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10.魔素のライン

白狼の群れに囲まれたミストの町で美咲は炊き出し班として忙しく働いていた。

と。


「いた!」


突然、後ろから美咲の右手が掴まれる。包丁を使っていたら怪我をするところだった。


「何ですか、危ない……あれ、フェル?」


振り向くとフェルがいた。かなり焦燥した表情である。


「あ、シェリー、ミサキを借りるわよ!」

「フェルさん、魔法攻撃隊ですよね。ミサキさんに戦いは難しいんじゃないかと」

「知ってる。ミサキに期待しているのは魔素の制御だけだから」


何やら美咲の身柄についての取り決めが行われているようだ。


「ねえフェル、自慢じゃないけど戦いではお荷物にしかならない自信があるんだけど」

「本当に自慢にならないわね。ミサキには魔素制御で魔法の通り道が作れないかを試してもらうだけ。とにかく来て!」


フェルに引き摺られるようにして塀の下まで移動し、そこから梯子を使って塀の上に上る。

塀の上からだと殆ど何も見えない。所々に松明が投げられているが、その周辺以外は闇の中だ。

時折、闇の中に光るのが白狼の目だろう。

散発的に塀の上から火の槍や雷が飛ぶ。


(そっか、これが魔法かぁ)


それらの魔法が当たる瞬間、白狼の姿が闇の中に浮かび上がるが、ダメージを与えているようには見えない。


「ミサキ、白狼は見える?」

「あー、見えない……ちょっと魔道具使うね」


アタックザックからヘッドランプを取り出し、スポットにして最大光度で点灯してあちこちを照らす。そんな美咲をフェルが不思議そうな顔で見ている。

白狼は広範囲に散らばっていた。

光を当てると眩しいからか、固まってしまう。


(この白狼、樹海で襲ってきたのと同じ種類に見えるなぁ)

「ね、ミサキ……それ魔道具じゃないよね」

「それは後で。それで私は、何をすれば?」

「私の手元から、今ミサキが照らしている白狼までの間に魔素を集めて、こう、ラインを引けない?」

「やってみるけど……ええと」


魔素は願いに沿って動いてくれる。が、これだけ距離がある中で試した事はなかった。

フェルの手元から白狼の間に腕の太さ程の魔素のラインを引く。そんなイメージを脳裏に描きつつ。


「……フェルの前から白狼までの間に魔素よラインとなれ……」


体力がするりと抜ける感触があった。

見えるわけではないが、何となくできたような気がする。


「お見事! 炎よ、槍となりあの白狼を貫け!」


フェルの呪文と共に白狼が二つに裂けて燃え上がった。

塀の上にいた傭兵達が歓声をあげる。


「……予想以上に魔素を集めてくれたみたいね」

「どゆこと?」

「後で説明するわ。続けていくわよ」


塀の上を移動して次の白狼を探す。

ライトで照らすと目が反射する。


「ねえフェル、あれでいい?」

「もっと近い方が良い……あ、そこの松明の左手にいない?」


言われた辺りを照らすと白狼の姿が浮かび上がる。


「そ、あれ。魔素のラインをお願い」

「フェルの手より白狼まで魔素よラインとなれ」

「上出来! 炎よ、槍となりあの白狼を貫け!」


再び白狼が燃え上がる。塀の上でさっきよりも大きな歓声があがる。

当然だろう。今までまったく攻撃が効かなかった相手を一撃で屠っているのだ。

一発だけなら偶然かもしれないが二回連続だ。傭兵達の期待が高まる。


「ミサキ、次、あっちの」

「了解……えっと、あー、いたいた」

(魔素のライン引いてー……)


声に出していないのに体力が抜ける感触。


「へえ、思念詠唱じゃない……それなら私も……炎槍! ……距離があるとやっぱりちょっときついわね」


これもヒット。


「次、こっちです!」


塀の上で松明を振り回す傭兵に呼ばれ、そばに行くと確かに近くに獣の目の輝きがある。


「ミサキ」

「はいはい……魔素のラインっと……なんか結構疲れてきたんだけど……」

「……そうね。これをやったら休みましょう……炎槍!っと……うん、私も疲れたわ」


ほんの10分程度で戦果は白狼4匹。

それまでが数時間掛けて0だったのだから大戦果だ。だが、二人とも魔素を使い過ぎていた。まだ動けないわけではないが、そろそろ限界が近かった。


塀から降りた二人は喝采で迎えられた。

時間さえ掛ければ勝てる。そういう空気が出来上がっていた。


「二人とも、スープ食べて行って」


シェリーからお椀を受け取り二人は荷箱の上に腰を下ろした。


「……ミサキ、大丈夫?」

「……つかれた」

「そりゃそうよね……殆どミサキの魔素だけで……ってミサキ?」

「……おなかすいたねぇ」


美咲はスープのお椀を片手に、うたた寝を始めていた。


「あ、こりゃもう駄目みたいね」


美咲の手からスープの椀を取り、隣の荷箱に置く。そのまま美咲の肩を抱いて自分に寄り掛からせる。

既に美咲は眠りに落ちていた。


「あー……私も駄目っぽいかも」


数分後、荷箱の上で眠る二人に気付いたシェリーが毛布をかけ、二人はそのまま朝まで眠り続けた。


 ◇◆◇◆◇


カーン……カーン……カーン……。

少し間延びした半鐘の音が響く。

夜の部の終了の合図だ。

夜番が塀から降り、朝番が塀に上がる。殆ど効果は期待できないが弓矢と槍も塀の上にあげられる。

夜間も白狼達に対する牽制として弓による攻撃は散発的に行われていた。

毛皮には弾かれるが、目や鼻に当てる事が出来ればダメージも期待できる。それで実際に効果があったのかと言えば戦果は0なのだが、白狼達もノンビリ寝て待つ事が出来なくなるのだから、嫌がらせとしては十分だ。

そして、夜が明けたという事は。


「んー、なんか凄い所で寝ちゃったなぁ」


美咲の復活である。


「あ、ミサキ、顔になんか箱の跡がついてる」

「……ええと、どの辺?」

「ここ」


と、右の頬に斜めに指を走らせるフェル。


「顔、洗お……」


美咲はアタックザックから取り出したように見せかけて、タオルを呼び出し、桶に汲んだ水で顔を洗う。


「跡、目立つかな?」

「大丈夫だけど……それ、どういう魔法?」

「何が?」

「……今、おかしな魔法を使ったよね。周囲の魔素が一気にバッグに流れ込んでたよ? 収納魔法ならそこまで魔素を使わない筈なんだけど」


魔素を感じるフェルのレアスキルである。


(しまった……忘れてた)

「特に何も……大体、私魔法は使った事ないし」

「なんで魔法が使えないの?」

「田舎の出で、魔法を知らないからかな……さ、そろそろ白狼退治に行こう」

「あ、その前に炊き出し貰おう。昨日も結局食べずに寝ちゃったし」

「……そう言えばお腹空いてるかも」

ご指摘いただいた誤記を修正しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] マンガの続きが気になったので来ました
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