5 意思
「マジで、これ」
確かに自分は面白そうなことがあれば挑戦してしまうタチだし、退屈な日常に不満を感じていたけれど、それはそれ、これはこれ、やはり何ごとにも限度ってあるよねとそのとき透子は思った。
制服がすっげー派手だった。
アイドルか。なんか妙にスカートがひらひらしてるし。スパンコールみたいのがあるし、リボンはでかいし。ただ、生地はしっかりしてるし動きやすい形状だった。
サリナに連れられ、透子は衣装室とやらに連れてこられた。そこで、ラグジュール魔法騎士学園の制服を着ることになったのだった。
「透子さん、すっごいお似合いですよ!」
サリナが両手を合わせて満面の笑みで言う。
「……すっごいうそっぽいんだけど」
透子は彼女を見て目を細めた。
「この私が、うそをついているように見えますか?」
「見える」
「即答!」
「まあいいけど……。で、これを着て、そのラグジュール魔法騎士学園とやらに行けばいいわけね」
「そうです」
サリナはうなずく。
「で、どこにあるの? どうやって行くの?」
「透子さん……。誘っておいてなんですけど、やる気まんまんですね」
「え?」
透子はそっちに振り向き、
「そんなことないよ。どうせだったら、早いほうがいいでしょ?」
「透子さんって恥ずかしがり屋ですよねー」
「何か言った?」
「言ってません」
「それで、どうすればいいの?」
「そうですね……。私どもとしては、あしたから透子さんとご協力して、学校に通っていただきつつ、各国の魔法騎士をなぎ倒していただければと思っていたのですが」
「なんか物騒な言い方だけど……。あれでしょ? 他の国の騎士団を倒していくんでしょ?」
「はい」
サリナはこっちを見たままうなずき、
「私たちは現在、魔戦闘を行い、それをショービジネス化することにより、戦争を抑止し、各国の争いを防いでいます。透子さんには、それにご協力していただきたいのです」
「……はい?」
サリナによれば。
どうやら元の世界でいえば、サッカーのワールドカップやオリンピックに近い印象の大会を、こちらの美少女世界では行われているようだった。そして、透子にはその手伝いをしてほしいという。
聞いただけではさっぱりだったが、でも不安はなかった。
だって、ぜったいにおもしろいと確信が持てたから。
「それでは、またあした、あの裏庭で。召喚ゲートがありますので」
「あれ召喚ゲートっていうんだ……。ていうかさ、場所、もっと変えられないの? あそこ、けっこう人目につくと思うんだけど」
「それじゃあ、どこにされます?」
「んー」
透子は少し考えて、「女子トイレとか。わかる?」と言った。「存じております」とサリナは答え、
「休み時間中に友達と連れ立って行くところですよね」
「サリナはこっちの世界のマニアックな風習に詳しいよね」
「では、またあした。これから放課後、透子さまのことをお待ちしておりますね」
「ん」
透子はサリナを見て、こくんと少しだけうなずいた。
次の瞬間。
全身に――悪寒が走った。
もう、そこは、学校の裏庭だったからだ。
いつの間にか、やや橙を帯びた夕日になっていて、いつもこの時間帯は学校の周りを車がたくさん通っているのに、もうその音も聞こえなくなっていた。
見慣れた校舎の壁。プレハブ小屋。給食室から伸びている鉄パイプ。
しばらく思考が停止した。あっという間に、元の世界に戻っていたからだ。
本当に、まばたきもする暇もなく。
右手を見る。握ってみる。開いてみる。動く。顔も上げ、頬もつねってみる。感触はある。
どこか少し肌寒い空気が、四月だということを想起させる。
そして思った。
夢なんかじゃない、あれは現実だった。
拳を握って、それを胸にやる。
あしたまたこよう、透子はかばんを背負い直して、家路へとついたのだった。