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夢としか

イラスト:雪解つる木様 〈http://17227.mitemin.net/i237970/〉


ジャンル:特になし

必須要素:特になし

 海底にある女神の神殿を、人魚達が飛び出した。美しい、神の使いが。女神様が人間と交流なさった。ああ、大変だ。人間色に染まってしまう、と。人魚の一人は、図書館へ泳いで行った。神殿の少し上に浮いている図書館へ。人魚は尾ひれを華麗に動かし、人間には到底出せないようなスピードで、図書館へ滑り込んだ。

 そこには、黒髪の人間と、水色の髪の海の女神がいた。女神は海の文献を人間に見せているようだった。人魚は止めようと泳ぎ始めるが、何と言えばいいか分からなかった。女神は、人魚に気付いて微笑む。

「女神様」

 人魚は、人には分からない言葉で女神に話しかける。人間は人魚を見つめているが、何かを理解した様子はなかった。人魚は安心して、続ける。

「何故人にこの海中図書館を見せたのです?」

「彼は、私の大切な人だからよ」

 女神は落ち着いて答える。人魚は溜息を押し留め、後ろへ下がった。尾ひれを振って、否定の意を表す。女神は悲しげに、(あぶく)を人魚に飛ばす。人魚は渋々引き下がると、神殿の自分の持ち場に戻った。

 人魚が戻った後も、人間と女神は図書館にいた。美しい魚達が、人間を避けるように泳いでいく。それを見て一瞬悲しそうにする女神だが、すぐに気を取り直して人間に言った。

「人魚は、昔から人間に虐げられてきたから……貴方を良く思っていないみたいね」

「仕方ない、よな」

 人間は答える。人間は軽く後悔したような表情で頷いていることから、もしかしたら彼も人魚狩りをしていた一人なのかもしれない。だが、今は辞めたのだろう。でなければ、後悔などしないはずである。

「なんで貴方は人魚狩りを辞めたの?」

 女神は問う。

「女神に憧れてしまったからさ。所謂……恋、とでも言えばいいのか」

 人間は恥ずかしそうに答える。本来、神からすれば人間など取るに足らない世界の一部である。だが、神話上に出てくる人間の女性の数々は、その美しさ故に神の子を産んでいる。だが——人間の方から神へ送る感情は『畏怖』『崇拝』などであり、『恋』などというものが受け付けられるのは稀である。

「そう……女神様が好きだから、女神様の使いを殺すのをやめたの」

「まあ……そんなことしても意味なんてないんだけどな。犯した罪は消えない、から」

 その言葉を聞いて、女神は少し考え込む。近くを漂っていた白い魚が、女神の周りをくるくる回りだした。少しすると、女神は魚に何かを囁き、人魚を呼ばせた。人魚はすぐに来たが、人間に嫌悪と恐怖を懐いているのか少し心配そうに人間を睨んでいる。女神は溜息を吐いた。

「その相手が、俺の前にいるんだからな……。夢としか思えん」

「夢かもしれないわね」

 頬をつねりながら言う人間に、女神はあっけらかんと返す。神は人間に夢を通じて何かを伝えることが出来るのだから、そのようにはぐらかしても否定はできない。

「ともあれ、ちょっとその恋物語、聞かせてくれる?」

 女神が言うと、人間は溜息を吐いて、言った。

「……本人の前で言うのか……まあ、もう過去の話だ」

 人間は、話し始めた。

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