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EP04-04 依頼

 【民間エリア 南東 アインリット・ラーチ宅】


 レグともめた翌日、私はメールの着信音で目を覚ました。

 ベットから降りて、パジャマがはだけた状態のままスマートフォンをとって、メールを確認する。

 送り手は不明。

 だけど、メールの内容から誰なのかはすぐに分かった。


 『昨日はすまなかった。レグがお前を呼び出したことの本題について話したいことがある。急で悪いがいまから【原初のエリア】の碑の前まで来てくれ。これは重要な案件だ。決して口外するな』


 送り手はたぶんナズ・レグルニアだ。

 私は彼にこのアドレスを教えていないけど、どうやって私に知ったんだろう。

 それはさておき、昨日に続けて同じことを話すということは、文面でも言っている通り、よっぽど重要なことなんだと思う。

 なら、行くしかない。

 即決して、さっそく出かける準備を始める。

 昨日買った服はすべて裕美さんの家にある。

 おまけにいまの私には大した服はないから、体を動かすときに使っていた黒っぽいジャージを着る。

 それから髪を整えて朝食を済ませ、起きてからだいだい一時間後ぐらいに家を出た。


 ◇

 【民間エリア 東部 原初のエリア 龍兵の丘 碑前】

 冬にしては比較的に暖かく、天気もいいので駅から丘まで歩いていくのは苦じゃなかった。

 通り沿いの賑わいはいつも通りで、このさらに東で戦闘が行われているのがウソみたい。

 それでもここが民間エリアの最東端だと感じるのは、ひとえに行きかう人の多くが3組織いずれかの制服を着ているせいだからだと思う。

 それは龍兵の丘に近づけば近づくほど制服を着る人の数は増えていく。

 中には民間エリアから来たと思われる、黒服を着た夫婦や家族の姿のある。

 その人たちと同じ流れに乗って丘に着くと、碑の前にはすでに白銀の髪に左右で違う色の眼を持つ、ナズ・レグルニアが銀色のスーツケースを持って立っていた。


 「来たか」

 

 近づくと、私に気が付いた彼が話しかけてきた。


 「待たせたわね。――それで?話って何?」

 「まずは、昨日はすまなかったな。ろくな説明もできずに質問ばかりしてしまったそうで」


 彼が歩きだし、私がそれを追いながら話をする。

 

 「それはもういいわ。イラついた私も私だし。でもそうね。少しでもいいから、説明してくれればよかったかもね」

 「ああ。それで本題だが、近いうちに展示会みたいなものをやるのは知っているな?」

 「ええ。ほかの国の開発者や代表がここの兵器を見に来るあれよね」

 「そう、俺も説明を受けた。だがなぜ他国は飛行機を撃ち落とされる可能性があるのにこの国に来る。馬鹿なのか?」

 「一応ここが世界中でも戦闘が激しい国の一つで、兵器開発が他国に比べて優っているってのが理由ね。一般向けに言われていることは」

 「ん?では本質は?」

 「情報共有よ。兵器のね」


 事実、この展覧会で公開された兵器の大半は設計データを他国に提供している。

 逆もまた。

 だけどそのことがどうしたんだろう。


 「話を戻す。その展覧会で、俺の機体ともう一機、レグの【アルマテル】も公開することになった。設計図は提供できないがな」

 「じゃあ、どうして公開するわけ?」

 「――理由は二つある」


 彼は私に近寄り、私にだけ聞こえるぐらい小さな声でつづけた。


 「一つは単に大宮にしつこいほど説得されたからだ。だがもうひとつ。おそらく、この都市のどこかに敵の密偵がいる」

 「な……!?本当なの?」

 「まだ確証はない。だが、仮設を立てるには十分すぎるほど情報がある」

 

 無言でうなずき、彼は龍兵の丘の一角にある展望デッキの中に入る。

 エレベーターに乗り、最上階の展望デッキに着く。

 人影はなく、静かな空間に私たちの声が広がる。

 彼はデッキの端の沿って設置された手すりの前まで歩いていくと振り返り、続けた。

 

 「幽霊のうわさは知ってるか?」

 「え、ええ。白い髪の女性がすごい速さで走り回ってるってやつでしょ?でもそれがどうしたの?」

 「それを追ってほしい」

 「――冗談でしょ?」


 幽霊を追いかけろなんて馬鹿げた話を昨日しようとしてたわけ?

 だとしたらかなり時間の無駄ね。

 

 「あのねぇ、いくらなんでも幽霊追いかけろなんて無理に決まってるじゃない。それに民間エリアって言っても範囲は広大。見つけることすらできないわ」

 「その幽霊には実体がある。それに見つけるのは少しは簡単になるはずだ」

 「――どういうこと?」

 「さっきの話の続きだが、展覧会に機体を出す理由。ひとつは大宮のしつこさが原因だが、もう一つは、その幽霊をおびき寄せるためだ。そのためにあの機体と場所を利用する」

 「――それで捕まえれるわけ?」

 「可能性は高くなる。だからこそ、アインリット・ラーチ。お前に頼みたい」

 「無理……とまではいかないけど、私にできるとは思えないけど?」

 「いや、できる」

 「根拠は?」

 

 それを聞いた彼は、突然床を蹴って接近し、私に向けてこぶしを突き出してきた。

 

 「な!?」


 とっさに身体をそらして避ける。

 それから目の前にある腕を打ち払い、床を蹴って距離をとる。

 

 「何するの?」

 

 だけど彼は何も言わず、もう一度距離を詰めてくる。

 再び突き出された拳を、今度は真っ向から払って、ねじ伏せるために襟へと手を伸ばす。

 だけど彼も、私と同じように手を払って、そのまま身体をひねって横蹴りを繰り出してくる。

 首元を狙った蹴りが迫ってくるけど、右腕を盾にして受け止める。

 にじむような痛みが右腕から足先に走るような感覚に襲われて、思わず歯を食いしばる。

 

 「――やはりな」


 かすかに笑って、彼はそっと足を下ろした。


 「多少リミッターを外した攻撃でも、とっさに対応できる。さすがというところだな」

 「いつつ……どういうつもり?」

 

 少しまだ痛い右腕を抑えながら聞く。


 「お前がどこまでの力を出したかはわからんが、さっきも言った通り多少リミッター外した俺の攻撃を余裕で受け止めるほどの技量があれば幽霊にも対応できるはずだ」

 「試した……わけ?」

 「悪いな。事前にお前の実力は大宮やレグから聞いていたが、実際に確認したかったんだ。だがこれで確信できた。お前なら幽霊を捕えられるはずだ」

 

 それから彼はスーツケースの元まで戻ると、それを引いて私の前に来た。


 「それで、この任務、引き受けてくれるか?」

 「……」

 

 何も言わないで、じっと彼の眼を見つめる。


 「その幽霊、どうしてあなたは捕まえたいわけ?」

 

 幽霊は強いと言いたいことはわかったけど、どうして捕まえたいのかがわからない。

 だから聞いてみた。


 「工程を省いて結果だけを言うなら、そうしなければこの国、いや、この世界は滅びるだろうな」

 「冗談でしょ?」


 そんな大事を、現実味のない存在にされるってわけ? 

 何者なのよ……その幽霊。


 「事実だ。奴の狙いはおそらく俺たちの機体だ。そうでなければ、この国の兵器ということになる」

 「奪われる……ってこと?」

 「そうだ。だからこそ近日中に行われる展覧会が危険なんだ。お前はその日、この国の命運を守るために幽霊を捕えるんだ」

 

 幽霊にこの国の命運がかかっている。

 それだけ聞けばどれだけ馬鹿々々しいんだろう。

 だけどその幽霊には実体があって、兵器を狙っている。

 ――ったく、意味が分からないわ。

 何よそれ。

 何よその幽霊。

 なによ。

 ――やるしかないじゃない。

 もう一度、私が人々を守ることができるなら。

 

 「わかった。例え相手が意味の分からない幽霊だろうが捕えて見せる。それで、いまの私が人々を守れるならね」

 

 彼はほほ笑み、スーツケースを私の前に転がしてきた。

 そのケースの上には一本のカギが載せられていた。


 「この中に入っているものは当日使うといい。多少役に立つはずだ」

 「開けても?」

 

 彼は無言でうなずいた。

 スーツケースを横にして、載せたあった鍵を使って開錠。

 ゆっくりとスーツケースを開く。

 中には黒いスポンジ材があり、そこにはめ込む形で多くのものが入っていた。

 手近なところにあったアタッシュケース、その中には黒を基調として、黄色いラインの入ったフード付きの上着。それから同じカラーリングのパイロットスーツがあった。

 続けてアタッシュケースの隣には軽いプロテクターのついたロングブーツがはめ込まれている。

 ほかにはホルスターのついたベルト、頭部デバイスにしては耳あてとバイザーが小柄なもの。

 それから鞘に納まったナイフがあった。

 入っているものの確認が一通り済んで、スーツケースを閉める。

 再び鍵がかかる音がして、ケースを起こして立ち上がる。

 これがあればなんとかなる。心の底から、どうしてかはわからないけどそう感じた。

 

 「俺はそろそろ戻る。当日までまだ少し時間がある。せっかくの機会だ。十分に休んでおくといい。当日は下手をすれば一瞬でここが戦場になるからな」


 私の横を通り過ぎ、後ろにあるエレベーターのボタンを押して、すぐに扉が開いた。

 彼がエレベーターに乗り、その扉が完全に閉まるまで、私は彼を見続けた。

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