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EP03-07 作戦開始

 【エリアG南東 旧中学校敷地内 グラウンド】

 10月8日

 17:38


 「急げ!このままだと間に合わないぞ!」

 「おい!誰か【インパクト】のA―32を知らないか!?」

 「そいつならあそこのコンテナの中だ!だが異常が見つかったとかでさっき作戦から外された」

 「ならその操縦者はどうしたんだ?」

 「あれのパイロットは医療棟で昏睡状態だ」

 「は?じゃあどうするんだよ。あれ」

 「一応代役がいたんだけどな、使えないって聞いてもともとの所属の3班に戻ったよ」

 「そういうことだったのか。ならあれはリストから外さないとな」

 「だな。ま、一応使えるようにはしておくんだけどな」

 

 そんな会話が聞こえる中、私は元中学校らしい校舎を背にその時を待っていた。

 黄色いスーツと頭部デバイスを身に着けている。。

 右手には【MK02ー118】。

 私は左手でバイザーを上げて、今隣に来たレグを見た。


 「どうしたんだよ」

 「まさか、あなたが3班と契約したなんて思わなかったわ」

 「そんなに意外か?」

 「まぁ、完全に予想外だったわ」

 「ひでぇ……。これでも結構訓練頑張ってるんだぜ?」


 そういってレグは頬をかいた。

 心なしか、レグの口調がいつもよりちょっとだけ早い気がする。

 それになんだかさっきから妙にそわそわしているような……。


 「……ねぇ」

 「……なんだ?」

 「――怖いんでしょ」

 一瞥すると、彼は目を見開いて私のことを見つめてきていた。

 そして乾いた笑いをしてほおを緩めた。

 「あーあ、ばれてたか。不安にさせないように抑えてたつもりなんだけどなぁ……」

 「バレバレ。だけどそれが普通よ」

 「じゃあラーチさんは怖くないのかい?」

 「私は戦い自体に恐怖は感じないわ。むしろ高まってしょうがないぐらいよ」

 「さ、さすがっていうべきか?」

 「なんでそこで疑問形になるのよ。だけど一つだけ、私にも怖いことはあるわ」

 「へぇ、どんなこと?」

 「――内緒」

 「は?」

 「知らないほうが気が楽よ? 特にこういうときはね」


 そう。

 知らないほうがいい、言わないほうがいい。

 特に肩を並べて、背中を預けて戦うような相手には……。

 「仲間を失うことが怖い」

 ――なんて言わないほうがいいに決まってる。

 私は左手で右手の肘をつかみ、校舎にもたれかかってそっと目を閉じた。

 

 「ラーチさん」

 「なに?」

 

 その声に反応するように、私は目を開けた。


 「俺、頑張るから。だからさ、その、えっと……」

 「ん?」

 なぜかレグは黙り込み、また私から目をそらした。

 ――妙にレグに落ち着きがないような気がする。

 そんなにこの後すぐに始まる作戦に緊張しているのかな。

 だけどこの場合、私はどんな言葉をかければいいんだろう。

 頑張ろう。

 一緒に戦おう。

 落ち着いて。

 それっぽい言葉なら出てくるけど、それを言っても意味がないような気がする。

 ――そういえば彩芽、いつも私になんて言ってくれてたっけ……。

 

 「俺さ、この戦いが終わったらラーチさんに知ってほしいことがあるんだ。だから、その、終わったら会えない……かな」

 レグは首筋を撫で、その質問の答えを求めるかのような目で私を見つめてくる。

 そんなに知ってほしいこと、なんなのだろう。

 「いいわ。ならこの作戦が成功したら連絡して。よっぽど変な場所じゃない限り、そこで話を聞いてあげるから」

 「ありがとう。――すこしだけ気が楽になったよ」

 「そう?」

 「ああ」

 そう言ってレグはほほ笑んだ。

 大したことはしていないけど、これでレグの緊張や恐怖が少しでも和らいだのならそれでいい。

 ――だけど次の瞬間。

 まるで彼をもてあそぶように、和らいだ緊張や恐怖が再び彼の元に戻ってきた。


 時刻は17:50。

 そう、もうすぐ始まるから。


 「全契約者に伝える!まもなく作戦開始時刻になる。あらかじめ指定しておいたデータを確認し、各自、各班の集合ポイントに移動せよ!繰り返す!――」


 どこからかそんな声が聞こえだし、周りにいる人たちがぞろぞろと、互いの間を縫うように移動を開始する。

 みんな緊張した顔をしている。

 私は一度深い深呼吸をして、隣で同じように移動する人たちを見るレグのほうを見た。


 「私たちも行きましょう。早くしないと時間になっちゃうわ」

 「そ、そうだな。――ふぅ、行くか」

 「ええ」

 

 バイザーを下ろし、耳元もスイッチを操作して合流ポイントを確認し、私たちはそのポイントに移動した。


 

 ――◇作戦開始まで残り10分◇――

 

 合流ポイントについた私たちを待っていたのは、同じ3班の契約者と作戦の最終チェックだった。

 

 契約者の数は聞いたところによると43名。

 そして私たち43名は、この作戦では2編隊に分かれて行動するらしい。

 Aチームは2班の【インパクト】とともに最前線で戦う前衛チーム。

 Bチームは1班の【パラディン】とともに進行し、A班の支援と防衛拠点の確保をする支援班。 

 そして一番重要なことは、私たちは一切【ネプチューン】に攻撃しないという点だ。

 とはいっても最初の数分だけは【ネプチューン】の攻撃する。

 だけど私たちの目的はあくまで【アニマル】、【ヒューマン】、【ジャイアント】を少しでも【ネプチューン】から離すこと。

 ――ええそうよ。

 今回の作戦では、ここにいる全員が囮。

 【ネプチューン】への攻撃は本部からのミサイル攻撃と、彼らに任せることになる、

 だけど私たちにはそれしか方法がないらしい。

 完全に信用されていない、していないナズ・レグルニアにすべてを託す作戦。

 それがThe Hunting strategyよ。

 そして一番大切なこと。

 私とレグはAチームだったわ。


 17:58分。

 作戦開始まであと2分。

 

 すべての準備を整えた私たち3班Aチームは、2班と合流して元中学校の校門前の道に集まっていた。

 長年使われていなくて、自然に侵食されつつある広いアスファルトの道。

 冬に差し掛かっている今、すぐ目の前にある海から冷え切った風が私たちの体をさするように通り過ぎる。

 

 距離と時間帯のせいもあってまだ【ネプチューン】の姿は確認できない。

 だけど、この道をまっすぐ進めばそれはきっといる。


 『諸君、これから始まるのは訓練でも防衛戦でもない。これは討伐戦だ。――』

 

 頭部デバイスからありきたりな言葉を並べただけのような宣言が聞こえてくる。

 それを無視すれば聞こえるのはかすかな波の音と金属同士のこすれる音。

 それから後ろの【インパクト】の静かな駆動音。

 あとは……私自身の速い心臓の鼓動かな

 目を閉じて深い深呼吸をする。

 ゆっくりと、鼓動を落ち着かせるように。

 自分自身に大丈夫と言い聞かせる。


 『最後に一言だけ、私自身から一言言わせてほしい。――帰って来いよ。必ず。――各自、安全装置を解除せよ』


 最後の最後にそれを言うってどうなのよ……。

 そう思いつつ【118】の安全装置を解除して、左手を下部に添える。

 さぁ、はやく行こう。

 あいつらを壊しに。

 さぁ、はやくはじめよう。

 復讐を。

 さぁ、待ってなさい。

 ――壊してあげるから……。

 私は口をゆがませて笑みを浮かべる。

 きっと周りからは狂ったやつとか思われているだろうけど、そんなものは関係ない。

 ただ、私はぶっ壊せるのが楽しみなだけよ。

 

 『作戦開始!Aチーム進撃せよ!』


 ――◇――


 【AWP兵士育成学園敷地内 第一訓練場 輸送艦内】

 18:00


 「……始まったか」

 サルファガムのコックピット内で待機していた俺は、正面モニターに映し出されている時間表示を見ていった。

 『始まりましたね。マスター』

 「ああ。俺たちも作戦通り、チェックが完了次第移動を開始する。その旨をニアに伝えてくれ」

 『畏まりました。当機の作戦行動開始時間までまだ余裕があります。今のうちに仮眠をとられてはいかがでしょうか』

 「いや、それはやめておく。なによりこのスーツに袖を通している間は寝付けないんだ」

 

 俺はコックピット横の収納からコンソールを取り出し、中央モニターにファイルを展開して操作をし始める。

 映し出されているのは依然、RONAが調整した機体のあらゆるシステムファイル。

 スラスターの出力調整システムや動力循環システム。

 動力炉系統や関節部のエネルギー供給システムなどなど。

 あの数日の間に直したとは到底思えない。

 というよりか、人間業ではない。

 まぁ人間じゃないけどな。

 まさかここまで成長が早いとは想定していなかったな。

 これならもしかしたら……。

 

 『お取込み中失礼するよ。リーダー、艦のシステムチェックが終わったから、いつでも移動を開始できるよ』

 しばらく作業をしていたら、突如中央モニターの片隅に映像スクリーンが表示された。

 「わかった。さっそく発進してくれ」

 『了解。最初のほうの音と衝撃に注意してよ』

 「分かってるさ」

 『じゃ、操縦に戻るよ』

 

 ニアはそういって通信を終了した。

 すぐに俺はコックピット横の収納に入れておいた頭部デバイスを取り出して装着。

 機体と俺と同期させ、全作線情報をインストールする。

 正直、このデバイスにデータを入れておく必要はないのだが、保険ということで毎回入れている。

 ――のだが、正直個々のものとは規格からデータ形式まで違うのでいちいち直すのが面倒でもある。

 RONAに頼むという案もなくはなかったが、それをしてしまうと俺も同類になってしまう。

 だから俺は、自分でできることは極力自分でやることにしている。

 すべてのデータを入れ、形式を合わせたところでイヤープロテクター越し。

 コックピットの内壁と機体外装越しでもわずかに聞こえる起動が鳴り響き、軽い衝撃のあとに妙な浮遊感を味わった。

 ――動いたか。

 作戦開始から10分が経過したいま、俺たちは戦場となっている地域に向けて移動を開始した。

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