EP03-05 コードネーム
――◇――
【AWP兵士育成学園 第一訓練場近郊 大型輸送艦内部】
2059年 10月8日(水) 0:03
薄暗い格納庫には硬いものが何度も当たる音と換気システムの駆動音。
そしてそこにいる唯一の人の呼吸音が響いていた。
機体は灰色の装甲が外され、起動時に黄色く発光していた装甲やブースターは純粋な黒色になっている。
両腕や胴体もばらばらに解体されており、はたから見れば見るも無残な姿と化していた。
だがそんな機体の肩の隙間からいきなり一人の薄着な少女が姿を現し、銀色のポニーテールと身体を揺らしながら隣の部屋に移動した。
「ああ~!疲れたぁ」
『お疲れ様です、ニア様』
「うん、ありがと」
すごい達成感を感じつつ長椅子に寝そべった私にロナちゃんがそう言ってくれた。
でも、その言葉をもらうのはちょっと早いかな。
まだサルファガムの修理は終わってない。
たぶん終わるまでぶっ通しでやればどうにか2,3日で終わるかなぁ。
いまはそんなレベル。
でも私はそれでいいけど身体がなぁ、持たなさそうなんだよなぁ……。
「はは、機体だけじゃなくて私もボロボロになってんじゃん」
気が付いたら冷え切っていた身体をさすりながら上着を羽織り、腰回りにつけている道具一式を外して隣に置く。
「あれ?ねぇロナちゃん。今って何時?」
『いまは10月9日の0時5分です』
「うわ。日越えちゃったのかぁ……通りで寒いしおなか空いたわけだよ」
たしか作業始めたのが……朝の8時とかだったはずだから……うわ、16時間休憩なしでやってたんだ私。
我ながらとんでもないなあ。
ちょっと笑っちゃう。
「はは、なにか……すぐに食べれそうなものあったかなぁ……」
立ち上がってその部屋を出て、厨房区画で何か食べることにした。
たしか食材とかはリーダーが買ってきてくれたらしいけど……即席のものあるかなぁ。
人の気配を一切感じない静かな艦内。
最低限、足元の照明が点いているだけの廊下。
あ、あとでお風呂も入らないと……。
階段を下りて、突き当りのにある厨房区画についた私は、その扉をスライドさせて中に入る。
すると真っ暗なはずの厨房には明かりがともっていて、なんだかとってもいい香りがする。
先客がいたみたいだけど……だれ?
物音のする調理場に音を立てないように近づき、そっとのぞいてみると先客はやっぱりそこにいた。
「……何やってんの?」
「なにって夜食作ってるんだよ。さっき戻ってきたばかりだからな。ニアも食うだろ?」
「――ええ。もう空腹で倒れそう」
そういってゆっくりとほほ笑む。
「なら早く来いって。冷めちまうぞ?」
「わかってるよ」
彼が作っていたのは「ヤキソバ」っていう料理で、おなかすいているのもあってすごくおいしかった。
それにこっちに来てから食べた麺料理の中で一番好きな料理になった。
――て、いってもカップラーメンとかカップうどんとか、あとカップそばしか食べてないんだけどね。
忙しかったから。
また……頼んだら作ってくれるかな。
「ごちそうさま、ありがとね」
それから30分後、私は彼とともに、彼〈先行者〉が持ち帰ってきたデータを解析してリーダーに提出した。
――◇The Hunting strategy◇――
2059年10月8日(水) 10:12
ナズ・レグルニアへの観光案内と家探しをした翌日。
私たちは急遽作戦会議のために講堂に集めらてれた。
だけどその正確な内容は知らされていない。
空調の効いている講堂内には本・仮契約問わずに全契約者が集められ、会議が始まるのを今か今かと、他愛もない話をしながら待っていた。
「やれやれ、いきなりなにをする気なんだろうな」
私の後ろの席に座っているレグが身を乗り出してきた。
「さぁね、でもかなり大事なのは間違いなさそうね」」
「だな、前のほうには正規兵までいるし。これは相当やばいことしようとしてるな」
「例えば?」
「俺に聞くのかよ……。というか数日前に2班と契約したばっかりの俺が知るかよ。新塚さんは知ってる?」
「知らないよ?でもあのナズ・レグルニアって人が関係してそうじゃない?今日まだ見てないし」
私の隣に座る新塚さんはそういうと、「そういえば」と言って私を見つめてくる。
「ラーチさんは何か知ってることある?あの人のことで?」
「私?そうね……。まだあの機体【サルファガム】だったかしら。あれの状態が万全ではないことは知ってるわ。でも彼自身のことはさっぱりよ」
機体のことは昨日の夕方、輸送艦に帰り際に買った大量の食材を運ぶのを手伝ったときにニアさんが教えてくれた。
武器のことも。
「おい最初の話、マジ?」とレグが聞いてくる。
「ええ。前回の戦闘での消耗が激しいらしいの、それに武器も新造しないといけないとか言ってたわ」
「マジかよ……、もろくね?」
「確かにね」
確かに言われてみるともろいような気がする。
機体に使われている資材やその耐久性はわからないけど、1班の【パラディン】でも2回の出撃で動かなくなる……ということはない。
腕や足の負担を考慮しても、ね。
2回という数字は少しおかしい気がする。
「――始まるわ。前を見ましょ」
また疑問に思うことが増えたけど、今は目の前の作戦について考えることにしよう。
――そう、あいつらを破壊する作戦に。
――◇――
そうして緊急作戦会議が始まり、最初に壇上に上がったのは大宮指令だった。
『まずは突然の徴集に対し、迅速に集まってくれたことに礼を言う。ありがとう。――これより第二次大規模攻撃作戦の概要の説明を開始する』
その瞬間、生徒の大半が眉を顰めたり、前かがみになったりしていた。
――第二次大規模攻撃作戦
第一次が行われたのは約6年前で、結果は失敗で終わっていている。
その作戦はあまりにも犠牲としたものが多く、今後このような過ちを犯さないようにという警告の意を込めて教材にも書かれている。
まぁあくまで一個人の推測に過ぎないけど。
まさかこのタイミングで第二次を行うとはだれも考えていなかったんだと思う。
もちろん私も。
だけど私は体中が熱くなるのを感じた。
『今回の目的は新たに確認した【マキナ】の破壊だ。タイプは【アニマル】。そしてコードネームは……』
突如壇上のモニターが起動し、そこに文字と画像が表示された。
タイプ【アニマル】
コードネーム【ネプチューン】
映し出された画像は【OUL】を使ってかなりの高度から撮影したんだと思う海の画像で、月の光で海面が反射する中、よくみると海岸沿いにあきらかに巨大な建造物があるのがわかった。
画像の下のほうに映ってる廃墟と比べると明らかに大きさがおかしい。
それに見間違いじゃなければ前後に相当な長さがある。
講堂内のざわめきの中、徐々に不安の波が広がっている。
大宮指令は首の後ろをさすってからそれの説明を始めた。
『モニターに書いてある通りこの巨大な【マキナ】のコードネームは【ネプチューン】。先日ナズ・レグルニアの協力者が見つけ出し我々はその情報を受け取った。彼ら曰、【ネプチューン】はタイプ【ヒューマン】や【アニマル】、そして【ジャイアント】を運ぶ、いわば大型輸送戦艦のような役割をもつそうだ。これを放っておく限りやつらの数はいつまで経っても減らせないらしい。よって我々は彼らと協力しこれを破壊する』
「輸送戦艦……ね」
今の情報をもとに考えると、全長約20メートルといわれている【ジャイアント】を輸送することができるから……たぶん50メートルは超えていると思う。
それに全長は……考えたくなくなるほど巨大だわ。
そんなものにどうやって挑むというのかしら。
さすがに第一次の時のような無謀なことはしないだろうと思いつつ、唇を結ぶ。
『作戦はα部隊、β部隊に分かれて行う。α部隊は1、2、3、そして5班によって編成する【ヒューマン】【アニマル】の誘導部隊だ。そしてβ部隊は当作戦の攻撃部隊。あの機体サルファガムはβ部隊での出撃となり、【ネプチューン】の破壊を任せることになっている』
「なるほどね。でもサルファガムでその【ネプチューン】は破壊できるのかしら」
「わからないな。でもあいつらに託すしかないんじゃないか?」
独り言を言ったつもりだったけど、レグがそう答えてきた。
「そうね」
確かにレグの言う通り、ナズとサルファガムに託すしか道はないかもしれない。
いや、託すしかない。
けどあの機体は――。
『作戦詳細は現時刻を持って配信開始とする。各自自身の端末にダウンロードして確認すること。最後に質問がある者はいないか?』
その問いに、真っ先に挙手をした人物がいた。
スタッフがその人物の元まで歩み寄りと手持ちマイクを手渡す。
そして挙手をした人物は立ち上がり、吐き捨てるように、こぶしをふるいながら言い始めた。
その様子は壇上のモニターに映し出された。
「私はブバルディア所属1班正規兵、デルガルド・グレッガーマンである。あやつは本当に信じていいのか!!そのあたりはどうお考えなのかを指令にお聞きしたい!」
グレッガーマン大佐のいうことは正確に、ここにいる多くの生徒に疑念を抱かせたと思う。
――私も最初はナズ・レグルニアのことは信用できなかった。
あの機体も、いまの時代で作れる代物じゃないことはわかっている。
それなのに指令は、上層部は彼と協力体制に入った。
なんの障害もなしに。
彼らの情報が圧倒的なほど乏しいのに。
実際のところ、指令はどう思っているのだろう……。
わずかに身を乗り出して知れの言葉に耳を傾ける。
『私個人としては彼、ナズ・レグルニアのことは信用している。彼が参戦してからの戦闘を思い出してほしい。もし我々だけだったらどうなっていた?私の予想だとエリアGは焦土となりここら一帯の最終防衛ラインを放棄していはずだ。もしも彼が敵のスパイだったらどうだ?機体をボロボロにしてまで味方と戦うか?【マキナ】の輸送戦艦である【ネプチューン】の存在と所在をこうして我々に提供するか?そのあたりのことを踏まえた上えどうですかな?グレッガーマン大佐』
「それすらも罠である可能性が高いでしょう!いままでのものはすべてデモンストレーション!真なる攻撃はあやつの反乱から始まるとは考えないのですか!」
指令の冷静な対応に対し、グレッガーマン大佐はボリュームを上げて反論した。
『始まるというならなぜ敵地のど真ん中に満足に動かないサルファガムを置くのだ?なぜ輸送艦を第一訓練場に置き我々に随時監視することを提案した?矛盾しているのではないかね?』
「……指令の意見は大変参考になりました。ですが私は絶対に信用しません。やつは敵だ!そして反旗を翻される前に始末するべきだ!以上!」
何度か口を開閉させてため息をついてから、大佐はマイクを返して乱暴に座った。
会場内がまた別の意味で騒がしくなっていく。
どうやら大佐の発言で、ナズ・レグルニアの立ち位置のことで意見が二分したみたいね。
「ラーチさんはどう思ってるんだ?ナズ・レグルニアのこと」とその流れに乗ってレグが平然とした顔で聞いてきた。
「私は一応味方だと思ってるわ。あなたは?」
「俺は当然味方派だぜ。あいつ以上に信頼できるやつはいねーよ」
「どういう意味?」
「ほとんど指令の言った通りだよ。あいつは自分の立場を示すために基地内に機体を置いている。しかも監視までさせてな」
「でもそれだけで断言はできないんじゃないの?」
「あとは想像に任せるわ。それよりも新塚さんはどっち派?」
「わ、私?私は――ごめんなさい。ちょっと疑ってる」
そういって新塚さんは制服のスカートの裾をぎゅっと握った。
「い、一個人の意見だし謝ることはないとおもうぜ。正確なところは奴だけが知ってるさ」
「そう、だね」
新塚さんはゆっくりとほほ笑んで言った。
そして「それに」と言って続けた。
「それにさ、もしかしたらそのあたりのこともこの作戦で証明できるんじゃないかなーって思ってるんだ」
「確かに……。じゃああいつが本当に信用してほしかったら、この作戦を何が何でも成功させるってわけか。なら、信じる俺らも頑張らないとな!」
「そうね。頑張りましょう」
そう、頑張ろう。
目を見開き、行動の天井を見上げる。
この奥に住む人々を守るために……。
一体でも多く破壊するために。
それからも何度もざわめき話があまり進まなかったけど、1時間以上かけてどうにかすべての説明をした指令は解散の合図を出した。
そしてこの数時間後、作戦概要が全生徒に転送された。
――作戦決行日がわかった。
10月10日(金) 18:00
作戦名:The Hunting strategy
今回から若干描写を追加していきます!
順を追って過去話も追加していきますのでよろしくお願いします!




