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EP04-14  守る者と壊す者

 先の見えない、行き止まりすらなさそうな暗い空間。

 その中で唯一、まるでスポットライトにでも照らされているかのように明るい場所があった。モノトーンの床に白い円盤状のテーブル。それしかない見当たらない殺風景な場所だ。

 そしてそこにはいた。私たちが。


 「ここで会うのもずいぶん久々だな。というより話すこと自体が、か」


 私と同じ姿で、私が普段することのない、あの時の彩芽みたいなどこか不気味な笑みを浮かべて机に座っている。

 まるで録音した私の声を耳元で聞いているかのような鮮明な声で、口調のせいか別人のようにも聞こえる。

 何が起こるかわからないので、念のため警戒しながら彼女の前まで行く。


 「ようこそ。ここは休憩所。私とお前、どちらかのな」

 「どういうこと?」

 「私たちは必ずどちらかが体を動かしている。まぁほとんどお前で、私は大体の時間ここにいるけどな。あえて言うならここは私たちが対面して話せる唯一の場所さ」


 言っている事がさっぱりわからない。でもここが現実じゃないことはすぐに分かった。

 ひどい頭痛も、彩芽から受けた攻撃のダメージも感じない。手足の感覚ははっきりしているのに熱さも寒さも感じない。

 そもそも私が見た目が全く同じ私と向かい合っている時点で現実じゃない。

 

 「何が目的?」


 いままで一度もこんなことはなかった……いや、2回あった。

 それでもここまでゆっくりと話すことはなかったし。こうして向かい合って話すこともなかった。しかもあれ以降一度もここにきていない。

 それなのに、今目の前にいるもう一人の私はいきなり私に接触してきた。

 これでなにもないとは到底思えない。

 何かあるはず――。


 「いきなりか。まぁそのほうがいいけどな。ならさっそく。主導権を私に譲れ」

 「あなたの言っていることが本当なら、それは身体を動かすことの?」

 「そうだ、お前じゃだめだ。だから譲れ」

 「……断るわ」

 

 当然の回答。いままでずっと私の身体だったものを譲れなんて言われて承諾する人なんかいない。理由がわからないならなおさら。

 するともう一人の私は机から降りて私の前に立った。

 本当に瓜二つの身体。まるで鏡でも見ているようだ。仕草と口調ぐらいしか差がない。

 そんな彼女は真剣な眼差しで私を見つめ、語りだした。


 「これはお前だけの問題じゃない、私の問題でもある。お前が死ねば私も死ぬ。その逆もだ。だからこそいままではお前に主導権を譲っていた。そのほうが生存確率は高かったからな。――だが、状況が変われば私たちも変わらなければならない。私たちが生きるために代われ」

 「なによそれ。意味が分からないわよ」

 「違和感を感じることはないか? 具体的には『なんのために戦ているのか』、でな」

 「本当に何を言っているの? あの時守るために戦うと決めたじゃない」

 「じゃあ戦うことにしたきっかけ、あの時はどう思って武器を持った」

 「そんなの、【マキナ】に復讐するために決まってるでしょ」

 「今はどうだ? 防衛と復讐。どっちが大切だ。どっちのために戦っている?」

 「それは……」

 「どっちだ?」


 彼女と話せば話すほど、聞かれれば聞かれるほど身体の中がぐちゃぐちゃになっていく気がする。

 なんのために戦っているのかを考えれば考えるほど混乱する。それでもなぜか「守るために」という言葉が頭に浮かぶ。

 助けられて、地獄のような惨状の東京を見て怒りを込み上げていたあの頃より、彩芽と風香と、有栖さんと……親しい人たちと過ごす姿が強く頭に浮かぶ。

 次々と望んでいる光景が頭に浮かび、彼女は私が答える前に口を開いた。


 「わかってる。お前の場合は防衛だろう? 思い浮かべているのは友人たちのはずだ」

 「それは、ええ。もう失いたくないから……」

 「だろうな。だが私は復讐を選ぶ。背後は見ない、前だけを見る。壊して壊して、壊しつくす。二度と動かないように、二度とそいつが私の前に現れないようにな」

 

 そういう彼女は自分でもあり得ないと思うほど狂気に満ちた笑みを浮かべていた。

 壊す。ただそれだけを考えているみたいに。

 

 「そのあたりのことはまた今度だ、時間がないからな。本当は前みたいに強引に主導権を奪えればいいんだが、トリガーとなることがないとできないみたいでな。もう一度言う。私に代われ」 

 「強引にって……もしかして【ネプチューン】討伐作戦中の記憶が一部ないのは?」

 「察しがいいな。その通りだ。私が強引にお前から主導権を奪った。あのままでは確実に死んだからな」

 「もし、その話が本当だとして、このまま私が主導権を握っていると、いずれ死ぬということ?」

 「私の予想だとな」

 

 どこからが本当で、どこまでがウソなのかわからない情報。だけど少なくともあの時の記憶の欠落はこれで説明できる。

 主導権を奪われたことによって私の記憶がなくなり、その間に目の前にいるもう一人の私が【マキナ】と戦闘した。その結果命令違反項目にあった未契約兵器の二度の使用農地の一回と、目を覚ました時にあった【インパクト】の残骸と傷が説明できる。

 その間に目の前の私が戦っていたんだ。

 でも、だとしても。


 「そんな話、信じられるわけないでしょ」

 「だろうな。だが、とりあえずで決めた、『守るために戦う』という考えは崩壊する。確実にな」

 「その理由は?」

 「あの彩芽に似た敵も言っていただろ。人間だろうが【マキナ】だろうが敵は敵だと。確かに彩芽の異様さは私たちに通ずるものがあった。だが過去の彩芽とさっきの彩芽はあまりにも一致しない。ああなる要素もないはずだ。しかも明確な敵対心を持って襲い掛かってきた。たちが悪いことに真っ向勝負で殺しに来る、一そう宣言してな」

 「それがどうしたの? 確かにおかしいことではあるけれど……」

 「お前は状況を理解しつつも一切戦おうとせずにボコられた。それが理由だ」

 「彼女は彩芽でしょ? 戦う必要なんてないじゃない」

 「だからだ。お前は破壊と守護の選択を迫られたらほぼ確実に守護を選ぶ。たとえ相手がかつての味方だろうと」

 「当たり前じゃない。彩芽は彩芽よ」

 「だから死ぬんだ。強引に奪わない限りは記憶を共有できる。そこで見てろ」


 行かせるわけがない。

 私の横を通り過ぎて行こうとする彼女の肩をつかんで歩みを止める。

 もしも彼女も私だとしても、いままでずっと私の身体だったものを譲れなんて言われて承諾するわけがない。譲るわけにはいかない。

 私は死なない。死ぬものか!


 「……何のつもりだ?」


 彼女は私をにらみつけてくる。自分のにらむ顔なんて初めて見たが、思っていたよりも圧力はある。

 

 「行かせるわけがないでしょう」

 「死ぬぞ?」

 「死なないわよ。私は生きる」

 「彩芽に攻撃されたとしてもか?」

 「ええ。正気に戻して、そのあとは私が守る。二度と失わないために。奪われないために!」

 「だったら、早々に彩芽を無力化するべきだったんだ。お前は選択するのが遅かった」


 吐き捨てるように彼女は言って私の手を払いのけ、そのまま私が来た方向に歩き出す。

 手を伸ばして追いかけようとするも、瞬きをした一瞬で彼女の姿は消えていた。

 もう彼女の声は聞こえない。自分が鳴らしている音以外、何も聞こえない空間。

 ――私は何も聞こえない空間に残された。痛みも、空腹も、熱さも寒さも感じないスポットライトに照らされたかのような空間に……。

 全く変化のない空間に。

 唯一、小さなスクリーンのようなものが机の上に現れたのを除いて……。


 

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