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EP01-03 窮地のアイン ver2.0

  【エリアG 内陸部】


 崩壊した建物や割れた道路がどこまでも続くこの場所で、私達は襲撃してきた【マキナ】の軍勢と交戦していた。


 【マキナ】は一言でいうと自立駆動機械。

 今回出現したものの内、タイプ【ヒューマン】は二足歩行型で形状は人間のそれに似ている。だけど人間のような皮膚や肉は一切なく、あるのはそいつを形作るむき出しのコードや機構、ブースターなどの行動補助パーツの数々と外装。

 

そしてもう一種類のタイプ【アニマル】。

 これは【アニマル】と幅広い意味を持たせつつも、実際は大型犬のような形をしていやつね。

 体の造りは【ヒューマン】とほぼ同一のもので、口内に鋭利な牙があり、噛みついたものを感電させるという攻撃パターンがある。

 そしてもう一つの特徴は【アニマル】同士による連携攻撃と、それを可能にする俊敏性を持っているということ。

 機械なのに連携するというのは少々奇妙なものととらえられるかもしれないけど、このタイプはそれを実践で何度も使用し、いままで数多くの仲間を倒している。

 そして今も……。



 私は現在エリアGの東側。そこにある山のふもとの元高校の廃墟で数匹の【アニマル】と交戦している最中。

 先ほど私達といったけどそれは数十分前までのこと。

 いまは仲間は全員やられてしまって、残っているのは私一人だけ。


 そんな私は息を切らしながら、口内に広がる鉄の味のするつばを飲み込み、廃墟の階段を1段飛ばしで駆け上がって4階まで移動した。

 そしてそこにあった図書室に飛び込み、すぐに扉を閉めて鍵をかけた。

 それから一番奥の本棚の裏に隠れ、入口の扉を警戒しながら銃口をそっちに向ける。

 心臓がバクバクとリズムを刻み、頬を汗が垂れ下がる。

 この調子で休むことなく動き続けたら間違いなく倒れる……。


 「はぁ……はぁ……はぁ……。ここなら少しは……」


 私はおそらく奴らを振り切れたことを確認するとそっと銃を下げ、棚にもたれながら頭部デバイスの左側にある操作パネルを手の感覚だけで操作する。

 ボタンを押すたびにバイザーに表示されるもの切り替わる。

 何回かそのボタンをしていったところで目的の【連絡】と書かれた画面に切り替わり、今まで触っていたボタンの下にある別のボタンを押してその項目を展開。

 それから登録されている味方の名前の一番下、【救援要請】を選択した。

 これは最も近くにいる味方に文字通り救援要請を送るもの。

 誰に届くかはわからない。

 もしかしたらやられて放置されているものに届くかもしれない。

 もしかしたら苦手意識を持つ人に届くかもしれない。

 さらにこの要請は一方的に送るものなので受信者との会話はおろか、だれに送られたかすらわからない。


 だけどこれ以外にこの状況から脱する手立ては、今できることは限られている。

 現在、この建物の中には【アニマル】が10匹ほど徘徊して私を探している。

 そんなものを一人で、この銃とともにさばききれるわけがないし、交戦しても良くて大けが、悪くて消息を絶つことになりかねない。


 そんな状況でありながら私は頭部デバイスの右側にある格納式のマイクを伸ばして口元までもっていき、心拍数と乱れた呼吸と整えて録音を開始した。


 「……私は【AWP】の育成機関所属の仮契約者アインリット・ラーチ。現在……私はエリアG東部の高校の廃墟で籠城中。生存者は私一人、他の契約者及び正規兵は捕獲、または連絡不能になりました。救援を要請します。以上」


 最低限の言葉で現状を説明すると録音を止めてそれを誰かに向けて送信した。

 それから私は本棚の裏から割れた窓際に移動し、そこから覗き込んで下の様子を確認する。

 

 ――いま下を見ただけで確認できた【アニマル】は3体。

 犬のように地面に鼻を近づけ、特定の匂いを探しているような動きをしている。


 「この距離とあの数なら倒せる……いや、そんなことをしたら音でばれるか。けど救援要請を受信してこっち向かってきてくれている人のことを考えると……少なくとも2、3体は倒しておくのが望ましい……か

 私は再び本棚の裏に移動して言った。

 

 このまま救援に来てくれた人と接触したらその人ごと【アニマル】にやられかねない。

 かといって一人で真向から戦って勝てるほど甘い相手ではない。

 それに来てくれた人を犠牲に生き残るのはごめんだ。

 

 私はそのことを踏まえ戦うことにした。

 そしてそのためにまず改めて武装の確認をしてみる。

 レールガンの【MK02―118】とその弾丸が8発が入ったカートリッジ4つ。つまり計32発。

 一体撃破するのに最低でも平均3発を必要とし、連続して10発ほど撃つと銃がオーバーヒートを起こして撃てなくなる。

 おまけに使用者への発射時の反動が大きいので連続して撃つと何かしらでどこかにダメージを受けてしまう可能性がある。

 だけど、そうだとしてもやるしかない。生きるために。

 そしてこれからもやつらを破壊するために!


 「……よし」


 私は覚悟を決めて立ち上がると、銃に弾が最大数装填されていることを確認する。

 それから覚悟を決め、【118】のグリップを強く握って扉まで歩いていくと、扉のカギを解錠。

 できるだけ気がつかれないようにそっと扉を開け、警戒しながら3階に移動した。



 ――◇――


 3階は日本史に関する教材や資料の置いてある部屋と理科系科目で使った実験室があった。

 けど放置されていたせいで建物が老朽化、一部の床が落ちていたり、白い壁の塗装がひび割れたり剥がれ落ちたりしている。

 だけど運がいいのか悪いのか、この階層では【アニマル】の姿を見かけることはなかった。

 強引に締まっていた扉を破壊して部屋に入ったような真新しい形跡があったけど、そこに私はいないと判断してどこかに行ったんだと思う。

 私はその扉のある部屋の中をそっと覗いて軽く確認し、やつらいないとわかってほっと胸をなでおろす。

 そして油断と安心をすることなく、慎重に階段を下りて2階に移動し始める。

 二階には職員室や生物室と書かれた部屋があり、一番奥には家庭科室があるみたい。

 私は階段の前にある曲がり角まで移動し、壁に背中を預けてそっと曲がった先を覗き込み……。

 

 「……っ!!」


 見つけた。それも運よく1体だけ。


 その【アニマル】は先ほど図書館から見たものとほぼ同じ動きで廊下を歩いており、こちらに気が付いている様子ではない。

 私はあいつの駆動音とドクドクと高鳴る鼓動音を聞きながらゆっくりとしゃがんで【MK02―118】を構えると、そのまま静かにゆっくりと廊下に出る。

 失敗すればあいつに襲われて終わり。

 けど弾が命中してもどうなったのかを確認する余裕なんてない。適当に撃ってすぐにこの場を去らなければほかの【アニマル】が駆けつけてきて見つかってしまうから。


 私はいまだに緊張で早くなった鼓動音を聞きながらゆっくりと銃口を奴へと向ける。

 弾の予測弾道はバイザーが教えてくれる。

 それでもあくまで予測は予測。私の手のブレ一つでその弾道からそれるなんてよくあること。

 だから私は名一杯息を吸い、ブレを少しでもなくすために息を止めた。

 それから両手の力を抜き、脇を締め、右手の人差し指に当たっているトリガーを名一杯引き、弾を放つ。


 イヤープロテクター越しでもわかるかなり大きな発砲音。

 私の体を襲う射撃時の反動。

 

 私はそれに耐えながら、その場を離れることなく弾丸が【アニマル】の臀部でんぶに命中する。

 ふつうはそこで一度撤退するけど、私はそうはしない。

 危険は百も承知。だけどこの機会を逃せば次仕留める機会があるとは限らない。

 私はこの場をギリギリまで離れず、あいつにできるだけ弾を撃ちこむことにした。

 すぐに態勢を整えて、やつにこちらに来る隙を与えることなく、トリガーを引いて弾を放つ。

 2度目の発砲音が廊下に響き、猛烈な衝撃が私を襲う。

 そして弾は最初の着弾点の少し下、【アニマル】の後ろ右脚に命中。

 3度目は振り向きかけた【アニマル】の腹部に命中。

 腹部に打ち込まれた【アニマル】はその衝撃で横転し、ガリガリと音を立てながら1メートルほど奥へと滑っていった。

 

 「この程度の痛み、大宮さんとの訓練に比べれば……!」


 私は3回の衝撃に顔をしかめながらも立ち上がると、さっき降りてきた階段をさらに降りて、2階と1階の間の踊り場にある、向かいの校舎への連絡通路を走る。

 硬いヒールのような脚部プロテクターのひとつが、硬いコンクリートの床に当たって音を立て、それが通路に反響している。

 そして、その音に混じって3回のちいさな爆発音が鳴り、撃った【アニマル】が転がっているであろう場所の壁を吹き飛ばした。


 「爆発……確認」


 撃った弾は【MK002―118】の標準弾である徹甲榴弾で、当たったものの内部で爆発して中から破壊するというもの。

 【アニマル】の機構は鋼よりも硬く通常の弾丸や銃では刃が立たない。

 だからこの弾を使い、確実に内部に入れるためにレールガン式の【MK02―118】を使っている。

 だけどその代償に発砲時の衝撃は大きく、使い方を間違えれば使用者すら破壊する表裏一体の武器。

 使われれば何かしら破壊する。それがこの銃、【MK02―118】だ。


 私はそんな武器を右手の人差し指をトリガーに添え、左手で銃身を支えながら走っていると、後ろからいくつもの硬いものが地面を蹴っているそうな、そんな音が聞こえ始める。

 その音の正体は見なくてもわかる。というかあれと私しかここにいないのだから。


 「さすがにばれたか」


 後ろを一瞥すると、今まさに私が走っている連絡通路を4体の【アニマル】が前後で2・2に分かれて追いかけて来ていた。

 

 このまま走っていてもいずれは追いつかれる。

 かといってここで立ち止まってあいつらを撃ってもやられるのが早くなるだけ。


 「……これはちょっと無理……するか」


 私は連絡通路の出口に差し掛かったところで、今の速度をできるだけ保ちながら走り幅跳びの要領で跳躍し、空中で体をひねって180度回転。

 追っ手と向かい合うと銃口をそいつらに……。ではなく連絡通路の天井を狙ってトリガーを引く。


 ――けたたましい発砲音が再び建物内に響き渡り、私は撃った衝撃と宙で射撃したせいで上半身が後ろに傾き、そのまま3階へ続く階段に後頭部と背中をぶつける。


 「っつ!!」


 背中と頭部に走る痛みに顔をしかめながらもすぐに銃を構え、今度は連絡通路の手前の床部分を狙って射撃。

 ――発砲音が再び響き渡る。

 右手には射撃時の衝撃が残っているようで、いまもびりびりとしびれて指をうまく動かせない。

 それでも私はそれに構うことなく立ち上がってふらふらになりながらも3階に上がり、階段の隣にある教室に飛び込む。

 

 そしてその直後2回の爆発が起き、建物がわずかに揺れて天井の屑が落ちてくる。

 続いて長めの崩落音。

 黒板前にある教卓に背中を預けて座り、先ほどまでいた校舎の見える、割れた窓を見ると、ちょうど膨大な土煙が教室へと流れ込んできている最中だった。

 だけどこれであの連絡通路を確実に破壊でき、やつらは私を見失ったはず。

 

 「ケホッケホ……これでさっきのやつらは振り切れたと思うけど……あと9体……っ!!」


 できるだけこの場から離れるために立ち上がるけど、さっきの一連の行動でコンディションがより一層悪化していた。

 腕を持っていかれそうな痛み。

 手の震えは止まらないし、そのせいでうまく銃を持つことができない。

 後頭部をぶつけたせいで少しくらくらするし、後頭部と背中にはにじむような痛みがある。

 さすがにこれぐらいのけがは覚悟してたけど、これで一発撃つどころか移動するだけでも一苦労しそうだ。

 

 崩れ落ちるようにその場に座り込み、脚部の側面プロテクター内から即効性のある鎮痛剤の入った注射器を取り出してスーツの上から右脇に打ち込む。

 腕の痛みとはまた別の痛みが脇に走る。

 それでも私はそのまま鎮痛剤を打ち込み、空になった注射器を適当に投げ捨てる。

 それからほんの10秒程度で全身の痛みはやわらぎ、ある程度後動かせるようになると、それ以上その場にとどまることなくレールガンを左手に持ち替えて教室を出た。

 鎮痛剤のおかげで痛みはなくなってある程度動かせるようにはなったけど、それでもできるだけ右手は使わないようにしながら私はゆっくりと階段を上がって4階へと移動した。

 

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