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EP04-13 似て非なる者 (差し替え)

【原初のエリア】 サルファガム戦闘開始より5分前

 

 路地に笑い声と金属同士がぶつかる音が響き渡る。

 フィリオさんとカナンさんは表通りでこの路地に人が入らないように立っている。

 

 「くっ!」

 

 一瞬目を離した隙に、着ていたコートの裾が切られてその断片が宙を舞う。

 今のところ彩芽の攻撃はどれもギリギリのところでかわしているけど、結局のところ反撃するまでにはいっていない。

 ナイフは鞘に納まったまま、銃はホルスターの中。

 対して相手の武器はサバイバルナイフのようなものひとつ。

 反撃しようともえばできる武装はある。――けど、彩芽相手にそんなこと、できるわけがない。戦う気なんてない。

 

 「そらそらそら、どうした。劣等種であろうと反撃ぐらいはできるだろうが! やってみるよ、なぁ!」

 

 彼女の口から出ているとは思えないほどの口調と言葉が彼女の口から出てくる。

 突き出されるナイフをかわして距離をとろうとする。

 でも彩芽はそれを許してくれるはずもなく、すぐにその距離を詰めてくる。

 懐かしさを感じる声で、攻撃しろと間接的に語りかけてくる。

 戦闘スタイルは以前の彼女と全く一致しないほど荒々しく、好戦的。

 何もかもが変わってしまっているようだった。


 心の奥底で、「戦えよ」というささやき声が聞こえるけど、そんなことできるわけがない。

 内外からの声による苦しさに耐えながら、必死にかわし続ける。


 「どうして、なんでなの彩芽!」

 「彩芽だぁ? ああ、これのことか。彩芽とやらはてめぇを助けようとしたあの時に死んだぜ。確実になぁ!」

 

 溝内に拳が入り、その衝撃の強さにさっき食べたものを吐き出しそうになる。

 うずくまるようにその場に倒れ込むも蹴り飛ばされ、ビルの壁に背中をぶつけて崩れ落ちる。

 地面の異常なほどの冷たさを肌で感じ、お腹の激痛をこらえながら久保を動かして彼女を見る。

 ゆっくりと、確実に近づいてくる彼女の足音が聞こえる。見える。

 「戦わないのか?」と誰かに問われる。

 ――戦えない。戦えるわけがない。彼女は彩芽なんだから。

 髪をつかまれ、そのまま力任せに持ち挙げられて彼女の顔が視界に入る。

 眼と髪の色が変わった彼女が、睨みつけるような目で私を見る彼女が。

 

 「どうして……どうしてなの、彩芽……」

 「あ?」

 「どうしてあなたと戦わないと、いけないの?」


 一瞬彼女は目を見開いたけど、すぐに鼻で笑って私の髪を放した。

 突然のことで受け身も取れず、肩から地面に倒れる。


 「ク、アハハハハハ! 何で戦わないといけないかだと? 滑稽だ。実に滑稽だよ。そんなの簡単だ。実にシンプルな答えだ。あたしとおまえは敵同士だからだよ。――まぁ、てめぇがどうしても戦わないってなら、今すぐここで殺すけどな」

 「敵……? どうして?」

 「それはあの世で聞いて回れ。最後通告だ。立て、そしてあたしと戦え。でなければ――」


 立ち上がった私の頬をかすめるようにナイフが振るわれ、生暖かい血が頬を垂れるのを感じる。同時に痛みも。

 そしてその瞬間、突然大音量の聞き覚えのあるアラームが鳴り響いた。

 

 「……なんだこれは」

 「これって……」


 街中に響き渡るアラーム。

 コートのポケットに入っているスマートフォンが振動して、全く同じ音のアラームを発している。間違いない。これは【マキナ】襲来を伝えるアラームだ。 

 

 「チッ、うるせぇな。おっと」

 

余裕のある動きで私たちの間に割り込んできた人物の攻撃をかわし、その路地の奥のほうへと飛んで距離を取った。

  

 「無事ですか?」

 「フィリオ、さん?」

 「ええ。なにやらこの音が鳴り始めてから民間人の方々が一目散に奥へと走っていくので、戻ってきました。隊長はまだ表にいます」

 「そう、ですか。これは民間用の、【マキナ】の接近を伝える警報です」

 「なるほど。それで、あの方は?」


 フィリオさんはにらむような目で、耳に手を当てて何かぶつぶつと言っている彼女を見据える。警報のせいで何を言っているかはわからない。だけど途中から殺気のようなものは消え失せ、持っていたナイフもしまっていた。

 

 「戦死したはずの……友人です」


 どう言おうか考えるも、結局でてきた言葉はそれだった。

 ――違う。敵だ。

 また頭に声が響く。しかも今度は軽い頭痛が起き、思わず頭を押さえる。

 フィリオさんに心配されるも大丈夫と答える。


 「どういうことですか? 戦死したはずの友人に攻撃されたという状況は」

 「わからないです。ただ、まるで別人のようになっていて……」

 

 本当に別人のようだった。言葉遣い、仕草、攻撃をしてくるときの動き。

 姿は彩芽でも、それ以外の要素は全くの別人のようだった。

 

 「敵、ということでいいんですか?」

 「……」

 

 何も答えられない。

 頭に響くように「あれは敵だ」と誰かが言い続けている。それも頭痛がどんどんひどくなっていき、次第にあまりの痛さに立てなくなって、ビルにもたれかかるように座り込む。

 彼女は敵じゃない。

 ――いいや、あれは敵だ。殺せ。

 違う。彼女は【マキナ】じゃない。人間だ。【AWP】で何度も模擬戦をして、訓練では助け合って、ともに肩を並べて【マキナ】と戦った友人。それが彩芽だ。

 ――人間だろうが機械だろうが敵は敵だ。そこに物質的な要因は介在しねーんだよ。


 「違う!」

 「アインリットさん?」

 「――っ!」


 急に痛みが消え、突然かけられた声に顔を上げると心配そうに見るフィリオさんがいた。

 その奥には何も言わず、ただただ私を見つめてくる彩芽がいた。

 「本当に大丈夫ですか?」

 もう一度聞かれたその問いに無言でうなづく。

 

 「時間だ。あたしはもう行くぜ。追いかけてくるのは別に構わんが命の保証はしない。またどこかでやりあおうぜ。それとアインリット・ラーチ。お前は今度真っ向から戦って殺す。首を長くして待っていろ」

 

 そう言って奥へ奥へと歩いていく彩芽に届かない手を伸ばす。止まらない彼女に向けて待ってと言う。どこにもいかないでと言う。

 脳裏に彼女の戦死したあの瞬間が浮かぶ。またあの感情を抱きたくない。もう失いたくない。その思いが一層強くなる。

 頭に「殺せ」とこだまする。

 抗うように追いかけようとするも、視界がかすみ身体が重くなる。

 ――私にすべて任せろ。望み通りにしてやる。

 殺せというやつには任せられるわけがない。

 歯を食いしばり、無理に体を動かして後を追う。

 喉の奥から何かが込み上げてくるような感覚に襲われながら追いかける。聞こえる音は鼓動とあの声だけ。見えるのは薄暗い路地。進めば進むほど体が重くなり、声が大きくなっていく。それでも、抗うように体を動かして後を追う。

 ――そこまでするか。守るためならそこまでするのか?

 そうよ。守れるものが手の届きそうなところにあるのなら、手元において守る。失いたくないから。

 ――たとえ敵かもしれない相手でもか?

 彩芽は仲間よ。敵であることなんてありえない。

 ――なら、私も遠慮なしだ。

 

 その声が聞こえた瞬間、体から力が抜け、視界が黒一色に染まった。


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