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EP01-05 破滅のシシャ ver2.0

  第二ラウンド開始のゴングといわんばかりに発砲音が鳴り響き、弾丸が中央にいる【アニマル】に飛んでいく。

 けどあいつはとっさに横に飛んで回避した。

 発砲音と同時に動き出した3体の【アニマル】は散開。

 正面にいたやつは私と対峙し、一体は視界左にある崩壊した連絡通路へと向かって走り、最後の一体は校舎の一階部へと飛び込んで行くのを確認した。


 「挟み撃ちにするつもり……、なら」

 

 私は今いる突き出した部分を伝って崩落した連絡通路に近づいていく。

 そして銃口を通路と後者の間にあるがれきに向けるとすぐに発砲して進行の妨害をする。

 それから背後にある割れた窓から教室へ飛び込み、銃を構えて廊下を走り出した。

 全身の引いてきた痛みが戻ってきているかように、だんだん痛くなってくる。

 それでもできるだけ屋上にいる彩芽たちから離れるように、反対側の端まで移動すると、そこにあった非常用の避難扉を蹴り飛ばして破壊。

 すぐに振り返り、追ってきた1匹……より少し手前の天井めがけてトリガーを引く。


 弾道補正がないので正確には狙えない。

 それに反動あり、補正なしで弾を当てるなんて芸当、正規兵でもできるものは少ない。

 当然私はそんなことできないし、やろうとも思わない。

 だから最初から弾を当てて撃破する気などない。

 そもそも狙いが違うしね。

 

 私は撃った天井が崩落する前に非常口から脱出し、跳んでいける範囲にあった通路の屋根に飛び移った。

 そこを走り屋根伝いで部室棟へ。

 さらにそこから隣接する体育館の屋根に飛び移る。

 体育館の屋根はなだらかな弧を描いている深い緑色。

 だけど長年放置されていたせいで屋根を作る鉄柱は錆び、ところどころに穴が開いて内部を覗き見ることができるようになっていた。

 ――ここにあいつらが乗ってきたらどうなるか想像に難くないわね。

 私はそんな体育館の屋根を歩いて中央に行くと、振り向いて先ほど歩いて来た場所を見た。


 「2体か……」

 

 2体か……。3体ね……。

 

 「……フフ。アハハハハハ……」


 こんな危機的な状況、もはや笑うしかないでしょ。

 弾は残り17発。満タンのカートリッジ2つと残り一発が入っているものが1つ。

 弾道予測支援はなく、鼓膜は破れて何も聞こえない。右腕の自由は奪われつつあり、足場はかなり不安。

 普通ならもう死んでいてもおかしくない。常人ならあきらめててもおかしくはない。

 だけど……。


 「ごめんね。私って結構な頑固者であきらめるのが嫌いなの」

 

 それに……。

 ――ねぇ、まだ壊れるのは早いんじゃないの?

 そう自分自身に言い聞かせる。

 痛い?そんなの11年前以上のものなんてないんだから平気だよね?

 怖い?大切な人が死ぬほうがよっぽど怖いでしょ。

 辛い?失った後のほうがつらいわよ。

 そんじゃそこらの負の感情で折れるわけないでしょ。

 舐めないでほしいわ!



 そう言い聞かせつつ、あと一発残っているカートリッジを外して足元に落とし、新たなカートリッジを装填する。

 そして、銃を構えてトリガーを引こうとした。

 ――けど、突然上空からの射撃で【アニマル】は後ろに跳び、私の前には青を基調色とした半壊の【インパクト】を身にまとった風香と、彼女にしがみつき、それに備え付けられている非常時用のハンドガン型レールガンを持つ彩芽が現れた。

 【インパクト】が屋根に降り立つ。

 そして彩芽は屋根に飛び降りて私に駆け寄ってきて言った。

 だけど私の鼓膜は破れているので何を言っているかわからない。


 「ごめんなさい。私、今両耳の鼓膜が破れていて何も聞こえないの」と、耳のあたりを指しながら私は言った。

 

 それを聞いた二人は少し話し合うと、互いにうなずいて彩芽は銃口を【アニマル】へ向け、風香は私のところまで飛んできて私を抱え上げ、手にもつ【118】を奪い取った。


 「な!?ちょっと!?」


  風香と私を抱えた彩芽は【アニマル】へ射撃をしつつ後退しはじめる。

 私もそれに加わろうとするが、抱えられているということと風香が私の銃を奪い取ったせいでそれは叶わい。

 仕方なくその光景を眺めていると、突如前で応戦していた彩芽のいる場所を彼女と【アニマル】ごと巨大な何かが視界の左から、正確には南から飛んできた何かが体育館の屋根をえぐり取って北へと流れていった。

 そしてその巨大な物体は山に激突し、聞こえにくい私でもわかるほどの轟音と地鳴りを起こし、土砂が空高く舞い上がった。

 

 「彩芽!!」


 そう私は叫んだ。

 たぶん風香も同じようなことを叫んだと思う。

 巨大なあの物体が通過した箇所の鉄柱は切断面が熱を持って赤くなっている。

 何が起きたの?あの巨大な物体は何?それに彩芽は無事なの!?

 状況が全くつかめない。

 それにあの威力。

 【ヒューマン】や【アニマル】の威力ではない。

 一体何が……。

 ――っ!いや、いる。こんな規模の攻撃ができる奴が……!!


 私は呆然とえぐられた体育館を見ている風香の肩をたたいて現実に引き戻すと、一方的に言った。


 「今すぐ離脱して!【奴】が来る!」


 そう。奴だ。

 本部でエリアGに一斉掃射をすることを決めた原因。

 通常兵器どころか風香の纏っている【インパクト】ですら撃破できないやつ。

 この11年で撃破数は0という屈辱的な数字をキープしているあいつが。


 無敗にして私達人類最大の脅威。【マキナ】タイプ【ジャイアント】が!



 ◇

 タイプ【ジャイアント】

 【ストライク48・925】で世界各国で大半の都市機能を破壊した巨人に近い形を持つ【マキナ】。

 通常兵器はおろか、私達の使用できるほぼすべての兵器でも倒すことの困難な敵。

 核弾頭ですら完全な機能停止に持っていけなかったという旧欧米国の記録すらあるらしい。



 仮に、仮にさっきの事の首謀者だったとしよう、

 もしそうだとしたら、おそらく彩芽と【アニマル】を巻き込んだあの攻撃は【ジャイアント】の主砲か、それともいまだ確認されていない攻撃パターンのはず。

 だけど私がその物体が飛んできた方向、海上を見るとそれは推測から確信へと変化した。

 視界の先、南側に広がる海に、横一列になって接近する5体のガタイのいい男性に近いシルエットの巨人。タイプ【ジャイアント】がいた。 

 【ヒューマン】や【アニマル】とは比べ物にならないサイズで全長は推定20メートル。

 分厚い装甲と街を壊滅させるこのは造作もない主砲を肩に持ち、背中に背負う大型のコンテナには【アニマル】や【マキナ】が格納されているという報告があるらしい。

 見た目は【ヒューマン】と似たような姿で、鎧のごとき胸と肩、そして足にごつい装甲を纏っている。

 左右均等に並ぶ細めの4つ目、その下にある口のようなフェイスガード?は笑っているよう。

 狂人か悪魔か。それらに近い顔を持つ【ジャイアント】が、一歩一歩確実に私たちに接近していた。


 海から上がり、廃屋を圧し、いまでは使われていない高速移動列車の線路を踏みつぶし、ただの太いひもと化した電線を引きちぎって、この高校の前にある住宅街を蹴り壊しながら迫ってきている。

 悔しいけど今ここにいても私達ではどうすることもできない。ここに留まっても彩芽と同じ道を歩むだけ……。

 悔しさと悲しみが同時にこみあげて胸を押さえつけてくる。

 いくらあきらめが悪い私でも、力の差と戦況ぐらいは考えて行動する。

 今回に関しては私たちはどうすることもできない。


 「くそ!」


 ――そして悪い知らせはこれだけにとどまらなかった。


 「風香?」


 彼女の抱える手の力が弱まり、私を放して立膝をついた。

 脇腹を抑え、苦しそうな表情で冷や汗をかいて顔の色も悪い。

 たぶんだけど、噛みつかれたところから催眠系の毒を送られたか、噛まれたことの炎症が原因だと思う。

 どちらにしてもこれ以上風香は飛べないし戦えない。

 

 「……」


 彼女が何かを言っているけど何を言ってるのかわからない。

 そして何かを言いきった彼女は、その時点で意識が途絶え、その場に崩れ落ちてしまった。


 「風香!……くそ!」


 私はそう吐き捨てて【インパクト】を強制パージし、風香を背負って走り出した。

 エリアGの近くにある、このエリアに来た時に使ったモノレールの駅に向かって。


 ――だけど、徐々にこちらに向かってきている【ジャイアント】はそれを許してはくれなかった。

 やつらは私たちを捕捉すると肩部の砲身を展開して砲撃してきた。

 轟音とともに漆黒の回転する円柱が、今まで私たちのいた植木と体育館をえぐり取り屋根を吹き飛ばす。

 聴力が落ちた今でもわかる。

 弾頭の着弾とともに重低音の爆発音と振動。

 それを耳と地面越しに足裏で感じる。

 続いて空から鉄骨や屋根の残骸の雨。

 半ばで折れてはじけ飛んでいる鉄骨がコンクリートの地面に突き刺さり、屋根の残骸がけたたましい音を立ててバウンドする。

 落下地点のアスファルトが爆散して身体にビシビシと当たる。

 まるで散弾銃のように……。


 私はもともとの痛みと新たな痛みに耐えながら、死に物狂いで落下物を避けながら連絡通路の下を通過して、まっすぐと走っていく。

 時に右手に持った銃身で落ちてくる残骸をなぐり飛ばし、時に行く先を阻む障害物を撃って進路を確保する。

 そのたびに右腕に激痛が走る。

 そして荒い呼吸をする風香の無事を確認して確実に西北西に進んでいく。

 私の破壊したもう一つの連絡通路の、原形を維持している側の下を通過して進む。

 それから点在する木の間を通過すると、なにかの資料で見たことのある弓道場というもの側面にたどり着いた。

 そして、足を止めることが死を意味する今、立ち止まることの許されない私は即座に通れそうな場所からフェンスを越えて先に進もうとする。

 けれども、私はその直後に判断ミスを実感した。


 「行き……止まり……!」


 そう、行き止まりだった。

 ああそうだった……。

 この弓道場というものは上から見れば長方形。平行にもうひとつ壁があってもおかしくはない。


 焦りから生まれた失敗。引き返して迂回してもいいけど……。

 いやそうするべきだ!


 私はそれ以上は考えるのをやめてすぐにこの場から離れようと振り向いた。





 その時だった――。

 轟音と同時に足元が隆起したのだ。

 バランスを崩して前に倒れ込む。

 この揺れと隆起は地震じゃない!


 二度目の轟音。今度は地中から――。

 轟音とともにはじけた地面が私を飛ばし、追い打ちといわんばかりに、まるで拡散弾のように弾けた土砂や石が体の前面を殴打する。

 普段は味わうことのない地震の無力さを味わうことのできる浮力。抗えない上昇。そしてこの後に待つのは地面へのたたきつけか砲撃。


 「く……ぁ」


 ゆっくりとした回転をするせいでうまく着地できそうにない。

 どのみちこの高さだと借りに着地できても足は持っていかれる。

 右手からは銃が零れ落ちてどこかへ行ってしまったので落下予想地点に打って衝撃を抑えることもできない。

 下手をすれば頭部から着地して今度はそのまま魂だけ昇る。それだけは絶対に避けたい。

 必死に足をばたつかせてできるだけ早く落下角度を定めようとする。

 だけどうまくいかない。

 それどころか回転する勢いが増すばかり。

 何度も視界を下から上に通過する晴天に紅蓮の星がある。

 下から上に通過する地面に、地獄を連想されるクレーターがある。

 下から上に通過する、南側には死へといざなう死神のごとき巨人が肩の砲を私に向けている。


 歯を食いしばり、今にも背中からはがされそうな風香を手放さないようにしっかりと身体を抱える。

 ああ、こんな耳でも風を切る音が聞こえる。

 重い足音が聞こえる。

 聞いたことのない音が聞こえ……る? 

 ――こちらに近づいてきているその音は何なのだろう。

 【インパクト】の推進装置の音ではない。ましてや【ジャイアント】のものでもない。


 「何なのこの音……」


 私はその音の正体を確認しようと首を動かす。

 ――そのときっだった。


 「っつぅ!!」


 突然背中に激痛が走った。

 地面にぶつかったわけではない感覚……。

 どちらかというと地面よりも固い何かの上に落ちらような……。

 私は背中の痛みをこらえつつ、上体を起こす。


 そして、まず最初に視界に入ったのは……。




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