死神より愛の言葉
久しぶりの短編です。軽い気持ちでサラ~!、っと読んでくれたら幸いです。
『あなたが好きなんです!』
「死神に好かれても嬉しくないし!」
なぜ、私が死神に好かれなければならないのだろう……。その出来事は今でもハッキリ覚えている。
ある日、いつも通り学校に通う道を歩いていると、顔色が無く、痩せ細った青年が道端に座り込んでいた。以上に痩せていることだけ省けば、かなりの美青年だった。適当に肩まで伸ばしているような黒髪もなかなかに決まっている。綺麗な紫色の瞳も魅力的だ。少し気になった私は、話しかけることにした。
「あの……大丈夫ですか?」
顔を上げたその人はやはりかっこよかった。私は見惚れつつ、質問を続けた。
「お腹とか空いてませんか?」
『ああ、大丈夫です。今、摂取するんで』
その人は弱弱しい笑みをこちらに向けつつ、近くにあった花に手をかざした。その瞬間、花はゆっくりと静かに枯れて、萎んだ。目の前のその人の顔色は先程より、マシになったように思われる。……もしかしてこの人、人間じゃない?
「あの、あなたは……?」
念のため、一応聞いてみる。私は少ないチャンスに祈った。どうか、この人が単なる人間でありますように!異世界の人ではありませんように!
『死神です。人間界にちょっこし魂をもらいに』
「ああ……そうですか」
私の期待は裏切られた。この人は死神だ。見れば分かる。想像では骸骨だったけど、本当は人間の容姿なんだと感心する(感心している場合では無かったけど)。
『今は若い女の子の魂を狙っています』
「そうですか……」
私はもうどうでもよくなっていた。ただ、夢だと信じたかった。夢でなければ、若い女の子の魂って……。
『ところで、あなたのお名前は?』
死神が思いついたように聞く。嫌な予感がしつつも、答えてみる。
「……晴菜」
『晴菜さん、魂ちょうだい?』
死神はにっこり笑って、私にねだってきた。
それが死神との出会い。
『魂下さいってば!』
「うるさいな~、黙っとけないの!?」
『うっ……』
強気な態度で接すれば、死神はすぐ口答えをやめる。弱いのだ。全くこの死神に取りつかれてから困ったことばかりだ。まず、死神はみんなに見えないから、何も無いところに向かってしゃべっていると馬鹿にされる。
この現象は死神曰く、取りついた人にしか見えないらしい。
もう一つは、体がだるくて仕方ない。真横に死神がいつもいるのだから、しょうがないと自負したのだが。本当に迷惑なんだから!
「ねぇ、いっつも思うんだけどさー、何で取りつくのがよりによって私なの?」
『え……それは――』
死神が急にもじもじとしだす。なかなか教えてくれないので、私は焦れったくなった。
「早く」
『それは、まず、晴菜さんは若い女の子の条件に合ってたし、それに……僕、晴菜さんに一目ぼれしたんです』
「えっ?」
何だそれは……。その瞬間、私の心はガラガラと音を立てて崩れていった。本人は顔をほんのり赤くして、照れている。死神に取りつかれ、挙句の果てには好きだと。まだ、イケメンだからマシなものの、最悪な境遇だ。誰か、変わってくれないかなぁ……。
『晴菜さん、そんなに心配しなくても、僕は晴菜さんが魂をくれるまで、ずっと傍にいるよ』
「いや……」
誰もそのことで心配なんかしてないのに。この死神は!
『じゃ、学校に行こうか』
「死神は通ってないでしょ!」
まるで、自分の通っている学校みたいな言い方だ。私はやれやれと首を振る。横の死神を見ると、何か言いたそうな顔をしてこちらを見ている。
「……何よ?」
『あの、ただ僕にも名前があるのになぁ……と思って』
そう言う=名前で呼んでほしいってこと?……名前で呼んだら、死ぬのは少しだけでも先延ばしできるかな?
「名前は?」
『聞いてくれるんだ。嬉しい!……じゃなくて、ユウトって言います。今後ともよろしく!』
今後とも?誰もこれからも一緒とか言ってないのに!
「ユウト?分かった。そう呼んであげる」
『やったー!僕は生まれてきて良かった!!』
周りで喜びまくっているユウトを無視して、私は学校に向かう。ユウトは慌てて後を付いてくる。
『待ってくださいよ!』
「待つもんか!」
授業中、苦手な数学の時間。横で浮遊しているユウトがしきりに話しかけてくる。あ~、うっとうしいなぁ……。
『ねぇ、晴菜さん、あの人、カツラじゃない?』
「えっ、あ、アハハッ!!」
急に笑いが込み上げてきた。確かに、カツラだ。元から怪しんでいたから、一層笑える。クラスメイトは全員驚いた顔をしている。もちろん教壇に立っている教師は怒った顔をしてこちらを見ている。
ヤバい。
「大田。黒板のこの問題やってもらおうか」
「……はい」
その問題は到底分かることは無かった。授業自体聞いていないのだから。
「もう~、今日の晴菜、何よ~!急に笑い出したでしょ?」
「ああ、思い出し笑い」
まさか、ユウトのせいだとは言えない。言ったところで変人扱いされるだけだろう。横のユウトは不思議そうな顔をしている。原因はアンタじゃい!
「まぁ食べよ」
「うん!」
お腹空いてたんだよね~。パカッと開けると、いつも通り美味しそうなお弁当!さて、食べよう――と思った瞬間、
『頂き!』
卵焼きがヒョイと盗られ、空中に消えた。
「大丈夫?最近、この現象起こるよね~。ポルターガイスト?」
「さぁ……」
確かに、心霊現象ではある。説明はできないけど、真横に死神がいるんだもん!周りを見渡すと、みんなユウトにおかずを盗られているらしい。あの食いしん坊め!
「ユウト、最近行動が目立つよね」
『そうかな?これでも地味目なんだけど』
いや、あれで地味目?
「まぁ、しょうがないか……」
最近私は、ユウトの存在を認めつつある。確かにユウトは生きているのだ。死神だけれども。
『晴菜さん、好き』
「えっ!?」
何、その急激な展開。ユウトはかっこいいし、優しいから完璧なんだけど……死神なんだよね……。人間だったらなぁ。だけど、照れたようなユウトの笑顔を見ているうちに、そんなのどうでも良くなってくる。ただ、今ユウトと一緒にいれたらそれでいいか、って思ってくる。
それからもユウトと面白くおかしく(?)日々を過ごした。ユウトは口では言うものの、全然私を殺す気配は無く、自然に過ごせた。
だが、突然その日はやって来た。
『おはようございます!晴菜さん!』
「目覚まし時計係どーも」
最近ではより一層仲良くなって、目覚まし係まで頼むようになった(つまりは起こしてもらうこと)。ユウトはいつもきちんとした時間に、起こしてくれる。目覚まし時計としては優秀。
「ふぁ~。朝ごはんでも食べるか~」
そう言って、下に行こうとした瞬間、
「ユウト!?」
ユウトが消えかかっている。くっきり見えていた体は、薄くなり、半透明になっている。私は怖くなった。まさか、消えてしまうんじゃ……。最初は嫌で嫌で仕方なかったが、愛着が湧いてしまっている。今更消えられても困る。
「待って!消えないで!」
『晴菜さん、ごめんね。僕、もう消えるみたいだ。期限が切れたんだ……。期限の中で殺せなかった……』
「じゃあ、今私を殺して!」
ユウトは静かに首を振った。
『もう殺せない。僕は好きになっちゃったから……』
「ユウト!!」
その言葉を最後に、ユウトは消えてしまった。この瞬間、今までの生活は何もかも日常に戻る。私はそれが嫌で仕方なかった。少し前まではそれが唯一の望みだったのに。
「ユウト……」
私はユウトが、さっきまでいた空間に崩れ落ちた。
その後、何とか元気を取り戻し、学校にも普通に通っている。けど、心の片隅でいつもユウトを探している。初めて会ったところ……。
今日もいないか……。気を落としながら、学校へと向かった。
その日、先生が季節はずれな転校生を紹介した。
「さー、転校生だぞ!入って、池上くん」
「はい」
池上くんと言われた人物が教室に入ってくる。
「池上ユウトです。よろしくお願いします」
「ユウト!?」
そう。目の前にいたのは間違いなくユウトだった。ユウトはこちらを見て、にこやかに笑う。何なんだコイツ!
「人間になったの……?」
偶々、空いていた私の隣の席に着いたユウトを見つめながら質問する。やはり気になったからだ。
「うん。お前みたいな馬鹿者は人間界で修業して来いって。でも良かった。また晴菜さんと一緒に過ごすことが出来て」
「せっかく心配したのに……。その心配は無かったんだ」
「え、心配してくれてたの?嬉しいな。ありがと、晴菜さん」
ヤバい、更にユウトを喜ばせてしまった。隣にいるユウトはご機嫌で、鼻歌まで歌っている。そして、笑顔のままこちらに顔を向けた。
「って、ことで、やっぱり魂ちょうだい?」
「……嫌」
死神と私の逃走劇は始まったばかりだ。