究極のズボラ環境は、図らずも「世界最高峰の研究所」へ進化する
エルンストにとって、生活の全ては「いかに動かずに済ませるか」という一点に集約されていた。
その執念が、図らずもオーパーツ級の魔導具を次々と生み出していたのである。
「……メルティ。洗濯機、回しといて。……あ、洗剤入れるの面倒だから、汚れそのものを『無』に帰す設定で」
「了解です。……ついでに、この前エルンスト様が作った『全自動・次元消去型ゴミ箱』、あれ凄すぎませんか? 王都のゴミ問題を一瞬で解決できるって、魔導技師ギルドが泣きついてきましたよ」
エルンストが「ゴミ捨て場まで行くのがダルい」という理由だけで開発したそのゴミ箱は、投入された物体を原子レベルで分解し、純粋なエネルギーへと変換する究極のエコ装置だった。
さらには、エルンストが「部屋の掃除が面倒」と嘆いて生み出した『自動掃除魔法』は、病原菌やウイルスすらも検知して消滅させるため、隠れ家の中は世界で最も衛生的な空間になっていた。
「……へぇ。……あれ、ただの空間投棄なんだけどな。……まあ、お金が増えるならいいや」
エルンストは、魔法の手が運んできた特製ドリンクをストローで啜りながら、通帳の数字を眺めた。
もはや彼は、寝ているだけで国家予算レベルの富を生み出す「動かない経済の心臓」となっていた。王国の最新鋭ゴーレムも、通信技術も、全てはエルンストが「動きたくない」と願った結果の副産物なのだ。
「……ねぇ、メルティ。これ以上お金が増えても、管理するのが面倒じゃない? ……数字が増えるたびに、目が疲れる」
「……贅沢すぎて、かつての私ならビンタしてるところですよ。……では、このお金で『隠れ家の周囲千キロを私有地にして、誰も入れないようにする権限』を買い取りましょう。そうすれば、勧誘も視察も物理的に不可能になります」
「……名案だね。……じゃあ、手続きは全部王宮に丸投げして。……僕は今から、瞬きの回数を秒間ゼロに抑える修行(昼寝)に入るから」
世界最高の頭脳が、世界で最も無意味なことに使われる。
だがその結果、王国の技術は数百年の進歩を遂げ、人々の暮らしは豊かになっていくという、奇妙なパラドックスが起きていた。




