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第2話:夢の話

不定期で更新してます。


それは夏の最後の日、時刻は夕暮れだった。

茜色に染まった空を見上げながら、ただただ泣いていたことは憶えている。

なにが悲しくて、悔しくて、泣いていたのか。

それだけが、思い出せない。


「うぅ…」


それは突然に俺を襲った。

青天の霹靂、等というが、残念ながら時刻は夜。晴天などは見えよう筈のない時間。

いつも通り出勤し、いつも通り仕事を終え、週末の晩酌を考えながら歩いていた。

全くもって代わり映えのない日常だった。

だが、行きつけの居酒屋に着く前に、俺は夢で見た女性と出会い、次の瞬間意識が飛んだ。


「一体…なにが起こったんだ…?」


訳の分からない状況に陥ると、人間というのはテンプレートな台詞を口にしてしまう物だ。と言うよりはこんな状況で真っ先に独り言を呟いてる自分が何とも言えない。

意識がハッキリしだし、自分が倒れていることに気付く。


少し痛む頭を押さえながら、立ち上がると、鳥居の下から先程の女性は消えていた。神社の方へ行ったのだろうか。


「ついてきて、と言われた気がするが…」


普通に考えれば、無視だろう。あからさまに怪しい。

怪しいのだが…

やはり、夢に出てきた女性、と言うのが引っかかる。かと言って大の大人が言われるままホイホイついて行くというのも考えものだ。

変な宗教の勧誘とか、ついて行ったら怖いお兄さんが出てくるとか、悪い予想はいくらでも出来るものだ。

そもそもなんの前触れもなく倒れたのだ、どこか悪いのかもしれない。


「やっぱりこのまま無視して…」


そう考えて踵を返したところで、硬直。

さっきから見てる神社も森も、ある。神社と森はあるのだが…


「なんだ…これ…!?」


その他が、無かった。

いや、無いと言うのは別段なにもないと言う意味では無い。

“有るはずの物が無い“と言う意味だ。


さっきまで見ていた街並みは無く、何故か中世ヨーロッパのような町が目の前にあった。


全く意味が分からない。神社とヨーロッパの町とかどう考えてもアンバランスだろう。

いや、そうではなく。何故ヨーロッパの町が目の前に広がっているのか。さっき意識を失った時に頭でもぶつけたのか。やっぱり病院に行くべきなのではないのか…!?


「…っ!…と、とにかく落ち着こう」


…なにはともあれ、「居酒屋に行く」と言う選択肢も「病院に行く」という選択肢も、「そのまま帰る」という選択肢さえも、物理的に不可能になってしまっていることは確かだ。


「行くしかないか…」


俺が知っている建物は何故か今神社しかない。

俺に残された選択肢は無かった。


一歩一歩、神社へ向けて歩く。

歩くごとにこれが現実に起こっていることなのだという感覚が、足の裏から脳へと伝わる。

さっきまでのは幻覚で、振り返れば元の街並みが広がってるのではないかと思い、振り返ってみる。

…やっぱり煉瓦で出来た家が建っている。

ため息を吐きながらまた一歩神社へと歩く。

神社のお賽銭箱の前に、果たして先ほどの女性は…居た。


「久しぶりね。元気にしてた?」


第一声はなんてことのない挨拶だった。

しかもしばらく会っていなかった友人に話しかけるような気さくさで。

久しぶりだと言われても、夢で見ただけで知りもしない相手のハズだ。普通なら無視の一択だろう。

とはいえ、だ。訳のわからない、何も分からない現状でそれはできない。情報は必要だ。

君は何だ、誰だ、何が起こったんだ、言いたい事も聞きたい事も山ほどある。

が、今は抑える。まずは…様子見だ。


「…とりあえず、楽しみにしてた晩酌がお預けになった分くらいの元気は無くなったかな?」

「そう。わざわざ減らず口を叩く位の元気はあるのね。良かった」


サラッと流された。

会話はスムーズに出来そうなので話を続けることにする。


「君基準で元気があると認定して貰ったところで聞きたい。ここは何処なんだ…いや、なんなんだ?」

「いきなり本質的なことを聞くのね?まずは私が誰なのかを聞くかと思っていたのだけれど」


ごもっともだ、確かに聞きたい。

だか今はこのとんでもない状況の確認が先だ。


「確かにそれも聞きたい。だけど今はこのよく分からない状況について説明してもらわないと頭がどうにかなりそうだ」

「ふぅん…意外と冷静ね。わかったわ。時間はあるから順を追って話しましょう」


どうにも掴み所のない会話をされている気がするが、なにはともあれとりあえず説明はしてもらえるようだ。

この状況を少しでも教えてもらえるのなら、ズレた会話だろうが何だろうがこなすしかない。


「まずは質問の答え。ここがどこなのか、から教えましょうか。ここは裏側の世界、分かりやすく言えば()()()、ということになるわね」

「…は?」


…少しでも教えてもらえると思ったのだが、それ以前な言葉が帰ってきた。

お陰さまでまともにこっちから返す言葉がない。


「裏側…夢の中…!?一体どういうことなんだ?!俺は今ここに立ってる!その感覚がある!なのに夢の中!?」


状況把握どころか更にややこしくなってしまったことで、もう頭の中は滅茶苦茶だった。


「…落ち着いて。難しいかも知れないけどそうしないと貴方が希薄になるわ」

「希薄にってどういう…!」

「文字通りよ。自我をしっかり持って。でないと夢の中に溶けていってしまうから。さぁ私を見て、深呼吸して」

「…!…スゥ…ハァ…スゥ…ハァ…」


希薄になる、というのがどういう状態になることを指すか俺にはわからない。わからないが少なくとも良いことではないだろう。

俺は彼女に言われるがまま、彼女を見つめながら深呼吸を繰り返す。

すると、不思議と気持ちが落ち着いてきた。


「…ありがとう」

「いいのよ。いきなり連れてきたのは私だもの。兎に角落ち着いたのならもう一度話すけど、いいかしら?」


…正直、信じられないという気持ちしかないのだが、今起こっている事を夢だと言い切れる自身が俺にはない。

…いや、ここは夢の中なのだったか。


「さっきも言ったけど、ここは夢の中なの。本来は精神…所謂魂でしか来ることの出来ない場所よ。貴方は今肉体も持っているけれどね」

「…何故、俺を?」


今までの話を考えるに、俺は彼女にこの裏側…夢の中に連れてこられたということになる。

そうなると当然、何故?という疑問が湧いてくる。


「…君が、私と繋がりを持っている最後の人だから」

「…え?」


俺が…彼女と繋がりのある最後の人…?


「それはどういう…?」

「…今はその事はいいの。兎に角、私が夢の中へ呼べるのが貴方だけだった。それだけ覚えていて」


なんとも腑に落ちない話だが、今は彼女の話を聞くことにしよう。


「…わかった。それで、呼んだってことは何か用事があるんだろう?」

「えぇ、そうよ。貴方、最近テレビで妙なニュースを見なかったかしら?」

「…?あぁ…そう言えば」


そう言えば最近、人が急に昏睡状態に陥る事件が多発しているらしい。隣で寝ていた夫が、妻が、兄弟が、朝急に目覚めなくなると言ったものだ。

そこそこの人数がそのような状態になっていて、ネットではやれ新型のウィルスだの、妙な催眠術が流行っているからだ等と騒いでいる連中もいるようだ。


「…確かに、寝ていた人間が目を覚まさないという事件が起こってるな」

「端的に言えば、その事件を貴方に解決してほしいの」

「…はぁ?」


いや、いきなりそんなこと言われても、俺は医者でもなければ催眠術師でもない。一体どうしろと言うんだ。


「…言ったでしょう?ここは夢の中。目覚めない彼らの意識…精神…魂は、ここにあるのよ。貴方にはそれを助けてほしい」

「いや、だけど…そういう君はなぜ彼らを助けないんだ?ここにいるんだろう?」


そうだ。彼女もここにいるのだから、彼らを助けることが出来るはずだ。それなのに何故俺を巻き込むんだ?


「私は、この神社から出られないの。それがお役目だから…虫のいい話だとは思う、でもお願い。私は貴方しか頼れない…」


…ここでそういう辛そうな顔をするのは卑怯だと思う。

それにその表情…何処かで…


「…っ!痛っ…!」


その瞬間、激しい頭痛に苛まれる。

なにか、何か思い出しそうだったんだが…


「ご免なさい、多分その痛みも私のせい。貴方には迷惑しかかけられない私を赦して…」


…さっきまでの不遜な態度は何処へ行ったんだ全く…


「…わかったよ」

「え…?」


どのみち、この夢の中から出ようにも俺だけじゃどうしようもない訳だ。俺の現実への鍵は彼女が握っている。

…もし、帰れなくなっても、今更俺一人居なくなったところでなにも変わるまい。会社には少し迷惑をかけるかも知れないが、所詮俺がやっていた仕事など誰かが代わりにこなせるものだ。

俺でなくともいいのだ。結局の所。

それに、親父が死んでから俺は一人だ。親族にも迷惑はかかるまい。なら、誰にも出来ないことをやるのもいいだろう。


「協力しよう。どうすれば彼らを助けられる?」

「…!あ、ありがとう!本当に…ありがとう…!」


そう言って涙を浮かべてこちらを見る彼女の顔は、とても神秘的で美しいものだった。

評価、ブックマークをして頂けますと作者が泣いて喜ぶので、「しょーがねーなー!」って方はしていただけると嬉しいです。

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