第四頁
探偵部部室
「せんぱーい!遅れてすみませーん」
明るい声と共に茶髪のサイドテールをピンク色のボールの飾りが付いた髪留めで止めた桃色の目の少女が入ってくる。彼女の名前は鈴野真昼、明日夏の一つ下の学年の生徒だ。
「シショー 遅れてごめんなのね」
続いて金髪のふわふわとした髪に翡翠色の目をした身長が中学生ほどの少女が入って来る。彼女はハルカ・C・オレンジ。中学生ながらもその学力が認められ飛び級入学してきた天才児だ。何故か明日夏を師匠と呼び「タンテー」になるための修行中らしい。
「アスカ、悪い遅れた」
さらに赤茶の髪を両サイドに少しずつまとめた(うみねこの縁寿みたいなやつ)緋色の目の少女が入って来た。玖島玲 明日夏の無二の親友で幼馴染で無鉄砲な明日夏のお守り役でもある。
「やぁ、遅かったじゃないか」
やや物憂げな表情の明日香が気怠そうに答えた、先ほどの夏香との会話が堪えたらしい。
「大丈夫か?アスカ、随分と疲れ気味だけど・・・」
「先輩らしくないですよ?」
「そうねー シショーはもっと笑ってるのね」
好き放題言う幼馴染や後輩たちの姿を見る明日夏の目は若干憂いを帯びていた。
そして、ぼそりと呟いた。
「・・・自分が必要じゃない人間だって思うかい?」
その発言に固まる一同、普段彼女はそんなことは全く言わない。
「・・・・思わないな。あたしが居なきゃお前どうやってこの部をまとめるつもりだ?」
「そ、そうですよ!あたしだって絶対に必要とされているんです」
「そうだよ。シショー、何でそんなこと聞くのね」
「あー 実はね――――――」
明日夏は探偵部への依頼から夏香に会ったことまですべてを話した。
「なるほどね、で ぐさりと来てナイーブになっていると」
「そういうことだよ」
「宮坂夏香ですね。調べてみます!」
「こっちも調べてみるね!」
飛び出していった後輩二人を頼もしそうに見つめる明日夏と玲だった。
「・・・な?」
「ああ・・・・」
明日夏も立ち上がる、そして扉へ向かった。
「何処に行くんだ?」
「何かを知ってるはずの黒猫に事情を聴きにな」
▽
文芸部室、そこに明日夏はやって来た。
ギャーギャー騒ぐ声が部室の外にまで響いている。
「?」
疑問に思いながらもとりあえずドアに手を掛けた。すると、いきなり声がピタリと止まった。
「?!」
「人がいないはずの文芸部室」その言葉が頭をよぎった。
扉を開けると・・・そこには大量の原稿用紙と一人の黒と金と赤で構成された少女しかいなかった。
「・・・・やぁ」
「おや、探偵が何か用か?」
原稿用紙を眺めていた井上がふと気が付いた、と言わんばかりに固い笑いする明日夏に視線を移す。
「今この部屋に誰かいなかったかい?」
「おれだけだけど」
「そ、そうかい」
正確に言うともう一匹いるのだがまあ気にしたら終わりなのだろう。
にやりと笑って井上が言葉を紡いだ。
「それだけが用事か?例えば件の幽霊少女とか?」
「っ」
すぐに反応してしまう明日夏、ハードボイルドとはほど遠い表情をしていた。
「正解ってわけか」
「君は何処まで知っているんだい?」
「・・・・どこまでだか」
「君は・・・・」
「必要なことは君の仲間が揃えてくれるだろ。さ、帰った 帰った」
あっさりと追い出されてしまった。
一人っきりの部室に二人分の声が聞こえた。
『いいのか?また噂が広まるぜ?』
「いいよ、別にな」