EP03-04 原初のエリア
【あとがきにお知らせがあります】
【AWP前】駅改札付近
私は珍しく外出用の私服を着て近くにある柱にもたれかかって彼らを待っていた。
私服といっても女の子が着るようなひらひらしたものでも女性が着るような音地歌服とかじゃない。
ダークブルーに近いスキニーパンツとやや厚底のブーツ。
少し厚めの黒っぽいジャケットの中に赤いラインの入ったシャツを着るといった、動きやすさを重視した格好で来た。
――のはいいんだけど……。
「ダメだよラーチさん!ラーチさんはもっとかわいい服を着るべきだよ!」
「いや、いざって時に動きにくかったら……」
「そ・れ・で・も!素材はいいんだから生かさないと!」
――という感じでついてから今に至るまで、ずっと新塚さんの主張を聞いているの。
ちなみにそんな新塚さんの服は部分的に花のアクセサリーとかが付いたガーリッシュものに近いもので、髪もそれに合わせるように巻いている、どこかふわふわとした感じの恰好だ。
「ラーチさん聞いてる?」
「え、ええ。でも私はいいわよ。そういうのに合わないだろうし」
「絶対似合うって!!だって――」
「何が似合うんだ?」
「ひゃぁ!?」
突然真後ろから会話に入ってきた低めの声に、これから何かを熱弁しようとしていた新塚さんは飛び跳ねるような勢いで驚いて振り向いた。
それからは案の定というか、結構な速さで私の隣まで移動してきた。
「な、ななな!?なんであなたがここにいるんですか!?」
「何をそんなに驚いている」
「いや、驚くよ?音もなく後ろに立たれると驚くって」
「そうか。それは悪いことをしたな。――でだ、こいつは?」
彼は私に視点を移してそういった。
「私だけじゃ案内は務まらないと思って呼んだの。新塚有栖さんよ」
「そうか。よろしく頼む」
「え?こ、こちらこそ……です」
――◇――
あれからモノレールに乗って民間エリアにやってきた私たちは、ひとまず【第二商業区サカエ】にやってきた。
ここは駅名に商業区とつく通り大小さまざまな商業施設立ち並び、それらはすべて連絡通路でつながっている別名迷宮エリアとも呼ばれている場所。
大体のものはここで買うことができるという点から、休日になると人であふれる……とはいかないまでも、家族や恋人でにぎわうエリアの一つだ。
民間エリアの中でもそこそこ上位に位置するデートスポットだったりする。
――一応ここは観光スポットであるので来てみただけ。
だけなんだけど――。
「せっかくだし、私がお二人の服を選んであげます!」
新塚さん、ほんとはこっちが目的だったんじゃないの?と聞きたくなるほど主張してくる。
「いやだから新塚さん、私はこのままでいいわよ。もともと私服はあまり着ないほうだから」
「でも持っておく分にはいいじゃん。いざって時があるかもよ?」
「いざ……ね。それよりも、あなたの格好のほうをどうにかしないといけないわ」
「――?何か問題でもあるのか?」
「当然よ。まさかそのベストの下に制服のまま来るとは思わなかったわ」
そう、彼は今AWPの学生服を着て、その上から薄手の黒のコートを着ているという至極目立つ格好にでいるのだ。
もともと銀色の髪のせいで目立っているのに学生服まで着ているのでとにかく目立ってしょうがない。
さっきからすれ違う人のほとんどが二度見してるし……。
それが伝わったのか、新塚さんはターゲットを私から彼に移して語りだした。
「えっと、ナズさん!――でいいのかな。服を買いに行きませんか?」
「いいぞ」
即答だった。
「あいにく俺もそれらしい服を持ち合わせていないのでな。あると助かる」
「――持ってなかったの?」
「もともとそういう類とは縁のない環境にいたからな。こっちで暮らす以上は必要になってくるだろう。そのためにほしい。ただ俺は誰かが同行する場合だけこっちに来れるからな。せっかくの機会だ、案内を頼んでいいか?」
「任せてください!では早速行きましょう!」
ようやく選ぶことができるのがうれしいのかな。新津さんはぐいぐいと彼の腕を引いて歩いていく。
私もそれを追いかけるように、というよりもはぐれないように二人の後に続いて歩きだした。
あれからだいたい1時間ぐらい経ち、結局一着買った私は遠巻きに服のことであれこれ話している二人を眺めていた。
――どんな服を買ったかって?内緒よ。ただ早々着ることはなさそうとだけ言っておくわ。
私はおもむろに近くにあった手すりにもたれかかりながらスマートフォンを取り出すと、もう数年の付き合いになるある人に電話を掛けた。
『はい、こちら足立物件です』
「あ、足立さん、アインです」
『おーアインさんか。前言ってたことだな?』
「はい。どうですか?」
『片手に数えれる程度しかないけど見つかったよ。どうする?』
「後で伺います。詳しいときはその時に」
『あいよ。じゃあ茶菓子用意して待ってるよ』
「はい。では失礼します」
そう言って通話を終えた私は、足元に置いてある白い紙袋を持って彼女たちの元まで歩き始める。
ちなみにさっきの足立さんは私の住むアパートを紹介してくれた物件業者の人で、大宮指令と同級生。――らしい。
二人の入っていった店の前まで行くと、ちょうど彼女たちはそれぞれ紙袋を持って出てきたところだった。
「待たせたな」
「いい服は買えたの?」
「ばっちりですよ!彼にぴったりのものを選びましたから」
「そう。そろそろ次のところに行かない?ずっとここにいてもあれだと思うし」
「えー。私はずっとここでもいいと思うよ?」
「目的はエリアの観光であってショッピングじゃないんだけど……」
「――ま、また今度来ればいっか。それで次はどこに行く?――ってあそこだよね」
「観光といえばあそこは外せないしね」
「だね。さっそく向かおっか」
「待て、あそことはどこなんだ?」
話についていけない様子で私たちの会話を聞いていた彼はわずかに眉を寄せた困惑顔で聞いてきた。
「ついてこれば分かるわ。ただ、私たちのいまがあるのはその人たちのおかげで、それはそのことに関するもの――とだけ言っておくわ」
「そうか……」
――◇――
【民間都市ナゴヤ 最南部】
私がいつも使う液で降りた私たちは、街のにぎやかな音を聞きながら大通りを歩いている。
左右には【サカエ】とは別の商業施設が展開していて、道の中央に近いところには対向車線の道路がある。
この場所にいる人々は若者が多く、その平均年齢はたぶん20歳ぐらいだったと思う。
「ここは何なんだ?」
「ここはブバルディアが作った若者による商業エリアよ。【サカエ】に店を持つ人の大半はここから出発した人たちばかりなの」
それから私は続けて言った。
「このあたり一帯はもともと10年前に最も被害の大きかった場所でね。【マキナ】が去ってから最初にブバルディアが旗印を上げた場所でもあるの。そこからとってつけられた区域名が【原初のエリア】。学園を去ったあとの大半の生徒はここで就職するか、正規兵となって戦うかの二択から選ぶの」
だけどそれだけで【原初のエリア】なんて名前が付くわけじゃない。
その答えはこの通りの先にあるのだから。
それから大通りを他愛もない話を師ながら歩いていくと、10分ぐらいで目的地にたどり着いた。
「ついたわ。ここにいる人たちがいたおかげで今の私たちがあるの」
そう言って私は久々にやってきたこの地に足を踏み入れた。
白い砂利が敷き詰められた幅の広く、まっすぐと伸びる道。
その脇には満開の時期になるときれいなピンク色の花を咲かせる桜の木。
そして最奥正面には龍の彫刻が巻き付く全長10メートル、底辺各4メートルの光沢のある黒一色の四角柱がある。
私たちはその碑の前まで歩いていき、私は彼の正面に立って言った。
この場所は【龍兵の丘】と呼ばれる場所であり、
「ここには10年前の戦闘の時、【マキナ】が撤退するまで戦抜いた人、そしてその時なくなった人を弔うために作られた場所なの。命の終わりとともに芽生えた希望の機関【ブバルディア】終わりと始まりの交差する場所なの」
「慰霊碑……か」
「同時に宣言碑でもあるわ。再びあの頃の平和な世界を取り戻す。っていうね」
それから新塚さんが私に続いて言う。
「ラーチさんも、私も知ってほしかったんです。あなたにこの国のことを。それからここからは私の願いです。ナズ・レグルニアさん。どうか私たちとともに、最後まで戦ってください。いつか来る平和な日々を手に入れるまで」
その眼にはわずかながら水膜があった。
きっと新塚さんはだれか、大切な人のことでも思い出しているのだろう。
いま私が亡き家族のことを思い出しているように。亡き友人のことを思い出しているように。
頬を撫でるような風が吹き、髪が、服が、木々が揺れる。
そして数秒の間があったのち、彼はそっと目を閉じ、私たちの間を通ってその碑に手を添える。
そして目を開け、上で南をにらむ龍を見つめる。
「……宣言碑か。悪くないな」
そして彼は振り向いた。
「すでに決めていたことだが、改めて俺も宣言しよう。この地で。俺はこの手でこの無意味な戦い、いや、略奪を終わらせる。そのために来て、そのために機体を作った。約束しよう。おれがその平穏な日々への架け橋になってやる」
そう言って彼は笑みを浮かべた。
そして私も。
「そう。じゃあ私はあなたに住まいへの架け橋になってあげるわ」
「ほう、これは一本取られたな」
「まぁ雰囲気は台無しにしたけどね。それにしても新塚さん、よくあんな恥ずかしいことをこんな場所でいったわね」
「へ?ラーチさんそういう目的でここに来たんでしょ?」
「そんなわけないじゃない。ただ案内したかったでけよ。そもそもこの街に観光名所なんてほとんどないでしょ?」
「まぁ……ね?」
実はそうなの。
観光案内をするとは言ったものの、私が知らなかっただけで実際この街には名所と呼べる場所なんてほとんどない。
あっても今日行った【サカエ】とこの【原初のエリア】ぐらい。
そのほかは大体店になってしまう。
だから今日はこの二つだけにしようと昨日の夜、新塚さんと話し合って決めたのだ。
――ただ新塚さんがあんなこと言うとは思ってなかったし、自自分でいうことすら考えてなかった。
私はただ見てほしかっただけだし。
そう思いつつ、私はおもむろにスマートフォンを取り出して時間を確認する。
PM1:50
ちょうどいい時間だ。
「さてと、じゃあそろそろ次の目的でも達しに行きましょうか」
「目的?」
新塚さんは首をかしげていった。
「ほら、昨日のより言ったじゃない。彼の部屋探しよ」
「ああ~そういえば言ってたね。――待って?それって足立さんのところに行くんだよね?」
「ええ」
「あ、ああ、ああ……」
彼女は引きつったような顔で声を出すと、回れ右。
それから首をひねってこっちを見ると。
「ごめん!急用思い出したから先に帰るね!ほんとごめんね!」
「え?あちょっと……ってよく考えてみると苦手だったわね」
「おい、追いかけなくていいのか?」
「いいよ。一応聞くけどあなたは大丈夫よね?」
「なんのことだか分らんし、仮に何かあったとしてもどうにかなる」
「その言葉、忘れないでよ?」
「なんだかかよくわからんが……行くんじゃないのか?」
「――そうね。じゃあ行きましょうか」
私たちはその碑の前を立ち去り、先ほどの大通りに向けて歩き出した。
まるでここから何かが始まる――みたいな感じがするけどそれは気のせい。
私の戦いはその碑のできる前から始まってるし、いまさら原点に戻って一からやり直すことなんて考えてないのだから……。
◇
「全く、こんなところまで劣化してるし……。使い方あらすぎだってもう……」
私はあおむけの状態でコンテナ内に置かれている【サルファガム】の関節をばらしてパーツ交換しながら文句を誰に言うわけでもなくつぶやいた。
『もうしわけありません。私がシステム管理に慣れてないばかりに』
「ロナが気にすることじゃないって。それよりも使い心地はどう?快適?」
私は左耳につけた小型デバイス越しに聞こえる彼女の声と会話しながら作業を続けた。
『はい。いままでのものよりは劣りますが、それでも快適に過ごせています』
「それはよかった。バグとかはあった?」
『破損データも異常データもありません。ただ少し、先日の調査で気になる点が一つありました』
「そっか。じゃああとでそのことについてリーダーにおくってやりな。きっと泣いて喜ぶよ」
『わかりました。ではのちほどニア様の伝言ということで送っておきます』
「ははは、それは勘弁」
笑いながら、彼女と話しながら修理をするのは意外と好き。
最近ロナの会話もスムーズになってきた気がするし、今後に期待ができそうだなぁ……。
「ってここ全パーツ交換じゃねーか。予備あったっけなぁ……」
いつも当作品を読んでくださりありがとうございます。
なんだかんだあって久々の投稿となってしまいました。
さて、今回は改稿についてです。
2月1日6:00に、これまで投稿した計16話のうち、可能な限り改稿版と現在のものを差し替えたいと思います。
最初に言いますが、大筋としてのストーリーに変更はありません。
シーンの削除や修正、文章変更等がメインです。
より良い作品を皆様に読んでいただくための処置です。
ご理解のほどよろしくお願いいたします。
――以上――




