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EP03-06 作戦前日

――◇――


 【AWP兵士育成学園敷地内 第一訓練場 輸送艦内】

10月6日(水)

  19:00


 作戦決行日が決まったその日の夜。

 俺は輸送艦の中にある操縦室にやってきていた。

 当然、機体と彼女の状況を確認するために。


 「いや無理だよ。さすがに……ふぁあ。……間に合わない」

 今まで仮眠をとっていたニアが硬いプラスティック製の長椅子に寝そべったまま言った。

 おれは彼女を起こして聞いている。

 「どこが間に合わないんだ?」

 「動力関係と……腕周りの動力経由菅かな。あとは細かい部品交換」

 「――その箇所だとさすがに出撃は無理か……」

 それを聞いたニアが起き上がる。

 「馬鹿でしょ、下手したらリーダーもロナも死ぬんだよ?」

 「わかってる。それ以外の箇所は問題ないのか?」

 「あとは装甲付けて、武器も作らないと」

 「まだ、時間かかりそうだな」

 「そもそもだけどさぁ。どうやってヴェン……あー、こっちだと【ネプチューン】だっけ?あれを壊すの?」

 「わからん」

 俺は正直に答えた。

 「――え?うそでしょ?」

 「急造の武器であれの装甲を穿つのは難しいだろうな。よくて外殻を破壊できる程度だろうな」

 「じゃあどうするんの?」

 「おいおい、そのためにあれも一緒に降ろしたんだろ?」

 おれの言葉を聞いた瞬間、ニアの動きが止まった。

 まぁ技師からすれば無理もない反応だな。

 「――私を殺す気?」

 「冗談にしてもできんことを言うな。さすがにそこまでしない。すでに方法も考えてある」

 

 そう、方法は考えてある。 

 この先のことを見据えた方法を。

 

 「信用、するよ?」とニアは首の後ろをさすりながら言った。

 「ああ。俺は必ず成し遂げる。だから頼むぞ」

 「ああ、ああ!やってやろうじゃん!よし!作業再開だ!」


 ニアはすがすがしいほどの笑顔を俺に見せると格納庫に向けて歩いていく。

 だがわかっている。

 ニアの顔に生気がないことぐらい。

 顔色といいさっきの仮眠といい、おそらくここ数日休んでいないのだろう。

 ――悪いな。無茶をさせて。

 彼女の背から目をそらして足元を見る。

 さすがに一人でやるには……か。


 やがて彼女が格納庫とつながる扉の前まで行ったとき、まるでその後を追うようにひとりでに足が動いていた。

 ――お前の仕業なのか?いや、ああ、ありがとな。


 「ニア」

 「ん?どうした」

 「俺も手伝う。何からやればいい?」

 「いや、お前は……」

 「いいから、どこをやればいいか教えろ。リーダー命令だ」

 「――できれば戦闘に負担は大きいから休んでほしいんだけどな。いっても無駄な気がする」


 そういうとニアは近くの棚から黒を基調とした軟質性の手袋を取り出し、それを俺に向けて投げつけた。


 「せめてそれをつけて作業して。少しはあったかいはずだから」

 「お前はいいのか?」

 「私はいいよ。直接触れて直してやりたいんだ」

 「――そうか。ではやるか」

 

 ――◇――

【AWP本部施設内医療区画 長期入院患者棟 2F】

 10月10日(木)

 20:00


 作戦前夜、すべての準備を終えた私は一人真っ暗な廊下をゆったりと歩いて、ある病室へと向かっていた。

 右肩から手提げを下げ、両手で優しく包み込むように小さな白い花の束を持っている。

 ――といってもこの花は精巧に作られた造花だけどね。

 しばらく人気のない道を歩き彼女のいる、いや眠る部屋の前にたどり着いた。

 その行く手を阻む扉をスライドさせ、足を踏み入れた。

 

 「……来たよ。風香」

 個室の奥にあるベットにいたのは、約3週間前に意識が途絶えた風香だ。

 ナズ・レグルニアのくれた応急剤みたいなもののおかげで命に別状はないものの、彼女の意識は依然と戻ってきていない。

 細い右腕には点滴が繋げられ、口元には呼吸器。

 そして布団の下を這って全身に筋肉硬化を防ぐための振動装置がつなげられている。

 起きていた時の強さを微塵も感じさせない風香がそこにいる。

 ――異常はないみたいね。

 ベット脇のモニターに映し出された心拍数をみて少しホッとすると、私は早速持ってきた花を花瓶に入れ、逆側のベット脇の木製の台の上にそっと置いた。

 それから部屋の隅から丸椅子を持ってきて崩れるように座った。


 「久しぶりね。3週間ぶりかしら」

 誰も聞いていないのは承知で、私は続けた。

 「あれからいろいろなことが立て続けに起きたわ。私たちをここまでは運んだ機体とそのパイロットが味方になってさ。それが11年間倒せなかった【ジャイアント】を次々と倒してるんだよ。すごいよね」


 きっと今の私の声は風香にすら聞こえないほど小さいと思う。

 もちろんそれは彼女が起きていればの話だけどね。

 それでもたまに誰かに言いたくなる。

 強い自分を保つために……。


 たまに起きる自分がぐしゃぐしゃになりそうな感覚。

 泣き崩れたくなる自分と強くあろうとする自分。

 今の私を構成する二人の自分がけんかしておかしくなりそうになる時は、必ずだれに言うわけでもなくつぶやくことがある。

 ある時は家のベランダで。

 ある時はこうして前線から離れ、眠り続ける友人に向かって。

 それとたまに思うことがある。


 今の私ってなんのために戦ってるんだろうって。

 ――もちろん【マキナ】への復讐と大切な人を守るためって言うのは自覚してる。

 自覚……してる。

 だけどそれって、その方法で本当にあってるのか心配になる。

 倒しても倒しても来る【マキナ】とそのたびに失う仲間。

 レグや新塚さんの前だと顔に出さないけど、いつも自分の力不足を感じる。

 あんな銃で守れるのだろうか。

 こんな体で守れるのだろうかって……。

 前回も、前々回も、そのもっと前も!

 私は結局誰かを守ろうとして結局最後は守られてしまった……。

 新塚さんに、彩芽に、風香に。

 ――ナズ・レグルニアとサルファガムに。

 苦しい。悔しい。

 自分があまりにも弱いことに。

 無力だということが……。 

 

 「――明日、第二次大規模攻撃作戦が行われるんだ。もちろん私も参加する。今後の戦況を揺るがすかもしれない重要な作戦なんだって」


 言わなくちゃ。 

 自分の役目を見失わないために……。


 「だから行ってくるわ。壊して、壊して、壊して、壊して、それで風香が目覚めたときに少しでもいい世の中になっているようにするわ。だからここで待ってて。私はここに帰ってくるから。【マキナ】の残骸でできた道を歩いて戻ってくるから」

 

 そういって眠る彼女の右手をそっと包み強く握った。

 

 けど、果たしてこの作戦は成功するのだろうか。

 【ネプチューン】は破壊できるのだろうか。

 ――私は生きて帰ってこれるだろうか。

 

 もしかしたら失敗するかもしれない。

 もしかしたら破壊できないかもしれない。

 もしかしたら……。

 ああ、この戦いが早く終わってほしい。

 そしてその結果が知りたい。

 私たちの覚悟や命に意味があったのかを。


 ――いや違う。

 いまさら私は弱音を吐いてるんだ。

 生きて帰ってこれるかじゃない。

 あいつらを壊してくるんだ。 

 【アニマル】だろうが専門外の【ヒューマン】だろうが、私は私の意思であいつらを破壊すればいい。

 一体でも多く。

 この体がある限り。

 そうすれば大切な人々は守れる、自分を保てるから……!


 自問自答を繰り返し、私は私の意思を固める。

 ゆっくりと手を離し、立ち上がって距離をとって敬礼をする。

 ねぎらいの意を込めて。

 お疲れさまという代わりに……。

 

 「じゃあ、行ってくるわ」


 そう言って私は足早に部屋を、患者棟を、医療区画を後にした。



――◇――


 【AWP兵士育成学園敷地内 第一訓練場 輸送艦内】

10月7日(木)

23:15


 「これで良しっと」


 コックピット内で最終的なシステムチェックを済ませたニアが、それはをシャットダウンしながら言った。

 そして俺は胸部のハッチの近くにもたれかかりながら彼女の作業を見守っていた。


 「お疲れ様ニア」

 「ありがとさん。いやー、武器も機体も間に合ってよかったよ」

 「さすがだな。まさかシステム系統の調節まで終わらせるとは思ってなかった。そのあたりは移動中に俺がやろうと思ってたレベルだしな」

 「そんなことはないさ。ほとんどロナがやってたし」

 「ロナが?そうなのか?」

 

 俺はそういってコックピット内部に入った。

 するとひとりでに胸部奥にある機構が作動し、黒一色だったモニターに明かりが点いた。


 『お呼びでしょうか?』

 「システム系統の調節をやったと聞いたのだが、本当にやったのか?」

 『はい。僭越ながらシステム系統を一新させていただきました。おそらく以前よりも出力制御がやりやすくなっていると思います』

 「それは楽しみだな。いろいろと準備はできたのか?」

 『はい。私の準備は万全です。機体のほうも完璧な状態なので、私にできることはこれ以上はありません』

 「そうか。――明日は頼むぞ。ロナ」

 『こちらこそ。よろしくお願いいたします』

 

 一通りのチェックや打ち合わせを済ませた俺たちは格納庫を後にした。

 時刻は0:50

 さすがにこれ以上は身体がダメだというように重くなってきたので、俺たちは早々に自室に戻って寝ることにした。

 

 「じゃあまた、明日な」

 「うん。また明日」


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