃ち込んでよ」

「今度は冷たくて近付けなくなるんじゃないかな。フェルが普通の氷槍でも撃ち込めば?」

「到達する前に蒸発するような気がするよ……氷槍」


 フェルの手元を離れた氷の槍は、罠の付近まで飛び、着弾と同時に蒸発した。


「魔素のライン使う?」

「うん、出来るだけ太目でお願い」


 美咲が魔素のラインを伸ばす。

 距離が短い分、太さは太ももの太さ程はあるだろうか。


「フェル、いいよ」

「ありがと。氷槍!」


 フェルが魔法を発動させた直後、大きな氷の槍が着弾する。

 しかし、陽炎はまだ消えなかった。


「それにしても、地面が蒸発するとは思わなかったよ。相変わらずミサキの魔法はとんでもないね」

「私だって予想外だよ。蒸し焼きになると思っていたのに……これは、モグラ、倒せたと思う?」

「一瞬見えたからね。たぶん、蒸発したんじゃないかな」


 結局、温度調整には小一時間を要した。

 温度が下がってから罠のあった部分を確認すると、地面がガラス状になっており、そこにモグラのものとおぼしき骨の欠片が残っていた。


「ねぇフェル。これって、やっつけたってことで良いのかな?」

「いいと思うよ。とりあえず、骨の欠片を拾って戻ろう」

「穴はこのまま?」

「んー、後で誰かが確認に来るかもだから、このままにしとこうよ。埋めるにしたって、土が蒸発しちゃってるんだし」


 骨の欠片を拾い集めて革袋にしまっていると、フェルが小さな魔石の欠片を見付けた。


「ミサキ、モグラの魔物の魔石の欠片だよ。これなら間違いなく倒してるね」

「よかったよ。この待機って結構神経を使って疲れたからね」


 ◇◆◇◆◇


 傭兵組合に戻った美咲達は、ゴードンに事のあらましを説明した。


「まあ、魔石の欠片があったんなら退治したってことでいいな。よくやってくれた」

「それじゃ私達はこれで」


 とフェルが立ち上がろうとすると、ゴードンが待ったをかけてきた。


「ちょっと待った。ふたりとも黄色に昇格だ。それとミサキには指名依頼がきているので、ちょっと残ってくれ」

「ミサキだけ?」


 フェルが訝しむような表情で尋ねる。


「ああ……そんな心配そうな顔をするな。単独で戦闘を行うような依頼じゃぁない」


 フェルが会議室から出るのを待って、ゴードンは綺麗に丸められた羊皮紙を美咲に手渡した。羊皮紙は封蝋でとじられている。


「なんです? これは……手紙ですかね?」

「そうだ。ミサキへの指名依頼は、その手紙を届けること。届け先はミストの町の中だ」

「それが指名依頼なんですか?」


 ミストの町は一辺500メートル程の正方形の町である。

 わざわざ傭兵組合まで依頼を出しに来るのであれば、自分で届けた方が余程早くて確実な筈だ。

 それを指名依頼にする理由が分からず、美咲は首を傾げた。


「ああ、受けるか?」

「……えーと、怖いことになったりは?」

「しないな」

「なら受けてもいいですけど」

「よし。依頼は簡単だ。この書簡を……青海亭は分かるか?」

「はい」


 美咲は頷いた。


「青海亭の向かいに住んでいる、クリスって傭兵に手渡しで渡してほしい」

「クリスさんって黄色の?」

「ああ、なんだ、知ってたか」

「ミサキ食堂のお得意様ですから……って、クリスさんに渡すのに、何で指名依頼なんですか?」

「今のところ、指名依頼で依頼の実質的失敗がない傭兵ってな指名でな。それならミサキだろうって話になったんだ」

「んー、まあいいです。クリスさんに手渡しすればいいんですね。早速行ってきます」


 ◇◆◇◆◇


 青海亭の向かいには数軒の小さな家が並んでいた。

 ネームプレートを見ながら、クリスの家を探し当てた美咲が扉をノックすると、眠そうな顔をしたクリスが現れた。


「……んあ? 青いズボンの魔素使いさん?」

「えーと、傭兵組合の依頼で手紙を預かってきました。クリスさんにだそうです」

「俺に手紙……ねぇ?」


 クリスは書簡の封蝋を確認し、不思議そうに首をひねった。


「マーシャからか……とりあえず受け取ったんで、受け取りにサインだよな」

「あ、はい。こちらにお願いします」


 サインを貰った美咲は、釈然としないといった表情で傭兵組合に戻った。


 シェリーに受け取りを見せると、シェリーはクスクス笑いながら美咲に報酬を手渡してきた。


「シェリーさんはこの依頼のこと、知ってるんですか?」

「……んー、ある女性が、クリスさんにお手紙を出したんです」

「……もしかしてラブレターとか?」

「さあ、そこは想像にお任せですね。でも、験担ぎで依頼達成率が高い人に手紙を託したいって話で」

「そういうことなら先に言ってくれればよかったのに。何かと思っちゃいましたよ」


 ◇◆◇◆◇


 美咲は広場に立ち寄り、子供達と遊んでいるエリーをしばらく眺めた後、ミサキ食堂に帰ってきた。


「ただいまー」


 厨房で何やらゴソゴソしていた茜が顔を出した。


「美咲先輩、おかえりなさい。モグラ退治どうでした?」

「成功したよ。あ、エリーちゃん、広場で遊んでたよ。何か高鬼みたいなのやってたけど、こっちにもあるんだね」

「あ、そのルール、教えたのは私です」

「そうなんだ。缶蹴りとかも面白いかもね……って、空き缶なんて落ちてないか」

「それもありますけど、公園で缶を蹴るのはちょっと危ないかなって思って、教えてません」

「ところで何か作ってるの?」

「パウンドケーキです。オーブンを工房で作ってもらったので、試しに焼いてみようと思いまして」


 材料は混ぜ終わっているようで、ボウルから型に生地を移しながら茜が答えた。


「ふーん。プレーン?」

「はい。今回は試験なので、日本で作った事のあるのにしてます」

「……エリーちゃんに食べさせたいんでしょ」

「……あ、ばれました?」

「それじゃ、茜ちゃんがひとりで作った方がいいね。手は出さないでおくよ」

「はーい」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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