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EP04-05 依頼Ⅱ

 【AWP 医療棟】


 「はじめましてだね。私はニア・ロントス。技師さ」

 

 私はさっき起きたばかりの彼女に名乗った。

 いろいろ聞きたいことはあるみたいだけど、とりあえず会話ができるぐらい落ち着いてくれてよかった……。

 外に出る時だけ着る【マルカリア】の白地に青いラインの入った制服のブレザーを脱ぎながら、パイプ椅子に座る。

 

 「あなたは……マルカリアの?」

 「まぁ、一応そういうことになってる。行った事はないけどね」

 

 うわぁ、どういうこと?って顔してる……。

 一応リーダーから正体を打ち明ける許可はもらってるけど、これは大変だなぁ。


 「えっと、正確には【マルカリア】の技師じゃないんだ。あなたたちに協力する、ある組織の人間……いや、存在って言ったほうがいいかな」

 「それで……そんな方がいったいどうして私の元へ……?」

 「そうだよね。――でも、その前に知りたくない?あなたが目覚めるまでのこと」


 目を開いて、黙っていたけど、しばらくしてうなずいた。

 だから私は、彼女が一番知りたいであろうことを言った。

 「アインリット・ラーチさんなら無事だよ」

 「本当ですか?」

 「嘘をついても意味ないし。だけどアインさんはもうここにはいないよ」

 「え?」

 「――ごめん、言い方が悪かったね。正確には、もう【AWP】にも、【マルカリア】にも、【ブバルディア】にも所属していないよ。除名になったんだ」

 「どう……してですか?」

 

 深刻そうな顔で、声で聴いてくる。

 だから、私は包み隠さず答える。


 「えっと、だいたい一か月前に大規模な破壊作戦が行われたんだよ。もちろん彼女はそれに参加した。その結果、【マキナ】を海岸まで運んでいた大型輸送戦艦型【ネプチューン】。あー、新種の【マキナ】ね。その破壊に成功したんだ。その映像は後で見るといいよ。――だけど、彼女、アインさんは命令違反、規則違反をいくつも破って、除名になったんだ。今はえっと、【民間エリア】だったかな、そこで暮らしているはずだよ」

 「そうだったんですね……。――あの、それで今日はどのような用件で?」

 「あれ?もういいの?これまでのこと」

 「はい。いまはアインが生きているということを知れただけで十分です」

 「へぇ、強いんだね」

 「いくつもの修羅場を超えてきましたから」


 そういう彼女の顔は、何処かさみしそうだった。

 きっと家族とか友だちとか、とにかくたくさんの大切な人を奪われたんだろう。

 私たちのせいで。

 ――うん。ありがとう。私たちの星じゃないって言ってくれて。でも、これは私たちの犯したこと。なら、やっぱ私たちの手でとめるべきだよ。

 

 「どうかしましたか?」

 「ううん。なんでもないよ。それよりも、本題に入ろっか」


 私は笑いながらそう言って、足元に置いていた銀色のアタッシュケースを足に乗せて、ロックを解除してふたを開けた。

 中に入れていた愛用のタッチパネル式の端末を取り出して電源を入れる。

 それから、彼女に見せたいものを表示させて、モニターを彼女に見せる。

 

 「これは?」

 「私が作った、【インパクト】の発展機だよ」

 「っ!!」

 「性能はまだ確認してないけど、単純な数字での比較なら【インパクト】の数倍はいいはずだよ。その分じゃじゃ馬になってるけど。――それでね、これをあなたに提供する代わりに、私たちに協力してほしいんだ」

 「――なぜ、ですか?それにどう協力しろと」

 

 よかった。理由を聞いてくれて……。

 一言返事で承諾されたら断らないといけなかった……。

 さてと、ここからだなぁ……。


 「ひとつは、単純にあなたの実力を買ってのこと。それであなたに決めたの。もう一つは……。はっきり言うけどいい?」


 彼女は何も言わずに、ゆっくりとうなずいた。

 私は彼女に近づいて、できるだけ他人に聞かれないように小さい声で言った。


 「いまの【ブバルディア】の組織力じゃ勝てないから。ここから先の戦い、私たちはこの街の防衛に手をまわせない可能性があるの。だから私たちのリーダーは既存戦力、つまりあなたたちの戦力を少しでも上げようとしているわけ。で、それに選ばれたのが君さ」


 まぁ本当は私が来るんじゃなくて、リーダーが来るべきなんだけどねえ……。

 あいつアインさんのほうに行っちゃったからなぁ。仕方ないとは思うけどさ。でもあんま時間ない中で私にこの仕事押しつけてくるなんて、あとで文句言っても知らないし。


 そんなことを考えていたら、彼女はじっと私を見て口を開いた。


 「私よりも、除名されたアインを誘うほうがいいのではないですか?」

 「どうしてそう思う?」

 「知っているのかどうかはわかりませんが、彼女は私よりも強いです。私が彼女に近接戦で勝てたことはありません。見たところ近接戦用の兵器っぽいですし、彼女のほうが向いていると思いました」

 「そう考えたんだ。――だけど、アインさんにはうちのリーダーが別のことを頼みに行ったはずだから、この兵器には乗れないんだ」


 ――それに、もしリーダーとレグが言っていたことが事実なら、これを渡すわけにはいかない……。

 

 「それで、引き受けてくれるかな……?」

 「――私にできるなら」


 彼女はベットから平然と降りて、私の前に立った。

 覚悟の決まったような顔。

 一瞬、戦う意思がにじみでているように見えた。

 思わず息をのみ、安心して少し笑ってしまった。

 きっと、これならもう大丈夫だ。 

 ――あなたに返還するときも、案外もうすぐそこに来ているのかもしれないわね……。

 なら、その時まで私も全力で作らないとね……。


 「あの、いまからその兵器に乗ることってできますか?」

 「――へ?」


 冗談でしょ?起きたばかりでもう訓練するつもりなの……?この子。

 思わず彼女の肩をつかんで聞いてみる。


 「本気?」

 「本気ですよ。私は戦士です。一刻も早く戦場に戻り、平穏を保つために戦います」

 「……せめて医者に確認取ってからにして。あなたが乗ろうとしているのは【インパクト】とは勝手が違うから」

 「……わかりました。おそらく許可は出ますが、終わったらどこに行けばいいですか?」

 「第三訓練場に来て。そこに私たちの船があるから」

 「船……?いえ、第三訓練場ですね。わかりました。では私はいきますね」


 彼女はそういって、普通に歩いてこの部屋を出ていった。

 ひとり残された私はただ、呆然と彼女の出ていった扉を見つめて、納得した。


 「ああ、さっきの言葉に聞き覚えあったのはアインさんに似てるからか。でも、本当に肝が据わってるというか、覚悟を最初から決めてるって感じだったなぁ……」


 でも、ああいう子が生まれてしまったのも……。

 ううん、だからこそ私は手を止めちゃいけないんだ。アインさんも、彼女も、戦わなくていいような世界を取り戻すんだ。

 それが。それだけが私にできる……。


 「償いなんだ……」


 そのためには、一刻も早く完成させなければ……!


 アタッシュケースに端末をしまってロックする。

 ブレザーを腰に巻いて、背中を押されるような勢いで部屋の窓から飛び出した。

 突起や小さな飛び出た屋根に着地しながら地面に降りて、そのまま輸送艦に向けて走り出す。

 一刻も早く完成させるために、終わらせるために。









 

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