EP04-09 来訪者
「ラーチさんこっちだ!」
検問所の前まで戻ってくると、その向こうからレグが手を振って私のことを呼んでいた。
そんな彼に向けて歩き始めると、あっちも検問所のスタッフに一言何かを言ってこっちに向けて歩いてきた。
「悪いな、急に上が呼び出して。今から案内する」
「ええ。お願い」
さっきはどうやって超えようか悩んでいた検問所を、レグの一言でパス。
あの時必死に考えたのがばからしく思えてくる。
検問所を超え、広場中央の碑の横を通って歩いていく。
さすがに検問所でいちいち検査をしているだけあって外よりは人が少ないけど、それでも人気店の行列以上。
しっかりレグを追いかけないとはぐれてしまいそうな感じがする。
それをわかってなのか、レグがふざけたような感じ言った。
「はぐれないようにしっかりついて来いよ?」
「わかってるわよ」
「なんなら手をつな……」
「早く行って。指が曲がらな方向に曲がってもいいのなら握ってもいいわよ?」
「遠慮する」
そんな感じの軽い冗談の言い合いをしながら道に沿って歩いていく。
丘の敷地内には、民間側には初公開となる兵器の数々が台座に乗って展示されていた。
例えば【パラディン】の新型。
見た目はほとんど変わっていないけど、システム面や砲身が一新されているらしい。
それ以外だと、ハッチのロックが厳重になってより、中の兵士の安全性が高まったらしい。
例えば【インパクト】の新武装。
いままでは【MK02―118】を使っていたが、今回実践配備された銃は砲身の下部にブレードが取り付けられた大型の銃剣。
打ち出す弾やシステムは変わっていないらしいけど、今まで全く問題視されていなかった対近接戦闘の装備が大型ナイフから発展した。
地味だけど大きな進歩だと思う。
そんな感じでいくつもの兵器が厳重かつ安全に考慮して展示されているなかで、ひときわ目立つ展示物が、私たちの進む先に見えてきた。
ひときわ目立つだけあって人込みも尋常じゃない。
「この先だ。はぐれるなよ?」
「わかってるわよ」
ちょくちょくそんなことを言われるけど、そのたびに適当に返し、私たちはその展示物、堂々と立つ【サルファガム】から一定の距離離れた場所にある白いプレハブの前に来た。
「俺はここまでだ。この先でリーダーが待ってるから、あとはそっちの指示に従ってくれ」
「ええ。案内ありがとう」
「おう。じゃあな」
手をひらひらと振りながら立ち去っていくレグをを見送り、息を整えてからプレハブにつけられたモニターの応答ボタンを押した。
するとすぐに扉がスライドして開き、ゆっくりと中に入った。
そこのスタッフに案内され、連れてこられたのは待合室と表示されたモニターのはめ込まれた扉の前だった。
「失礼します」
念のため敬礼をして中に入る。
けど中には誰もいなかった。
――てっきりここで誰かが待っているのかと思ったけど、私が待つみたいね。
仕方なく、誰かが来るまでの間、向かいの壁沿いにある椅子に座って待つことにするけど、そんな暇を与えない科のようにすぐに扉が開き、その先を見ると息を切らしながら私のことを見る女性がいた。
よく見ると女性というよりかは少女といったほうがよさそうな顔立ちで、金色で短く切りそろえられた髪と青い目。
見たことのあるような、ないような青色を中心とした軍服を着ている。
――どこの軍のものだったかな……。
しばらくの間、私はじっと彼女を見るが、彼女もじっと私を見つめてきて、結構長い間そうしていた。
だけど突然彼女は口を開いた。
「あなたがラーチ・アインリットですか?」
少しイントネーションが変わっている日本語でそう聞いてきた。
「確かに私はアインリット・ラーチですけど……」
それだけ言って黙って相手を見つめると、なぜかうれしそうな顔で近づいてきて私の両手をつかんで彼女の胸元に持っていかれた。
じっと私のことを見つめ、最初にできてきた言葉が……。
「会いたかったです!」
間違いなく日本の組織の人じゃないことはわかる。
けどこの人は一体……。
「こ、ここに、いたんですか……」
彼女の肩越しに開いた扉を見ると、息を切らしながらこっちを見る大宮司令がいた。
その後ろから、少し遅れてナズ・レグルニアと初めて見る、目の前にいる女性と同じ軍服を着た別の女性がいた。
「探しましたよ……。急に出ていかないで下さい」
「すみません……」
「もうやめてくださいね。――さて、ひさしぶりだね。アイン」
大宮指令はこっちを見て、ほほ笑んでいった。
「お久しぶりです」
「脱退してからだから……一か月ぶりぐらいか。元気にしてたかい?」
「はい。あの時は数々の命令違反。本当に申し訳ありませんでした」
「いいんだ。私だって本当は除名処分なんて許可したくなかった。けど、特別待遇をするわけにはいかなかったんだ。許してほしい」
「いえ……。あの、それでどのようなご用件でしょうか」
「え? あ、ああ。そうだね。さっそく本題に入ろうか」
大宮指令はそういうと、私の隣にいる女性を紹介してくれた。
「その方はヨーロッパ連合軍フランス・ブルターニュ地方支部、第3総合部隊隊長のカナル・グレッガーマン大尉。それと、私の隣にいる方がカナル大佐の補佐官であるフィリオ・アリアントスさんだ」
「はじめまして。紹介にあずかりました、カナル・グレッガーマンです」
「補佐官のフィリオ・アリアントスです。主に通訳を担当しますが、たいていの言葉は大佐は理解できますので、私の役目はないかと思いますがよろしくお願いします」
指令の紹介のあとびしっと敬礼をして女性、カナル・グレッガーマン大佐とフィリオ・アリアントスさんが名乗った。
カナル大佐は少し片言な日本語であるのに対し、フィリオさんは流ちょうな日本語をしゃべっている。
けどそこでふとある疑問が浮かんだ。
「グレッガーマン? どこかで……」
「ああ。彼女はうちにいたデルガルド・グレッガーマン大尉の娘なんだ」
通りで聞いたことある苗字なわけね。
でもあの人って家族を亡くしたって聞いたことあるけど……、嘘だったのかしら……。
「その節は父が大変お世話になりました」
カナル・グレッガーマンは少しだけ悲しそうな顔で言った。
デルガルド・グレッガーマンと言えば、対【ネプチューン】作戦の際に行方不明となった内の一人で、【パラディン】の操縦は大変優れていた人。
作戦ポイントへ向かう際の襲撃がなければ、いまも【パラディン】の操縦士として活躍していたのかもしれない。
――となれば……。
「デルガルド・グレッガーマン大尉の弔いのために来たのですか?」
「それもあります。ですが、あなたに会うために来ました!」
「――私に?」
どういうことだろう、接点なんてないはずなんだけど……。
「カナンさんはアインの戦闘を見て惚れてしまったそうで、ぜひとも会ってみたいということで今回来日したんだ」
カナンさんの言葉を補うように、大宮指令が言った。
だけど別の疑問が生まれる。
「どうやって私の戦闘を見たんですか? 一般的には作戦中の行動は公開されないはずですよね?」
「上層部で全世界の戦闘を見ることができるネットワークがあります。それを見ました」
「本当は上層部だけの機密情報なんだが……。遅かったか」
「……私が知ったらまずいことですよね。これ」
「黙っててくれるなら何もしないが……」
「わかりました。これが終わったら、聞かなかったということにしておきます」
「すまんな」
片言だったから正確かどうかはわからないけど、カナンさんが言いたいことは、一定階級以上の兵士が全世界の戦闘記録映像を見ることができるシステムがあって、たまたま私のものを見て……惚れてしまったということだろう。
「本当にすごかったです!【スカイアーマー】であれだけ動けて、ナイフで倒せるのは初めて見ました! かっこよかったです!」
「スカイアーマー?」
「ああ、ヨーロッパ連合軍で呼ばれてる【インパクト】の名称だよ。ほかにもいろいろあるけど、必要になったら僕から言うよ」
「お願いします。――あいにくですが、もし【ネプチューン】戦での戦闘のことであれば、あの時【インパクト】を操っていたのは私の実力ではありません」
「どういうこと、ですか?」
「あまりに必死になりすぎたせいか、あのあたりの記憶が全くないんです。ですのであの時の私は、私ではないんです」
「じゃあ、【ブラストアロー】の戦闘はどうですか?」
「【ブラストアロー】は【MK02―118】のことね」
「あれは間違いなく私です。ですがそう大した戦闘はしてませんよ」
「【スカイアーマー】なしであそこまで動けるのもすごいです! 大宮司令」
カナンさんは少し離れた場所にいて、さっきからちょくちょく補足してくれた大宮司令を見た。
大宮指令も話を振られると思っていなかったのか、少し驚いて反応する。
「はい、なんでしょうか」
「ラーチ・アインリットさんはいまどこの所属ですか?」
「未所属です。あの戦闘での数々の命令違反から、除名になりました」
「っ!! 本当……ですか?」
今度は私のほうを見て、驚いたような顔で聞いてきた。
「はい。故に今の私は一般人です」
「なら私たちの元に来ませんか?」
「っ!?」
「カナンさん!?」
最初は冗談で言ったのかと思ったけど、目を見る限りは本気だ。
さすがにそんなことを言うとは思ってなかったのか、大宮指令と女性、それとナズ・レグルニアは目を丸くしていた。
「本気……ですか?」
「はい。私は本気です。あなたのような素晴らしい方を腐らせてしまうぐらいなら、アインリットさんの実力を生かすことのできる戦場へと移るべきです。それに、悲しいことに私たちの支部はあまり戦力的な余裕はありません。一人でも多く、街と国を守るための力を持つ方が必要なんです!」
おそらく本心なんだろう。
まっすぐと私を見る目は、真剣そのもの。嘘を言っていることはあり得ないと思うほどに。
だけど、その提案に反対した人がいた。
「だめだ」
「どうしてですか?」
声のした方を振り返り、カナンさんは視線の先にいるナズ・レグルニアに言った。
「そいつはこの地でやることがある。それが終わらない限り、だれが許そうと俺が許さん。最悪の場合、あの機体を使ってでも阻止する」
「言いますね。ではそのやることとは何ですの?」
「俺はアインリット・ラーチにある任務を託している。それが終わらない限り俺は許可しない」
「なら終われば許可するんですか?」
「――一応はな」
「……わかりました。では、私はその任務を手伝います」
「おい、他国の軍人が、母国の任務無視して勝手にこの国の組織に協力してもいいのか?」
「問題ありません。私は連合からニホンの組織へ参加する権限を預かっております」
「だが……」
「あいにくですが、私はあと半年ほどこちらに滞在します。さすがに半年もあればその任務も終わりますよね?」
「――おそらくな。だが確証はない」
「なら問題ありません。アインリットさん、さっそく行きましょう!」
「――はい?」
いきなり話を振られ、私の手をつかみ入り口に向けて歩き出そうとする。
それを止めたのはもう一人の女性と、大宮指令だった。
二人並んで、扉の前に立ちふさがる
「隊長、さすがにそれは許可できません。私たちの任務は視察であって勧誘ではありません」
「さすがに私も無視できない。いくらなんでも度が過ぎると思いますな」
「でも……」
「隊長。これ以上駄々をこねるのであれば、強引に本国に送還しますがよろしいのですか?」
目を細め、音程を低くして威圧的な声でそう言う。
すると何かを感じ取ったのだろうか、カナンさんは肩を少し跳ね上がらせて、あきらめたように「わかった」と言った。
「じゃあ、観光したいからアインリットさんに案内してもらうのは?フィリオ同行で!」
「それならまぁ……構いませんが」
「僕もそれならいいよ。でも、勧誘するなら手続き必要だから僕の許可いるからね? 拉致しないでよ?」
「わかりました。そういうことになりましたが、アインリットさんはよろしいですか?」
一応後のことも考えてナズ・レグルニアを見ると、それならいいといわんばかりに無言でうなづいた。
――まぁ、任務開始までの時間つぶしだと思えばいいか。
「わかりました。私もそこまで詳しいわけではありませんが、可能な限り案内させていただきます」
「では早速行きましょう!」
「え、ええ。司令」
強めの力で腕を引っ張られる中、司令を見て言う。
「そうだな、この後のこともあるから、20:00までにはここに戻ってきて。検問所には一言言っておくから。それと、観光案内する範囲は善処のエリアだけにしてほしい。それ以上になると戻ってくるまで時間かかるから」
「はい」
「じゃあ行きましょう! ほらフィリオも!」
「わ、わかりました。では大宮様。また後程」
「ええ。楽しんできてください」
引きずられるようにプレハブを後にし、私とカナンさんとフィリオさんを連れて、【原初のエリア】の大通りに向かって歩き出した。




