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EP02F-06 戦場へのRETURN

 『初めまして。アインリット・ラーチさん。私は――RONAです』

 

 ナズ・レグルニアが操縦席に座って機体のチェックをしている間、その席の裏に立つ私に向けて名乗った。

 

 『正確には内蔵動力炉出力制御及び高度操縦情報支援インターフェイス【RONA】といいます』

 「つまり……この機体の補助システム……ってこと?」


 私は相手の居場所がわからないため、前面中央のモニターを見ながら言った。

 長々としたシステム名だけど要約すると『補助システム』という扱いになると思う。

 

 『その認識であっています。付け加えるのであれば歩く、しゃがむ、腕を動かす程度の基礎行動であればパイロットなしでも可能です』

 「じゃあさっき私たちを持ち上げるのもあなたが?」

 『はい。ですが戦闘はできません』


 それも踏まえて言うなら半自立型のAIか、あるいはそれに近い何か。

 そんなものがこの機体に搭載されていたなんて……。

機体だけでなくシステムであるRONAまでもレベルが違うことに驚愕する。

 

 次々とモニターに表示されているなにか情報が切り替わる。

 その速度は人間の視野でどうにか追える速さで、あれらもRONAが処理しているのだろうか。それともナズ・レグルニアか。

 

 RONAは続けて言った。


 『もうひとつ、私はマスターであるレグルニアだけでなく、機体外にいるマスターの登録した者への情報支援も行います。戦況、戦力、地形、天候など。その方が必要とする情報を可能な限り提供するのも私の役目です』

 「もしかして彼がAWPの本部の場所が分かったのも……?」

 『私がサーバーから地形情報を提供しました』


 それならあの時のことは幾分か納得がいく。

 だけどそれならなぜ……。


 「ねぇ私がここにいる……というか、あなたがいるなら私がここまで案内する必要なかったんじゃないの?」

 「じゃあお前はどうやって戦場まで行くんだ?徒歩か?」とコックピットの背もたれ越しにバイザーに鏡面加工の施され、前面を完全に覆う頭部デバイスを付けたナズが言った。

 「最悪バイクがあるわ」

 「運転できるのか?」

 「ええ」

 「へぇ、その歳でね」

 「悪い?」

 「別に。それよりチェックが終わった。動くからその辺につかまってろ」

 「操縦はいいけど殺さないでよ?」

 「善処する。RONA」

 『了解。全システムを60%で起動。ブースターのみ80%に調整。いつでも行けます』

 「では行くぞ」


 そういうと彼は手足元のペダルやレバーを操作して機体を動かし始めた。

 それと同時に軽い回転音が聞こえ始める。



 機体裏に取り付けられているブースターから黄色い光が放出されて周囲を照らし、その勢いに押されるように機体の足裏が地面から離れた。

 強風が巻き起こり整備員や機械の操縦士が飛ばされないように近くにあるものにつかまる。

 対してックピット内にいる二人には飛行機とは違う妙な浮遊感が襲う。

 だがそれも一瞬で、機体は見る見るうちに上昇。

 5メートル、10メートル、15メートル……。

 やがて内部のモニターに24メートルと表示されると上昇を止め、今度は光の残像を残しながら、まるで空に蛍光ペンで線を描くようにエリアGに向けて飛んでいった。



 ――◇――

 エリアGの北側。

 そこにある開けた場所に【サルファガム】は静かに着陸した。


 周囲にはあちこちに、ビニールハウスの骨組だったのだろう錆びた鋼材がかろうじてそのときの形を残している。

 それと近くにある建物は程全てが半壊状態。よくてもいつ崩落してもおかしくないといった状態。

 かつて人を呼ぶために設置された看板も長年放置されていたせいで錆びだらけになっている。

 

 そんな光景をモニター越しに見ていると、彼がこっちを見て言った。


 「ここで下りてくれ。これ以上は【ジャイアント】との戦闘に巻き込まれる可能性があるからな」

 「構わないけどこのあたりにいるの?」

 「ほかの2種類がか?」

 「ええ」

 『私が敵の位置情報を端末に転送いたしますもでご心配なく』

 「私のデバイスじゃないんだけど」といって移動する前に彼経由で司令から預かったデバイスを取り出す。

 

 「それじゃない。こっちだ」

 彼はそういうと操縦レバーの下にある収納スペースから、同モデルの端末を取り出して私に放り投げてきた。

 突然だったので壁にぶつかるギリギリのところでそれをキャッチする。

 

 「ふぅ、ちょっと危ないじゃない」

 「それにはRONAが情報を提供、共有できるように細工が施されている。万が一の際は救援要請をだせ。助けてやる。それと細かいことは降りてからRONAに聞け」

 「偉そうなのは納得がいかないけど……いまは信用してあげる」

 「ハ、死んだら末代まで恨んでくれて構わないぜ」

 「たとえが古いのよ。早く開けて」

 「わかった。死ぬなよ?」

 「当然」


 ハッチが開けられ、天井から陽の光が差し込む。

 私はそのまぶしさに目を細めつつ、受け取ったデバイスをしまって外に出た。

 山風が髪をなびかせる。

 私は乗った時と逆の工程で地面に降り立つとすぐにその場を離れた。

 鋼材の生える草原を抜けて、さっき見えた看板のある建物の前まで行き振り返る。

 するとあっちも私が安全な場所まで行ったことを確認したのか、彼を乗せた機体は再び飛翔し南へと飛んでいった。

 

 それを見届けた私は建物に入る……のではなく、近くにあった倒れている自動販売機に座って端末を覗き込み、提供された敵の位置を確認し始める。

 ずっと陽が当たっていたおかげか自動販売機はとても温かく、冷たい山風が吹くこの場所ではとてもありがたい。

 

 最低限道と建物の形だけがわかるシンプルな地図には不自然な赤と青の点滅する小さな点があちこちに点在している。

 赤が【アニマル】で青が【ヒューマン】らしい。

 全体的にエリアの南東に集中しているように見えるが、いまいる場所の周辺にも3個の点がある。

 まずはそれから潰して行くのが妥当だろうけど……。

 

 「せめて私以外にも数人ぐらいほしかった……。一人じゃ時間かかるわよこれ……」

 

はぁ、と珍しくため息をいく。


 いくら何でもここから東側の集中している場所までいくのは途方もない時間がかかる。

 ましてや今の私には移動手段が徒歩しかなく、移動時の疲労も考えると明らかにおかしい。

どうせなら機体にバイクか何か運んで貰えばよかった。


 そうは言ってもこうなってしまったからには仕方がない。

物資が来るまでの間体力を温存するため、周囲を警戒しながら暖かい自販機の上に寝っ転がった。

 視界が緑中心から青中心に切り替わる。


 「ねぇRONA」と端末を耳元に当ててつぶやいた。

 『なんでしょうか』

 「武器とかの到着時間ってわかる?」

 『――予想到着時間まで約5分です』

 「意外と早いのね」

 『観測情報によると当機体の発進の5分後に基地を発っておりますので』

 

 それなら妥当な時間だ。

 ついでに私は気になっていたことをロナに聞くことにする。


 「突然だけど、あなたから見てこの戦いはどう見える?」

 『――敗北はあっても決して勝利することのできない戦いですね。敵の正体がわからず、攻め落とす拠点も発見できていない。さらに呼称【ジャイアント】も倒せない。どうすればいいかすら模索中といったものに見えます』

 「グレッガーマン大佐に言ったら顔を真っ赤にしそうな意見ね。でも私はそのストレートな感じ、嫌いじゃないわ」

 『グレッガーマン大佐……というと背が低く態度が大きい西洋人でしょうか』

 「よく知ってるわね。でも正確にはドイツあたりの元軍人よ」

 『マスターが初対面でトマトヘッドと名付けましたので』

 「フフ、たしかにトマトヘッドね」

 『先ほどの話、大佐はどのような方なのですか?』

 「兵士は将棋やチェスでいう駒。勝利のための犠牲すら躊躇なく使う勝利主義者よ。しかも自己保身が強いうえに所属は1班。戦場に出てこないことから生徒からは相当嫌われているわ」

 『記憶しておきます。報告。予定よりも早いですが到着したようです』

 「え?」


 早いどころかまだ3分も経っていない。

 よほど急いできてくれたのだろうか。まぁ早く来てくれることに越したことはないのだけど。


 私は上体を起こし自販機から飛び降りると【OUL】が着陸できそうな場所、さっき【サルファガム】から降りたあたりまで戻った。

 程なくして白を基調としたカラーリングに赤のアクセントが入った中型飛行機【OUL】が、ゆっくりと垂直降下して静かに着陸した。

 

 中型飛行機といっても飛行機から連想するようなものじゃなく、簡単に言うとタイヤの代わりに左右と中央後方に飛行ユニットと推進装置のついたバイクのようなもの。


 その座席にまたがって操縦していた、短くてまっすぐな赤茶の髪の少女は機体から降りると座席裏にある大型収納スペースから、そこに入るギリギリのサイズのアタッシュケースをもって私の元までやってきた。

 足取りからしてかなりの重量がありそうだ。 


 「おまたせ、ラーチさん!」

 

 その声に聞き覚えがある。

 

 「もしかして新塚さん?」

 「うん!持ってきたよ」

 そういって彼女はアタッシュケースを草の上に置き、つけていた青色の頭部デバイスのバイザーを上に持ち上げた。

 

 「急いで来たけど……待たせちゃったかな?」

 上目遣いでそう聞いてきた。

 「そんなことはないわ。私だってさっきここに来たばかりだし、それに【アニマル】と【ヒューマン】の位置を確認してたから」

 「よかったぁ。さっそくだけど確認してもらってもいいかな」


 新塚さんはその場にしゃがんでアタッシュケースの2重ロックを解除。

 ケースを横にして中身が私に見えるように開けた。

 

 中に入っていたのは灰色中心のカラーリングに赤のラインが追加された中型レールガンの【MK02―118】とそのカートリッジが8つ。

 急遽システムを入れたという透明のバイザーと灰色一色の頭部デバイス。それと鎮痛剤が2本。

 それらがケースの中に入っていた。


 「足りないものある?少しなら武器とか積ませてもらったけど」

 「これさえあれば十分よ。ありがとう新塚さん」

 「どういたしまして、」といってほほ笑む。

 

 その表情に少しだけ惑わされつつもカートリッジ、鎮痛剤、ナズから受け取った端末を全身の収納スペースに入れると、頭部デバイスをつけて起動。

 急造品とはいえ戦闘にはなんの支障もないことを確認、最後にレールガンを手に持ってカートリッジをセットした。

 何度かカシャンという音が鳴り、戦闘準備は整った。

 

 「これでよし」

 「じゃあさっそく行こっか」

 そういって新塚さんは空になったアタッシュケースを持ち上げて【OUL】に向かって歩き出す。

 「ちょっと待って。あなたも行くの?」

 「そうだよ?――あ、もしかして作戦の情報届いてない?」

 「? ちょっと待って」

 私は右肩のプロテクターにしまった最初に預かった端末を取り出し、作戦情報を確認する。

 するとつい2,3分前に作戦が更新され、新たに『アインリット・ラーチは5班契約生、新塚 有栖とともに撃滅に当たれ』と書かれていた。

 作戦情報の更新が遅い。しかも無通知設定だったことに驚愕する。


 「あー、さっき届いたみたい。本部ってなにかシステムトラブルでも起きてるの?」

 「ううん。何も起きてないよ」

 「そう。まぁそれはいいとして、早く片付けてゆっくり帰りましょ」

 「うん」


 そういって私たちは【OUL】に搭乗。

ちなみに前が新塚さんで後ろが私。


 最も近いポイントの南側の赤点に向けて移動を開始した。


 ――◇――

 「このあたりだよ!」

 そう新塚さんが言ったのは南の赤点の付近。

かろうじて舗装された道が残り、それ以外のほとんどの場所に草が生えて草原とかしている場所だ。


 「何処か建物の上に降りれそうな場所ある?」と彼女の背中越しに言った。

落ちないように捕まる場所が見当たらなかったので彼女のお腹に手を回している。

元々小柄な上に非戦闘向きの華奢な身体なので巻き込んで落ちないか心配になる。


 「――あったよ。ちょっと屋根が落ちてるけどあの中規模の平屋なら……」

 「そこでいいわ。あなたはどうするの?」

 「同モデルのレールガンが一丁とカートリッジを8つ積んでるけど私には……ごめん」

 「気にしないで。1人でもどうにかするわ」

 「でも……じ、じゃあ私、上空から接近する敵影がないか監視するよ!」

 「じゃあお願いするね」

「うん!」


 顔は見えないけどきっと彼女は笑っているのだと思う。私によく安心する笑顔を見せてくれるから。


新塚さんは高度を徐々に下げ、着陸ポイントに指定した赤い屋根の平屋の建物の上に低空飛行を維持。私はすぐに降りた。

 

 「頑張ってくね」

「そっちもね」


彼女の無事を願うようにそういうと、【OUL】を上昇させる彼女を見届ける。


依然として冷たい風が吹き抜ける中、私は視野を正面に戻し右肩のプロテクターから端末を取り出す。


「ロナ、敵のいる方角ってわかる?」

『西の廃墟に数体、東および北、南にはいない……訂正。こちらに向かって来ます』

「好都合ね。西から?」

『はい』

「わかった」


端末をしまって西を見ると、確かにこちらに向かって来る敵、5体の【アニマル】がいた。

地面を蹴りギラギラと硬い体で陽を反射されながら接近して来る。

5体でこの立ち位置ならどうにか……。

私はレールガンの安全装置を解除する。

左膝を赤い塗装の剥がれかけた屋根につけて立膝をつけ、銃口を中央を走る【アニマル】へと向けた。

それと同時にバイザーの照準機能が起動し、視野中央に赤いロックオンカーソルが現れた。


それから大きく息を吸い、吐き捨てるように呟いた。

「アインリット・ラーチ。破壊目標を確認。これより任務を遂行する」



1体を中心に左右に展開して並走する【アニマル】

私はそれに向けてトリガーを引いた。

イヤープロテクター越しでもわかる瞬間的な激音と腕に、全身に感じる衝撃。

銃口から奴らを破壊する弾丸が放たれる。

続けて2回目の激音と衝撃。

1発目の行方すら確認せず放った2発目は、向かって最左にいる奴に向けて飛んでいく。

3発目。

今度は最右に。

数秒の間隔をおいて飛んで行った三発の弾丸。

1発目は回避行動をとった【アニマル】の後ろ右足に命中し内部から破壊、下半身を失った奴は無残に草の上に転がった。


しかし残りの2発は軽々と回避され、奴らがいた場所の土を掘り返すように爆発。

生えていた土砂ごとその場所を吹き飛ばし、浅いクレーターを形成した。


「外したか」


4体となった【アニマル】は散り散りに行動を開始。

今私のいる建物を包囲するように展開し、全く同じタイミングで右回りで歩き始めた。


「包囲された……か。いいわ、全部壊してあげる!」


そう言って私は再び銃口を【アニマル】へと向けた。


【2章:壊望の参戦者】 FIN


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