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EP03-10 翡翠

 一度拠点に戻った私は軽い治療をしてもらい、もう一度出撃した。

 もちろん、新塚さんには引き留められた。

 戻ったころには、撤退命令も出ていた。

 だけど、わずかな戦力すら放棄して撤退ができるとは思えなかった。

 たとえ武器があっても、新しく確認された敵軍、【ヒューマン】、【アニマル】50体以上の軍勢には勝てないと思う。

 ――でも、時間を稼ぐことはできる。

 そのための、唯一それができる無傷の【インパクト】も入手した。

 ――訂正するわ。

 奪った……。これが正しいわ。

 【118】も入手したし、壊れたと思っていた頭部デバイスも、ただのバッテリー切れだった。

 これだけあれば、少しは時間を稼ぐことができる。

 守ることができる。

 

 だからいま私は、50体以上の【マキナ】を相手に全力で戦っている。

 

 「こっち向きなさい!」


 海岸沿いの大通りを進む軍勢。

 私は海に飛び出し、側面に回ってトリガーを引いた。

 バイザーが割れているせいで照準補助はないけど、ある程度なら適当に撃っても当たる。

 3回撃って、2発は命中した。

 爆ぜて、当たった奴とその周囲にいたやつが吹き飛ぶ。

 けど、破壊はできていなかった。

 いくつかの装甲は剥げたけど、内部機構の破壊には至らなかった。

 でもいいの。

 これで、完全に奴らの視線は私に向いたから。

 

 海岸に沿って海面すれすれを飛行して、できるだけに西に移動する。

 無数の弾丸が飛んでくる。

 【インパクト】のブースターを噴かせて避ける。

 でも、それでも何発かは当たってしまった。


 右脇腹と左足に強い衝撃を受ける。

 痛みが全身に広がって、左足の装甲に穴が開く。

 右脇腹をかすめて、そこからちょっとずつ血が出てくる。

 

 「まだ、行ける!」


 崩れかけた重量バランスを整えて、一度鎮痛剤を打つために、近くにあった廃マンションの屋上に着陸した。

 脚部プロテクター内から鎮痛剤の入った注射器を取り出して首筋に打ち込む。 

 

 「さすがに数が多いわね……。でも、まだいける……」


 念のため【118】のカートリッジを交換する。

 マンションから飛び降りて、【インパクト】のブースターを噴かせて飛行。

 左手に持っているカートリッジを投げ捨てて、その落下先をしっかり確認する。

 だけど、いつもみたいにはしない。

 ちょっと試したいことがあるしね。


 不思議なくらい順調な戦闘をしてからどのくらいたったかな。

 多少ダメージは受けているけど、致命傷でも、【インパクト】のシステムに問題が生じるほどのものじゃない。

 南西から何かの爆発音が聞こえて、そっちを見ると黒い煙が何個も立ち上っているのが分かった。

 たぶん、【サルファガム】が攻撃し始めたんじゃないかな。

 だとしたら、もう少しの辛抱ね。


 飛んでくる弾を避けて、先に進もうとする【アニマル】に向けて射撃する。

 身体がばらばらになりそうな力が私に乗ってくるけど、できるだけ限界ギリギリのところで操縦を続ける。

 締め付けられるみたいに苦しい。

 おもいっきり引っ張られてるみたいに手足が動かしにくい。

 それでも飛び回って、できるだけ【マキナ】のターゲットをとる。

 

 「――っ!、決定打がないのは……痛いわね!」


 首元をかすめた弾丸をにらんで、すぐに回避行動をとる。

 だんだん【118】の弾がなくなっていく。

 でも敵の数は全く減ってない。

 

 「本当は持久戦に持ち込みたかったけど……ちょっと厳しいかも……」


 周りを見ても、逃げる場所も隠れる場所もない。

 たとえ隠れても【アニマル】が来るし、逃げても【ヒューマン】に撃たれる。


 「――っく!」


 強引に逆噴射して180度進路を変更する。

 部隊の周りを飛ぶように逃げるけど、その予測通過地点を狙って撃ってくる。 

 下に下りれば【アニマル】の餌食……。

 だけどこのまま飛び続けるのは避けたい……。

 

 「仕方ない……わね」


 身体を左に傾けて、進路を変更する。

 追いかけるようにしたから弾が飛んでくるけど、わざと速度をずらしてどうにか回避する。

 だけど、それが失敗だった。

 そのせいでバランスを崩してしまった。

 高度が下がって、仕留めるように【アニマル】が追いかけてくる。

 強引に高度を上げようとしても、うまく操縦できない。

 

 「この――!!」


 身体をひねって背中を地面に向ける。

 【インパクト】の背面ブースターが地面にぶつからないようにブースターを噴かせ、地面すれすれを飛行をする。

 たまに後ろを見て進行方向を確認する。

 だいぶ先だけど、先行部隊の拠点予定地だった商業施設が見えた。

 ようやくここまで下がってくれたみたいね

 それが分かってホッとする。

 ――けど、その一瞬を突かれてしまった。

 

 【アニマル】が加速して、脚部装甲にかみついてきたのだ。

 重さに負けて、踵の先が地面を触れて火花を上げる。

 速度が落ちて、次第に後続の【ヒューマン】や【アニマル】との距離を詰められてしまう。

 バランスが取れない……!!

 

 「このままじゃ……」


 ここで撃ったら巻き添えは確定……。

 軽傷とは言えないぐらいのダメージを受けるわね。

 でもこのままっていうわけにもいかない。

 ――なら、仕方がないか。


 私は【118】を左手の持ち替え、空いた右手を【インパクト】の腰装甲に伸ばした。

 手探りで目当てのものを探して、躊躇なくそのレバーを引き上げた。

 それは脚部装甲を強制パージするためのレバー。

 腰装甲と、脚部装甲から延びていたアーム兼装甲が分離。

 脚部装甲側も足を固定していたロックが外れて徐々に脱げていく。

 だんだん見えてくるスーツの脚部プロテクター。

 膝が出て、脛が見えて、最後につま先が出てきた。

 

 「いま!!」


 背面ブースターを立てて一気に噴かせる。

 身軽になったぶん、さっきまでよりも速く上昇。

 当然負荷を大きくなっているので、歯を食いしばって耐えきった。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……」


 下を見れば、まっすぐとこっちを見ている【アニマル】がいる。

 あのままだったら危なかった。

 息を整えて、鉄の味がする液体を吐き捨てる。

 【118】のカートリッジを交換した。


 ――と同時に、さっきまで聞こえていた轟音とは別の、何かがぶつかったような音が聞こえた。

 月明かりで映る、浮く私の陰にかぶさるように、もっと大きな人型の影が現れる。

 背中から感じる圧力。

 寒気がするような、何かがこっちを見ているような感覚。


 「一体……なに、が……」


 ああ、振り向書ないほうがよかったかも……。

 そこにいたのは3体の【ジャイアント】

 目の前に顔があって、真ん中にいる奴と目が合ってしまった。

 ――無理だ……。

 いくら【アニマル】と【ヒューマン】相手に時間稼ぎができていても、さすがに【ジャイアント】は……。

 

 「――っ!?な、通信!?」


 こんな状況で、しかもこんなタイミングで通信が来た。

 いったい誰なのよ……。

 突然鳴りだしたアラームに驚きつつ、まだ生きているバイザーに表示された文字を読む。


 【送信者ID:AWP02・・・・ 大宮レグ】


 レグ……ですって?

 そんな、レグはあの時……。

 

 息が止まりそうになる。

 嘘だと思ってもう一度それを見る。

 だけど間違いなく大宮レグと書かれている。

 

 まさか……まさか!

 幸い、【ヒューマン】は撃ってこないし、【ジャイアント】は南西のほうを向いた。

 念のため警戒しながら、左手でデバイスを操作してすがるように通話を開始した。


 「もし……もし?」

 『――あ、その、俺だ。レグだ』

 

 声も一緒。

 しゃべり方も一緒。

 正真正銘、通話相手は死んだと思っていた大宮レグだった。

 

 「――生きてたの?」

 『あの時はその、悪かった』

 「悪かったって何よ!私がどれだけ辛かったのか知……」

 

 あれ?

 そういえば起きたとき、そんなにショック受けていなかったような……。

 なんで……?


 『ラーチさん?』

 「――な、何でもないわ。確認よ。生きているのよね?」

 『あ、ああ。五体満足。健康体で生きてるよ』

 「そう。それで?こんな状況で何の用?私今忙しいんだけど!?」


 いきなり視界の隅から伸びてきた【ジャイアント】の手にびっくりして、ブースターを全力で噴かせて上昇する。


 『ラーチさん!?』

 「何でもないわ!それで本題は!?」

 『いますぐ北か南、どっちでもいいから100mぐらい飛んで!』

 「当たるって何に!?」

 『いいから早く!問答無用で撃ってもいいのか!?』

 「撃つ!?意味が分からないけど飛べばいいのね!?」


 正直、頭がこの状況に追い付いていない。

 でも、レグの言ったことだけは理解できた。

 生きているブースターを駆使して、最速で北に飛ぶ。

 できるだけ空気抵抗を減らすために身体をまっすぐにして、【ヒューマン】の部隊の上空を通過して、だいたい100m先にある廃マンションの屋上に着地する。


 その直後だった。 

 今までいた一帯に、断続して緑色の光が飛んできたのは。

 西から東へ。 

 太く、長い光の線が地上にいる【マキナ】を次々と消滅させて、【ジャイアント】の装甲を貫通する。

 音のない攻撃は次々と倒していって、たった数分で【マキナ】は壊滅した。

 

 緑色の光による攻撃が止み、風の音と遠くから聞こえる爆発音しか聞こえない場所になった。

 呆然とマンションから地面に降りて、あたりに転がる【マキナ】の残骸を見る。

 【118】や大型ナイフによる力任せな破壊とはまた違った、そこだけ抉り取られ、断面が溶かされているような跡。

 こんなことができる武器は……ないはず。

 【マルカリア】や【ブバルディア】が隠してない限りは……。


 『ラーチさんごめん、ちょっとそこ動かないで。踏むかもしれないから』

 「――はぁ?」


 少しして、視界の端から何か、わずかに緑色に光っているものが近づいてきた。

 よく見れば人型。

 ――最初は【インパクト】か何かかと思ったけど、どう考えてもサイズがおかしい。

 おかしいってレベルじゃない!

 こっちに来たからわかったけど、ほぼ【ジャイアント】と同じぐらいある!

 

 「なんなのよ……これ」


 私のほぼ真上に来たそれは、脛から上に伸びた巨大な直方体がある。

 右肩の装甲の先からは巨大な、縦に引き伸ばされた板がついている。

 右手先は先に向かった細くなる、まるで砲身……みたいな長細い形。

 左腕は肩装甲の先には板がなくて、右腕とは違って人型の、既視感のある五本指。

 頭は前に突き出たバイザーみたいなものが付いて、隠れている目元から頬にかけて緑色に光っている。

 口元にも既視感がある。

 同じように全身の各装甲の隙間やスラスターは緑色に光っている。

 そして、それが通ってきた道には緑色の線が残っている。

 そのすべてを見て、私はその既視感の正体は気が付いた。


 そうか、この既視感、【サルファガム】だ。

 見た目とか光の色とか違うけど、全体的な印象はあの機体にそっくりなんだ。


 それは立膝をついて、前かがみになる。 

 すぐに【サルファガム】と同じ位置にある胸部ハッチが開いて、中から彼が、細長い灰色のアタッシュケースを持って目の前に来た。


 「よ!」

 「よ!……じゃないわよ。人がどれだけ衝撃受けたと思ってるわけ」

 

 【118】を捨てて、思いっきり肩のプロテクターを引っ張って顔を近づける。

 バイザー同士が当たって、私のものが少し欠ける。

 思いっきりにらみつけて、思いっきり吐き捨てる。


 「すべて、すべて説明しなさい!その義務があるはずよ」

 「――すべては話せない。だけど、できる限り君が知りたいことのは答えると約束する。それでいい?」

 「いいえ、すべてよ」

 「――」

 「――わかったわよ、まったく」


 本当は今すぐにでも殴りたい。

 でも、そんなことしても話は一向に進まない。


 彼を突き放して足元に転がっている【118】を拾い上げる。

 周りを見ても、さっきと同じであたりに動く【マキナ】は、【ジャイアント】を含めて見当たらない。

 本当に彼が、あの【サルファガム】そっくりな機体で壊滅させたんだ……。

 

 私から解放された彼は何かに安心したのか私の隣に来て、がれきにもたれかかって座り込んだ。

 

 「いいの?まだ【マキナ】がいるかもしれないのに」

 「いや、このあたりの奴は掃討した。これ以上撤退する部隊を追うやつはいないし、もう追うやつもいない。とりあえずいまはラーチさんの怒りを抑えることが最優先ってね」

 「撃ってもいいわけ?」

 「【118】で撃つのはマジで勘弁。対人武器としてみればこれほどやばいものはないから……」

 「ふーん。――で?結局あなたは何?」

 

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