EP03-10 Separation1→2
【エリアG南東】
19:09
……。
【インパクト】を装備したアインリット・ラーチは、表情一つ変えることなく。
ただ頬を伝って涙を流しながら戦っていた。
場所は、最初に部隊が【マキナ】と遭遇した道。
その先にある公園。
海岸に接するその公園の中央で、彼女と【ヒューマン】、【アニマル】のべ20体との戦闘が繰り広げていた。
一言も発さず、ひたすら【MK02―118】と【インパクト】を駆使して破壊していく。
時には強固な脚部装甲で蹴り。
時には加速し、非常時用の大型ナイフで刺しながら。
しかし、公園にいる【マキナ】の数は、到底一人でなんとかできるようなレベルのものではなかった。
【MK02―118】はすでにオーバーヒート寸前。
【インパクト】も中破状態で、すでに右足や両肩の装甲は割れ、背面ブースターの一部が機能不全を起こしている。
そしてアインリット・ラーチ本人も。
頭部デバイスのバイザーの左側が割れ、バイザーの破片で切った頬から出血している。
胴体や腕、腿のスーツは破れて、そこからも出血。
しかし、それでもアインリット・ラーチの攻撃が止まることはなく、ひたすら【マキナ】を破壊していた。
ナイフの持ち手を咥え、木々の間を縫うように旋回移動をしながら【118】のカートリッジを再装填する。
デバイスが故障したせいで照準機能はすでになく、技量が試される射撃。
アインリットは何度もトリガーを引いた。
そのたびに射撃音と着弾後の破砕音が周囲に響き渡る。
撃つたびに飛行バランスが崩れそうになるが、安定させる。
だがそれらは一発も、追ってくる【アニマル】には命中しなかった。
カートリッジ内の弾がなくなり、同時に【118】の銃身がわずかに開き、オーバーヒートした状態でさらにトリガーを引いた時になる排熱形態に変化する。
軽い舌打ちをし、オーバーヒートした【118】を追ってくる【アニマル】に向けて投げ捨て、【インパクト】のブースターの出力を上げて緩やかに上昇。
上昇とともに旋回し、口に咥えていたナイフを右手に握る。
公園内の道を、アインリットを追いかけるように走る【ヒューマン】に向けて降下。
だが【ヒューマン】は鋭利なフォルムのアサルトライフルを構え、彼女に向けて発砲を開始した。
弾丸が装甲を、身体をかすめて通過する。
何発かは脚部や肩の装甲、そして各所にあるプロテクターに穴をあけるも、彼女の体を穿つことはなかった。
それでも装甲の隙間、破れたスーツから少しづつ血が流れ、公園にはわずかに赤い斑点が描かれていく。
貧血による戦闘不能と敗北による戦闘不能。
2つの死に迫られながらも、それでもアインリット・ラーチはそのナイフを突き出した。
勢いよく突き出された大型ナイフは【ヒューマン】の胸元に突き刺さり、そのまま連れ去っていく。
地面に擦りつけるように低空飛行をし、ボロボロの看板を割り、細い木の幹を折り、円柱状の建物の壁に激突。
劣化したコンクリートが宙を舞う。
砂煙が発生し彼女を包み込む。
他の【ヒューマン】は彼女を追いかけ、射程範囲内に入ったところで再度射撃。
銃声と、砂煙に穴が開き、中にある金属にあたったような音が響き渡る。
弾幕が止み、とどめを刺さんとばかりに【アニマル】が飛び込む。
砂煙が散り、【マキナ】がその場をはっきり確認できるようになる。
――だが、そこにあったのは無残な【インパクト】と、北東に続く血痕だけだった。
――◇――
永遠と広がっている空間。
床も天井も真っ黒。
ただ少し先に真っ白な円形テーブルが1つあるだけ……。
暑さも寒さも感じない。
どこだかわからない空間なのに、なんでか安心する。
どうしてかはわからない……。
身体の感覚はあるみたい。
手足は動くし、声も出る。
本当にどこなんだろう。
そんなことを考えながらテーブルに近づいていくと、反対側から誰かが歩いてきた。
「あー、満足満足。やっぱ気持ちいな♪――あ?なんでここにいるんだよ」
「あなた……だれなの?」
「誰って……ああ、この格好じゃわからねーか」
女の人っぽい声だから……女性だと思うけど……。
でもあの声、すごく聞きなれているみたいな感じがする……。
赤いローブで全身を覆い、フードを目深くかぶった女性。
慎重派多分私と同じくらい。
けどほかのこと、顔とか、恰好とかいろいろ。
そのあたりのことはローブに隠れてわからない。
「あなたは?」
「オレ?――そうだな……。オレ自身に名なんてないから、まぁ適当に呼んでくれ」
「え?はぁ……?」
「妙なものを見るような目で見るなよ……。それよりアインリット・ラーチ。お前、何か悩んでるだろ?」
「っ!なんでわかるのよ」
「さぁ?なんでだろうな。その悩み、戦う意味……だろ?」
「――ええ。何のために、誰のために戦えばいいのか、それが分からなくなったのよ」
あれ?なんで教えてるの?
こんな初対面で、顔も容姿もわからない人に。
だけど言いたくなる。
彼女は何者なのだろう……。
それから私は打ち明けた。
すべてを。
そしてそれを聞いた彼女はテーブルに座って振り向いた。
「ふーん。お前、何か勘違いしてるだろ」
「勘……違い?」
「戦う理由なんて別になんだっていいんだよ。よく特定の人間を守るために戦うとかいうやつがいるけど、結局は自己暗示なんだよ。オレはこのためになら全力で戦う!っていうな」
「じゃあ……今の私は?」
「それがなくなった。守りたい奴がほとんどいなくなって、残った奴を守ろうにも有栖みたいに戦場が違うから守れない。だからなくなったんだろ」
「ちなみに、オレは壊したいから壊す。家族とか友とか殺されたからなぁ。復讐もかねて戦ってる」
「じゃあ私も……また何か戦う理由を見つければ……、見つければ戦えるようになるの?」
「なるだろうな。――だが、お前は何度も味わった友の死という谷を越えれるか?その勇気があるか?」
「――わからないわ」
「なら、お前はオレとは違う。特定の人間じゃなく、後ろにいる奴を守るために戦え。隣じゃなく、背中を預ける奴じゃなく、後ろでのんきに暮らす奴らの生活を守るために戦え。少しは楽に戦えるはずだぜ?」
「でもそれだと仲間がいた場合は?その時はどうするの?」
「だれが団結しろって言ったよ」
彼女は机の上を移動し、私を見下ろす位置に移動した。
それからローブの間から真っ白で細い生腕を伸ばし、私の胸元にこぶしを当てた。
「何か心に決めたことをするときは他人に頼るな。一人でやれ。意志の弱い奴は、意志の強い奴に歩み寄って盾にする。じゃあ失敗したとき、ピンチになった時にそいつは助けてくれるか?――ハ!ありえないな。見捨ててとんずらするに決まってる。いいか?利用できるものは利用しろ。使えるものはすべて使え」
「――その言い方だと、あなたは一人で戦っているの?」
「ああ、オレは一度すべてを失ったからな。友などいらん。破壊できればそれでいい。【マキナ】を壊して壊して、壊しまくれればそれでいい」
テーブルから飛び降り、私の背中に背中を預けて続けた。
「こうして背中を預けた時期もあったけどよ……。結局、そいつを守るどころか守られちまったからな。いろんな奴に。――ある奴なんか、オレを橋から思いっきり前のほうにぶん投げやがったし」
「フフ……私と同じね」
「たりめーだ。――とりあえず当面の戦う意思、ここで決めちまえ。悩んだまま戻るよりはマシだろ?」
戦う理由……か。
彼女の言う通り、一人で戦うっていうのはありかもしれないわね。
特定の人に絞るから守りにくいし、守られてしまう。
だけど、だれか、見知らぬ誰かのための戦いなら、いままでのようなことは起きないかもしれない……。
そうしよう。
それがいいはずだから……。
「――都市で、都市で暮らす民間人のために戦うことにするわ。そのほうが、今までよりも気が楽そうだから。本当の理由ができるまでは……ね」
「そうか。ならさっさと交代しようぜ。初陣であれは疲れたわ」
交代?
久しぶり?
それにいままで引っかかっていたワード……。
「待って、あなた何者?っていうか、すごく今更だけど、なんで私の事、いろいろ知ってるの?」
振り向いて、彼女の顔をまっすぐとみていった。
そして、彼女の口からその答えが来るまで、私は唇を結んで待った、
けど、彼女は素っ頓狂な声で一言。
「あ?まだ気が付かねーのか?」
――って言った。
それから続けて。
「まぁ、別に隠しても得ねーし……いっか。俺がなんで知ってるかって?決まってるだろ?」
彼女は目深くかぶっていたフードを外して素顔をさらした。
金色のショートヘア。
少しだけ吊り上がった青色の目。
まるで……いや、こう言ったほうがよさそうね。
私の前に、もう一人の私がいる。
言葉使いも性格も違うけど、間違いなく私がそこにいる。
でも、不思議と受け入れたくなる……。
「な?簡単だろ?」
「……」
「ま、言葉が出ねーよな。なら一つだけヒントをやるよ。お前が【守護者】で、さしずめオレは【復讐者】だ。じゃあまたいつか会おうぜ。――呑まれるなよ?」
その言葉を聞いた瞬間、急に身体から力が抜けて、瞼が……重たく……な……た。
――◇――
……さ……。
……ーチさ……。
ラーチさん!
誰か……ううん。
すごく聞きなれた声がする。
――泣いている……のかな。
誰なのかを確認するために、私はゆっくりと目を開いた。
相変わらずの夜空が視界に入る。
次に視界に入ってきたのは……。
「新……塚さん?」
首を動かして右を見ると、そこには赤茶色の髪の乱れた新塚さんが泣いていた。
どうしてこんなところにいるんだろう……。
「ラーチ……さん。よかった。生きてた……本当に……よかった!」
だんだんはっきりしていく意識。
痛覚。
だんだん全身に痛みが走り始めて完全に覚醒した。
身体を起こして新塚さんに手伝ってもらい、見覚えのある倒木にもたれかかる。
あたりを見回しても、私たち以外はいないみたい。
でも何丁もの【MK02―118】と、大破した【インパクト】の残骸が転がっている。
どうして私はこんなところで寝ていて、かつボロボロになっているんだろう。
戦った覚えはないし、レグが死んでからさっきまでの記憶がない。
――待って。
ある。
一つだけ、彼女と話した記憶だけははっきりとある。
「ラーチさん?」
「っ、ごめんなさい。考え事をしてたわ」
「ううん。いいよ。一応止血はしたけど、少しでも早くちゃんとした治療を受けたほうがいいと思うよ。見つけたときボロボロだったもん」
「そうしたいのは山々だけど。教えて、作戦はどうなったの?」
「――」
新塚さんは視線をそらして唇を強く結んだ。
それから少しして教えてくれた。
「作戦は、あの人にすべてを託す形になったよ」
「――β部隊はこの近くで起きた【ヒューマン】と【アニマル】との遭遇、撤退時から作戦を変更。ラーチさんがここにとどまって足止めしてくれたおかげでほとんどの撤退が完了したよ」
「――そう。α部隊は?」
「【パラディン】隊が壊滅したよ。サルファガムは無事」
「そう……なのね」
手足がうまく動くことを確認して立ち上がる。
動かすと少し痛むけど、これならまだいけそうね。
――とはいっても、冷静に考えれば、さすがにこんな状態で戦っても意味がないわね……。
守るって言っても死んだら元も子もないし、ここは潔く戻るのが賢明な判断ね。
――正直、よくこんな傷だらけで生きてたわね私。
「ラーチさん?」
「ううん。なんでもないわ。とにかく今は、このデバイスも何とかしたいし一度本部に戻りましょう。怪我も、新塚さんの言う通り早く治療したほうがよさそうだしね」
「うん。じゃあ早くいこう!この下の砂浜に【OUL】止めてあるから」
彼女の【OUL】にまたがり、久々に動力音を聞いて、風を感じながら本部に向けて飛んでいく。
その際、私は眼下に見えたあの橋に、あそこで眠っているはずのレグに向けて黙とうした。
ひとまずアインリットの心が落ち着いてよかったよかった……。
あまり解決はしてないけど……ね?
いよいよ1節も残りわずか!
p,s この作品はまだまだ続くよ(⌒∇⌒)




