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EP04-15  衝突

風邪で先週寝ていた私です。

遅くなりましたが今年もよろしくお願いします。

もうすぐレポートの時期だ……書く時間作れるかな……。

 遠く聞こえる声が徐々に鮮明に聞こえるようになっていく。

 視界が輪郭を描いて色を得る。建物の隙間から見えるわずかに雲のかかった空がはっきりと見えるようになる。

 上体を起こし、声の聞こえた方向を見ると、そこにはフィリオ・アリアントスがいた。カナン・グレッガーマンは見当たらないあたり、すでに行動をし始めているかもしれない。


 「大丈夫ですか?」

 「ああ。心配をかけて悪かった」

 「アインリットさん?」

 「どうした?」

 「どうなされたのですか? 突然口調を変えて」

 「……ああ、そういうことか。だが説明は後だ。彩芽、さっきの奴がどこに行ったか分かるか?」

 「彼女でしたら現在、【龍兵の丘】にて交戦中と先ほど隊長から連絡がありました。彼女の優勢です」

 「そうか。感謝する」


 情報は得た。

 会話をしているうちにしびれが消え、手足の感覚をはっきりと感じることができるようになり立ち上がる。

 考えてみるとまともに自分の足で地面に立つのはずいぶん久しぶりだが、何の支障もなく立つことができた。

 路地を出て大通りを一直線に走って【龍兵の丘】へ向かった。


 「待ってください!」


 後から追いかけてくる声に走りながら後ろを確認すると、追いかけるようにフィリオ・アリアントスが走ってきていた。

 やがて追いつかれ、腕を掴まれて足を止める。


 「何か用か?」

 「まさか丘に行くつもりなのですか?」

 「当たり前だ。私はあいつを殺すために交代したんだからな」

 「あいつ、先ほどのあの方ですか?」

 「ああそうだ。殺すといった以上が私の敵だ。だから殺しに行くんだよ」

 「……何があったのですか?」

 「宣戦布告を受けてやるんだよ。それよりいい加減その手を放せ」

 

 数秒目線が合い、ためらうような顔で解放される。

 ため息をつき、フィリオ・アリアントスは口を開いた。

 

 「先ほどのようなことがあれば、今度は死ぬかもしれません。それでも行きますか?」

 「心配しなくていい。もう躊躇しない。私は、私だからな」

 「何から何まで変わったような気がしますが、一体何があったのですか?」

 「気にするな、とはいっても無理だろうが、今は気にするな。この戦が終わったら話してやる」

 「――わかりました」

 

 カナン・グレッガーマンは先に戻って武器の回収をしてポイントに移動しているということで、私たちは【龍兵の丘】へと戻った。


 


 戻ると丘はすでに戦場と化していた。

 

 「どういうことだ? 突破されたのか?」

 「いえ……そんな情報は聞いていません。どういうことでしょうか……」


 それどころか、目の前の光景の深刻度は異常なほど高い。

 いるのだ、【マキナ】が。タイプ【ヒューマン】【アニマル】の二種類が、混乱状態にある兵士たちと戦っていた。

 戦況なんて聞くまでもないほど劣勢。一部ではパニック状態になっていた。

 陣形も作戦もない、正真正銘混戦状態だ。かろうじて指揮系統が生きているおかげか、拮抗しているように見える。だがそれがいつまでもつかはわからないし、なにより最終防衛ラインであるここが落ちたら後がない。後退はあり得ないからこそ起きている状況だろう。

 そんな一角では断末魔のような叫び声とあざ笑うかのような叫びが聞こえる場所があった。

 そしてそこにいた。私の探している人物が。彩芽が。

 鼓動が高まり、これから起こるであろう戦闘を想像して思わず笑みがこぼれる。

 ナイフを引き抜き、中腰になり、倒れ込むように駆け出す。

 走るたびに五感が鋭くなっていくのが分かる。

 ――ああ、これだ、これだ!

 【ネプチューン】の時の感覚が完全に戻ってきた。


 「弱い弱い弱い弱い! 私たちを11年も推しとどめていた国の兵士の実力はこの程度かよ!」

 「た、態勢を整えろ! タイプD展――っが!」

 「うるせぇんだよ! まどろっこしいわ!」

 

 彩芽によって部隊長であろう人物が蹴り飛ばされ、力なく地面を転がる。

 彼女の身体には返り血が全身にわかってべったりとつき、地面には血のじゅうたんが敷かれている。

 倒れ込み、うめいている部隊長らしき男の横を通り過ぎ、パニックを起こしてじりじりと後退するその部下の間を縫って彼女の元へ向かう。

 そして、殺意を込めてナイフを振るう。

 甲高い音を上げてナイフ同士がぶつかり、彼女の浮かべる笑みが視界に入る。

 

 「来たか、いい、やっぱりこれが言っただけはある! いいぜ! 相手してやるよ!」

 「相手してやる……か。それは残念だが違う。私は、彩芽、お前を殺すためにきた!」

 

 はじけるようにほぼ同時に距離をとり、踏み込んでナイフを振るう。

 動くたびに地面の血が舞い、互いの身体に付着する。

 繰り出される拳を受け流し、隙のできたところを狙ってナイフを突き出す。――だがその手すら払われ、彩芽は逆手に持ち替えて振り下ろしてくる。

 とっさにバックステップをして距離をとり、にじむような痛みを感じる左肩を撫でる。

 ほのかな温かさとともに掌に血がわずかに付着する。

 だが戦闘に支障はない。

 すぐに距離を詰め、近接格闘術に移行する。

 ナイフを囮に、彩芽の攻撃を受け流しつつ頬に拳を打ち込む。

 

 「はっ、やるじゃねぇか!」


 寸前のところで回避され、脇に回し蹴りを受けて一瞬、痛みが全身に走る。

 相当の力で撃ち込まれたのか身体が浮き、そのまま数メートル飛ばされる。

 受け身をとって着地し、口にたまったつばを吐き捨てて距離を詰める。

 あまり動きに支障がなかったので着たままだったコートを脱ぎ、視界をふさぐために彩芽に向けて投げつける。

 それに対処している隙をつき、スライディングをして回り込み、逆手に持ったナイフを肩に突き立てる。 


 「ちぃ! この程度!」

 「逃がすか!」

 

 身体をそらせてかすめるだけに終わった攻撃ののち、距離をとろうと走り出す彩芽を追いかける。

 もはや互いにどれが自分の血で、どれが飛び散り、付着した血なのかわからないほど全身が赤くなってきている。スーツも、顔も、髪も、戦えば戦うほど赤くなり、熱くなる。燃え上がるような感情が背中を押し、四肢の感覚が鮮明に伝わる。

 今や四肢は武器。そう思える域に達している。

 相手を殺すために、この身体は変わりつつあるように感じた。

 すでに戦いに関する音以外は聞こえない。ただ、相手を殺すためだけに特化する。

 眼は最低限の情報を得るために相手に集中する。

 

 「てめぇ、一体どうしたってんだ。さっきまでとまはるで別人じゃねーか」 


 互いのナイフがぶつかり、力比べが拮抗する中で彩芽が口を開いた。


 「へぇ、しゃべる余裕あるのか」

 「てめぇもな。だがずいぶんつらそうじゃねーか」

 「何を言っている。顔、真っ青だぞ?」

 「お前もな!」


 格闘戦が再開されるも、その最中でも会話は続いた。


 「私は敵を殺す者。一切の慈悲なく殺す。そういう女だ。いまは高まってしょうがないけどな!」

 「あたしもな。ここまで高まる戦いは初めてだよ。どいつもこいつも骨のない雑魚で退屈だったからなぁ!」

 

 頬に一閃を受け、切れた痛みがじわじわと伝わってくる。高まった鼓動に合わせ、痛みと感情の高まりが増幅していく。

 

 「はははははっ! いいぞ! いいぞ!! この高ぶりこそあたしがここまで来たかいがあったってもんだ!」

 「そいつは良かった。だがいつまでその余裕が保てるかな?」

 「うるせぇ!」


 すでに四肢の痛覚はない。

 折れているのか、斬られたのか、拳や足を打ち込まれたのかも感じない。ただ殺すための武器を化す。動けばそれでいい。

 やがて互いのナイフが、戦闘についていけずに刃こぼれが起き始め、数十回目の衝突で私のナイフの刃が折れた。

 折れたナイフを投げ捨て、完全に格闘術オンリーになる。――が、むしろこのようがやりやすい。

 繰り出されるナイフは腕ごとと受け流し、払いのけ、すきをついて拳や足を打ち込む。

 だが彩芽もかなりの実力者のようで、ことごとくかわされ、防がれる。逆もまた。

 加速する鼓動を全身で感じ、鉄臭い口内の液体を吐き捨てる。もはや息が上がってきて感じるものなのか、出血しているからなのかもわからない。

 拮抗し、勝敗が付かずに戦闘が続く。

 四方向からランダムに体を押されるようなふらつきを感じつつも四肢を振るう。

 全ての音が遠く聞こえだし、視界が暗転しそうになる。

 だが、痛みが意識を覚醒させ、私を再び戦場へと引きずり戻す。

 

 「残念だが時間だ。いづれ決着をつけよう……」


 彩芽が距離をとり、歯を食いしばりながら右手を額に添えた。――が、次の瞬間には笑い、距離をとるように走り出した。

 違う、な。逃げる気か。

 追おうとするが身体が動かず、気が付いたら両膝をついていた。倒れそうになるのをどうにか両腕をついて耐え、奴が逃げた方向、エリアGの方向を見ることができる崖へ顔を向ける。

 【マキナ】と兵士の集団に飲まれ、姿が見えなくなる。

 数秒経ち、急上昇するように何か巨大なものががけ下から現れ、南へと飛んでいった。

 突然の終わりに高まりが収まらず、あたりで戦っている【マキナ】へとぶつけようとするが、立っているのがやっとだとわかる。

 それほど集中して戦っていたんだ。

 血だまりで立つ私は、ぶつけようのない、冷めていく感情を感じつつ、空を見上げた。

 

 「次は……必ず!」


 

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