東方想系譜 ~打上弾幕の変~
ここからは幻想郷内部で起こる日常や異変について書いていこうと思います。前回までが「章」で、今回からは「変」になります。「章」は長すぎるあらすじというような感じですかね。
「よし。じゃあみんな行くよ!」
菫が手を振る。竹林の奥から『いいよ~』という声が聞こえた。
「獣の型・空間認識」
片膝を着き、目を閉じる。両の掌を左右に向けて制止する。
「…右にてゐ(い)。左に妹紅。後ろにイナバ。正面に輝夜様」
手を降ろし、菫は隠れている四名の名前と位置を述べた。
「すごい! よくわかったね」
「記憶の中にあった技を僕流にアレンジしてみたんだ。てゐもやってみる?」
―因幡 てゐ(い)―
飛び跳ねる幸運の素兎。地上に住まう兎のリーダー。
「無理だろ。お前さんでやっとできるような芸当だ」
「そうかなぁ。でも妹紅ならできそうだよね」
―藤原 妹紅―
不死身の竹林案内人。蓬莱の薬を飲んだ不老不死の人間。
「私は能力と併用すればできそうな気もする」
「確かに。波長だもんね。イナバはやってみる価値ありそう」
―鈴仙・優曇華院・イナバ―
狂気の月の玉兎。月からやってきた月の兎。
「便利な技ね。ここじゃ誰がどこにいるか分からなくなっちゃうもんね。イナバが持っててくれると助かるかも」
「やっぱり輝夜様もそう思いますか? じゃあ私やってみます」
「あ~ごめん。紫様に呼ばれちゃった。また今度教えるね」
「え? 残念。じゃあ独学で少しやってみようかな」
「それもいいね。では輝夜様。失礼します。みんなもまたね」
菫が竹林へと消えていく。その背中に手を振って見送った後、輝夜は指示を出す。
「じゃあ始めるわよ。準備を進めてちょうだい」
「本当にやるのか?」
「えぇ。紫にも協力してもらってるわ」
「妹紅は心配し過ぎなんだよ。久々に楽しそうなんだからさ」
「てゐの言う通り! 思いっきりやろう!」
イナバとてゐが拳を振り上げる。その様子を見て妹紅は溜息をつく。
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満月がいつもより大きく見える。永遠亭に居る間に夜になってしまった。
八雲家へ空を飛びながら向かう。紫様から呼ばれるのは久しぶりだ。例の異変解決の宴会からもう随分と時間が経った。幻想郷も今は平和が続いている。その状況での呼び出しということは、何かあったのかもしれない。
「ちょっと飛ばそうかな」
菫は速度を上げて八雲家へと飛翔していった。
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「帰って来たわね」
「遅くなりました」
上下左右の概念が捻れ、いくつもの部屋が階段でちぐはぐに繋がった空間。その一室に紫、藍、橙、菫の四名が集まった。
「おかえり~」
「では始めます」
橙の隣に座り、藍と目が合うと藍が立ち上がってテーブルの上に巻物を広げた。
「八雲家引っ越し計画について、今日からは菫にも参加してもらう」
「え? 引っ越しするんですか?」
「そうだよ。紫様がそういう気分なんだって~」
「はぁそう。で、どちらに?」
藍が巻物に書かれている幻想郷の地図の一点を示す。
「妖怪の山…ですか?」
「えぇ。よくあそこの温泉に行くのだけど、なんだったらもう近くに住んじゃおうと思ってね」
「そう…ですか。ですが、いつものようにスキマで移動すれば…」
「それは私もすでに尋ねたが、それでは雰囲気が無いとのことだ」
「雰囲気…」
「具体的な位置は、温泉の裏にある岩山の頂上だ」
藍が巻物を閉じて椅子に座る。
「それで移動方法なんだけど、スキマだと上手くできないから菫にやってほしいの」
「構いませんが、時間がかかりますよ?」
「いいわ。それまではのんびり待ってるから」
菫は他の二名の方を振り返る。
「藍様もですか? 橙は?」
「わたしはいつも通り妖怪の山。藍様は紫様と一緒~」
「あぁ。私もここだ」
藍が橙の頭を撫でる。眠そうに顔を伏せているが、橙の尻尾は左右に揺れている。
「引っ越しの件については分かりました。移動はいつにしますか?」
「もう夜だし、明日にしましょう」
「分かりました。おやすみなさい」
寝室へと向かう紫に藍も同行していった。
「妖怪の山まで送ろうか?」
「ううん。今日は菫と一緒に寝る」
橙に手を引かれ、菫も自分の寝室へと向かった。
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「じゃあ永琳。お願いね」
「かしこまりました」
―八意 永琳―
月の素晴らしき頭脳。輝夜と同じく蓬莱の薬を飲んだ罪人。
永琳は弓を構え、空へ向かって一本の矢を放った。その矢が雲を突き抜けた先で分裂し、幻想郷の各地へと降っていった。
「これで大丈夫です。明日は予定通りに動くと思われます」
「ありがとう。じゃあ明日に備えて今夜はもう寝ましょう」
「はい。姫様」
輝夜に突き従い、永琳も永遠亭へと戻った。
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日の出によって幻想郷が照らされ始める。その陽光を感じて菫が目覚めた。
「…おはよう」
隣で丸くなって寝ている橙。太陽。そして幻想郷に挨拶をする。
『みんなが起きるまでは待った方がいいかな』
寝室を出て廊下を右に曲がる。ここは八雲家の居住部分。昨日のちぐはぐの空間は、紫が作り出した八雲家の裏とも言える異空間。畳が敷かれ、こたつが置いてある今へと入る。
「ん~寒い」
まだ雪は降っていないが、幻想郷はすでに冬に突入している。弟と戦ったときは紅葉が綺麗だった。時間が進むのが早い。
「外だったら秋なんてもうないもんな」
「そうか。だから最近は四季がはっきりしてきたんだな」
「あ、藍様。おはようございます」
寝巻姿の藍がこたつに入ってきた。まだ眠たいのか、目を閉じている。
「やっぱり妖怪でも、動物みたいに冬は冬眠とかするんですか?」
「ん? あぁ。眠くはなるが私はしないな。紫様は一週間ほど眠られる時がある」
尻尾で体を包んで暖を取っている。羨ましい。
魂と同化してから、人間の頃の感性が戻ってきた。以前は無かったあの尻尾を触りたいという欲望との格闘が、日ごろから行われている。
「そうなんですね。あぁそれと、引っ越しはみんなが起きてからにしようと思います」
「いや、待たなくていい。日が昇ったらもう始める」
「わかりました」
幻想郷には時計が無い。みんな太陽で感性を合わせている。これに慣れるのは時間がかかった。
「お茶入れてきますね」
「熱めで頼む」
こたつから出て台所へと向かう。この体になっても寒さや暑さは感じる。一旦、靴下を履くために寝室へと戻った。
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「じゃあ始めますね!」
「えぇ。いいわよ~」
紫様が手を振るのが見えた。印を結んで結界術を発動する。
「引っ越し専用・空間結界」
八雲家を下の地面ごと立方体の結界で切り取った。続けて陣を発動して結界内部の揺れを最小限にする。妖術で結界を張り、霊術で安定させる。菫ならではの芸当。
「では移動します!」
妖怪の山へ向かって移動を始めた。幻想郷の北東から中心への移動。それなりに大変な作業。
『集中…集中…』
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「みんな集まったな。それぞれ位置についてくれ。一応私が仕切ってはいるが、始まったら各々好きに動いてもらって構わない……こんな感じか?」
菫が結界の維持と移動に気を取られている間に、下では着々と準備が進められていた。
「いい感じよ妹紅。輝夜様がもうやっていいって言ってたから、合図しちゃおう」
「分かった。イナバも位置についてくれ。よし! それじゃあ始める。まずはみんな一斉に!」
妹紅が全身を炎で包んで上空へ視線を向ける。それに続いて周囲にいる多くの妖怪たちが力を溜め始めた。
「準備は良いか!?」
「いいよ~。早くやろう!」
てゐも妖気を溜めながら満面の笑みで応えた。
「よし! じゃあ撃て!!」
妹紅の合図とともに大量の弾幕が空へ放たれた。その先にあるのは――
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「なんだ? 何か……下か!?」
菫が下を見ると、とてつもない量の攻撃がこちらへ向かって放たれていた。
「ミルキーウェイ!!」
魔法を唱えて攻撃を防ぐ。
―ミルキーウェイ―
魔理沙の技。天の川のように弾幕を張り巡らせて面で攻撃する技。菫はこれを防御として発動させ、攻撃を攻撃で相殺しようとした。
「防ぎきれないか…」
数と威力がバラバラだ。自分と屋敷を高速で移動させながら避ける。
「便利だから使っちゃうね」
菫は印を結び、例のあれを発動する。
「魔法版・ブレインフィンガープリント」
本来は妖術だが、今は結界の維持に注いでいるため使えない。魔力で代替する。移動と相殺を同時に行えるこのスペルは、現状では最適解と言える。
菫は菫、屋敷は屋敷でそれぞれ光玉に触れるたびに消えて爆発のたびに出現する。
「ほんとに何が起きてるの?」
下から打ち上がり続ける弾幕を見て、菫は頭を抱えた。
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「始まったわね」
「揺れませんね。さすがは菫」
「外見てきてもいいですかぁ?」
こたつで温もりを感じながら、八雲家の皆様は菫の奮闘開始を感じ取った。
「いいけど、結界から出ないようにね。菫の負担が増えるわ」
「はぁ~い」
橙は襖を開けて、外へと走っていった。
「なんで開けっ放し…」
藍はしぶしぶこたつから出て、橙が開きっぱなしにした襖を占めた。
「どうせなら寒さも遮断してくれればいいのに」
「そんな余裕ないんでしょ。野蛮なのが下から憂さ晴らしを撃ち込んできてるんだから」
「紫様もよく賛成しましたね。永遠亭の者からの提案があった時は驚きましたよ」
「もっともだと思ったからね。あれらがあんな終わり方で満足するはずはないと、藍も思うでしょ?」
永遠亭もとい輝夜からの提案は、先の異変で戦いに参加した力のある妖怪たちは発散が十分にできておらず、鬱憤が溜まっている。そのため発散の場を設けるべきだというもの。
「だとしてもです。何も屋敷を狙わせなくても」
「だってその方が面白いでしょ?」
提案を聞いた紫は、菫に相手をさせるようにするといったがそれでは何か物足りないということだったので、屋敷を守るという枷を背負った菫と屋敷に向かって弾幕を打ち上げるのはどうかという提案をした。
「万が一ということもあります。菫がとか、屋敷がとか」
「細かいこと言ってると何も進まないわ。萃香やレミリア達がそれで落ち着くならいいのよ」
紫は藍の隣へと移動し、尻尾に顔をうずめた。
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「スピア・ザ・グングニル」
「レーヴァテイン」
「投擲の天岩戸」
「大江山嵐」
威力が桁違いの四つの攻撃が打ち上げられた。
「鬼は体術自慢でしょ? このやり方はあまり好きじゃないんじゃない?」
「それもそうだがねぇ。思いっきりぶっ放すだけってものたまにはいいかと思ってねぇ」
「まぁ後で、萃香と私で菫と殴り合いに行くけどねぇ。レミリアも行くかい?」
「お姉さまも行った方がいいんじゃない? 体術派でしょ?」
「うーん。フランの言う通りね。確かにそっちの方が私は好きね」
―フランドール・スカーレット―
悪魔の恐ろしい妹。レミリアの妹で普段は紅魔館の地下で引きこもっている。
「よぉし勇儀。そろそろ一発かまそうかねぇ」
「そうしよう。デカいの行くか!」
鬼が二体構えた。その周囲にとてつもない量の妖気が集まっていく。
「フラン。離れるわよ」
「はぁい」
吸血鬼が二体その場を離れた。周囲の妖怪たちも慌てて逃げだした。
「「四天王奥義!!」」
鬼二体の妖力が、これ以上ないほどに研磨される。
「「一!」」
萃香は右拳、勇儀は左拳を突き出す。
「「二!」」
両者突き出した拳を引っ込めて、構えた。妖気が極限まで高まる。
「「三歩!!」」
大きく踏み込んで互いに空を見据える。
「必殺!!」
「壊廃!!」
二つの正拳突きが放たれる。その拳からは、先ほどまでの弾幕とは比較にならない量の妖力がぶっ放された。
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上空では、菫が若干の変化を感じ取っていた。
『来る量が減った?』
見える量、そして感じる量が明らかに減ってきている。
「今のうちに」
ブレインフィンガープリントを解除し、弾幕を避けながら移動を再開しようとしたその時。
「やばい!!!!」
一瞬の緩みの中から、強力な妖気が込み上がってくる気配を感じ取った。
「避けるのは間に合わないか」
安定させるための陣を解除し、迎撃のための力に回す。素早く印を結んで備える。
「アレか…」
すぐそこに見えて来た二つの高威力の妖力砲。全力の魔法と全力の霊術で対応する。
「A.B.フィールド全開ッ!!」
菫と妖力砲の間に、青色の円形のバリアが形成される。その円形の中に白い線で八角形がいくつも構築されていった。
―A.B.フィールド―
Absolute Barrier Field(絶対防御領域)。敵の干渉や攻撃を散らす防御スペル。
―ヒュゥゥバァァァァン!!―
バリアに妖力砲がぶち当たる。
「くっ…うぉおおお!」
着弾の衝撃で押されるが、気合で押し返していく。バリアの効果で散らされた妖気が周囲へ飛ばされていく。目の前は白い光で包まれていった。
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「はぁはぁ…ふぅ」
周囲に乱れた妖気が漂う中で、菫は下を見下ろしていた。
「これは…勇儀と萃香かな。威力が化け物だもん」
菫は左手に魔力を集めた。
「まぁ誰だとしても、やってきたからには一発喰らわないとね」
左の掌から空へ向かって火柱が上がる。
「見せてあげよう。僕の雷を!」
火柱を一本の棒状に変化させ、その中心部を掴んで構える。
「ソドムの炎雷!!」
凝縮された火柱が大地に向かって放たれる。周囲の妖気も巻き込んだその一撃は、先ほどの妖力砲に匹敵するほどの威力。
「異変解決」
菫はピースサインを下に向けた。
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空が赤く染まり、一点の強い輝きが降ってきた。
「あれは…なんだ?」
大の字に寝そべる萃香が呟く。
「分からないが、もう私は動けない」
妖力を全て放出した萃香と勇儀は、空からの裁きを前に動くことができなかった。
「お姉さま…」
「あれは無理ねフラン。私はあの運命に干渉できない」
遠く離れた場所で、フランドールとレミリアは一直線に伸びる火柱を眺めていた。
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「…やったわね」
「紫様。どうしますか?」
菫が結界の安定陣を解いたために様子を見に来た紫と藍は、菫が大地に攻撃を放った場面を目撃していた。
「あの子…しょうがないわね」
紫は目を閉じて溜息をついた。今しがた菫と目が合った際に、菫がこちらに向かって『お願いします』と頭を下げて来た。
「私を顎で使うなんて、いい子に育ったじゃない」
紫はニヤリと笑って指を動かした。
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「今度はなんだ?」
萃香たちの眼前にスキマが展開される。火柱は吸い込まれるようにスキマへと入った。
「ふぅ。助かったねぇ。あれは本気でヤバかったよ」
「覚悟しちまったよ。後で菫と飲むのが楽しみだねぇ」
鬼は仰向けに倒れたまま力強く笑った。
「フラン」
妹は姉の方へ振り返る。
「近くへ行くわよ」
「どぉして?」
「運命がいい方へ転んだから。面白いものが見れるわよ」
吸血鬼は手をつないで裁きが下りかけた場所へと向かった。
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上空。菫のさらに上。スキマが展開されて先ほどの炎雷が出現した。
「来た! 即興必殺」
炎雷を相手に拳を構える。
「ゴモラの大火輪!!」
炎雷と拳が衝突した瞬間、互いに拮抗した妖気は周囲へと散る。その際、炎と雷が衝撃によって爆ぜる。
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「わぁすごーい!! 菫すごーい!!」
「橙。あまり近づくなよ」
「花火って中心で見るとちょっと怖いわね」
花火の中心地。八雲家の皆さんは炸裂する大花火を内側から眺めていた。
「いいねぇ。これで一杯やりたいが、まだ動かん」
「参ったねぇ」
「きれー! お姉さま!」
「ね。言ったでしょ?」
「撃ち返された時はビビったが、綺麗なもんを見させてもらったな」
「妹紅だって撃たれたら怒るでしょ? 一緒じゃない?」
「イナバがこの中で一番撃ってた気がするわよ?」
「てゐも見てた!! 輝夜様の言う通りですよ」
花火のずっと下。弾幕を打ち上げていた皆は、大花火を最高の位置で見上げていた。
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夜。宴会場にて。
「聞きましたよ紫様。僕を標的にしたのは紫様の案らしいじゃないですか」
「あら。何か問題がある?」
「大ありですよ。ビビりましたし、屋敷を落としたらどうしようとか」
「まぁまぁ菫。紫様はお前を信頼してのご決断をなさったんだ」
「そういう問題じゃ…」
今回の異変は『打上弾幕の変』として『文々(ぶんぶん)。(まる)新聞』に取り上げられた。主犯は紫と永遠亭。解決したのは菫。最大級の一撃で相手を威嚇し、その攻撃を使って大花火を咲かせたことによって異変解決に至った。
「菫! もっかい花火やって」
「おい菫! こっちで飲むぞ! 飲めないなんて言わないよなぁ?」
「菫! 今回は悪かったわ~」
皆出来上がってきた。これじゃ逃げられないな。
「今から行くよ!」
幻想郷の夜は長い。ましてや宴会があるならば、皆が満足するまで明けることはない。菫にとって二回目の異変解決。また一歩、防衛機構としての経験値を上げた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~まだまだ続くよ~
まだまだ続きます。




