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EP02-02 始まりとTOMATO

10月11日(土)

【マルカリア本部内 第一指令室】


 様々な機械や大量のモニターが設置され、ありとあらゆる場所の状況と情報が流れ込んでくる指令室であり日本の最終防衛ラインの中枢。

 十分な広さがある指令室内は明るく、そこにいる人員もいまはどことなくリラックスしている。

 そんな空間の中央にある大型のモニターデスクの手前に俺はいた。

 両腕には保険といって付けられた強固な銀の手錠。

 大した重さはないので動かしづらいだけだ。

 服はあのパイロットスーツではなくここの職員に渡された白を基調色で赤いラインを走らせたベストとズボン、黒いブーツという軍服にしては派手なものを着ている。

 しかし機能性に関しては動きやすいし軽いので気に入っている。

 


 そんな俺は向かいに立つ幹部らしき男たちの話を聞きつつここにあるモニターの情報を横目に見ていると、それに気が付いた戦士にしてはだらしない体系の男が怒鳴ってきた。

 

 「おい!聞いているのか銀のガキ!」

 「ん?なんだ」

 

 面白半分でわざと聞こえないふりをすると期待通りトマトカラーに頬が染まった。

 「貴様ぁ……あんな面倒なことを提示してきたくせになんだその態度は!」 

 

 そう怒鳴った男は茶色の髪を上げており、身長は恐らく160もないぐらい。

 要は精神は刺々しいのに外見はだらしない。例えるならば厳つい表情のはにわというものだ。ただし足に向かって細くはなるが……。


 しかしこの態度で容認されているということは、ここでは相応階級の高い男なのだろう。

 恐らくここでこの男にあれこれ言えそうな階級のものは……。

 どう考えても横並びの幹部たちの中央にいるこの男だろう。

 短い白髪混じりの黒髪と頬にある傷が特徴で、微笑みながらもどこか裏のありそうなもの言いをする男だ。

 そのせいでここまでもっていくのにかなり苦労した……。


 「それで、本当にやってくれるのか?」と俺は言う。その男に向かって。トマトヘッドは無視して。

 「もちろんだとも。ボクたちとともに【マキナ】と戦ってくれるのであれば喜んでそれぐらいのことはしよう」

 まさかのあちらもトマトヘッドの発言を無視。

 「それはありがたい。だがなぜやすやすと俺の提案を受け入れた」

 トマトヘッドのことは置いておいてそう聞く。

 「現状と将来的な戦力を考えた結果さ。このままではこちらの戦力、経済力、物資が減る一方だからね」

 「他国との交渉という手はどうした」

 「いまの時代友好国に派遣できる国なんてないよ。どこも【マキナ】の対応で手いっぱいだからね。それに旧体制での友好国が必ずしも今でも友好であるとは限らないしね」

 「連絡していないのか?」

 「正確には『連絡できない』だね。なぜか衛生通信が使えないんだ」

 「――そうか。消去法で自国だけでの防衛をするしかないといったところか」

 「ご明察」

 「この国の言葉で言うならば猫の手も借りたいといったところか」

 「ま、そんな感じだね」といって司令官らしきその男は肩をすくめた。。

 「――大体の理由は把握した。それで俺が加わるとしてどこの所属になるんだ?ここか?兵器開発の【マルカリア】とかいう機関か?それとも実際に戦う【AWP】という所か?」

 

 

 大雑把ではあるがこの場所で話し合う前にこの国の体勢については頭に入れてきた。

 この旧ニホンの最終防衛ラインを守護する3機関の中心。指令から都市の運営まで行う【ブバルディア】

 【マキナ】と呼ばれる敵と戦う兵士の管理、育成をする【AWP】

 そしてその兵士が扱う道具を作る【マルカリア】

 3機関は互いに互いが必須であり、どれが欠けても旧ニホンの防衛が困難になるらしい。

 そんな3機関の内、俺は一体どこに入るのだろうか。

 なんとなくはわかるんだがな。


 

 俺は目にかかる銀の髪越しにまっすぐとその男を見た。

 すると――。

 「それは君が決めてくれ」といった。

 「どういうことだ?」

 「正直、ボクたちでは君をどこに置くべきか、その議論に決着がつきそうにないんだよ。しかも君しかあの機体を扱えないとなるとなおのこと。だから君自身に決めてもらいたいんだ」

 「――理由の説明を頼めるか?」

 「『兵器を作らせる』か『戦わせる』か。要約するとその2つさ」

 「両方やるのは?」

 「働きすぎだ。人としての権利は保証するからそんな過労はさせないよ。絶対にね」

 「人……か――わかった。期限はいつまでだ?」

 「なるべく早い方がいいけど、遅くても来週の問答会の後までで頼むよ。急がなければ次の襲撃までに間に合わなくなるから」

 「了解した。その会の中で決断してもいいんだな?」

 「もちろん」

 「ならその会の中で決めるとしよう。――ところで、あの兵士の容態はどうなったか教えてもらえないか?」

 

 俺はふとあの金髪の兵士のことを思い出した。

 自己犠牲を覚悟で俺の渡した鎮痛剤を飲み、さらにその容器を割って俺の首に突きつけたあの肝の座っている少女のことだ。

 状態が状態だったのであの時は備え付けの鎮痛剤を渡したが、【後遺症】はないのだろうか。

 それが気になった。

 

 「ふん、いまさらガキの心配をするのか。もし貴様の渡したもののせいで戦えなくなったらどうするつもりだったのだ」とトマトヘッドが俺をにらみながら言った。

 つくづく俺に難癖をつけてくる男だ。


 「まぁまぁその辺で。ね?」

 正面に立つあの男になだめられたトマトヘッドはしぶしぶといった感じで「わかりました。では私はこれで失礼」と機嫌を損ねたのか足早に指令室を後にした。

 一体あの男、いやトマトヘッドは何がしたいんだ……。


 トマトヘッドの出ていったスライド式の自動ドアをあきれ顔で見つめていると、正面に立つ男が言った。

 「すまないね。大佐は少々荒っぽい性格なんだ。だけど信用はできるからいざとなった時は共闘してもらえると助かる」

 「まぁトマトヘッドに嫌われようとどうでもいい。だがまぁいざという時は共闘すると誓おう」

 できればないことを願うが……。

 「トマト……ヘッド?」

 「それは気にするな」

 「――それで、確か話は連れてきてくれた二人のことだよね?それなら安心していいよ。一人は後遺症も見られないし平常時以上の回復力のおかげで今日退院したよ」

 「それはどっちだ?金髪の戦士か?」

 「金髪……うんそうだね」

 「そうか。ではもう一人は」 

 「すでに怪我は完治しているが昏睡状態だよ。いつ目覚めるのかわからない」

 「では二人とも俺の挙げた後遺症の症状は見られないんだな」 

 「教えられたほうな症状は様々な検査をしたが検出されなかった。むしろ平常時以上にいい状態すぎて驚いたと医師が言っていたよ」と言いながら男は肩をすくめた。

 「そこまで効力があるわけではないんだがな。だが少し安心した」

 「ボクも」

 

 しかし平常時以上の回復力となるとこれ以上は使わせない方がいいかもしれない。

 ただでさえ強力なあの鎮痛剤。

 俺や奴ならまだしも通常の、しかもこちら側の人間に使うのやめた方がいいだろう。

 いろいろな意味で……。




 とは考えたものの、今の会話のおかげで緊迫した雰囲気だった室内が少し和やかになる。

 互いに相手が脅威になることがないとわかったからだろう。

 それにここまで和やかな話し合いになったということもあるだろう。

 トマトヘッドの退出も要因かもしれないな。

 もしこれで敵対したらどうしようかと思った……。

 俺の計画が台無しになるところだったしな。

 

 「さてと、そろそろ本題に入ろうか」とその男は言った。

 

 そう、いままでのは再確認のようなもの。ここからが本題だ。

 

 「問答会のことだな。なにからにする」

 「まずは手配した場所の確認から。これを見てくれ」


 男はそういってテーブルモニターを操作すると、3組織全体の敷地のマップを表示させた。

 さすが3組織がまとまっているだけあってかなりの敷地規模だ。

 海と平行に横一列に並んでおり、まるで壁のように建物が建てられている。

 そんな敷地の中から【AWP】の部分を拡大すると、そこからさらに一部の建物を赤く塗りつぶした。

 計5つを塗りつぶしたところで男はようやく口を開いた。

 

 「この5つが今のところ確保した場所だよ。とはいっても3組織全員は絶対に入れないだろうけどね」

 「ではどうするのだ?」

 「悪いけど一部を除く【マルカリア】の学園の生徒達には教室で放送を見てもらうことにした。【AWP】の生徒と役員はこの5か所でぎりぎり収容可能だよ」

 「ん?残り一つの組織はどうするんだ?」

 「幹部とボク、それと僕の補佐官は会場に入るよ。残りは通常業務と会場警護に当たらせる予定さ」

 「そうか。――ひとつ提案をしていいか?」

 「なんだい?」

 「今日退院したという戦士、彼女を俺たちのいる建物に入れてくれないか?」

 「理由は?」

 「おそらく彼女からの質問が一番重要だ。彼女はあの機体を見ている。そして質問は間違いなくあの機体のことについてだ。この機会で公開しなければタイミングを失いかねない。そうは思わないか?」

 

 非公開でいきなり出撃さると無駄な混乱を生むだけだ。

 それに混乱が起こると計画に支障が出る。  

 ならばできるだけ早くかつ自然な形で事を運びあの機体を公開するべきだ。


 「確かに……いきなりあんなものが僕たちの機関から現れたなんてどっかの厄介者に知られたら対応が面倒だしね。――うん。問答会で公開するのが一番自然な形かもしれないね」

 「ではこちらもできるだけそうできるように努力はしよう。それとあの機体だが、いつでも動かせるように拘束は解いてほしい」 

 「見せるために?」 

 「それもある。だがもし【ジャイアント】?が来た時にすぐに動かせれば、あの機体の性能も見せることができるだろう?」

 「そうだね。ならく足を解く王に指示を出そう。ほかに何かあるかい?」

 「今は特には。また何かあったらその時に」

 それを聞いて男は笑みを浮かべてうなずく。

 

 ――と、ここですっかり聞きなれた予鈴がなる。

 この予鈴は3機関の全施設で同時刻になるものらしい。

 確かこの後は何もなかったはずだ。与えられた部屋でデバイスのメンテナンスでもしておこう。

 そう思い、俺は正面の男を見つける。


 「時間だね。最後に君の名前だけ教えてもらってもいい?何をしようにも身分証明書が必要になるし、その作成や手続きの際の書類に名前を書かないといけないからね。あ、これが身分証明するカードね」

 男はそういって、着ている制服の内ポケットから一枚のカードを取り出した。

 白ベースに青の模様の走るデザインのものだ。

 

 これからここで過ごすということになると必要になってくるものだ。

 ないと何もできそうにない。

 「――そう言うことなら」



 「俺の名は……」



 ――◇――

 10月13日(月) 13時53分

 【AWP敷地内学園 第一講堂】


 私、アインリット・ラーチは無事に退院し、晴れて今日から座学のみ講義に復帰することとなった。

 精神的にもだいぶ落ち着き、2週間前の戦闘以前の状態に戻りつつある。

 そして今日は待ちに待ったあの銀髪の人とコンタクトが取れるかもしれない問答会当日。

 扇形の階段状に設置された椅子に生徒や職員が座り、総勢1000名がこのこの講堂内に集まっていた。

 だがこれでもまだAWPの全職員、生徒の3分のⅠ。

 残りは別の講堂で中継を見ているらしい。

 そんな中、私たちのクラスは第一講堂の中央最上段に密集して席につき、会が始まるのを静かに手元のスマートフォンを操作して待っていた。

 

 画面に映しているのはこの学園の生徒とッ職員のみがアクセスできる掲示板の、さらにそこに特設されたこの会と連動したページだ。

 

 絶えることなく更新されるページ。

 それもそのはず、このサイトには銀髪のあの人への質問を送信するためのサイトだから。

 質問には特に規定はない(トップページに警告とばかりに赤字で『場所と状況を考慮して入力せよ』と書かれているが……)

 当然序盤はあの人の情報が直維持されるような質問をすると思う。

 だから聞くべきことは……。

 

 私は右手の人差し指で質問文を入力して送信ボタンを軽くタップすると、横に座る友人の新塚にいづか 有栖ありすが話しかけてきた。

 

 「ねぇ、ラーチさん」と赤茶色のまっすぐで短めの髪で、鋭い眼尻と虹彩がグレーの瞳を持つ有栖が言った。

 「なに?」

 「これから現れる協力者ってどんな人だろうね」

 「そうね……」

 

 私はそれ以上は言わなかった。

 いや、どういえばいいのかわからなくて言えなかった。

 顔は見れてないにしても間違いなく協力者というのはあの機体のパイロット。

 もしそれを言ったら何が起こるかわかったものじゃない……。

 下手したら後々口留めをされるかもしれない。

 そうなれば訓練や出撃の支障になるかもしれない。

 それだけは勘弁してほしいから……。


 「――あくまで予想だけど相当な実力の持ち主じゃないかしら。学園にも機関にも所属しないで協力を名乗り出て、しかも機関側がそれを飲むなんて普通はあり得ないことだし」と半分真実半分適当なことを言った。

 

 実力に関してはそもそもあの機体のパイロットとであるということで証明できている。

 だが後半の所属に関しては一切の情報が公開されていないので適当に言った。

 なにせ答えはもうすぐわかるのだから……。


 「そっか。確かにここまでの規模ってだけで相当強いだろうね。――ちょっと楽しみだなぁ」と言って有栖は誰も立っていないステージをみつめた。

 「楽しみ?」

 「うん」

 「どうして?」

 「だって……早く平和な国になって欲しいから。そうすればラーチさんもみんなも戦わなくて済むし、楽しい学校生活を送れそうだからさ」と有栖は笑っていった。

 「そうね。でもそうなったら私、何をして生きていけばいいのかしらね」

 「――え?」

 「――なんでもないわ。そろそろ始まるわ」


 私も有栖もそれ以上は何も言わなかった。

 会が始まるまで。

 

 少しいい方がきつかったかもしれない。

 だけどそれでいい。

 私に普通の、平和な日常なんて似合わないと思うから……。

 それにできるだけ考えたくなかったから……。




 『これより第一回問答会を開始する』


 その司会の宣言をもって、私たちの今後を左右するであろう問答会が始まった

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