表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第1話:日常と週末の終わりに

大分前に投稿してそのままにしていた物を、プロットを組み直してちょぼちょぼ書き進めようと思います。

こちらは不定期で更新しますので、それでもお付き合いしていただける方はどうぞ。

夢を、見ていた。

それはまだ、叶わないユメはないと思っていた、幼少期の自分。

いずれそれこそが夢だったと、現実に沈んでゆく前、真っ直ぐな自分自身の夢だった。


夏休みの最後の日、俺は神社で出会ったあのヒトに…


「…うぅ…眠い…」


けたたましい目覚ましの音が響く。重いまぶたを持ち上げて時計を確認。6時15分。どうやら既に二回程起こされていたらしいが、気付くことなく眠っていたらしい。

別段キツイ仕事をしてる訳じゃない、こんなにも眠気に襲われるのはついつい深夜までゲームをしてしまうからだ。まだ学生気分が抜けていないのだろう。


まだ起きていない体を叱咤し、身支度を整える。

出勤まではまだ、余裕があった。

朝食を取ろうと冷蔵庫を開け、中身を確認。


…見事になにもない。


「…朝食は諦めるか」


世の中の識者は朝食を取れというが、独り身は中々どうして、こういうことに無頓着になりがちだ。

…俺だけでは無い、と思いたい。


洗面所に向かい鏡をみる。

そこには、若い張りのある肌をした短髪の黒髪、黒い目の優男が映っている。

…何てことはない、俺だ。


大場海人23歳、二流の商社マン。

それ以上の価値も、それ以下の価値もない平凡なサラリーマン。

今の俺はその一言で済まされてしまうような存在だろう。


鏡で髭の剃り残しが無いか確認し、適度に髪を整える。

軽く口を濯ぐと、もう一度鏡を見る。特に問題はない。


洗面所を後にし、鞄を確認すると部屋を出る。

鍵をかけ、駅へ向かおうとして立ち止まる。鍵をかけたか再度確認。ガチャガチャと金属音を立てながら、ドアは閉まっていることを俺に煩く主張してくる。


「さて…今日も働きますか…」


そう自分自身に呟き、駅へと歩く。

住んでいるのは駅から5分の好立地、周りからも同じようなスーツ姿の出勤者や学生がやってきて、歩道に溢れている。


…いつも通りの朝だった。


今日も目覚ましのスヌーズ機能に助けられ、朝食を取り損ね、人混みに揉まれながら会社へ出社する。いつもの通りの朝だ。


ただ、いつもと違ったのは昨晩見た夢だった。


「…ちょっと変わった夢だったな…」


それは、幼少期の自分自身が、泣き叫んでいる夢だった。

何かを叫んでいた気もするが、起きてからはボンヤリとしか思い出せない。ただ、妙にハッキリとした夢だったのは覚えている。

幼少期はよく見たものだが、近頃は仕事も忙しく、疲れて帰ってくるためか、昔ほど見る機会は減ったし、そんなにハッキリとした夢を見ることもなくなっていた。それに…


「誰だったんだろうか、あれは…」


幼少期の自分の夢、だけだったのなら、こんなにも気にはならなかった。見たこともない誰かが、泣き叫ぶ自分を抱きとめていたのだ。

見たことも、ない、ハズだ。

だがなにか、妙な懐かしさを感じる人だった。それが、引っかかって頭から離れない。忘れてはならない、と何かが引き留めるような、そんな感覚。


電車のベルが鳴る。どうやら、考えながらも体は普段通りの行動をしていたらしい。我ながら嫌になる。


「考えても仕方ない、か」


夢なんだし。そう、自分に言い聞かせる。

満員電車に体を押し込め、この事は忘れることにした。


忘れる事に、なるはずだった。


仕事を終え、朝と同じように限界まで詰め込まれた車両に揺られ、目的地で降りる。

誰かの足を踏んだが、お互い様なので小声で「スミマセン」とだけ言っておく。降りる人が少ないのだからしょうがない。

今日は週末だったため、自宅の一つ手前の駅で降り、少しばかりの晩酌を愉しんだ後、歩いて帰るつもりだ。


行きつけの居酒屋は、人気のない神社のすぐ近くにあった。

この神社、「願い事をすると必ず叶うが、叶った後10年後魂を盗られる」だの「ここで夢を口にすると、二度と叶わない」だのいわれる曰く付きの神社である。

今でこそ独り暮らしをしているが、実家がこの近辺で昔はよく遊びに来たものだ。居酒屋の店主もよく知っている。親父がまだ生きてた頃に、付き合わされたのを今でも憶えている。


今日は何を飲もうか、などと考えていると、件の神社が近づいてきた。鬱蒼と茂る森に佇む鳥居が見えてくる。何時見ても朱に染まる鳥居と薄暗い森のコントラストが、ざわつくような不気味さを醸し出している。


「相変わらず、夜の神社ってのは不気味だよ、な…」


独り身に有りがちな只の独り言は、普段ならば夜の空気に紛れて消えていくはずだった。


「そうかしら?月明かりに照らされる神社って、神秘的なものよ?」


だが、その独り言は消えることは無かった。会話として成立してしまったのだ。


鳥居の真ん中に、見たことのない女性が立っていた。

長い黒髪の先のほうを白い帯で纏め、紅白の装束を纏うその出で立ちは正に巫女。

…いや、違う。見たことはあった。ただし、それは()()()()()()()()()


「今晩は、海人君。昨日はいい夢、見られた?」


語りかけてくる声色にも何故か聞き覚えがあった。

妙に懐かしく、そして何故か悲しくなる、そんな声色だった。


「き、君…は…」


昨日の、夢の。そう言いかけた瞬間、急激な睡魔が襲ってきた。

…確かにここのところ寝不足気味だったが、これはそう言ったものではない…!


「ごめんね。聞きたいこと、沢山あると思うのだけれど。今は黙って私に付いてきて」

「いっ…たい…なん…」


なんだ。

最後まで言い切ることなく途切れた俺の意識と共に、朝あれほど“平凡“だと思っていた俺の人生もここで途切れることになるとは、正に"夢にも"思わなかったのだ…

評価、ブックマークをして頂けますと作者が泣いて喜ぶので、「しょーがねーなー!」って方はしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ