参加
青年主観で勝負が始まり、一人目が引き金を引くまでが章「5/5」です。物語中、少女達は一番から五番と番号で呼ばれ、青年も名前が出ることはありません。
章「5/5」「4/5」「3/5」「2/5」は予約投稿です。コピペミス等があった場合は申し訳ないです。
§青年§
部屋に入り扉を振り返る。ナンバーロック式の鍵を十に近いほどに厳重にかけ、漸く室内へ視線を移した。部屋に窓はなく、厚い壁が四方にあるのみ。灯りは高い天井に一つ天窓があるばかりだった。
「さて、君達に先言ってあった通りだ。勝負をしよう」
両手を広げて部屋の中にいる人間たちに語りかける。全員が女。それも年若い。二十を迎える自身より年上はいない。だが十を割る齢の人間もいない、そんな年齢の少女たちが五人。服は粗末。皆似たような麻のワンピースを着ているだけだった。私は少女達一人ひとりの手首を縛ってあった麻縄を解いていく。都合五人全員の両手が自由になったところで、一人の少女が質問を投げかけた。
「何をするんですか?」
そう問うてきた少女は齢十五程だろうか。目元はやや赤みがかり白目も充血していた。確か、彼女は四番だ。
私は自身の服から一丁の拳銃を取り出した。五連発の回転式拳銃。取り出した拳銃を見て小さな悲鳴を何人かは上げた。
「君達にはこの拳銃を使って一人の勝者を決めてもらう。この銃には弾が人数より一つ少なく装填されている。一人一度、この銃の引き金を引いて弾が出なかった者が勝者だ」
大まかなルールを説明する。とはいっても難しいルールはない。
「ロシアンルーレットって事ですか? それに勝者って……」
四番が呟く。当然の疑問であろう。
「勝者には各人に言ってあった通り自由を与えよう。それもただ自由じゃない。衣食住、その一人だけなら当分暮らしていけるだけのお金も渡そう」
この条件を聞いて少女たちはざわめき立つ。この少女たちは奴隷か娼婦か孤児である。あるものは処分品として、あるものは融通、あるものは保護してこの場に五人集めたのだ。
「本当に?」
その質問は別の少女だった。この娘は三番のはず。
「確かに、君達のような人間にとっては信じがたいだろう。嘘や詐欺によってこっぴどく騙されたことも一度や二度じゃないだろう。だが信じて欲しい。これは本当だ。金、それを誰か一人にあげよう」
そういって自身の服のネクタイを触る。質の良い背広を態々着て来ているのにはそれなりに理由がある。
「じゃあ、負け……弾が出てしまったら、どうなるの」
その質問者は長髪で顔が整った少女だった。齢はこの中では年長かそれに近い。十八の前後に違いない。自身の損失に関してはきちんと把握するいい質問だった。
「引き金を絞るのは銃口を口に咥え喉に向けた時だけだ。更にさっき言ったとおり、引き金を絞るのは一人一度だ。これは途中で弾がでない場合があったとしても、最後まで続けてもらう」
これを聞いてまたざわめき出す少女達。無理はない。ここに集まった同胞の内、勝者は一人。ゲームに参加すれば最後、他の者は以前のような生活に戻ることすら出来ずこの場所で死ぬしかないのだから。
「できっこないじゃない!」
叫んだのは三番だった。
「なら戻れ、以前の生活に。どうだ、他に降りたい者はいないのか」
そう言えば少女達は互いに視線を交わし小さな声でやりとりを始める。やめようだとか、生きたいだとかが聞こえる。だが二人、そうではない人間がいた。一人は一番。他のものと口を聞かずこちらを見ているのみ。参加を決定している腹だろう。もう一人は見た目の年齢が一番幼い五番。際立って白い肌が特徴的の少女。目を薄めに開けて、ぼうっと顔を斜め下に向けていた。隣の者が声をかけるが返す言葉は一言二言。この勝負に興味が無いのか、現実味を得てないのか。
ざわめく少女達の内一人が声をあげようとしたところで、それを制するように言葉を放つ。
「やめるものがいるのは結構。その分だけ残った奴らが勝てる確率が上がるから、残ったものも喜ぶと良い」
この言葉を聞いて、声をあげようとした者ははっとした。同時に一番はごく僅かにだが顔を歪ませた。気づいていたのだろう。
残りの少女達も大概がまた顔を見合わせるが、今度は言葉を交わすことはなかった。当然だ。誰しもが助かりたい。出来ることなら奴隷なんてやめて自由と金を手に入れたい。そしてそれを手に入れる為には誰にも参加して欲しくない。それが本音。だが誰も「私が助かりたいから参加するな」とは言えないし「皆が助かって欲しいから辞めたい」なんて言えない。現に。
「やる、やっぱりやる」
できっこないという言葉を僅かな時間でさえひっくり返して先の少女も参加を表明した、少女達が一瞬その少女を邪魔者と見たのを私は確かに感じ取った。確かにこの少女が先言ったとおり普通は死と自由を天秤にはかけられない。純粋に死ぬか自由かと問われて自由の確率が五分の一となれば皆が皆その勝負に乗るわけではない。だがもし、自身が賭けに乗らない事で誰かが勝つ確率が上がるのは、許せないという精神が働く。
「そうか。なら、降りるものはいないんだな?」
この質問には皆無言という返事を返した。