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短編集

とある雪の妖怪と炎の神様と猫の王様の話。

作者: 辛のおと

「いやあ、なんとかなりましたねえ」

尻尾を振る猫にそうだなと褐色の肌をした男が頷く。

彼らはマイクを片手に絶叫ともいえるほどの大声で会場を盛り上げている白色の髪の女に視線を移す。

「彼女は働き者ですねえ」

「こういった賑わいが好きなのだろう」

男が言うと、さて、どうですかねえと猫は笑った。





「いやあ、白熱した試合というのはこういったものを指すのでしょうねえと感心したくなるほど皆さん盛り上がってくださって、うれしい限りですよ」

渡されたタオルをいやどうもと腰低く受け取りながら女は笑う。

渡されたタオルはすでに凍りつき、それを見て女は少し困ったように笑った。

「とても良い実況でしたわ」

「素晴らしかったですわ」

口々に女を褒め称えるのは女とよく似た顔立ちの美女たち。

女は彼女達にも礼を口にしながら目的の部屋へと向かった。

「いやいやどうも、お待たせしましたお二方」

「いえいえ、お疲れのところ申し訳ありませんよお」

女に答えた猫は椅子を引く。こういった仕草はまるで紳士のようで、女はくすりと笑った。

「さすがに西の方々はエレガントってやつですね」

「そういったものに疎くてすまんな」

褐色の肌をした男は女に答えながら細心の注意を払って入れたお茶を全員分並べる。

炎を性としている男は気を付けなければ液体が沸騰してしまう。そんなことになれば目の前の女は解けて消えてしまうかもしれない。

雪を纏う女はそんな男の気遣いにありがたいとお茶を口に含む。

「いやあ、おいしいです。私も幸せ者ですよ、こんな接待していただけるなんて」

「いやはや、お忙しくしていただいているからにはこれくらいしかできないこの身が憎いですよお」

「大丈夫ですよ、我が国には猫の手でも借りたいという忙しい時にこそ借りる者として貴方がたがあげられているのですから」

そう言って笑う女に男はそういう意味ではないだろうにとため息をつく。

生真面目な男に女と猫は笑った。

「それにしても、一時はどうなるかと」

「中々どうして、組み合わせも大変でしたねえ」

「やはり話の幅の広さが原因か、本選に残っているのは西洋が多いな」

今までの予選を勝ち抜けた者たちのリストを見ながら男が感心したように呟く。

似た気候の国々に伝わる童話は同じテーマを元にバリエーションが増え、またその時勢に合わせて書き換えられてきたおとぎ話の代表ともいえるプリンセスたちはほとんどが西洋、女が言う“西の人”が中心だ。

話に幅があるほど戦い方にも幅が出てくる。それは相手に手の内をできる限り隠すことができるという事でもあり、戦い方を変えることができるという事でもある。

「いえいえ、東の方でも素晴らしい方はいますよ。特にこのお嬢さんなんて、話としての幅は狭いというのにこの攻撃力ですよ、さすがです」

そう言って指すのは男とも女とも違う国の逸話。

一つの国で生まれ、愛された物語である。

「それを言えば炎のお方の国のこの子なんかも素晴らしいじゃないですか」

「お前の国はほとんどが不参加か、こういったものに名乗り出ると思ったのだがな」

「目立ちたがり屋さんですが女の人には弱いんですよ」

姫君の多い逸話には太刀打ちできないというより刃を向けられない心情も多い。

それも手伝ってか、今回の本線には女性とのコンビが多くみられる。

「まあ、この女の子はすごく強いですね、一国の中でもこんなに話の幅があるとは」

「ああ、この子は末子ですからねえ」

「そういった伝承は多いな。末だからか」

わいわいと騒がしくしている三人はとても楽しそうである。

やれ、この姫君は怖いだの、やれこのお嬢さんは手数の多さが魅力的だのと好き勝手話している。

予選がすべて終わり、明日から本線が始まるため各々体を休めているため会場となるこの場所に今人はいない。

静かな外側とは反対に賑やかな部屋の中。


「明日は溶けないように雪だるま君も大量生産中なんですよ」

「私たちのとこでも商売繁盛を願ってしっかり準備をしておりますよ」

「明日は観客席から楽しませてもらおう」

それぞれがそれぞれの立場として楽しむ。




どんな目的であれ、誰が主人公であれ



脇役と言われようと、伝えられる伝説が少なかろうと




「さあ、楽しませておくれものがたり」



“良き隣人”達はいつでも楽しいことが大好きだ。

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