4 選択
「学校に入るのと、いきなり実戦、どちらがいいですか?」
……そんなこと聞かれても。
透子は城の中、通路を歩いていた。屋上から移動して、1分もたっていなかった。すぐ横にはサリナがいる。道幅は広く、赤い絨毯は歩き心地がよく、さながらどこぞの美術館の中のようだったが。
「何? 学校?」
透子は聞き返した。サリナはピンク色のツインテールを揺らしながらこくんとうなずき、
「魔法学校があるんです。正確には魔法騎士学校です。やはり、最初はそこで、どういった戦い方があるのか、勉強なされるのも手かと」
「ふむ」
「ただ……、私たちは、透子さんはおそらくそういった経験が必要だとは考えていません」
とサリナが言った。透子がぱちぱちとまばたきをしていると、サリナは「透子さんは、異世界からの、つまるところのインターワールドご出身ですから」と言い、
「それだけで、すでに実力は証明されたものです」
「そんなに、異世界からやってきた人間は、こっちの世界だと強いの?」
「はい、それはもうかなり」
サリナは力強く何度もうなずいた。
「ふうん」
「……透子さん、あんまり興味なさげですよね?」
サリナは少し疑惑をこめたような視線をこっちに向けてきた。
「そんなことないよ? あるある。私、いっつも透子って人の話聞いてないよね、とか言われるけど、ちゃんと聞いてるよ?」
「そうですか、それならよかったです」
「話半分で」
「話全部で聞いてください!」
「でもさ、その、何? 私の世界ってインターワールドっていうんでしょ?」
「自然に話を戻しましたね……」
「じゃあさ、よくわかんないけど、召喚しまくれば、その騎士団が最強ってことになるんじゃないの?」
「そうしたいのはやまやまですが……、やはり、適性というものがあるんですよね。また、召喚師との相性もあるので、おいそれと呼ぶわけにはいきません」
「なるほど」
「あれですよ?」
サリナが立ち止まる。体の前でお行儀よく手を組む格好。
「ん?」
つられて透子も立ち止まり、彼女に注目する。
「私と透子さんの相性が、よかったからこうやってお会いできたと思います」
サリナはとびっきりの笑顔で、そして愛くるしい声としぐさで少し首をかたむけながらそう言った。
「ふうん」
「リアクション、薄っ! 透子さんって人でなしですよね!?」
「さすがにそこまで言われる筋合いはないと思うけど……。まあ、でも、召喚してくれたのは、うれしかったかな」
「……なんですか、透子さんって、剣で人を斬りたい願望でもあったんですか?」
「どんな願望よ、それ。まあ、いろいろあるのよ、いろいろ」
「思春期ですものねぇ」
「なんかむかつくけど。で? えっと、学校に行くか、それともいきなり実戦だっけ?」
「はい、そうです」
サリナが再び歩き出す。透子がそれについていくと、「どちらがいい、とかあったりされますか?」と彼女はこっちを見ながら言った。
「うーんと、そうだな……。どっちのほうがおもしろいかな」
透子は天井を見上げた。見たこともないようなキラキラのシャンデリアがそこにはった。
「おもしろい?」
「……うん、えっと、サリナ?」
「はい、なんでしょう」
サリナの少し驚いた声が聞こえる。透子はそっちに振り向く。案の定、サリナはどこか意表を突かれたような顔つきだった。
「まだ詳しく聞いていないからわからないけど……。でも、私の直感がね、こう言ってるの」
「はい」
「どっちもやれって。そっちのほうがおもしろそうじゃない? って」