一歩も歩かずに視察を乗り切るための「ホログラム影武者」運用術
あまりに高額な報酬と、毎週のように届けられる高級スイーツ。
これに対し、王宮内でも「本当にエルンストはそんなに危険なのか? 実はもうボケているのではないか?」という懐疑的な派閥が声を上げ始めた。
ついに、疑惑を抱いた頑固な監査官たちが「抜き打ち視察」を行うと通告してきたのである。
「……あー、面倒くさい。対応するのも、座るのも、ましてやコタツから出るなんて、魂が剥離するような苦痛だ」
エルンストは枕に深く顔を埋め、この世の終わりかのような溜息をついた。
「メルティ、彼らが入ってこないように、玄関の前に落とし穴(異次元行き)作っていい?」
「……ダメですよエルンスト様。監査官を消したら、来月の報酬が振り込まれません。……仕方ありません、私の『幻惑魔法』と、あなたの『投影魔法』を組み合わせて、影武者を作りましょう」
エルンストは渋々、指先を数ミリだけ動かし、庭に精密な魔法陣を展開した。
【全自動・虚像投影魔法】
直後、隠れ家の庭には、黄金のオーラを全身から放ち、周囲の空間を歪ませながら空中浮遊する「伝説の魔導師エルンスト」の幻影が出現した。
そこへ、武装した視察団が到着する。彼らは、伝説の男の衰えを確認し、あわよくば報酬をカットしようと息巻いていた。
だが、門をくぐった瞬間、彼らは足を止めた。
宙に浮くエルンスト(の幻影)が、冷徹な瞳で彼らを見下ろし、低く響く声(あらかじめ録音されたエルンストの寝言を加工したもの)で告げる。
『……愚か者が。我が瞑想を邪魔するな。死にたい者から一歩前へ出ろ』
その瞬間、コタツの中で本物のエルンストが寝返りを打ち、誤って放出された魔力が、上空の雲を一瞬で真っ二つに引き裂いた。
「ひ、ひぃぃぃ! 空が割れたぞ!」
「見てください! あのオーラ! 触れただけで魂が削られるようだ!(実際は、エルンストの「脱力結界」が漏れているだけ)」
「報告書の内容を訂正だ! 彼はもはや人間ではない! 神に等しい破壊の化身だぁぁ!」
視察団は、一分と持たずに腰を抜かして逃げ帰っていった。
「……よし、帰ったね。……メルティ、視界から人間が消えたから、今のうちにチョコ味のケーキ、持ってきて」
「……はいはい。……エルンスト様、今の雲を裂く演出、最高に格好良かったですよ」
「……演出じゃない。……ただ、寝ぼけて魔力が漏れただけ。……あー、魔力使うと眠くなる……」
伝説の魔導師は、世界を震撼させた自覚など微塵もなく、再び深い眠りへと落ちていくのだった。




