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マリアンデール ~地味令嬢だったけど、記憶喪失になったらオソロシー女になったらしい~  作者: 翠川稜


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閑話 反省したのよ、わたし(義妹シンシア視点)



 わたしがアンから本をとりあげて、それを諫めるマリアンデールを振り払った瞬間、マリアンデールは階段から落ちた。

 マリアンデール付きのメイドのアンは屋敷中に響くような絶叫をあげたから、みんなが一斉にわたし達のところへやってきて、階段下に倒れてるマリアンデールに駆け寄る。

 階段下に落ちたマリアンデールは頭から血を流していて、死んだかと思った。


「お嬢様! お嬢様!」

「やめろ、アン! 揺らすな!」


 従僕のグリフィスがマリアンデールに縋り付くアンを一喝していた。


「医師を呼べ! 旦那様に報告を! お嬢様を私室に運ぶ! 消毒液とハサミと包帯!」


 グリフィスの指示でメイド達がバタバタと動き出して……。


「抱き上げると振動でどうなるかわからない! 戸板で運ぶ、上にクッションを!」


 下男や小姓もバタバタと動き出して……。


 その様子を見て、マリアンデールは死んだかと思った。

 ピクリとも動かなかったし。

 わたし、人を殺したのかもと思って怖くて「わたしじゃないわ! わたし悪くない!」って何度も叫んだ。

 すぐさまお医者がきて、マリアンデールの容態を診てくれたけど、打ったのが頭でこのまま目が覚めないかもしれないと言ったのよ。

 この時はなんかほっとした。

 自分が殺したことにならなくて。

 そして四日後のお昼近く、マリアンデールは目を覚ました。


 でも、マリアンデールは何も覚えてなかった。


 頭を打った時に消毒の為に、お医者様がマリアンデールの腰まである長い髪を切ったのよ。家政婦長のグレンダや、側付きのアンがあんまり短くしないでなんて泣き喚くもんだから、お医者様だって苦労したはずだって、ジェマが言ってたわ。

 わたしのブロンドに比べたら、赤茶けた色の髪がちょっとぐらい短くなったからって、どうってことないじゃない。

 目が覚めたマリアンデールは、そんな短くなった髪を見て嘆くこともなく、いつもなら、おどおどしながらわたしとお母さまを見てるはずの、その青みがかった鋼色の瞳を、まっすぐわたし達に向けてきた。

 自分が人殺しにならなかったことに安堵したのもあって、わたしはいつもどおりに、マリアンデールがかまってもらいたいから記憶を失ったなんてと言ってやったら、あろうことかマリアンデールはわたしに近づいて、思いっきりわたしのドレスに吐いたのよ? 信じられない!

 こんなこと、絶対にマリアンデールはしない。

 でも、間違いなく、マリアンデールの顔……。

 だけど……その顔つきが、今までとはまったく違っていた。


「私よりも年下と見受けたからには妹でしょう。名前は思い出せないが。姉に対して呼び捨てにするような教育を施す家なのか、この家は」


 その口調も、態度も、わたしの知るマリアンデールじゃなかった。

 この日から、マリアンデールは変わってしまった。

 ちょっと横柄で怠惰な執事を解雇して、お義父様から、屋敷の全ての裁量をマリアンデールに一任するという書面をもぎ取って、従僕だったグリフィスを筆頭執事にして、ジェマを高位貴族の家に出向させて、あろうことかお母さまも懐柔したのよ⁉

 一体何をしたの⁉ 信じられない!

 おかげでわたしの習い事が厳しくなったわよ!

 逃げ出したい! 

 そんなある日、マリアンデールの婚約者のベインズ男爵家のフレッド様が訪ねてきてくれたのを、窓から見て、わたしは部屋から飛び出した。

 廊下に飛び出すと、マリアンデールが、グリフィスとアンを従えて、廊下を歩いてきた。

 きっとわたしとフレッド様を会わせないようにするためだって思った。

 フレッド様は、マリアンデールなんかよりも、わたしのことを好きって言ってくれたもの。

 だから悔しくて意地悪しているんだと思ったのよ。

 でも違った。

 婚約していたのは、階段から落ちる前のマリアンデール。

 記憶を失ったマリアンデールは、自分の婚約なんて、この時点ですでにお義父様に頼んで解消に動いていた。

 しかもベインズ男爵家の再調査までして。


「いいか、お前は、このアーチデール男爵家の商品(令嬢)だ。ベインズ男爵家程度の男に縁づかせるつもりはない。このことは、お前の義理の父親であり、このアーチデール男爵家当主の意向だ。男爵夫人、シンシア嬢によくよく言い含めておくように」


 この言葉で、マリアンデールが、この家の為にしか動く気がないのがわかるでしょうと、あとでお母さまに言われた

 だからすぐにお母さまはマリアンデールの言葉にうなずいたのよ。

 信じられなかった。

 あんなにマリアンデールのことを疎ましく思っていたお母さまなのに。


「なんで……なんで⁉ お母さま! なんでマリアンデールの言うことなんか素直に聞くのよ⁉ 信じられないっ!!」


「安心しろ、シンシア。この私と男爵夫人そしてアーチデール男爵が、お前に相応しい嫁ぎ先を探すからな」

「なんであんたが! あたしの嫁ぎ先を探すのよ! あんたが結婚して出ていけばいいじゃない!」


 そしたらマリアンデールはわたしが突き落として記憶がなくなったから、そんな不良品を外にだせないって自虐めいたことを言ってるのに、嬉しそうにこう続けた。


「私が婚約していたベインズ男爵家? 論外だ。あとで調査書をよく読めば、お前もちゃんと理解できる。ああ、今から楽しみだ。そうだろう? 会場は大聖堂を借りて、枢機卿クラスの司祭に祝辞をあげてもらって、お前によく似合うそれはそれは綺麗なウエディングドレスを仕立てて、もちろん隣に立つのは、若くてハンサムで将来性も抜群の男だ。夢のようだろう?」


 お母さまもその言葉に目を輝かせ始めてた。

 なにそれ、そんな条件のいい嫁ぎ先をお義父様とお母さまだけでなく、マリアンデールも探すの?

 何考えているの?

 どうしちゃったの?

 今までわたし、マリアンデールにひどいことしたのに。

 マリアンデールは覚えていないから?


 お母さまは今のマリアンデールは、お母さまやわたしにとっては邪魔な存在じゃないって説得し始めた。


「だからって、マリアンデールの思う通りにさせていいの?」


「あの子は、このアーチデール男爵家の繁栄しか、考えていないのよ。邪魔だと思うなら排除だってするわ。でも、アーチデール男爵家の為ならば、わたしもシンシアも大事にすると約束してくれたのよ。以前もわたしはあの子を排除したかったけど、今のあの子は違うのよ、ちゃんとわたし達の未来を考えて動いてくれてるのよ」


 わたしが以前とりあげたマリアンデールの実のお母さまの形見のアクセサリー、お母さまが預かってるけど、それ、前の執事がこっそり盗んで売ろうとしてたこともこの時に聞いた。

 だからマリアンデールが前の執事を排除したと。

 形見のアクセサリーは「アーチデール男爵夫人が預かるように」とお義父様から、お母さまに戻されたんですって。

 普通なら自分の母親の形見よ?

 惜しいとか思うはずなのに、お母さまに渡すなんてことしないでしょ?

 わたしならしないわ。

 今のマリアンデールは、お母さまやわたしの、想像もつかない考えを持って動いている。

 自分の婚約者の家の再調査をして、わたしに相応しくないと言うのもそう。

 怖い。

 怖いけど、なんだろう、お母さまが頼るぐらいの強さみたいなものが、今のマリアンデールにはあるのよ。


「わかったわ……でも、なんかすぐには、謝れないかも」

「優しく許す感じではないけれど、怒りもしないと思うわ。あの子の視点は違うから」


 視点が違う。

 それがどういう意味なのか、わたしにはわからなかった。

 学校に行くとき、マリアンデールに謝ったら、マリアンデールは「覚えてない」って、まるで本当の妹を諭すように「ちゃんと勉強して、へんな男には気をつけろ」とか言うし。


 なのに自分は、元婚約者のベインズ男爵家のフレッド様にからまれたのよね。

 傍にグリフィスがいたらしいけど。

 でも、ひどい目にはあわなかったみたい。

 第二王子殿下が助けてくれたんですって。


 なんか、わたしやアンが好きな絵小説にも、似たような展開のお話があるけど、庇われるヒロイン役がマリアンデール?


 なんか違う気がするけど。

 前のマリアンデールだったら王子様に庇われても、受け入れるだろうけど、今の何を考えてるかわからないマリアンデールは、どういう態度にでるかわからないもんね。


 でもちょっといいな。

 ちょっとズルイな。

 王子様や、王子様のお友達の人とお話できるの。


 階段から落ちて治療のために髪が短くなって、だから目立っちゃうんでしょって、マリアンデールに言われそうだから、本人には言わないけど。

 でも誰かに言いたい~。


 とりあえず学院で起きたことはお母さまにお話するから、このことを伝えようっと!




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