列車内風景その1
(レンガ造りの駅に張り紙が張ってある)
どんな事件も一週間で解決!凄腕探偵!お電話は××の××まで!
(その張り紙の前を、美しい銀髪の青年が通りすぎた)
(青年はその肩にカザリア99を担いでいた...。)
ポォーーーッ!
甲高い汽笛と共に、汽車が駅から滑り出す。
汽車特有の匂いが、俺の鼻を刺激した。
ふと窓の外を見れば、景色は駅から穏やかな田園地帯へと移っていった。
「いい眺めだなぁ」
ふと、そんなことを呟いてみる。
館から抜け出してはや5日。今ごろあいつらは俺のことをすっかり忘れてしまったのだろう。
そんなことを考えつつ、窓の外を見つめていた。
そのときだった。
「きゃっ!ちょ、ちょっと!なにするのよ!?」
「へへ、暴れんなよ、暴れんな...」
「...」
わーお、何だあいつは...。
いかにもな筋肉質なチンピラが、少女の腕をしっかとばかり掴んでいた。男は、顔に薄ら笑いを浮かべていた。
女性相手にこうも大きく出るとは、随分と勇気のあることだなぁ。
「ちょ、ちょっとあんた!ボケッと見てないで助けなさいよ!その肩に担いでいるモノは何なのよっ!」
「...えっ。」
驚いた、助けを求められたぞ。そうかそうか、彼女はあれが嫌なんだな。
そうと決まれば助けてやる他あるまい。
見れば、周りの席は皆空席だった。
俺は、全幅の信頼を置く愛銃を取り出すと、いつでも発射可能な状態にした。
近頃の世の中は物騒だ。魔王が復活したとか、どことどこの国が戦争を始めたとか、そんな情報で溢れている。
だからこそ、人々は大抵の場合何かしらの武器を持っている。
今でこそ少なくなったが、剣や、弓や、槍などを携帯している。
まあ最近はもっぱら銃な訳だが。
とまあ、以上が俺が銃を持ち歩いている理由だ。
「やい、男。」
「ああん?なんだ、テメェ。やんのか、オイ。」
「...いや、他人の為に傷つく気はないが。」
「...そ、そうかよ。...で、何の用だ?」
「うん、そこのお嬢さんを放してあげてほしいのだが。」
「ふん、やだね。」
「...そうか。」
...どうしようか...そうだ。
「やい、女。」
「お、女って何よ!いや、事実だけど!」
「貴様は、どうしたい。」
「え。」
「貴様は、どうしたいんだ。」
「...そりゃあ、あんたにこいつをどうにかしてほしいけど...」
「うん、そうか。ではーーー」
ピンポンパンポーン!
まもなく 次の駅に到着します。
まもなく 次の駅に到着します。
「やっべ、俺ここの駅で降りなきゃなんだった!」
「...?」
ガシャン、コン、プシュウウウウ...
「じゃーな、おめーら!ねーちゃんすっげぇ美人だからよ!もっと自信持てよな!」
そういうと、チンピラ男は汽車を降りていった。
「...なんだ、アイツ。」
「...ほんと、ね。」
俺はそう言ってから、その少女の方を向いた。
ちょうど、その少女もこちらを向いたところだった。
俺たちはそのままクスリと笑いあった。
良く見ると少女は、とても可愛かった。
そして笑った時の顔は、よりいっそう可愛かった。
俺たちはそのまま汽車に残っていた。
「さっきはありがとうね。あのまま声をかけてくれなかったら私も一緒に下ろされるところだったわ。」
「なに、気にしなくていいとも。」
「...さっきから思ってたんだけど、何で話し方がちょっと古風なの?」
「...? 別に普通だろう?」
「...そう、なのかしらね。」
少女が呟いた時だった。
ガラッ!
「ブラアァボオォーー!」
なんだなんだ、変なやつが出てきたぞ。
「青年よ、よくやった!君の勇気を称えよう!」
「えっと...」
良くわからないのでじとっとした視線を送ってみる。
「いや失礼!私は探偵をやっているものでね。先ほど君らが揉めていたので飛び出すタイミングを窺っていたのだがーーーいやはや、その必要はなかったようだな! 君らは同じ年代に見えるが、もしかして知り合いかな?」
「いや、初対面だ。」
「そうかいそうかい! しかし君らはーーーその、随分と『お似合い』だね!」
ボッ!
「な、なな、何言ってるんですかあぁぁっ!」
「はっはっは!悪かったな、助手くん!」
...なるほど、こいつらは知り合いか。
「その表情ーーーなんとなく察したという表情だね。その通り、彼女は私の助手さ!」
「え、ええ、そうです...」
「...その助手の顔が真っ赤だがーーー調子でも悪いんじゃないか?」
「そ、そんなことないわよ!!」
「いやあ、ちょうど依頼を受けた帰りだったんだがーーー私がちょっと目を離した隙に...。どうだい、きみ、ウチに来て紅茶でも飲まないかい?」
「まあ、別に良いぞ。時間はいくらでもあるからな。」
「そりゃあ良かった!さ、私の事務所は3つ先の駅だから、それまでゆっくり話でもしようじゃないか。...ところで君の銃、とてもイカしてるね。なんて名前だい?」
「これか。これはカザリア99といって...」
...こんな感じで話を続けていた。
その間、少女はずっと無言でうつむいていた。
心なしか、顔が少し赤いように見えた。
...あのチンピラ、今ごろどうしてるかなぁ。
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一方その頃、館では...
「良く探せ!」
「向こうは探したか?」
「ああ、でも見つからなかった。」
ワーワーワーワー。
(豪華な部屋)
「くそっ...どこへ...どこへ行ったんだ...!」
私は頭を抱えていた。
5日ほど前から、私の弟の一人が姿を消したのだ。
現在、ほぼすべての人員を動員して捜査に当たっているが、何一つ手がかりはなかった。
「よりによって父上が居ないときに...!」
そして、一番の謎は、誰も弟の名前を覚えていなかったことだ。
みな、弟の仏頂面は覚えているが、名前は誰も思い出せなかった。
思えば、小さい頃は良く笑っていた弟が、最近はほとんど笑った記憶がない。
こんな近くにいながら、気がつけなかったなんて...。私は兄として失格だ。
しかし、皆が名前を忘れようと、私は覚えている。
「ごめんよ、_____...こんな兄でも、許してくれるかい」
(開かれた窓から吹き込む風によって、名前の部分は聞き取れなかった。)
今決めました、この作品ではなるべく人名を登場させません。皆様の自由です。
感想など、心からお待ちしてます!