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マリアンデール ~地味令嬢だったけど、記憶喪失になったらオソロシー女になったらしい~  作者: 翠川稜


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第13話 学院にも政治はある



「マリアンデール。学校で第二王子殿下とお近づきになっているのですって?」


 夕食時の会話で、義母がそう切り出した。

 家庭内の義母義妹の調教もとい再教育が完了が近い。

 なぜならば、今このアーチデール家のダイニングで夕食をとっているのは兄を除いた、父、義母、義妹、私という顔ぶれだった。

 使用人達が言うには、――屋敷の主人一家がそろって夕食を――そんな状態になったのは、義母と義妹がアーチデール家に入って数えるほどだったとか。

 この状態は私が義母と義妹の再教育の開始から続いている。

 料理長とキッチンメイド達は、揃ったディナーを作るという作業をようやくできたとこぼしているらしい。

 食事の風景の変化もある。

 グリフィスが言うには、こういう状態だと、常に義妹が父にあれ欲しいこれ欲しいとねだり、父がうんうんと頷き、わたしは蚊帳の外で、そんな私に義母と義妹がマウントを取っていたらしいが、今、この夕食は、そういった雰囲気はない。

 私はもっぱら義母の社交の報告を聞き、父に、義母の社交における予算について、父と打ち合わせたりしていたのだが……。

 今日の話題は義母が述べた冒頭の質問だった。


「第二王子殿下と親しく⁉」


 ぎょっとして声をあげたのはアーチデール男爵。

 その隣に座る義母は興味津々といった様子だ。

 ……こいつら……学院の政治をわかっていないな。

 このことを義母に漏らしたのは、義妹しかいない。

 私は青みがかかった鋼色の瞳を義妹に向けた。


「いえ、その情報は少し違います。私は現在、第二王子殿下の婚約者であるシーグローヴ公爵令嬢アデライド様と親しくさせていただいております。――シンシア」


 ビクウッと義妹は身体を硬直させる。

 私からの叱責がくると身構えたようだ。


「そろそろ、シンシアも学園内でのお茶会に参加してみるか?」


 義母と義妹の二人は顔を見合わせ、私を見つめる。

 しかし私は目の前のアーチデール男爵に視線を向けた。


「このことは、もう少し詰めたら報告しようと思っていた。アーチデール男爵。ベインズ家の子息は、私が復学してから、執拗にこちらにコンタクトを試みている。私ならばまだどうでもなりますが、学院にはシンシアもいる。この件グリフィスから報告が入っているはずですが?」

「いまだにあそこの息子はお前達に近づくのか⁉ ベインズ男爵家にはお前の怪我の為婚約解消の旨は伝えてあるし、正式なものになっている!」

「復学初日と比較すると頻度は減ったが、ままあります」

「わかった再度ベインズ家に通達し、ご令息の件を抗議しておこう」


 男爵の言葉に私は頷く。


「で、現状はまだ近づいてくる元婚約者だが、それを第二王子殿下が諫めてはくださり、お言葉をかけていただいているが……シンシア、この状態をどう思う?」


 私の問いにシンシアはキョトンと首を傾げる。


「え~王子様にお話しかけられるなんて、いいな~お義姉様、ずるい!」


 再教育中の義妹らしい発言だな。


「……そういう言葉か……男爵夫人、学院は小さな社交場だ。それに置き換えてみてくれ、こういう状況はどういう噂が出るか想像はつくだろう」


 男爵夫人に話を振ると、男爵夫人は黙り込む。

 最初の義妹の「ずるい!」に賛同していた男爵夫人の表情は、だんだん曇ってきた。

 男爵夫人は想像できているようだな。


「ではシンシア、お前が私の立場になった場合になって想像してみようか」

「はい?」

「金髪に翡翠色の瞳をした顔立ちの綺麗な女子生徒が、義姉の婚約者から言い寄られている」


 そこまで言うと、容姿を誉められた義妹はちょっと嬉しそうだ。

 アンもこの義妹も好きな絵小説と同じような展開だ。

 想像もしやすいだろう。


「そこを第二王子殿下が助けてくれる」

「え~ステキ~、絵小説みたい~」

「そうだな、お前やアンが好きな絵小説みたいだな。その絵小説の展開のように、王子とお前が親しくなると、どうなるかな?」

「……えっと、そうなると、定番だと、王子の婚約者のご令嬢がその状態をよく思わないわね、それであたしに文句を言ってくるの、でも、王子様は庇ってくれる」


「そうだな、だがそこまで行くと、現実と絵小説は違ってくる」


「え?」


「現実は圧倒的に高位貴族である婚約者、そしてその実家、建国以来からの由緒正しい公爵家を敵に回すほど、この国の貴族達はバカじゃない。だって公爵家だ。王族に連なりこの国の政治、経済、外交、内政に深く食い込んでいる。王権に近い場所にあるということは、王にもなりえるのだ。公爵家にも継承権があるだろう? そういうことなのだよ。アーチデール男爵家も財力だけならあるが、それだけだ。シーグローヴ公爵家の権威人脈はこの家よりも遥か上だし、財力だって貧乏貴族とは違う。広大な領地を持ち潤沢な資産もある生粋の貴族だ。低位貴族になったばかりのアーチデール男爵家の台頭をよく思わないものが一気に団結して、シーグローヴ公爵家に協力するだろう」


「……え、そこまで?」


「そう。低位貴族のご令嬢と王子様の恋物語は絵小説の中で十分なんだと、みんなわかっている。大きな戦争もなく周辺国よりも豊かなのは王家の力のみあらず、王家を支える公爵家などの高位貴族の力も大きい。だからこそ、王家は第二王子の婿入り先をシーグローヴ公爵家に指定したのだよ」


 義妹は義母を見ると、過去に高位貴族との社交でさんざんやられた男爵夫人はしみじみと頷く。

 もちろん、このアーチデール家を男爵位にまで押し上げた当主も頷く。


「現実では、下手に王子殿下がお前に言い寄ったり、関わってくるとシーグローヴ公爵家が敵に回り、うちが没落する」


「いや! 王子様メンドクサイ!」


「だろう? 身分差のあるハッピーエンドの結婚は、物語の中だけだ。だが――……例外がないわけではない。相手は王子様ではないが、身分差を超えて結婚までこぎつけることはある。それを成しえた人がお前の目の前にいる」


 義妹ははっとして義母を見つめる。


「男爵夫人の成功は、周辺をよく観察して情報をよく集め、そこから起きるメリットデメリットを上手く取捨選択した結果だ」

「お母さますごい」

「その男爵夫人と男爵、そして私が、お前に相応しい結婚相手を選ぶと言っただろう? どうしても王子様がいいのか?」


 どうしても王子がいいと言ったら、用意してやる。

 ただしこの国の王子じゃない。

 アーチデール家の商売と、この国に利があって、お前好みの王子がいる国に送り出す。

 多分その際にはアデライド様のお力をお借りすることになるとは思うが。


「いいわ。なんかめんどくさくなっちゃった~。現実は違うのね」

「そうだ、現実は違うぞ。それに実際、絵小説のように学院内で虐められたら、ダメージは大きいぞ」

「え~確かに~それはヤダー!」


 義妹はデザートのクリームブリュレを口に運ぶ。

 これで王子様と親しくてズルイはなくなるな。

 そして義妹ははっとしたように私を見る。


「で、学院のお茶会って⁉」


 話をそこに戻したか。


「ベインズ男爵令息、第二王子殿下を上手く逸らしてくれる人物――シーグローヴ公爵令嬢アデライド様からのお誘いだ。素晴らしいお方だぞ、お茶会のマナーを今一度、グレンダと男爵夫人にみてもらうといい。日程はまだ先だから準備は入念にな」

「お茶会……」

「すごいわ。やっぱり学院は高位貴族も通ってるだけあって、社交場なのね。シンシア、頑張るのよ」

「はい」


 うん、男爵夫人は考えているな。

 別にこのアーチデール家にリスク満載の王子を狙う必要はないと。

 さっきも言ったように、王家に連なるシーグローヴ公爵家との縁により、高位貴族の子息と縁談が近づくかもと思っているのだろう。

 そこはまあ、この義妹次第だが。


「男爵は今一度、ベインズ男爵家に通告してほしい。学院内ではアデライド様のご助力で奴を封じている。ご助力いただいたアデライド様にはお礼を差し上げたいと思ってるので相談にのってほしい」

「そうだな。後ほど執務室にくるように」


 男爵の言葉に私は頷いて、クレームブリュレを口にした。




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