1 扉
見鏡透子は美少女だった。
それは誰もが認めるところだったものの、しかし、本人はさほど意識していなかった。
それよりも。
何よりも。
毎日の倦怠感が彼女を支配していた。
果たしてこうやって学校に行くことになんの意味があるのか。仕事をしていて、その先に何があるのか。
友達を増やしてなんになるのか。生きていて何かいいことがあるのか。
けっして答えの出ない道を、探し続けていた。
かといって、彼女は暗い性格の女じゃない。
むしろ、根っこはすごく明るくてポジティブだ。無色透明といっていい。けれど、どこか、心の中にモヤモヤがあって、なんだかよくわからないけれど毎日がつまらないなぁ、と感じていた。
それを思春期特有の病というのは簡単だ。
けれど、彼女は彼女なりに考えていた。
何か、そう……、もっと『おもしろくて夢中になれることはないか』と。
そんな矢先である。
放課後、彼女は昇降口を出て、いつものように家に帰ろうとした。
そんな中、校庭のすぐ横を歩いていると、黒猫がいた。学校の中に猫とは珍しい。透子はじっと、その猫を見つめた。普段から、道に猫がいると、ついつい見つめてしまう透子である。
猫が、ゆっくりと歩き出した。
そしてふと、透子も猫のあとをついていった。
あとから思えば。
――これが運命の分かれ道だった。
猫のあとをついていくと、そこは学校の裏庭だった。
周りをふと見渡してみる。鉄のパイプとか、花壇とか、大きな芝生とかがある。敷地の外から見たことはあったけど、実際にここまできたのは初めてだった。
すると。
「えっ」
びっくりした。
何か――すごく大きい、縦に長い、まるで壁のようなものが青白く輝き出したのだった。
ぞわぞわっ、と身震いがした。思わず周りをきょろきょろと見やってしまう。誰もいない。いるのは猫のみ。見る。鳴きもしない。
すると、猫は飽きたのかなんなのか、すぐ校庭があるほうへと行ってしまった。
もう一度、透子は顔を上げて、『それ』を見やる。
いまも
……目を上下にやって観察すると。
ドアノブ? のようなものがあった。
思わず意識してつばを飲み込んだ。
もし、これで普通なら、友達なりなんだり読んだかもしれない。写真に撮ってツイッターに上げたかもしれない。逃げたかもしれない。
けれど、彼女は直感的に思った。
この先には、何かおもしろいことがあるぞ、と。
迷ったのは一瞬だった。
いけ、私。
握る。力が入る。それを押す。
その先は。
美少女だけが住む世界、そして美しければ美しいほど強さが増すちょっと変わった世界だということを――彼女はまだ知らない。