いやな婚約者
行き着いた先は「雪の牢獄」と呼ばれる極寒の城だった。馬車から降りるとそこらじゅう雪で真っ白。私は歯の根も合わぬほどガタガタ震えていた。
降り積もる雪の間からのぞくのは堅固な灰色の要塞である。
しばらく待っていると鉄柵の門が開いて女の人が出てきた。ごく若い女だ。背は低く、目は善良そうな空色をしている。色白で背が低く、全体的に器量のよい人だ。でも髪の毛ときたら、ちょっと気の毒になるくらい。にんじんのような髪色でチリチリだった。結んでなかったら、アフロのように広がって頭上で爆発してしまっていただろう。
「キャサリン嬢ですね?私、ポールの妹のフィーリアです。どうか中に入って。まあ冷たい手ですのね。こんな辺鄙なところまで長旅で冷え切ってしまったでしょう?兄は今休んでて出られないのですよ。来てください。姉のクラリッサが待っていますから」
フィーリアは早速キャサリンの手をつかんで、城の中へといざないながら言う。
この人となら仲良くできそうだ。明るい気持ちでそう思った。臆病そうに何度も目をしばたいているのは気になったけれど、これはこの人のクセなのだろう。ちょっと気弱なのかもしれない。
さて、クラリッサは暖炉の火のよく燃える、暖かい部屋で肘掛け椅子に座って待っていた。小太りの体に赤ら顔で平凡な主婦という感じだ。なんとなく赤かぶに似ているような……。
フィーリアが王妃だというのだから驚いてしまった。聞けば、弟のポール・アッシャーとキャサリン・トゥーチ嬢の縁談を取りまとめたのもクラリッサ王妃なのだという。
クラリッサはきつい目つきで振り向くと、型通りの歓迎の言葉を口にしてくれた。
花嫁衣装のことで盛り上がっていると、いきなり扉が開いて赤毛のガタイのいい男が倒れ込んできた。
フィーリアが蒼ざめてオドオドとする。クラリッサの目がますます吊り上がる。
酒の匂いが部屋中に広がった。男の薄青い、充血した目がこちらを見ている。
たぶんこの人が私の将来の夫、ポールなのだろう。
ちょっと信じたくなかった。魅力的とは言いがたい。背が高くって、顔の造作は悪くなく、肩幅だって広いんだけれど……。
フィーリアが慌てて「城を案内しましょう」と提案する。私たちはクラリッサと弟を残して居室を去った。
「まずまずの容姿だな。痩せっぽっちで子どもみたいだけど。新しい花嫁なんか要らないって言ったのに」
閉じた扉の向こうから軽蔑したような声が聴こえる。
「ポール、そんなこと言わないで。言ったでしょう、あなたは大酒飲みで破産しかけているわ。一人でいるべきじゃないの。ダリアのことは忘れなさい。それに四人の子どもたちにも母親は必要でしょう?」
私はフィーリアの蒼ざめた顔を意味もなく見つめていた。ダリア?前妻?愛人?破産しかけてるですって?四人の子どもたち?
言ってなかったけれど、私は子どもが苦手なのだ。凶暴で、無遠慮で、傷つきやすいあの不思議な生き物たちが。お酒の匂いだって大っ嫌い。ベッドを分けることってできるのかしら。
前途多難、ということだ。だらけている場合じゃなかった。




