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EP02S-01 未発のDATA

   ――第二章――


 私はいま、【AWP】敷地内にある医療施設の3階の個室、そこにある白いベットに身を預け、上体を起こしていた。

 顔や首筋、簡易的な服の裾からは痛々しい包帯やテーピングが巻かれている。。

 さいわい怪我自体はそこまでひどい状態ではなかったらしい。 

 包帯やテーピングの下にあるのは内出血や切り傷、打撲などのわりと軽いけが。

 なのになぜか担当医は「絶対安静。2週間ぐらいは入院してもらうからね」といって私を退院させてくれない。

 といっても退院してからも担当医の許可が出るまで訓練」はしてはならないと言われているので、早く退院する必要はない。しても暇なだけ。

 

 「あれからもう3日。3日も経ったのね」


 私はそういって窓の向こうにあるだだっ広い滑走路を眺めた。


 

 あの戦闘から3日が過ぎた。

 いろいろなことが起きたあの戦闘からもう3日も経った。

 戦闘終了後はものすごいあわただしかった目の前の滑走路も、いまは通常どおり生徒の訓練に使われている。

 それと全域の被害状況の確認も完了し、公式にその数値が昨夜発表された。

 それがこれだ。


【9月25日エリアG沖合からの侵攻による被害状況の報告】

   

 死者0名

 負傷者46名

 行方不明者3名

 

 追記|(9月27日):行方不明者2名をエリアG近郊のモノレールステーションで保護。多少のけがはあるものの命に別状はなし。


 【兵器被害】

 1班 なし

 2班 16丁破損 24丁機能不全

 3班 14機大破 11機中破

 4班 なし

 5班 なし


 【その他】

 残存の【アニマル】、【ヒューマン】の確認はできず。

 【ジャイアント】5体の機能停止をエリアG東部で確認。

 いずれも頭部と胴体が離れており、胴体の胸部には意図的に開けられた穴を確認。

 撃破時の状況は不明。 

 調査を続行する。

          以上


 そういう報告がインターネット上の公式サイトに掲載されていた。

 ちなみにこれは私たち3組織の下院傾斜だけでなく、内陸にいる民間人も閲覧することができる。

 きっと今頃破壊された【ジャイアント】のことで大騒ぎになっているだろう。

 

 そして私は今朝これを見たとき、改めて彩芽がもうこの世にいないのだということを実感した。

 【ブバルディア】のこの類の報告では『遺体を確認したことを【死者】』とカウントし、逆に『遺体は見つかっていないが連絡も取れず、生存を確認できないもののことを【行方不明者】』とカウントするということになっている。

 つまりこの報告にある行方不明者……それは彩芽ただ一人ということになる。

 しかもその彩芽は私のすぐそばで姿を消した。それも体育館の屋根ごと。あの周辺を飲み込んで。

 一瞬だった。

 見れなかった。

 どうしようもできなかった。

 あの時、もし救援を呼ばず、一人でどうにかしようとしていたらどうなっていたのだろうか。

 もしかしたら私があの攻撃に飲まれていたのかもしれない。

 一瞬で死へといざなわれ、抗うこともできずに連行される。

 そう考えると……。


 「っ!違う。なんでそんなことを思えるの……。どうして……。私は……!!」

 頭を押さえてつぶやく。雫が頬を伝ってシーツにしみこむ。

 何度も。何度も……。


 それからどれくらい経ったかわからないほど泣いた。

 いままで耐えてきたのに。涙は流さないと決めて生きて、戦ってきたのに。

 それぐらい今の自分が情けなく、どうすることもできなかったのが悔しい。

 たとえそれがあの時の私にどうすることもできなかったことだとしても。

 ――とそこに数回ドアをノックして看護師の一人が入ってきた。


 「アインリットさん。調子はどう?診察の前に着替えておきましょ……ってどうしたんですか!?」


 そういって目を見開いて駆け寄ってきたのは、私が怪我をするたびに治療に携わってきた女性だった。

 その人は私が泣いていることに驚き、背中をさすってくれた。

 たったそれだけのことなのに、なぜか私はすごく安心した。

 

 「――ありがとうございます。もう大丈夫です……」とようやくいろいろ落ち着いた私は、涙をぬぐいながら言った。

 「そう?無理はしちゃだめよ?」

 「はい……。着替え……でしたか?」


 まだ少し目は赤いものの、私はその人が入ってきた時に言っていたことを思い出していった。

 「そうね。でもできそう?」

 「はい」

 「じゃあ着替えちゃいましょうか」


 それから私に新しい服、薄手のボタンタイプのパジャマのような服を渡してきた。

 私はそれを膝の上に置き、今着ている同じタイプの上着のボタンを上から順に外していく。

 そのたびに体に巻かれた包帯があらわになっていく。

 そして上着を脱いで脇に置いたとき……。

 「あの……どうしたんですか?」

 ふと、私の体を見つめているその人に言った。

 「あ、ごめんなさい。アインリットさんの身体、とってもきれいだからついね」 

 「はぁ……別にそんなことはないと思いますが」

 「そう?でもとても15,6歳には見えない身体よ?鍛えているせいなのかわからないけど、引き締まっててモデルみたいだわ」

 「はぁ……」

 どうしてこんな微妙なリアクションかは……まぁループしてるとだけ言っておくわ。


 「ところであの、この包帯ってもう少しゆるくできませんか?」

 私は脱いだ上着を軽くたたみながら言った。

 「包帯?きつかった?」

 「少し胸周りが」

 「あら、ごめんなさいね。次やるときはもう少し緩くするわ」

 「お願いします。あと、私のことって世間ではどう公表されてますか?」

 「アインリットさんのこと?」

 「はい。少し気になって。あと向こう側のニュースとかはあまり見ないので」

 「そうねぇ。確か『不可能を可能にした少女!破壊不可能な【ジャイアント】を破壊し、負傷者を連れて生還!!』って感じだったかしら」

 「そこまで大々的に……」

 というか盛りすぎにもほどがある。いったいだれがいつ私が【ジャイアント】を破壊したといったのだろう……。

 あきれるを通り越してもはや感心しそうになる。

 「はぁ……。私、そこまでやってませんよ」

 「そう?でも御剣さんをここまで連れてきたのは事実でしょ?」

 「まぁ……そこは」

 

  やっぱりというべきか、この人もあの機体のことは知らないようだ。

 記事にも書かれていなかったし、向こう側も情報を改変して発表しているようだし、本部は一体どうするつもりなのだろうか……。

 奪うのか、複製するのか、それともなかったことにするのか。

 

 そんなことを上半身ほぼ裸で考えているとまたも扉をノックして、返事を待つことなく入室してきた人物がいた。


 「ちーっす。アインさん調子はどう?」


 そう、レグだった。

 学校の制服を纏い、肩からバックを提げ、右手には果実の入ったかごを持っている。

 

 「せめて返事ぐらいまちましょうよ……それと来てくれたんだ」

 「まぁね。友人の見舞いに誰に言われるでもなく来る俺、最高じゃね?」

 「ふ、それを自分で言わなきゃね」

 「おっとそれは失態だ。――ところで今ってもしかしてグッドタイミングとかだったりする?この状況」

 「――そうね、いまここにあなたの銃があればすぐに打ちたいぐらいにバッドタイミングだわ。あともう一度言うけどせめてノックしても返事ぐらい待ってから入室したほうがいいと思うわ」


 そういって私は左手で服の隙間から見える胸元を隠し、腕全体に包帯の巻かれた右手の人差し指と親指で銃を作ってレグに向けた。

 

 「相変わらず容赦ないなー。っておい、今度は何おもむろに枕を掴んで……あぶね!」

 私は彼が話している最中だが問答無用で枕を投げつけた。

 しかし彼はあっさりとそれを避けてしまった。当たればよかったのに。

 「いいから着替えるまで外で待ってて。それと2度も忠告したから次はないわよ」とにらみながら言う。

 「了解しました!着替えが終わり次第お呼びくださいませ!!それと以後注意します!」

 そんなにきつくにらんだつもりはないのだけど……。

  

 でもレグは私に背を向けながらびしっと敬礼をすると、「あ、これはお見舞いの品であります!」といってそのまま看護師の元まで行ってかごを渡し、きびきびと動いて退出していった。


 一気に静かになった室内で「面白い子ね」と看護師が笑いながら言う。

 私は苦笑して、再び自分の今の恰好を確認した。

 幸いというべきか胸元は包帯が巻かれていたのでそこまで見られてはいないと思う。

 もちろん恥ずかしかった。顔にはあまり出なかったけど。

 でもそれと同じくらいボロボロな今の状態を見られた事も恥ずかしかった。戦うものがこんな哀れな姿を見られたのだから……。


 それから私は看護師の人に手伝ってもらいながら、ゆっくりと替えの服に身を包み、その人にレグを呼んでもらうように頼んだ。



 しばらくして看護師の人と入れ替わるように「いやーごめんごめん」とレグが笑いながら入ってきた。

 「まったくよ、恥ずかしかったんだから」

 「いやほんと悪かったって。でもすごくきれいだったぜ?」

 あなたもそれを言うのね。

 「そういうことじゃない……まぁいいわ。それよりまさかあなたが見舞いに来てくれるなんて予想してなかったわ」 

 「うわひっで、俺を何だと思ってるわけ?」


 そういいながらレグはベットのわきに置かれているパイプ椅子に腰かけた。


 「――光子銃の技術はすごいけど男としてはだめな友達……かな?」

 「結構容赦のないコメントをどうも。しかし俺のどこがだめなんだ?」

 「たらしなところじゃないの?」

 「誰それ構わずあんなこと言わないからな!?」

 「じゃあなんでたびたび私には言うの?」

 「それは……なぁ。――と、ところで身体の調子はどうだ?ずいぶん包帯が巻かれていたようだけど」

 なぜ途中で目をそらしたのかしら?

 「もう平気なぐらいよ。けどなかなか担当医が退院させてくれないの」

 「へぇ、みんな心配してたぞ?連絡したらどうだ?」

 「けど……みんな私のせいだと思ってるんじゃない?彩芽と風香のこと。あと残念ながら今ここにあるのは借り物よ。私のはどっかにある私のカバンの中」

 「二人のことは誰もアインさんのせいだとは思ってないよ。それと伝言。私物は大園指令が預かってるってさ」

 「なぜお義母様に……」

 「保護者だからじゃないか?」 

 「それしかないわね」


 今の会話、彼は二人のことを私のせいじゃないといった。でもそれを受け入れることができないもうもう一人の自分がいた。

 そしてそれ以上私の発言になにかを言及するわけでもなく、棚から取り出した果物ナイフでかごの中のリンゴを取りだして皮をむき始めた。

 するすると皮をむいてく。



 ほんの数分で切り終えたリンゴを皿の上に乗せると、楊枝をさして私に差し出した。


 「おまちどう。食べてくれ」

 「ありがとう。――いただきます」


 私はそのお皿を受け取り、楊枝をつまみあげて一口。

 シャクっという心地のいい音と少しすっぱいけど甘さもあっておいしいリンゴ。

 それを一切れ食べると、レグがため息をついて私を見た。


 「どうしたの?」

 「それだけいい顔して食うんだから、その顔でクラスの女子と接すればいいのにな~って思っただけ。それと――」


 「もう一度言うが二人のことはだれもアインさんのせいだとは思ってないぜ。彩芽さんは行方不明扱い、風香は眠ったままだが生きている。死者はいないんだ」

 「私を助けに来たから二人はああなったのよ?」

 「相変わらず全部自分のせいだと思ってるんだな」

 「悪い?」

 「悪くはないが……せめてもう少し肩の力を抜いてもいいし、娯楽の興じてもいいと思うぜ。アインさんう休みの日でも学校のトレーニングルームにいるって聞くし」

 「私に娯楽?そんな余裕は……」

 「ま、【マキナ】が来る限りは難しいだろうな。アインさんってどこにいようがあれがくれば戦場に行こうとするし」

 「そういうことよ。私は守るために、【マキナ】が来る限り戦い続けるわ」

 「そうかい。ま。そう簡単には変わらないよな。根気強く行きますわ。――じゃ、俺はそろそろ行くわ」


 そういってレグはナイフ片手に立ち上がると、床に置いていたカバンをもって退出しようとした。

 

 「あ、そうだ」


 何かを思い出したかのように私の元まで戻ってくると、カバンの中からおもむろに彼自身の所有物のあの変わった形のデバイスを取り出して操作。

 目的の画面にすると、それを私に見せるように差し出してきた。


 「これ、たぶんそのうち連絡がいくだろうけど一応教えておくよ」

 「なに?これ」

 「ほら、アインさんたちを運んできた銀髪の少年がいたろ?その少年との話し合いを俺たちに見せてくれるんだとさ」

 「っ!内容は?」

 「まぁ見てみろって」


 そういってさしだされたデバイスを受け取り、画面をスライドさせて読んでいく。


 【9月28日 日本統括組織ブバルディアからの関係者一同へ】


 先日、我々は【AWP】の生徒を運送してきた少年と接触した。

 そしてその少年の提案の元、【ブバルディア】【AWP】【マルカリア】の三組織の全職員及び生徒を対象にした問答会を行うこととなった。

 よってその日時と場所を記載する。

 なお本件は不明な点も多いため民間には公開はしていない。

 万が一組織外に人間に知らせるようなことがあれば厳重な監視下に置かれる、または処罰があるものと思って行動するべし。


 日時:10月13日(月)

 場所:AWP敷地内にある大型会議スペース

    なおここに収容しきれないことは明白なため、別室からの中継も同時に行うものとする。その場所は後日改めて連絡する。



                                     以上


 「2週間後……それなら退院できてそうね」

 「そりゃよかった。けどなんでこの人は3組織の関係者を呼んで問答会なんかするんだろうな」

 「わからないわ。けど何か目的があるんじゃない?」

 「例えば?」 

 「そうね……自分の存在を知らしめるため……とかじゃないかしら?」

 「なるほど、アインさんはそう考えたんだ」

 「というと?」

 「いや、俺は誰かを探してるんじゃないかと思ってさ。だって3機関の関係者を集めるなんて相当な人数だろ?けど誰かを探すために集めるのなら一番手っ取り早い方法だと思うし」

 「なるほど……少なくともあの人にも何か目的があるのは間違いないわね」

 「それが当日わかればいいんだけどな」

 「そうね。――ねぇ、私たちを運んだ機体のことって何か知ってる?」

 「ん?あの黄色い光を放つ機体のこと?」

 「そう。まったく情報が公開されていないのが気になったの」

 「あーそういうことか。あの機体ならいまはうちの敷地内にある1班の格納庫にあるぞ。なんでも攻撃されてもすぐに対処できるからっていうのと隠せる場所がそこしかないからとかいう理由で」

 「そう……1班の人はどうしてるの?」

 「1班の連中も立ち入り禁止らしい。いまは仮拠点を使ってるらしいけど」

 「そう。ほかには何か知ってる?」

 「――これは俺だけ知ってることなんだが」


 レグはそういって私の耳元に口を近づけると囁いた。


 「あの機体は【マルカリア】の技術では再現不可能だ。天と地ほどの技術差があるからな。関節にも推進装置にも、あの黄色い光を発する機関にも」

 

 そういって離れた。


 「なんで知ってるの?」

 「見たんだよ。あの関節とか推進装置とかをな。あれは次元が違うわ」

 「そう。最後に一つ。なんでそこまで知ってるの?あの場にはいなかったはずだけど?」  

 「さぁ、なんでだろうな。案外視野の狭いスナイパーライフルのスコープ越しでも見えるものはあるぜ」

 「そう。――ありがとう。参考になったわ」

 「どういたしまして。――あ、このお礼は退院後に何かおごってくれればいいから。じゃあな」


 レグはそういって病室を後にした。

 抜け目がないというかちゃっかりというか、とにかく彼のおかげで少し楽になった気がする。それにほしかった情報も集まった。まぁ彼自身の謎は増えたけど。

 再び一人になった私は切ってもらったリンゴに楊枝をさして口に運ぶ。

 シャクっという音と酸味と甘味の絶妙な割合の味が口内に広がる。

 

 「やっぱおいしい……。懐かしいな……」


 小さいころ、熱を出した時にお母さんが切ってくれたっけ。たまにお父さんが切ってくれたりもしたけど。

 もう二度と戻ってこない幸せだったあの日々。

 

 私はあの頃を、そして彩芽と過ごした数年を思い出しながらリンゴを口に運んだ。

 時折、頬を熱いものが流れ、それが口に入ってリンゴは別のしょっぱさを感じながら。

 ゆっくりと私は平らげた。

 

実は執筆に大苦戦してる章なのは秘密(´・ω・`)

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