EP03-03 箱
AWP育成学園内
「失礼しました」
私は休んでいた二週間の間の授業資料を片手に職員室を後にし、教室に向けて歩き出した。
あれから2日が経ち、私たち生徒はいつも通りに授業を受けている。
とはいっても最近は人手不足もあって教育担当のほうにも後始末に参加するように通達があり今日大半の授業が自習になっている。
――なっているのだけど……。
教室の前につき、ドアを開けると中から聞き覚えのない女の人の怒声が飛んできた。
「やりすぎだって言ってるでしょ!!」
誰なんだろう。
少し高めで覇気のある声。
私はその声の持ち主を確認するため、というか自分の席に戻るために中に入り、階段を上がっていく。
するとさっきの声の持ち主は私の席の前で、今日クラスに来たばかりのナズ・レグルニアともめているところみたいだ。
当然というべきか、その周りにはクラスメイトがたむろしてそのもめ事を傍観している。
「ごめんなさい。ちょっと通して……」
そう言いながら、私の席のところでのもめ事に耳を傾けてみる。
「なんであんなになるまで動かしたのさ!関節なんて全交換だし、回路だってすごいことになってるし!」
「だから何度も降りる前に言っただろ。地上だと消耗が激しくなるからなって。忘れたのか?」
「激しすぎるんだよ!想像以上に!これ以上ないほどに!それに身体のことも関係なしに動かして!もしも何かあったときはどうしようと思ってたのさ!」
「その時は身体を休ませる」
「軽く言いすぎ!ちょっとは加減とか考えようよ!」
「わかったわかった。今度からは……ってようやく戻ってきたか」
私たちと同じ白を基調色とした制服に身を包み、足を組んで私の席に座っている彼が、まるで最初から私が戻ってくるのを待っていたかのような言い方で最前列に来た私にそう言った。
そんな彼の正面、つまり今私の立つこの階段の先にはここの制服ではなく、ダークグリーンの上下一体型の作業着に身を包み、その下に黒のノンスリーブシャツのみを着た少女が両腕を腰に当てて立っていた。
髪と眉は彼と同じ白銀で腰あたりまであるポニーテール。目じりが少しだけ上がった大きい目の虹彩はイエロー。いや、金色?とにかくそれっぽい色。
少し丸めの顔のせいもあって子供っぽいけど身長は私よりも少し高い。
ダークグリーンの作業着の前は全部空いていて、黒いシャツの下から覗く少し深い谷間と引き締まったおなか。そしてすこしだけ見えてしまっているの下着。
間違いなく彼の関係者で、ここの生徒じゃないの。
「ん?この子誰?」とその人は私を見ていった。
「RONAから教えられなかったか?降りたときに助けた兵士だよ」
「ああ~、めっちゃ勇敢に戦ってたっていうあの子か」
そういうとその人は私の前まで降りてきて右手を出してきた。
「え~と……。ニアだよ。よろしく」
なんで一瞬悩んだんだろうか。
「……アインリット・ラーチです。よろしくお願いします」
そういってその手を握る。
「こいつは俺の仲間で機械全般の製造修復を担当してるんだ」
「じゃああの機体も?」
彼は無言でうなずく。
その瞬間クラス中が騒がしくなるけど私は気にせず質問した。
「それは驚いたけどさっきの喧嘩は何?機体がどうとか言ってたけど」
「大した話じゃない。機体の損傷が想像よりもひどくてこいつが怒っただけだ」
「大したことじゃないってなにさ!直すの私だし、リーダーに追加で頼まれた武器作るのも私なんだよ?それにその間あれを使えないことぐらいわかってるよね?」
「わかっているさ。そのために持ってきたんだろうが」
「そうだけどさ……」
「待って、持ってきたってなにを?」と私はここで会話に割り込んだ。
さすがにあの期待が使えない代わりに持ってきたものとなると確かめずにはいられない。
――というか、私とあと数人を除いてクラスメイトの大半が【ジャイアント】が来たら終わりだとか騒いでるし。
だけどその質問に答えたのは彼でも、ニアさんでもなく……。
「ラーチさん知らないの?いま第一訓練場にあるもののこと」
そう言ったのはレグだった。
そういえば職員室で教師がなにか騒いでたような……。
「なにかあるの?」
「あるよ。私が乗ってきたやつがね」とニアが言い、人込みをかき分けながら前のドアに向かって歩き始める。
それに続くようにナズ・レグルニアも立ち上がって扉に向かい始めた。
「アインリット、ついてこい。話がある」
「え?ちょっと……。はぁ、じゃあ少し行ってくるわ」
そう私はレグに言い残し、彼らを追いかけるように足早に教室を出ていった。
――◇――
【第一訓練場】
「これって……移動用の乗り物ってことでいいの?」
ナズ・レグルニアを追いかけるようにやってきた私は、さっそくそこにあるものに圧倒された。
「まぁ大体はあってるよ。だけど本来はサルファガムみたいな兵器の中型輸送艦なんだよ」
「輸送艦……じゃあ飛ぶんですね?」
「うん、飛ぶよ」
そこにあったのはあの機体、サルファガム用の輸送艦らしい。
艦の前方は少し複雑な形をしているのに対し後方はコンテナと思われる巨大な立方体乾電池を並列でつけるみたいにはめ込まれているような作り。
最後尾にはサルファガムと似たような作りの推進装置がつけられているグレーを基調職としたもの。
全長はたぶん50メートルぐらいあると思うそれの横には立膝絵をついたまま放置されているあの機体、要所要所の破損が見られるサルファガムがあった。
「おい、突っ立ってないで早くニアについていけ。できるだけ早く決めたいことだからな」
「ニアさんに……ってあなたは?」
「俺はあれを中に入れる。じゃないと修復もできないからな」
「――わかった」
そう言って私は先を行くニアさんの背中を追って輸送艦に近づいていった。
輸送艦の中は適度な気温設定がされていてとても快適だ。
二人並んでぎりぎり歩けない通路の壁は白を基調色として紺色のラインが道に沿って伸びている。
歩いた通路の途中には別の通路との分岐や扉があったけどニアさんはそれらには目もくれず、最終的には未知の終点である場所にある扉を開けて私を招き入れた。
「ここはまぁ一言でいえば操縦室だね。だけどこのすぐ後ろにあの格納庫があるから、実質待機スペースみたいなものだね。ちょっと待ってて」
ニアさんはそういうとみても何が何だかさっぱりわからない操縦席に座るとナズ・レグルニアがつけていたものと色違いの頭部デバイスをつけて目の前にあるパネルを使って何かの操作をし始めた。
「あーあー、聞こえる?――わかった。じゃあ開けるよ」
その数秒後にガコンという音と衝撃とともに何かが動き出すような音が鳴り始める。
そして抱いたい1、2分後にその音はやみ、軽い振動が数回続いたと思うと、さっきと同じ順番で何かが動き始め、やがてその音は止んでニアがデバイスを外して立ち上がった。
「っとと」
なぜか何もないところで転びそうになった。
「大丈夫ですか?」
「うん大丈夫。ちょっと躓いただけだから」
「なんだ。まだ慣れてなかったのか?」と、いままで壁だと思ってた操縦席の後ろにあった壁がスライドして開き、奥にあった広々とした空間とつながってナズが向こう側から現れた。
「いいじゃん。来てから数時間しか経ってないんだし」
「5分で慣れろ」
「無理だって!鍛えて戦うリーダーならまだいいけど、常に機械いじって船動かしてる私にとってはいろいろ慣れてないんだって。それにちょっと重いし」
「――ま、技師のお前にはいらん心配だったな。それよりもできるだけ早く頼むぞ?」
「わかってるよ。ただでさえ忙しいのに機体修復なんてさせるとか、せめてもうちょっと技師増やしてよ……」
ニアさんはそうぶつぶつと不満を言いつつも、ゆっくりと向こう側に向かって歩いて行った。
そして、それと入れ替わるように私のもとに彼がやってきた。
「待たせて悪かったな。じゃあ依頼についての話をするか」
「ええ。でも私に何をさせる気なのかしら?」
それが一番問題だ。
全く想像ができない。
機体に乗れってわけじゃないだろうし、機体と一緒に戦場で戦えというのもばかげていてないと思う。監視役なら本部の人のほうがいいだろうし、言語とかの問題でもなさそうだし……。
私はつばを飲み込み、どんな言葉が飛んできてもいいように心の中で身構える。
「頼みたいことというのはほかでもない。民間エリアでの俺の居住空間の用意、観光の手伝いをしてほしい」
「……は?」
居住空間探しと観光?
何を言ってるんだろうか。
「一応聞くけど……居住空間探しと観光ってことよね?」
「ああ。資金のことなら心配しなくていい」
「そうじゃない。どうして居住区を探すのよ。それに今まではどうしてたわけ?」
「いままではここの司令施設にある客間のような場所を借りていた。
だがはやり監視の目が合って落ち着かん。せめて休む場所ぐらい用意したくてな」
「はぁ……。ちなみに司令官に相談とかしたの?」
「その結果お前に頼むということになったんだが……何も聞いていないのか?」
なんだか大宮指令にはいいように使われてる気がする……。まぁ今に始まったことじゃないけど。
だけど逆に考えると指令の許可があるということはあとはある程度自由に行動できるということ。
そういうこなら……。
というかこれ何回繰り返す気なのよ……。
「わかったわ。部屋決めと観光。引き受けてあげる」
「助かる。時間帯はどうする?」
「今日が火曜日で、明日が臨時休校になったから……明日の10時頃でどう?」
「俺はいつでも構わん。どうせサルファガムが治らんことには戦えんからな。場所はどこだ?」
「そうね……ここから一番近い駅の【AWP学園前】っていう名前のモノレールの駅の前でどう?」
「わかった。明日の午前10時頃に駅前だな?」
「ええ。――ところであなたの戸籍データってどうなってるの?部屋用意するなら必要になるけど」
「そのあたりは大宮が用意してくれるそうだ」
「そ、そう……。まぁそれはいいわ。話はこれで終わり?そうなら私は教室の戻るけど……」
「わかった。明日はよろしく頼むぞ」
「――ええ」
それだけ言い残し、私は輸送艦を後にした。
教室のある棟に入り、考え事をしながら階段を上がっていく。
「どうしよう……」
正直、観光案内を頼まれたけど私自身も詳しくは知らない。
というか観光なんて私すらろくにしたことがない。
どこを案内すればいいんだろう……。
いや、名前だけ知ってるものなら少しだけある。
『つぼみの塔』
『ニューシティモール』
『弔いの庭』
『新名古屋駅』
まぁこれだけだけど。
ネットで調べてもいいんだけど……どういう場所に行けばいいんだろう。
「――あれ、ラーチさん?」
「ん?」
声の聞こえた後ろを振り返ると、教室から顔だけをのぞかせている新塚さんがいた。
どうやらいつの間にか教室を通り過ぎていたらしい。
Uターンして新塚さんの元まで歩いていき、「ごめんなさい。ぼうっとしてたわ」という。
「何か悩み事?」
「ええまぁ、そんなに大したことじゃないんだけどね」
「どんな事なの?」
「――新塚さん、民間都市ナゴヤの観光ってしたことある?」
「あるっていうか……休みの日は友達と遊びに行ったりするからお店とかには詳しいぐらいかな。それがどうかした?」
「……」
私はじっと新塚さんを見つめる。
はたから見たら明らかに変な行動に、さすがの新塚さんも首をかしげる。
だけど……。
「新塚さん。明日時間もらってもいいかしら?」
「うん。いいよ。何かしたいことでもあるの?」
「その、知り合いに街の観光案内をしてほしいって言われたのだけど私全然そういうの知らないから……」
「あーなんだか大変なことになったね。――わかった。明日は私が、ラーチさんとその知り合いの人を案内してあげる!」
そういうと新塚さんは私の腕を引いて教室の中、彼女の席の前まで歩いていく。
その顔はいままで見た表情の中で一番生き生きしていてとてもうれしそう。
彼女に頼んで正解だったかもしれない。
そう思いつつ、私は新塚さんとともにどんなコースがいいかやどういう場所に行きたいかなどを話し、最終的なルートは彼女に任せて翌日を迎えた。




