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EP01F-06 黄光のキヘイ ver2.0

――◇――

 視界に入ったのは黄色に輝く鋭い双眼を持つ、カラーリングが黄色と灰色で構成された機体だった。

 ベースは灰色で、部分的に発行装甲で黄色く光っている【ジャイアント】とはまた違うやつ。

 その機体の右腕が私達を宙でキャッチしたようで、それを証明するように目の前にはその巨人の胸部、中央に黄色の輝きを放つ箇所と、私達を囲うように黒光りする指のようなものが5本あった。

 

 私は眠る風香を抱えながら上体を起こすと無言で見下ろされる双眼を見つめる。

 動揺を隠せない。

 これはなに?

 それにどこから来たの……?

 ただひたすらこちらを胸元越しに見つめる黄色の眼。

 口回りを覆うように黄色く光る装甲があり、額には大型のヘルムをかぶっているようだ。

 見たことのない機体。

 なんなの、この機体は……。

 治癒能力を上げる薬を飲んだおかげで耳が少し聞こえるようになっている。

 そして耳を済ませればあの少し高めの音が近くで聞こえる。あの音はこの機体から出ていたものだったのか……。

 聞いたことのない推進装置音。


 そんなことを考えていると、突然その機体は私たちのいる右手を動かして胸元までもっていくと、手を傾けて私達をそこに降ろした。

 続いて私たちのすぐそばの、機体の首に近い装甲が駆動して大きめのハッチらしきものが開くと、どこからか機械越しに声が聞こえた。

 

 『中に入れ。急げ』と。


 まだ声変わりをしていないような少年の声。だけど低い声でそう言った。

 突然聞こえた声に驚きつつも、私は言われた通り風香を抱えてその穴に飛び込んだ。


 少しして足が金属製の床についたような軽い音がした。

 

 ――明るい。ここは本当にあの機体の中なのかと疑いたくなるほどに。

 おまけに思っていたよりも中は広い。横幅は風香を寝かせれるほど。前後はもそれなりに広い空間になっていた。

 この機体の首と向かい合いながら降りたため、目の前には鈍い銀色の壁。上のほうには模様のような物が掘られている。

 振り返ると大掛かりな背もたれがあり、その背もたら越し前を覗くと、左右と正面のモニターが連結してこのあたりの様子を映していた。

その中央モニターには、今まさに迫ってきている5体の【ジャイアント】の姿が映し出されている。

 

 私はそのまま背もたれの横にある縦長の床に移動すると、その大掛かりな椅子に座る人物を見た。

 

 そこには長い銀髪の人物が座っていた。

 私たちのものとは形状の異なる銀を基調色としたシャープな頭部デバイス。

 額から顎先まですっぽり隠れる大型のバイザーは鏡面加工がされていて、その人の素顔を確認することができないようになっている。

 そのまま下を見るとその人物の細い体型に合わせた黒と黄色基調の戦闘スーツに似たものを着ていて、腕、肩、胸元、脚には灰色のプロテクターがつけられている。

 このあたりは私たちのものに似ている気がする。

 そんな人物の手先はその椅子と連結しているいくつもの操作レバーのようなものやスイッチがあり、足裏は車のペダルのようなものと合わさっている。

 

 ――これはコックピットだ。

 そう思った矢先、その人物が言った。


 「話はあとだ。何処かにつかまっていろ」

 「一つだけ答えて。あなたは敵?それとも味方?」

 「――少なくとも目の前のあれは敵だと思っている。だがお前らの組織のものではないといっておこう」


 その人物はぶっきら棒にそう答えると、座席の横から一本、緑色の液体の入った白い筒状の容器を取り出すとそれを差し出してきた。


 「これをそいつに使っておけ。少しは楽になるはずだ」

 「待って。それを信じるとでも?正体の分からないものをおいそれと仲間に使うほど馬鹿ではないわ」

 

 味方とは言わなかった手前、それを風香に使うわけにはいかない。

 ――いや、仮に味方といったとしても怪しいものを仲間に使うなんてできるわけがない。


 「そうか。別にそいつが死んでもいいというなら拒否してくれて構わない。だがそいつ、そう長くはもたないぞ?」

 「――なんでそんなことがわかるの?」

 「『知ってる』からだ」

 「それで信じるわけがないでしょう」

 「ならいい。だがもし、これから俺の起こす行動が信用するに値するものだったら。その時は迷わずそいつに飲ませてやれ」

 「――わかった」


 私は差し出されたそれを受け取るともともと鎮痛剤の入っていた足のプロテクター内部にしまった。

 そして最初に言われた通り背もたれにつかまった。

 それを確認したのか、その人物はレバーを操作して機体を動かしはじめた。

 


 私たちの乗っている謎の機体。

 それはすらりとした体系の人型の機体だった。

 エルフのようなとんがった耳のようなパーツが側頭部についており、そこと脛と腕裏には眼や胸部とおなじ黄色に発光する大型のパーツが付いている。

 それ以外は灰色をベースに、黒をアクセントに使った機体みたい。


 肩には大型の6角形の装甲、その後ろと、腕の裏には奇妙な形の推進装置が付いている。それ以外にも太ももや背面には肩とは違う形の推進装置のようなものある。 

 そんな機体は腰に滞納した二本の漆黒の片刃剣を抜刀すると、それを構えて推進装置を起動。

 低空飛行で砲身を向ける【ジャイアント】へと接近していった。

 少し高めの音が周囲に響き、推進装置を含めた黄色に発光する箇所から同色の残像を残しながら接近していく。

 そして機体は5体の内中央にいるものの目の前に移動すると、右腕を勢いよく振り下ろして右肩の砲身を破壊。

 続いて少し後ろに跳び、そこから最接近。左腕を突き出して【ジャイアント】ののど元に剣を突き刺した。


 装甲を割り、曲げ、裂き、鈍い音を立てて剣が首を貫く。

 切断された頭部がそのまま刀身を滑って足元に落ち、続いて胴体が無力にその場に倒れ込んで動かなくなった。

 

 「一……撃……!」

 

 砲身の破壊を含めればニ撃。

 たったそれだけで、私達が今まで倒せなかったあの【ジャイアント】を無力化……破壊した。

 核でも叶わなかったというあの【ジャイアント】の破壊をこなしたのだ。


 「なんなの?この機体は……」


 次元がまるで違う。

 機構も、出力も……。

 これを見ていると私たちのいままでの成果がごみのように見えるほどに……。


 

 そんな光景を目の当たりにした両サイドの【ジャイアント】は、一瞬の間を挟んでその機体に手を伸ばす。

 しかしこの機体は素早く右側のやつの腕を切断すると、さらに接近して左の剣を喉元に突き刺した。

 続いてそれから手を放し迂回。

 奥にいる【ジャイアント】に接近すると、右手にある剣を同じように喉元に突き刺した。


 「やはりこの程度か」とパイロットと思わしき人がつぶやいた。


 しかしその手を休めことはなく機体を操作して残る2体に接近すると、手前にいるやつに、今までと同じように首に剣を突き刺した。

 だがそれを予想して作戦を立てていたのか、もう一体の【ジャイアント】がこの機体の剣を持つ腕をつかみあげると、握力に任せて腕を破壊しようとし始めた。


 刹那、内部の中央モニター端に人型が映され、掴まれている右手の部分が赤く点滅し、危険を知らせるアラームのようなものがコックピット内に広がった。

 

 ギシギシと不安を抱かせるような音が右腕から発される。

 

 それでもその人は冷静に「この程度でやられると思うなよ」とつぶやいてレバーを操作。

 機体の左腕で右腕を握りつぶそうとする【ジャイアント】の首を掴むと、同じように圧し始めた。

 

 「ロナ。左腕出力を通常時の170%に再設定。そのままやつの首を握りつぶす」


 そうRONAというなにかに指示を出すと、すぐに左肩の推進装置らしきものが通常時よりも高い音を放ち始める。

 それに同調するように左手の指が【ジャイアント】の首に食い込み、装甲を、機構を、コードを破壊していく。

 ベキベキと音を立てて。

 

 そして最初に破壊されたのは【ジャイアント】の首だった。

 機体の左手に喉をえぐり取られ、そこからコードが引きずり出て機能を停止。

 この機体の右腕を掴んだままその場に膝をついて動かなくなった。

 右手から【ジャイアント】の手を引きはがして投げ捨てると、別の物に突き刺さったままのもう一本の剣を引き抜いて腰に再装着した。


 「――戦闘終了。ロナ。左腕出力を通常設定へと戻し、システムチェックを開始せよ」

 

 ため息交じりに銀髪の人はそういうと、両手を操作レバーから離して膝に置いた。


 「も、もう聞いてもいいかしら?」と私はその人を見下ろしながら言った。

 「それはお前らの治療のあとだろう。その状態のままでいるつもりか?」と、まるで私たちの体の状態を知っているかのようにそういうと、その人は立ち上がって私の前に立った。


 私よりも少し少し背が高いその人は私を押して座席裏の風香の元まで行くと、その場にしゃがんで容態を見始めた。

 

 「思ってた以上にひどいな。ここにあるものじゃ延命ぐらいしかできそうにないな」

 「――もってどれくらいなの?」

 「そう長くはもたない。だが、渡した液体を飲ませれば死のカウントダウンを伸ばすことが可能だ」と鏡面加工のされたバイザー越しに私を見ていった。

 

 方法は二つに一つ。

 あの液体を風香に飲ませるか否か。そのあとは急ぎモノレールの駅に向かうだけ。

 だけどこの顔すら見せない人物を信用するのはどうかと思う。

 確かに【ジャイアント】は全滅させた。それも圧倒的な機体性能で。 

 だけどそれだけで信用することはできない。

 敵が同じでも抱く信念や所属する機関が対立関係にある可能性もある。


 それだけじゃない。この人も【マキナ】、最新型のタイプ【ヒューマン】の可能性があるから。

 しかし先ほどから耳にする言葉に違和感を感じる箇所はない。そういう造りだと言われたらそこまでだけど、どうすることもできない。

 

 一体どうするのが正解なのか……。


 歯を食いしばり、手を強く握りながらそう考える。

 

 「――もういい」


 待ちくたびれたのか吐き捨てるようにそういうと、その人は立ち上がって私を押しのけてコックピットまで移動。

 再び座席に身を預けると、操縦レバーを操作して機体を動かし始めた。

 

 手足で操作して機体の向きを北西に向け、推進装置を起動して低空飛行で高校を後にする。

 

 「どうするつもり?」

 「おれにメリットのあることをするだけだ」

 「具体的に教えなさい」

 「――ではお前は俺が何をすると予想する」

 「簡単よ。拠点の確保や燃料補給。食料確保や兵器奪取……。きりがないほどある」

 「――それで?」

 「決まってるでしょう」


 私はそう吐き捨てると、先ほど受け取った液体入りの白い容器を取り出す。

 若干躊躇したがそのふたを開けて中身を飲み干し、容器を折ってその先をその人の首筋に突き立てた。

 その際胸が当たったりなどはあったが今は気にする余裕なんてない。


 「あなたの目的を言いなさい。言わなければ――」

 「言わなければこれを首に突き刺す……か。しかも中身を自分で飲んで効力があるか、毒性はないかの確認をするか……。面白いやつだな」

 「あいにく手段を選んでいられないの。あなたの目的が不明な以上早急に対処しなければならないし、風香を助ける時間も無くなる。だから早く教えて」

 「――自らの身を犠牲にしてでもか?」

 「闘える限りはどんな敵だろうが私は抗う。守れる限りは何をしても守る。それが今の私の生きる理由よ」

 「自己犠牲の先に何があ――」

 「あいにく私はそれに加えてしつこいぐらい生に執着するの。守るために、復讐するためにね」

 「――く、くははははは!」

 「何がおかしいの?」と私は言って右手に力を籠める。

 「ククク……気に入った。俺はそういうやつが好きなんだ。何にも頼らず、自らの力で生に執着する奴がな。――いいぜ、教えてやるよ。今の目的を。――それはそうと『調子はどうだ?楽になっただろう?』」

 「っ!!……」


 言われてようやく気が付いた。

 いつの間にか右腕の痛み……それどころか全身にあった痛みという痛みが全て薄らいでいることに。

 耳ももういつもと同じくらいの聴力まで回復している。

 「これであの液体については信用してくれたか?」とその人は笑いながら言った。

 「――そうね。少なくとも毒性はない……それどころか私たちの持つ鎮痛剤よりもはるかに強力みたいね」

 「毒物じゃないことはわかったか?」

 「そうね。これは間違いなく強力な鎮痛剤ね」

 「――ほらよ。もう一本やるから早くそいつにも飲ませてやれ」


 そいってその人は片手で機体を操作しながらもう一本取りだすと、それを私に手渡してきた。


 「そうさせてもらうわ」


 それを受け取った私は再び風香の元まで歩いて行くと、もう迷うことはなく彼女の口から体内にゆっくりと流し込む。

 それから再びあの人のところまで戻ると、容器を返した。


 「――で、目的は何か教えてくれるのよね?」

 「ああ。といってもいまは大したことじゃない。ただのけが人の輸送だ」

 「……は?」

 

 聞き間違い……なわけがない。

 しっかりとこの耳で受け取った。

 『けが人の輸送』と。

 それってつまり……。


 「私達を拠点まで送るってこと?」

 「そうなるな。――だがあそこは何個もあるだろう?だからどこい行けばいいかを教えてほしいんだが……」

 「は?」

 「いや、お前たちの拠点はどれなんだ?」

 

 まるで3つの機関のことを知らないかのような言い方。

 なら……。

 「それならこの先、向かって一番右にある施設群に行って。そこが私たちの組織の拠点で、なおかつ一番医療施設が整っているわ」

 

 ついでに一番戦力が集まっており、戦闘終了直後だからすぐに対応できるはずだ。

 もし仮にこれが破壊行動を始めてもすぐに迎撃が可能だと思う。

 抑えれるかは別としてね。


 「承知した。しっかりつかまってろ」


 そういってその人は機体の推進装置を駆使して加速。

 本来の合流地点であった人の集まっているモノレールの駅の上空を通過して、だれよりも先に【AWP】へと帰還した。

 

 その際、未知の機体を目撃して地上の駅ではパニックになっていたことを二人、いや三人はまだ知らない。




  【一章:戦望のアインリット  FIN】

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