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セルピエンテ


「ロン、ここはどこでしょうか?」


暫く寝ていたのか、瞼が重くて上手く上がらない。

フーはキョロキョロと回りを見渡すが、どうにも自分に与えられていた寝室とは違うようだった。

上体を起こしてみるが、掛けられている布団もシーツも最上級の品なのだろう、肌触りが心地良い。

それに、ベッドに腰掛けるロンもどこかが違うようだった。

つい癖で、気になる物をじろじろと見ていたのだが、側に居るロンは、その表情や動きが可笑しかったのか、クツクツと笑っている。


「フー、お前には黙っていたが、俺は人間じゃない。お前のいた世界で言う所の龍という存在だな。そして、ここは俺が元々住んでいた世界『ファルベ』の『セルピエンテ』という国だ。分かるか?」


しばらくフーは考えていたが、それが本当の事なのだろうと納得する事にした。

そうでなければ、ロンの瞳が金色で、爬虫類のような瞳になっている事の説明が付かないのだから。

それに、ロンはフーをからかって楽しんだり、困らせる事はあっても、嘘を吐いた事は無い。


「それでは、ロンはこの世界に帰って来たという事なのですね?」


「あぁ。婚約者を連れ帰り、この国を治める為にな」


「…という事は、この国のボスはロンなのですか?しかも、婚約者とは…一応、数日前に恋人の自覚は持ったつもりなのですが…いきなり婚約者とは驚きですね」


「同意は得たからな。帰りたいと言っても、今更返してはやれんぞ」


「言いません。私は、私のこの生は、ロンに拾われたその時から、全てロンの物ですから。今更あの世界に返されても、ロンの居ない世界では生きている意味もありません」


無表情で、しかし僅かに傾げた首に、ロンは堪らず俯く。


「本当に…お前は可愛い奴だな」


こいつは、こういう奴だった。

何も話さず、半ば無理やり連れて来たといってもいいこの状況で、フーは臆する事も、動じる事も無く、受け入れている。


ロンは、初めてフーに出会った時も、なんて面白い生き物だろうかと思った事をふと思い出す。


出会った時のフーは、今とは違い、死んでしまいそうなほど痩せ細り、美しさの欠片も無かった。けれど、ロンの瞳を見つめる目は力強く、しかし、放った言葉はその力強さとは裏腹な物で、そのアンバランスさに惹かれた。


『私は、惨めに朽ち果てるより、貴方のような人に殺されたい。だから、ここで私を殺して下さい』


その時、ロンはこの少女を妻に迎えようと思ったのだ。

儚く、しかし気高いこの生き物が、とても愛しいと思ってしまったから。


『死ぬほどの絶望を味わったのなら、俺と生きてみるといい。俺はロン・オーア、この界隈に巣食うマフィアのボスだ。お前に最高の人生を用意してやろう』


そして、名前もろくに覚えていなかった少女を連れ帰ったのを今だ鮮明に覚えている。


こうして、ロンとフーの新しい生活が始まったのである。



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