お風呂に入るのも面倒なので、魔法で「洗浄」と「リフレッシュ」を済ませた結果
「……あー、髪がベタつく。そろそろお風呂の時間か……」
エルンストはコタツの中で、この世の終わりかのような溜息をついた。
彼にとって「風呂」とは、服を脱ぎ、体を洗い、乾かし、また服を着るという、あまりに工程の多い「重労働」だった。
「歩きたくないし、濡れたくない。……よし、解決しよう」
彼は指先で空間に数式を描いた。
次の瞬間、彼の体を淡い光が包み込む。
【全自動・概念洗浄魔法】
それは「汚れ」という概念だけを別次元に飛ばし、ついでに「湯上がりのサッパリ感」と「シャンプーのいい香り」を直接脳に書き込むという、衛生観念を根底から覆す禁忌のズボラ魔法だった。
「ふぅ、サッパリした。服も魔法で編んだ『形状記憶型・自動装着ローブ』に切り替えたし、これで一ヶ月は動かなくていいな」
その頃、隠れ家の門の前。
ついに王国の最終兵器、聖女メルティが降臨していた。
彼女は「脱力結界」の中にいた。
「……やる気が……消えていく……。眠い……帰りたい……」
さすがの聖女も、膝をつきそうになる。しかし、彼女は宰相にかけられた「洗脳の呪い」により、無理やり体を動かされていた。
「……任務、遂行……。エルンスト・ラズロ……殺す……」
意識が朦朧とする中、彼女はついに玄関の扉を開けた。
そこには、コタツでブドウを食べながら、神々しいまでの「清涼感」と「いい匂い」を放つエルンストがいた。
(——な、何……この人は……!?)
メルティは衝撃を受けた。
数ヶ月は引きこもっているはずなのに、エルンストの肌はツヤツヤで、髪からは高貴な花の香りがし、服の一枚まで塵ひとつ付いていない。
(……この人は、戦いの中でも「清廉さ」を失わないというの? 私がこんなに泥にまみれて、必死に結界を突破してきたというのに、彼は……一点の曇りもない笑顔(実際はただの寝不足)で私を見ている……!)
「あ、誰? 泥だらけだよ。……あー、掃除するの面倒だから、そこから動かないで」
エルンストがパチンと指を鳴らす。
瞬間、メルティの全身に『概念洗浄魔法』が直撃した。
「……えっ!? ああぁああ……っ!?」
一瞬にして泥が消え、髪はサラサラになり、体からはローズの香りが漂う。
おまけに「最高級の露天風呂に三時間入った後のようなリラックス効果」が、彼女の脳を直撃した。
「……ふわぁ……。なにこれ……。戦うとか……どうでもよくなっちゃう……」
あまりの気持ちよさに、メルティの手から魔剣がポロリと落ちた。
洗脳の呪いすら、「風呂上がりの快感」の前には無力だったのだ。
「……ねぇ、君。そんなところで突っ立ってると、湯冷めするよ。……こっち、入りなよ」
エルンストがコタツの端をポンポンと叩く。
メルティは、抵抗する理由を完全に失っていた。




