EP03F-11 白球
「――そうだな。そのあたりのことから説明しないといけないか……」
それから彼は横に置いたアタッシュケースを撫でて、機体を見上げた。
「あの機体の名前は【アルマテル】。射撃特化機体さ。射撃以外はサルファガムに劣るけどな。それから俺はナズ・レグルニアの率いる組織の一員で、ラーチさんの護衛をしているスナイパーさ」
「彼の仲間ね……。いつから?」
「最初から。正確には11年前のあの日からな」
「――あなたいくつよ?」
「18だぜ?ラーチさんと同じでな」
「じゃあ9歳ってことじゃない。あの時から護衛もしてたってわけ?」
「それは違う。護衛はもっと最近、ラーチさんがあいつと出会った少し後からだよ」
「どうして?私を護衛する理由があるわけ?」
「あー、悪いけどそれは言えない」
「あっそ。じゃあ橋でいなくなったのは?」
「――昨日細工をした。ま、逃走用に仕掛けたんだけど」
「たとえ逃走用でも、いきなりいなくなって、本気で死んだのかと思ったじゃない」
痛いほど歯を食いしばって彼をにらみつける。
今すぐにでも殴りたい衝動に駆られる。
だけど、殴りかかる前にレグが言った。
「さんざん言われたよ。やりすぎ、強引だってな。――ラーチさん。ほんっとうにごめん。謝って許してもらえるかはわからないけどごめん……」
「生きてただけで満足よ。けど、もう二度とあんなことしないで」
「――わかった」
「わかってくれれば、今はそれでいいわ。――それで、さっきの射撃があなたの本気?」
「ん?あ、ああ」
「なら訓練の時のは手を抜いていたってわけ?」
現に、あの時掃討した時の射撃はたぶん百発百中。
【ジャイアント】は当然のこと、こまごまとした【アニマル】や【ヒューマン】もまとめて消滅させている。
正直に言って差がありすぎる。
すると彼はうなるような声を上げると、立ち上がって言った。
「どう説明すればわかってくれるのかわからないけど……。俺は【アルマテル】に乗ってる時の射撃が本気というか、普段通りの力を発揮できるんだ。――でも、実弾での、しかも降りているときの射撃なんてやったことないからな、あんなボロボロだったんだよ」
「……つまり、乗っているときの射撃が普段の実力ってこと?」
「見方を変えればそうなるな。ま、要は実弾射撃に慣れてないだけさ」
「そう、一応聞くけど、最大でどのぐらい遠くから正確に狙えるの?」
「ラーチさん、新塚さんと一緒に残存【マキナ】の掃討した日、覚えてる?」
「ええ。妙な光が【アニマル】の首元を貫いたから、よく覚えて……」
「お、気が付いたみたいだな。あれは俺がやった。ちょうど東側の山の奥からな」
「本気の次元超えてるわよ……【AWP】にもそんな実力者いないと思うわよ?」
「だろうな」
「まぁいいわ。あの時も助けられたみたいだしお礼言っとく。ありがとう」
「これで帳消しってわけでいいよな?」
「そんなわけないでしょ。帰ってからもっと詳しく聞かせてもらうつもりだから覚悟してよ」
「――悪いけど、それは無理だ」
レグはそういうとアタッシュケースを持って立ち上がって、【アルマテル】の前に立って振り向いた。
その後ろでは【アルマテル】が手の甲を地面につけて、私には機体が彼に向かって「乗れ」と言っているように見えた。
「俺はこのまま死んだことにしようと思ってる。今後のためにな」
「――それも作戦?」
「いや、俺の独断。今後のことを考えると、多少自由に身にならないと動きづらいからな」
「じゃあ、新塚さんと風香はどうするの?」
「ラーチさんがいるだろ?」
「無理よ。多分戻ったら除名だし」
「――はぁ!? なんでだよ!?」
「命令違反、味方への暴行、未契約班の兵器無断使用。その他もろもろ。今の私は規律を破りまくってるのよ。だから戻ったら数日後に聴聞室行きね。――だからお願い。あなたが二人を守って。私はこの先にいる人たちのために戦って、形はどうあれ守り切った。だからもう満足よ。これからは守れないっていうのは悔しいけど……」
「あー、もう!わかった。わかったよ。おれはこいつを隠してから基地に戻る。ラーチさんもこいつに乗るか?」
「っ!いいの?」
「じゃあ逆に聞くけど、どうやって戻るわけ?」
「――確かに……。なら、お願いしようかしら」
「安全運転は心がけるけど、乗り心地は保証しないぜ?」
「サルファガムに何度も乗ってるから大丈夫よ。はやくいきましょ」
そうして、私たちは【アルマテル】に乗り、レグは【アルマテル】を操作して飛翔。
北に向けてゆっくりと飛んでいった。
――◇――
『報告。先行者がアインリット・ラーチと合流。【アルマテル】に乗って北に移動を開始しました』
俺はRONAの声に反応して目を開け、数回頭をふるって意識をはっきりさせた。
痛みのあまり意識を失ってしまったとは……情けない話だ。
だが、その分休めた。痛みはないし、多少ではあるが体力も回復できたはずだ。
「悪い。寝てたみたいだな。すまんがもう一度言ってくれ」
『了解。先行者がアインリット・ラーチと合流し、【アルマテル】に搭乗して撤退を開始しました』
「そうか。――やつにしっかり休んどけと言っておいてくれ」
『了解』
「それと、今はどんな状況だ?」
バイザーに映る時刻は20:00。
かれこれ30分ぐらいは眠ってしまっていたのだろう。
それでも俺たちへの攻撃がないということは、上陸した【ジャイアント】はあいつが片付けたのだろう。
そうでもなければ、RONAにたたき起こされてたかもしれないしな。
『マスターの意識がなくなった時より一時撤退を開始。現在はアインリット・ラーチとの初期接触ポイントで休息をとっています』
――となるとあの学校か……。
「破壊対象はどうなった?」
『依然健在です。しかしその機能の70%を喪失したと予想します。現在は同ポイントで沈黙中です』
「沈黙?自爆してないのか?」
てっきり、あの状態なら自爆してもおかしくないはずだが……。
『おそらく自爆システムになんらかのトラブルが発生したのではないかと……』
「あり得るな。機体状況はどうなっている」
『右腕に損傷がありますが、動力管に問題はありません。通常制御可能です』
「斧はどこにあるかわかるか?」
『はい。現在は【ネプチューン】と同ポイントに反応があり、おそらく突き刺さって放置されていると思われます。正確なポイントはおそらくここかと思われます』
左モニターの上にかぶさるように、【ネプチューン】、鯨型の俯瞰図が表示され、背ひれの近くにマーカーが刺さっている。
あの位置に斧があるのだろう。
なら破壊可能だ。
「よし、俺たちは今から当初の作戦通り【ネプチューン】の破壊を開始する。可能か?」
『問題ありません。ですが、可能な限り短期決戦でお願いします。マスターもこの機体も、無理をすれば活動限界に達してしまう可能性があります』
「……善処する」
俺は意識を手先に集中させ、再び機体のを動かし始めた。
全てのブースターを起動させ、高音と光の線を残しながら【ネプチューン】に向けて移動を開始する。
だが、距離的には1分で到着するレベル。
微動だにせず、【サルファガム】が背中に着地しても【ネプチューン】は何もしてこなかった。
ありとあらゆる場所が炎上し黒煙が昇っており、見るも無残な状態だった。
前半身の装甲はほとんどなく、中に張り巡らされた管やコードが姿を現して、部分的に破壊。または融解していた。
ひとまず手放してしまった斧を回収し、移動中にRONAに頼んでおいた、【ネプチューン】の動力炉の真上、へし折れた背びれの横に移動した。
「斧のモード変更。一気にたたいて離脱するぞ」
『了解。戦斧、モードを通常から起爆モードへ変更。起爆までの残り時間300秒です』
斧が唸るような駆動音を発し始め、赤色の発行部がより赤く輝き始める。
コックピット内に危険を知らせるアラームが鳴り響き、右モニターに斧の出力限界に達したことを表示される。
だがそれでいい。わざとそうさせたのだから。
サルファガムの腕を、危険域に達した斧を振りかざし、勢いよく背びれへ叩き込んだ。
轟音が鳴り響き、斧自体が不可に耐えられず、まんべんなくひびが入り始める。
「緊急離脱!全力で飛ぶぞ!」
『出力を10秒限定で80%に引き上げます!』
自戒し始めた斧から手を放し、サルファガムの最大出力で【ネプチューン】から離脱する。
海上に広がる【ジャイアント】の残骸を超え、公園での戦闘痕を超え、サルファガムを倒れた観覧車の近くに着地させた。
その瞬間。
【ネプチューン】のいる方角からすさまじいフラッシュがたかれ、巨大な白い円球状のエネルギー塊が発生した。
触れたものを消滅をさせる。
いや、正確には一瞬で焼却する。
その結果、【ネプチューン】は周りにあった海水ごと消滅。
最寄りにあった陸の一部も消滅し、その部分だけきれいな曲線をえがく海岸に生まれ変わったのを、左モニターを通して確認した。
「思った以上に出力が強いな。再設計の必要がありそうだ」
『【ネプチューン】の消滅を確認。お疲れさまでしたマスター。作戦完了です』
「お前もな。今回の戦闘データをニアに送っておいてくれ」
『了解。マスターは仮眠をとってください。輸送艦への撤退は私が担当します』
「すまん。任せる。――だが、ゆっくりでいい。お前も少し休め。移動はそのあとでいい。疲れただろう」
『――ありがとうございます。では、出発は21:00に開始します』
「わかった。だが、一応あっちへの報告もしておくか……」
コックピットシートの側面収納から、AWPの指令室へ直接つながる通信端末を取り出し、通話を開始する。
ほどなくして、司令であるオオミヤが出た。
『大宮だ……』
「ナズ・レグルニアだ。現時刻をもって当初の目的を達成。【ネプチューン】の破壊を完了した」
『っ!!そうか』
張りつめていたものが一気に溶けたような安堵の声。
同じ部屋にいるものの喜びの声も聞こえ、どれだけ緊迫していたのか、追い込まれていたのかが嫌というほど伝わってくる。
だが、逆にこの報告がどれだけそこにいる者に希望を与えたのかということも伝わってくる。
『感謝してもしきれないな……。君はそれだけのことをしてくれた』
「だが、犠牲も多かっただろう……」
『ああ、確かに多い。だが過去の大規模作戦と比べれば何倍もマシだ』
「そうかもしれんな……。俺たちは少し休んでから輸送艦へ戻る。細かいことは後日でのいいか?」
『これ以上の追撃はあるか?』
「おそらくだが、この後の1か月は大きなものはこないはずだ。だが気をつけろ。内陸で砲撃部隊が何者かによってつぶされた。そいつが動く可能性がある」
『――っ!わかった。その件の対策も明日話そう。とにかく、お疲れ様。ゆっくり……とはいかないが、できる限り疲れをとってくれ』
そこで通信は終わった。
端末をもとの位置に戻し、頭部デバイスを外して膝の上に置く。
それから背もたれを少し倒し、全身から力を抜いた。
疲労とともにに襲い掛かってくる睡魔に負け、俺はゆっくりと眼を閉じ……仮眠を……とりはじめ……た。
そして次目を覚ました時にはすでに夜は明け、輸送艦の自室のベットの上で横になっていた。
――◇――
『エリアナゴヤにお住いの皆様に、ブバルディアから提供された情報をお伝えさせていただきます』
エリア中にあるテレビやラジオ、避難指示用のスピーカーから一斉にその女性キャスターの声が聞こえ始めた。
『大型輸送艦型【マキナ】破壊作戦The Hunting strategyは当初の目的を達成。エリアナゴヤ全域にお住いの皆様に作戦成功の旨を報告いたします!繰り返します!』
【3章:大型輸送戦艦戦 FIN】




