十三年の空白。
僕には過去が無い。いやもっと正確に言えばあったのだが、失くしたのだ・・・・・
満月の好きな女の子が居た。その子と僕は恋愛していたのだが、全てを失くした・・・
もともと僕は調子に乗りやすい性分だった。それの矯正にかなり時間がかかった。全ては矯めなおされ満たされ、魔女は夜に微笑み、時計は、無残に時を切り刻む。
美しい満月の晩、彼女はこう言った。
「あなたとはもうこれきりで・・・・」
それでおかしくなった僕は記憶を失なった。今から十三年前のことだ・・・・・
人が生きていくのには、色々な理由が必要だ。理由も無しに、ただ生きている人などいない。皆、切実な理由を求めて生きている。切実な愛を求めて生きている人はたくさんいる。
街でたくさんの人たちが右に左に歩いている。その中に愛を求めている人はどれほどいるのだろう・・・・・
あれから十三年が経った。
僕は、相変わらず彼女を失っている。
「それでその話のつづきは?」
そうバーテンダーが問うた。
「いや、記憶を失くした僕は、自分を取り戻すのに、十三年かかった・・・・そうしてその女の子は九州の方へ行ってしまった。僕は相変わらず連絡できない。」
「取り戻す気はあるの?」
「いや・・・・・・」
「君は、もう違うルートに入ってるんじゃない?」そう香織ちゃんが言う。
「・・・・・・・・」
「十三年の月日は、二人を遠ざけてしまった。二人が出会うまでには、あと百年はかかるよね・・・・」
「・・・・・・・・」
「まあ、君のことだから、忘れていると思うけれど・・・」そうバーテンダーが言う。
「チェックで」そう僕は言って店を出る。
街は不穏な空気だ。囚われ人も、まだ少しいる。
この先どうなることか・・・・・僕にも分からない。
『一番大切な物はなに?』
僕はその問いに答えなかった。
彼女に、一目会いたいが、とても遠いところに居る人だ。そうして僕のことなども忘れているのだろう・・・・・・
歯車は回る。僕もどう立ち回っていくことか・・・・・・・
はあ・・・どうなることやら・・・・




