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EP03S-01 少女の意思

 エリアG北部 エリアG北部


 廃墟となっていた赤屋根の平屋の上に立つ私は4体の【アニマル】に包囲されている。

 逃げ場は空にしかないけど、に新塚さんに救援を出すと巻き込んでしまう。

 かといってどこかから地面に下りればすぐに【アニマル】の牙の餌食。


 「どこからくる……」


 吹き付ける冷たい風に短い金の髪を舞わせながら、私は四方を警戒。そのまま周囲の状況を確認し始める。


 西にはこいつらがいた廃墟。正確には半壊したマンションが。

 北は言うまでもないが草原。

 東は小さな川を挟んで山があり、正直言って一番先頭に向いていない。

 最後に南。

 南はうっすらと舗装された道が見えるが、それ以外は北同様の草原がある。


 ――となれば退却ルートは西、戦場とするべきはここ……みたいね。


 いつか指令も言ってたっけ。戦場は選べない。だからその戦場を最大限利用しろって。まぁここはそもそも利用するものがそんなにないけど……。

 つまりはここでなんとか倒せということか。


 私は無情な現実に落胆しつつも、南側から屋根上に上がってきた【アニマル】の、鈍重な光沢を放つ口に銃口を向け、躊躇なくトリガーを引いた。

 右腕に来る衝撃と周囲に響く破砕音。

 少し遅れて【アニマル】が押し返されるように屋根から落ちると、少しして土砂をまき散らす爆発が起きる。

 バキバキに割れたであろうアスファルトの成れの果てが土砂とともに宙を舞う。


 だけど倒せてはいないと思う。

 残念なことに当たった場所は一番装甲が厚いとされている前足の付け根だし、弾自体も内部に侵入していなかったから。

 それに散ったのは土砂ばかり。

 あれの破片なんて見えなかった。

 だけど――。


 バイザーに映る弾数を確認しながら南の淵まで駆け寄ると、立膝をつき銃を構える。

 銃口を斜め下、さっきの【アニマル】が落ちたであろう場所に向けて3連続でトリガーを引いた。


 いくら硬くても一撃を受けてひるんでいるであろう【アニマル】であれば連続攻撃で破壊できるはず。

 私はそれに賭け、残り3体への警戒を怠ることなくトリガーを引いた。


 最初の爆発でわずかに土砂をかぶっていたその【アニマル】は、降り注いだ弾丸と休息をすることを許さない爆発に襲われて宙を舞った。


 ノイズのような悲鳴を上げて胴体は南、取れた右前足と左後ろ足はだいたい西へ飛んでいき、首が解離した頭部は私の背後の屋根の上に鈍い音を立てて落ちてきた。


 「まずは一体」


 顎のあたりがゆがんだ残骸を一瞥して立ち上がり、その先にいる2体に銃口を向けた。

 2体とも犬が威嚇するような態勢でいる。

 さすがにこのまま撃っても勝ち目はない。

 

 銃と同期したバイザーには残り弾数が表示されている。

 少しもったいないと思いながらも、すばやくカートリッジを差し替え、引き抜いたカートリッジを腰の収納にしまう。

 ――とここで奴らが動いた。

 私に向けて足を進め、重い身体を支える四肢が老朽化した建物の屋根にわずかだけど陥没し、引き抜くたびにがれきが舞う。


 「くっ!」


 押し寄せる2体の【アニマル】

 2体同時に対応することは不可能だ。

 私は焦る気持ちを抑えつつバックステップを踏んで屋根から降り、すぐに建物の側面にある、こんな状況で長年放置されていにもかかわらず健在だった大きめの窓ガラスを割って飛び込んだ。


 粉々になったガラス片とともに屋内に飛び込むと、すぐそこにある倒れた長テーブルの陰に身を隠して今さっき入ってきた場所を覗き見た。


 「――だよね」


 当然ながらやつらは追ってきた。

 割れた窓を飛び越えて中に侵入し、身を隠した私を探すように首と足を動かしている。

 身を引き、できるだけばれないようにして周りを見る。


 薄暗くほこりっぽい屋内。

 ほぼ限界をとどめていない元クッション付きの木製の椅子。そしていま私が壁として使っている白基調の長テーブルが無数にある。

 それに奥のほうには10年前のまま時を止めた厨房らしきもの……。

 ここはもともと飲食店か何かだったのだろう。 

 それを証明するかのように足元に汚れたメニュー表がある。


 私は一瞬それを見てみようかと思ったがやめ、できるだけ音をたてないように、銃口を斜め上に向ける。

 背後は背の低い壁なので奴らに見つかる確率は低い。

 となれば見る方向はこっちしかない。


 その時が来るのを、床を鳴らす奴らの足音を聞きながら待つ。 

 時間が過ぎればすぎるほど高まる鼓動。

 鼓動音が耳元でなっているかのような大きさとなり、鼓動が腕に伝わる。 

 

 落ち着け……大丈夫だから。


 自分にそう言い聞かせるように、静かに深呼吸をする。

 だがそれは、その時は最悪のタイミングでやってきた。


 「――ッ!!」


 目を閉じて深呼吸をし、落ち着いたところで目を開く。

 すると目の前にいた。

 鋭利な牙のつく鈍重な光沢を放つ口。

 その口を持つやつが。


 ――――。


 気が付いた時にはそれは後ろに吹き飛び、腕にしびれるような衝撃が走っていた。

 バイザーに映る弾数カウントが1つ減っている。


 どうやら無意識の内にトリガーを引いていたらしい。

 だけど助かっ……てはい。すぐに隠れないと。


無意識に撃った弾が爆発する前に、私は背中側に走り出した。

窓と、窓枠だけの場所から陽の光が差し込む。その光を頼りにしながら店内を走る。


転がっていた植木の破片を蹴り飛ばし、支柱が曲がって倒れているテーブルを飛び越える。

やがて私は少しいったところにあった固定された、厚めの仕切りの裏に身を隠した。


そして数秒後。


――――。


弾丸が撃ち込まれた【アニマル】の内部で爆発した。

壊れてバラバラになったテーブルや椅子のパーツが頭上を通過し、着地地点で騒音を立てる。

だけど一番見たかった破片がない。


「着弾点が悪かった……か」


おそらく倒せていない。せいぜい着弾点の装甲が歪んだ程度だと思う。


中腰になって頭を出し、さっきのやつを確かめてみる。

すると案の定というべきか、やつの右前足の付け根の装甲が多少歪んだだけだった。それ以外の成果はなさそう。

だけどいまがチャンス。


私はやつの前に姿を現してしきりに肘をつけて固定。もう一体がくる前にカタをつけようと躊躇なく発砲し始めた。


バイザーの数字がカウントダウンをし始めて砲身から弾丸が飛び出す。

その弾が当たるたびにやつはよろめき次々と爆発を起こす。

衝撃に耐えるために歯を食いしばる。

天井からパラパラと屑が落ちてきて体に当たり、飛んできた破片がバイザーに当たって何処かに行く。


 続いてカートリッジを取り換えて砲口を厨房側から向かってくる奴に向けると、そいつの予測通過地点。厨房と店内を仕切るカウンターに向けて3発撃った。

 それから店内を移動し始め、身を隠しつつも射撃をし続けた。

 最初は最小限の弾の消費で勝つつもりだったけどそんなことを言っている余裕なんてもうない。

 生きて帰り、守るために撃ち続ける。

 



「そろそろ、限界かも……」


 あれからカートリッジを2さらに一つ消費したころ、やつらの内1体の残骸の頭を踏みながら言った。

 息は乱れ、喉はカラカラ。

 触れられないほど熱くなった砲身と感覚の鈍くなった右腕。それに建物自体の強度の限界を感じた。

 これ以上ここにとどまれば天井が落ちてくる可能性がある。それに方針もサマワ避ければ使い物にならなくなる。

 そう判断した私は銃を左手に持ち替え、近くの窓から脱出した。

 数十分ぶりに浴びた新鮮な空気と風に安堵しつつも、少し前に見失った最後の一体を探しながら草原を走りはじめた。


 痺れるような感覚に支配された右腕で左肩のプロテクターの内側から最初のデバイスを取り出すと、新塚さんと通話を開始する。


 「新塚さん聞こえる?」

 『ラーチさん!大丈夫?』

 「まだ、ね。それよりこの先で回収頼んでいい?砲身も腕も、あの建物も限界なの」

 『わかった。ラーチさんの進路先で待機してるね』


 上空にいる新塚さんはそういうと【OUL】で降下して私の100メートルほど先に着陸。

 再び通話をし始めた。


 『戦況はどう?』

 「少なくとも中で1体は破壊。1体は中破手前までもっていけたわ。だけど最後の1体は完全に見失ったわ。そっちで確認できた?」

 『一瞬だったけど確認したよ。西に向かって走っていったよ』

 「南?南って確か……」


 確か南にも【アニマル】の反応が……。


 「新塚さん!それっていつ頃!?」

 『え?10分ぐらい前……だったと思う』

 「そう。――作戦を変更するわ。あまりうまくないけど上空からの射撃に変更するわ」

 『――何か考えがあるんだね。わかった。待ってるね』

 「ええ」


 それだけ言って通話を終了すると素早くそれをしまい、速度を上げる。

 さっきから金属同士のぶつかる音がだんだん近づいてきている。

 止まれば捕まる。

 そう思い走り続ける。

 しびれの取れてきた右手に持ち直し、数発なら撃てると判断するとトリガーに人差し指を添える。

 残弾は2発。


 「――よし」


 やることはまとまった。

 あとは行動に移すだけ。

 

 覚悟を決めた私はリズムを刻み始める。

 そして数秒後。

 私は少し前の地面に向けて発砲。

 続いて重心を回転させて、脇に挟み込むように銃口を後ろに向けると、狙いを定めずに発砲。

 その勢いを利用して加速する。

 

 3.2.1……。


 心の中で3カウントをし、その直後に打った地面を通過する。

 そして、そこから走り幅跳びの要領で思いっきり跳躍した。

 直後後方の地面が隆起し、土砂を巻き上げて爆発した。

 ちょうど【アニマル】の首のあたりが差し掛かったところでの爆発。

 無事なわけがなかった。

 

 急に下から湧き出した衝撃にアッパーを食らったようにのけぞり、そのがら空きのくびから胸部にかけてを土砂の牙が襲ったのだ。

 土砂が内部機構に入り込み、思うように動けなくなっていた。


 「なんとか……ね」


 胸元から草に飛び込んだ私は起き上がりながらそれを確認する。

 右の脇腹あたりがじんじんと痛む。

 それを我慢して立ち上がると、進行方向の少し先に転がる銃を右手で拾い上げた。

 直後バイザーに赤字で冷却の必要があると表示され、これ以上の使用は実質不可能となる。


 「ラーチさん大丈夫?」


 あの光景を見ていた新塚さんはよほど心配になったのか、【OUL】で低空飛行をして私の元までやってきて、手を差し伸べてきた。


 「なんとか……ね。でもどうして来たの?私の後ろには一応まだ動くあれがいるのよ?」

 「そんなの後で聞くから。いまはそのけがの手当てをしないといけないから逃げるよ」


 祖霊事情は何も言わせないつもりか、新塚さんは私の手を引いて機体に搭乗。

 上昇させ、西にある廃マンションに向けて移動を開始した。



 ――◇――

 「よいしょ。じゃあ脱いで」


 廃マンションの一番上に降り立った私は新塚さんに半ば強制的に壁にもたれかけされ、脱衣の命令を受けていた。


 「いいよ。鎮痛剤を打てば問題ないし」

 「だめだよ。後になったら大変だよ。ほら、脱いで脱いで」

 「どうしても?」

 「うん」


 その表情は真剣なものそのもの。

 決して折れないという意思の表れのような顔だ。


 「――わかったわよ。だけど奴らが着たら困るから先に銃を出してほしいの。それ、オーバーヒート起こしてしばらく使えないから」

 「オーバーヒート?わかったよ。じゃあその間に脱いでいてよね」


 新塚さんはそういうと私を置きざりにして【OUL】に戻り、後方の収納からもう一個のケースを取り出して準備をし始めた。


 それに合わせてしぶしぶ私もスーツを脱ぎ始める。

 こんなところでこんなことをするのは納得がいかない、というかすごく恥ずかしい。

 だけどここには私と新塚さんしかいない。

 それが幸いだった。

 

 ――訂正。もう一人いた。


 『大丈夫ですか?』


 その声はプロテクターの内側から聞こえた。

 機械じみた声。

 RONAだ。

 

 「平気よ。彼は?」

 『戦闘終了。現在は依然ラーチさんと初めてお会いした場所で調査を行っております』

 「ということは旧高校ね。でもどうして?」

 『戦闘痕に違和感を感じたそうです。なのでその調査のためにいまは呼称【ジャイアント】の胸部融解部を見ております』

 「そう。それ以外になに起きた?」

 『5分43秒前に作戦内容に更新がありました。確認することをお勧めいします』

 「またか。わかったわ、ありがとね」

 『どうか無茶だけはしないでください』

 「――善処するわ」


 スーツの上半身だけを脱ぎながら会話をし終えると、入れ替わるように新塚さんが銃を抱えて戻ってきた。

 その肩からはちいさめのカバンがかけられている。


 「これでいいかしら?」

 「うん。――やっぱり、すごいことになってるね」

 「――そうね」


 たしかに、右の脇腹のあたりが赤くなって少し腫れあがっている。

 それもそこそこ広範囲。

 

 「でもこのぐらい――」

 「ダメ!じっとしててよ!」


 言葉をさえぎってそういうと、彼女は銃を床のおき、肩から掛けていたカバンの中から応急手当道具一式を取り出して広げた。


 そしてこなれた手さばきで私のけがの手当てをしていく。

 脇腹のそれだけにとどまらず、頬の擦り傷、手首の痣、首元の切り傷など、すべてに施していく。


 「慣れているのね」

 「私にできることってこれぐらいだからね」

 「――なんで、新塚さんは戦場に来たの?」

 「今更だね。でも初めていうね。ラーチさんのおかげだよ?」

 「わ、私?」

 「うん。10年前。ラーチさんと同じように家族を失った私は、ラーチさんの頑張る姿を見て私もああなりたいって思ったんだ。みんなが落胆している中、一人だけ自衛隊員相手員、納得してくれるまで戦ったあの姿。その姿にあこがれたんだ」

 


 「――だけど私には戦闘の才はなかった。でも、それならせめて戦う人のサポートがしたいと思ったんだ」

 「だから【OUL】に?」

 「うん。実際こうしてサポートできるようになったしね」

 

 そういって笑い、おなかに包帯を巻いていく。

 

 「これで良し!」


 最後に頬にシールタイプのガーゼを張り付けた新塚さんはそういった。


 「ありがとう」

 「どういたしまして。痛みはない?」

 「ええ。びっくりするぐらいね」

 「よかった。努力し――」

 「――ッ!!新塚さん、銃を!」


 突如【アニマル】が、この場に続く扉を壊してやってきた。

 状態から見て最後に戦ったあいつだろう。

 だけどその行動に支障は出ない程度に治ってしまったらしい。

 

 私たちを確認した【アニマル】は、私たちに攻撃の隙を与える暇を与えないかのように跳躍。

 私の眼前に着地し、鼻先で銃を持つ新塚さんを【OUL】の元まで吹き飛ばした。


 「うあ……」

 「新塚さん!」

 「だ、大丈夫!それよりラーチさん逃げて!」


 できるであればそうしたい。

 だけど背中を壁に預け、眼前に【アニマル】がいる状況では逃げるすべなんてあるわけがない。

 たぶん銃があっても意味がないと思う。

 

 「ここまで……かな」

 

 そう思い、私は目を閉じた。


 【アニマル】が鈍い光沢を放つ口を開いてアインリットに近づけていく。

 その距離はすでに10センチもない。


 新塚さんの悲鳴に似た声が聞こえる。

 ほんとうは真っ先に逃げてほしいんだけどなぁ。


 うっすらと目を開けると、もうそこにはやつの口内がある。

 


 ――だが、突如目の前を視界の左から右へと緑色の閃光が走り抜け、【アニマル】の顎が床に落ちた。


 

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