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030 迎賓館/女装

26Wカップの権利を得ましたね、日本代表。

「何故、コクトーが出せたんじゃ?」

「ディープが半神になったからじゃない?」


神界は、数多くの問題児を抱えるにあたり、モダ別邸の三号店と四号店を作る事となった。

立地は統一神の直轄地である。

ただ、その距離は非常に、非常に離れている。

男神が居を構える三号店、女神が居住する四号店である。

なお、モダとは全く関りの無い二店舗であるが、今でも“モダ別邸”と言われるのは本人以外の反対票が無かったからである。

モダは知らなくても、モダ別邸は知っている。そんな天界の者もそれなりにいる。ほとんど屋号と化したのだ。


そんな天界でワシと統一神が呑んでいるのは、モダ別邸五号店、別名モダ別邸“新店”である。

実情は単なる迎賓館だ。

ワシの前世の天界と、ワシの今世の天界の会談が設けられる場所である。

名義上は統一神であるが、ワシに支配権がある。

そして、大体はバイセールとヘルメスと、アマテラスとツクヨミが呑んでいるところである。

トールもたまに来る。アテナは問題児として女子寮(四号店)の預かりである。


「ああ、パスの問題か」

「そう言う事。あちらに“こちらの神界を繋ぐ馬の神”が出た以上、彼に権限が生まれた、という事じゃないかな」

「娘を頼む、と言うのが条件付けとなった、ということじゃな?」

「おそらくはね」

ワシはカウンターの調理場に立っている。

統一神は対面でお客側に立っている。

「軟骨、お待ち」

「いただくよ」

神界のナンバーツーが焼いた焼き鳥を、ナンバーワンが小杯をチビチビ傾けつつ味わう。

これもまた、風流というものである。


「おう、やってるか! 大将!」

「帰れスサノヲ」

「いつもみたいに、スサで良いぜ」

さてさて、本番が始まるか。


「我は……」

「親父、いつもみたいに僕って言っても良いぜ? なあ、大将」

「ようこそ、イザナギ殿。……ところで、ご子息の頭に拳骨を落としてもよろしいか?」

「それはご勘弁を。……君は少し自重しなさい」

「ようこそ、イザナミ殿」

「お招きいただき、感謝いたします。ええ、息子の拳骨は私が落としておきます」

「げええ!」

「それは心強い」

こうして、日本最高神の接待にも使える仕様である。


「では、まずは乾杯といこうか」

ワシがホストを務めるのは、“最悪の場合、ナンバーツーを切り落とせばよい”と言うワシの進言からである。それを聞いたときのアルスは『好きにすれば』と言っていたので、まず間違いないだろう。

「こんなちっちゃな器か? 大将、一升瓶くれよ!」

「ロキも呼んでやるわい。勝手に飲んでろ」

「へ、言ってみるもんだな」

勝手に言っているがよい。

なお、ロキは来ない。


「よう、大将。指示通り」

「案内御苦労、ロキ。隣室で“先に”スサの野郎が呑んでる。一升瓶で頭をかち割るがいい」

「アイツを一升瓶ごときでやるのは無理でしょう。俺にも駄賃を恵んで下せえ」

「まったく……“ロゴ”一瓶、スサの親父さんもお袋さんもいるんじゃ、挨拶くらいはせい」


こっちの神が来れば、あっちの神も来る。

「ブダ殿も、なかなか大変なものですな」

「私はそんなつもりじゃなかったのに、という教義が分派していくのは非常に歯痒くはあります」

「弟子がなあ……」

「キリス殿もなかなかのようで」

「輸血禁止とか、俺のせいじゃないよ!? 俺の時代に輸血自体無いからね!? 異教徒排斥とか、そんなもの望んでないし!?」

「汝の隣人を愛せよ、が異教徒排斥とは実に皮肉よ」

「偶像崇拝禁止で、“偶像を祈る民族”を平らげよう、という解釈になったワシと同じものですな」

「分かりますよ! 非常に」

宗教勢は、同じようなところで愚痴というか、自傷トークというか。

病院で自分の病状でマウントを取り合う状況と似ているのだ。実に不健全である。


ある意味、健全であるのは武闘派である。

それはそうかもしれない。

勝ちか負けか、という絶対の基準があるのだ。

それはそれとして、『じゃあ今度、これやろうぜ』とヤダルがドラゴンなボールの漫画を片手に誑かしはする。

「ほう、天界一武道会か」

「場所はあるのか?」

「そりゃ、次官殿モモに丸投げよ」

「そりゃあ良いな! ヤツならどうにかするだろ!」

「時期的には、オリンピック後になるか」

「その辺りは忙しくなるだろうからな」

ワシもそこに混ざりたい。

凄くお酒が美味しそうな場所である。


面倒くさい事をするのは、芸事のヤツラである。

大抵の場合、戦神だの、何かの兼業で芸事を担っている連中である。

芸で負ければ「でも本業は武芸ですし」と言う。

武で負ければ「芸では負けていませんし」と言う。

ただ、ヤツラの頭を押さえるヤツが居るのだ。アテナである。最高の武芸神であり、最高の音楽神である。二刀流勢はアテナには文句を言えない。だから、別の所に文句をつける。

「ミューズに、勝てるんですか?」と。

音楽一本勢であるミューズは、文字通り“ミュージック”の語源となった神である。

「アテナ様には勝てません」とミューズが儚く微笑むと、

「クッ、これが女子力か!」とアテナもタジタジである。

女子力を知るとは、この世界の神も随分と俗物になったものである。


絶対に混ざりたくない一角がある。

美に絶対の自信のある女神たちがバッチバチにやっているのだ。

マウント、マウント。そして、マウント。

暗黒世界がそこにあるのだ。

「とてもじゃないけど、ついて行けないね」

と。女好きのゼウスがカウンターに逃げ込んだ時点でさもありなん、である。

そして、神が来るという事は。

悪神も悪魔も来るのである。

「わりいな、モモ。道に迷った」

「ここが、か」

「すまん、恩に着る」

サイはどれだけ、顔が広いのか。

将門マサカトとルシファーである。


「生の魚は食えるか?」

「おう!」

「サイには聞いとらんわ」

「サイが美味いと言っていた、ならば試すも一興」

「先に三つ、“ニホンシュ”、を出してくれないか?」

「ま、そうじゃな」


通しでクジラ煮である。

「「「旨い!」」」

「この透き通った水は、確かに酒だ」

「肉……? いや、魚か……?」

「やっぱ、モモが出す肴は一味違うね」

「調理神には無い味じゃな。ワシが呑んべえであるからのう?」

「聞き捨てなりませんね?」

立ち上がるは調理神である。

「私が、本当の料理を見せましょう」どう見ても酔っている。

「これ、どう思う?」とクジラ煮を差し出せば、一口啜る。

「何と粗野な」

「で、こいつに合うんじゃ」と、ギンマイ“ハルカゼ”を飲ませる。

「……なるほど、なるほど。私には、想像すらつかない味です」

よし、釣れた。この人数でワシのワンオペは、明らかなキャパオーバーじゃからな。

「今から、こいつらに寿司を食わす。切る方を頼めるか?」

「ハッハッハ、私が握っても良いのですがね?」こと、寿司に関しては包丁よりも握りが重視される。どちらも最重要技術であるが、一番は渡さん、という調理神のプライドじゃのう。

とはいえ。

「これを捌くのは、貴様の方が上手いじゃろ?」と七世シチセイ烏賊イカを取り出した。

ギラッと調理神の眼が光る。高速かつ的確に処理しなければ味が落ちる食材ナンバーワンである。

「なるほど、これであれば納得です」と、腕まくりするは調理神。

見やれ、神の技巧を。

その後も、包丁技が“メイン”となる食材を次々に出した。


「「「ああ……」」」

スシなる、切り身オンライスというストロングスタイルな料理を、至福の表情で味わうは悪神悪魔。

そのトップである。

一握り食えば、オチョコなる小さな器の酒を飲み干し、感嘆のため息だ。

直ぐにつぎ足し、あっという間にトックリが空になる。

「大将、お代わり」と、サイが言えば、重なる声二つだ。

その光景に、最初敵意を向けていた神々も、興味を隠せない。

あれは、どれだけ旨いんだ、と。

「バイセールさん、あれはどんだけ旨いん?」

「食べた方が早いでしょう」

ヘルメスはカウンターに向かい、バイセールは厨房の補助に向かった。


「なんやこれ……ッ!?」

たったの二貫。だが、その一貫目でノックダウンや。

バイセールはんに教わった通りに、端っこだけショウユを付けてパクリ。

口内に広がるは、甘さと酸味の極楽や。

それを、サケでグッと行けば、相乗効果のダム放流。

余韻の二貫目を味わえば、食べているはずなのに、更にお腹が空く。

次が食べたい、そう思ってカウンターを見れば、モモ殿が平皿を取り出している。

「白、鯛カルパッチョ」

人使いが荒いですなあ、次官殿は。

と言いつつ、よどみなくバイセールはんはテキパキと準備して、黄金の一皿を差し出して、「次官殿のサービスですよ」とグラスをコトリと置いてゆく。

……旨ああああああ!

ここに住むううううう!


この日、神界で“新店協定”が結ばれることとなった。

『問題を起こしたら、二度とここに来れなくする』とモモが言った。

誰が言ってんだ案件だが、胃袋を握られれば頷くしかないのだ。



「は? おい、今の発言、意図を答えよ。無言はワシへの敵意とみなす」


オリンピック直前特番。

要するにテレビで、ワシはブッチギレていた。


オリンピックチームのキャプテンは、ワシではない。

菱川という男である。ワシは、ヒシカワがキャプテンに相応しいと思っているし、放っておいてもそのうち世界の舞台に足を踏み入れるだろう、と思っている。

じゃが。

「欧州で世界の最前線に立っているモモ選手“たち”としては、“日本代表キャプテン”に思うところもあるのでしょうか」と。

目の前のアホ男は、ヘラヘラとして宣ったのだ。

明らかな、欧州でプレーするワシらと、国内組を分断する“意味”の質問である。



【確か僕らは】ウヨスレ 30457【右翼だったはずだ】

テンプレ以下略


日本にとっては、有益であるからして


名無しの右翼民

すっげえキレてる


名無しの右翼民

キャプテン煽りに対してガチギレするのは高評価


名無しの右翼民

「“ワシら”の大将を貴様ごときが舐めるか」発言は、こう、

脳汁出ましたねえ!


名無しの右翼民

もしかして、モモって日本寄り?


名無しの右翼民

純正の日本製品だぞ


名無しの右翼民

バグみたいな性能だがな


名無しの右翼民

人間扱いしてない……?


名無しの右翼民

二重の極みを生身で再現する人間は、人間ではない


名無しの右翼民

そりゃそう


名無しの右翼民

ウヨ民だけど、正直飽き飽きしてたよ。

海外組VS日本組


名無しの右翼民

そして海外組メンバーの3/5がよりにもよって江南という


名無しの右翼民

江南をインターナショナルスクール扱いしてるのを見ると変な笑いが出る


名無しの右翼民

インターナショナルスクール(来る者拒まず)


名無しの右翼民

江南が何なのか分かる人間は、右も左も触れないんだよなあ


名無しの右翼民

プロパガンダとは、無知が前提である、とは名言だな。


名無しの右翼民

仕掛ける側が無知であれば無価値である、という文が続くな。


名無しの右翼民

共産民だけど、今回のこれは無い


名無しの右翼民

ど左翼民だ!


名無しの右翼民

……わざわざここに来るという事は、言いたいことがあるはずだ


名無しの右翼民

誤解を解きに来た。

共産民としても、今回の分裂策を考える益は無い、と理解してもらえると思う。


名無しの右翼民

まあ、そうだな


名無しの右翼民

むしろ、憤っているんだ。

モモを正面から打ち破ってこその誉! だからね。

なにより、世論でこちらのせいになっているのが腹立たしい。


名無しの右翼民

オーケー、共産が白だとしよう。

だれがやった?


名無しの右翼民

会社だと思う、思慮も無く、視聴率目的で


名無しの右翼民

やっぱり共産はアンチ資本主義ですなあ……ww


名無しの右翼民


名無しの右翼民


名無しの右翼民


名無しの右翼民

ログ解析は?


名無しの右翼民

すでに


名無しの右翼民

有栖先生にぶん投げるのが良


名無しの右翼民

あの人、嬉々として訴訟するからな


名無しの右翼民

実にイエモ


名無しの右翼民

人間の心を折るタイプの善


名無しの右翼民

一回、依頼のストーカー事件をやったな

犯人のメンタルをベッコベコにしてたが


名無しの右翼民

聞きたい


名無しの右翼民

面白そう


名無しの右翼民

「それは、愛情ではありません」

「自らの精神的欠損を満たすだけの、自己満足です」

「私が愛を知っているか、ですか。あなたが愛を知らないから、その反論が出るのです」

「地獄に落ちろ、ですか。面白いですね。“あなたが”先に地獄に落ちるのに、私にその光景を尋ねるのは非常に滑稽です」


名無しの右翼民

イエモ組って、結構神とか仏とか、地獄とか天国とかを信じてるよな


名無しの右翼民

Q、神はいますか?


有栖先生「いる」

矢田先生「いる」

獅子座先生「いる」


モモ「この前、エンマを殴ってきた」


名無しの右翼民

オウ、不敬者が一人だけいるな


名無しの右翼民

競馬民だから、ハーツクライの事を思い出した


名無しの右翼民

「二頭が生まれたのは、モモが神様に喧嘩売ったからだな」

奇跡の二頭インタビューも加えろ


名無しの右翼民

漢総裁の「日本ジャパンは神に祈らないよ、隣にいるから」という発言は何だったんだろう?


名無しの右翼民

ルメイ騎手が速攻でリプしたのは、はしたないけど草


名無しの右翼民

「僕もそう思います。スタンドで常に見ているのだと思ってます」

ハーツの件を考えれば、そうだろうね君は


名無しの右翼民

漢総裁がウッキウキでリプ返しするのは草ですねえ


名無しの右翼民

「イエモ?」

「モモ!」


「「イエ!」」

楽しそうじゃないか、うん。


名無しの右翼民

話を戻すけど、モモ相手に“日本組と海外組の対立を煽るかのような”発言をした記者は何だったんだ?


名無しの右翼民

ううむ


名無しの右翼民

益が無いのがな。

チーム内不和を狙って、という何も考えてない動機だけなら思いつくが、それが効果的かどうか、まで考えるのなら、まずやらん


名無しの右翼民

何だかんだ言って、チームとか集団の和を重視するのがモモなんだよなあ


名無しの右翼民

むしろ内部抗争だのを最も嫌う人間ではある


名無しの右翼民

ちゃんと調べていれば、そういう結論だ。

ならば、第一条件は明らかだな。


名無しの右翼民

頭か、単独か。

追い記事でも色々篩にかけられそうだな。


名無しの右翼民

こういう雰囲気、嫌いじゃない


名無しの右翼民

思いっきり左の人間だけど、この件に関しては協力しよう


名無しの右翼民

そもそも違う国だけど、モモ関連なら協力を惜しまないよ


名無しの右翼民

後輩が困ってんなら、ノンギャラでやってやる。

個人的にも、モモには恩があるしな



なお、ウヨスレは電子戦の人々に乗っ取られた。

右翼民は、【ちゃんとした右翼です】というスレを立てることになった。

「あそこはなあ」「うん」と、右翼民が逃げ出したからである。

ウヨスレの住人は、IPブッコ抜き当たり前の、ネット上のコウナンと化したからだ。

サイバーテロ監視委員会は彼らを危険視したが、何処かの地下バーに足繫く通う大臣の、「ここで掲示板そのものを停止してみなさい、彼らの足取りは闇の彼方ですよ」という発言で妥協案が通る事となった。



菱川ヒシカワアキラは、オリンピックチームのキャプテンである。

人に頼る事に特化した人間である。

「教えてください」

「お願いします」

「頼みます」その三言だけでやってこれた人間であると、本人ヒシカワは思っている。

そんな彼を最も買っているのが、監督とナカヒラである。


監督は、このチームのキャプテンを選ぶ際、非常に迷った。

だが、海外組の首領かつ、最大の問題児であるモモが菱川を認めるにあたり、重大な決断を下した。キャプテンは、菱川昭だ、と。

容姿が、ジョシュアやボンゴのように優れているわけではない。

サッカースキルも、総合力でも、どう考えても伊右衛門百々が上回っている。

だが、人望という、もっとも重要な部分で突出しているのがヒシカワであった。

何より、監督が買っていたのは、その笑顔だ。

はにかむ様な、奥ゆかしい笑み。国内、国外問わずに、彼の笑みは清々しく受け入れられるだろう。

モモの笑みは、こう。

「貴様らの生肉を食いちぎってくれる」みたいな笑みだしなあ、と。

監督は思うのである。

キリュウイン?

「これが笑顔ですよね?」と言わんばかりに人工的に口角を測ったように上げるのは、アンドロイド疑惑が増すだけではないか?


(こういう人もいるのか)と、ナカヒラは思った。

プライドのある低姿勢。矛盾しているかもしれないが、それが適切な表現であるとナカヒラは思う。

「ナカヒラ君、教えてくれ」京訛りなのか、大阪訛りなのか。

独特のイントネーションで、あれやこれやと聞きたがる。

「あのキックって、どう蹴るん?」

「この動きって、どうすればいいん?」

感覚的に使っていた技術を、人に教えるのは難しい。いちいち言語化して考えたことも無い。

すると、人がワラッと集まる。

「ヒシカワさん、こうですよ」と。

「意図としてはですネ」と。

海外、国内の別なしに、誰もがヒシカワに手を貸そうとするのだ。

かつての自分とは真逆の存在。

自らの才能に溺れていた自分と、“他者の才能を自然と認められる人”。

正直、足技では僕の方がずっと長けているだろう。だけど、“ナカヒラかこの人であれば、僕はこのヒシカワを尊敬する”と、思う。


「ヒシカワ」

最終会議で、監督がキャプテンを発表する前に、モモはそう言った。

「ヒシカワ以外、居らんじゃろ?」

近場のチームメイトが、遠慮なく僕の肩や背中を叩き。

後は皆、大音量の拍手で僕を祝福した。

「ったく……ご明察だ、モモ」

「ヒシカワ、キャプテンを託すぞ」

と、監督は呆れたように、安堵するように黄色のキャプテンマークを僕に巻いた。

「よし! 胴上げじゃ!」

「いいね!」

「ヒシカーワ!」

「オウ! オウ!」

屈強なるチームメイトに抗する術もなく、僕は天空を舞った。

ちょっと待てよ、10メートルくらい飛んでない? 僕。


「欧州で世界の最前線に立っているモモ選手“たち”としては、“日本代表キャプテン”に思うところもあるのでしょうか」

阿保がそう言った時、僕はチームメイトの顔色を窺った。

皆、無表情で小さくモモをユビさしている。

「“だらしない”キャプテンですまないが、モモ。君に任せるよ」

モモは、ニヤリと。餓狼の笑みを浮かべた。


「さて、さて」

ニコニコと、笑いながら。嗤いながら。

「“俺ら”のキャプテンに、だらしない、と言わせた罪を支払ってもらうとするかのう」

ゆっくりと、とても、ゆっくりと質問した記者に、モモは近づいた。

誰もが目を合わせないように、視線を背けた。

恐怖の暴君が、そこには居るのだ。

オリンピック特番だ。日本のトップアスリートが大勢いるのだ。ゲストで呼ばれていたトッププロも。

その“誰もが”。目を背けているのだ。


(闘い……たいッ!)

プロボクサー、伊神直樹は目の前の男を直視できない。

直視すれば、この場がリングになるかもしれないから。

強い。

圧倒的に、強い。

何故、君はサッカーを選んだのか。

今からでも良い。ボクシングに来い。

世界最高の大一番を、俺とヤラせてくれ。

見れば、柔道の古賀コガも、剣道の戸次ベッキも、武者震いを止められない。

(恨むぜ、神様)

テレビマンがやたらとサッカー代表を持ち上げていたのは、不満だった。

今では、納得できる。モモが居るからだ。

だが、今では、別の不満がある。

ヤツが、サッカーをやっていることだ。


目の前でモモが質問者を詰めている。

変わらないな、と思う。ウラサンで出会ったころから、君は変わらない。

「カカオ先輩、あの人は?」

砥石トイシは、小さな声で訊いてきた。

「私の後輩だ。夫の友達でもあるな」と、短く返した。

イシカワになった私は、同じチームに所属している。

「何で、モモと一緒のチームではないんだ!」と叫んだヨシに、「どのみちA代表で一緒になるだろう」と言って、なんとか収めた。

気持ちは、とても良く分かる。江南のラストシーズンで一期だけ共に戦ったが、あれは麻薬のような体験であった。

年代が同じであれば、私とヨシ、モモとジョシュアとボンゴか。いかんな、負ける要素が思いつかないぞ?

「ふ、しかし。モモ相手に舌戦を挑むとはな」

私の独り言に、トイシは「あの人、ノウキンじゃないんですか」と至極意外そうに言う。

否定はしない。

「最高のノウキンだよ。だが、舌戦で勝てたタメシがない」

※委員会活動の話し合いでは、カカオの方が勝っている



【嫌な予感が】バロサスレ 6,087【しますねえ!】

テンプレ以下略


やっぱりね♂


名無しのバロサ民

いいぞ、やったれ!


名無しのバロサ民

日本チームが空中分解の方が、我々に利があるのでは?


名無しのバロサ民

はい、非サッカー民


名無しのバロサ民

有栖先生に提出ですねえ


名無しのバロサ民

どこの仕込みなんだ、あれ


名無しのバロサ民

購読社


名無しのバロサ民

ああ、納得


名無しのバロサ民

ソースは?


名無しのバロサ民

是【社内情報】

※明らかな犯罪捜査である


名無しのバロサ民

OK、OK

ここ、爆撃対象だよね?


名無しのバロサ民

まあ、その辺りは気にするな。

下らんことをする方が悪いんだ


名無しのバロサ民

罪 悪 感


名無しのバロサ民

悪を裁くのは、悪の方が早いのよ


名無しのバロサ民

なあ、ここってバロサスレだよな?

国際的な違法捜査機関の総本山とかではないよな?


名無しのバロサ民

合ってる


名無しのバロサ民

どっちの意味よ


名無しのバロサ民

バロサスレ


名無しのバロサ民

まあ、後者の方も、多少はね?


名無しのバロサ民

で、購買社が悪いのは分かった。

それ、どーすんの?


名無しのバロサ民

ん?

全世界にメールしたよ?


名無しのバロサ民

アッ


名無しのバロサ民

オマケで世界的なハッカー集団の拠点も何か所か、ね♡


名無しのバロサ民

どっか違うところで、やってくれませんかね?


名無しのバロサ民

居心地が良いんだ


名無しのバロサ民

居心地がいい方が悪い


名無しのバロサ民

流石の犯罪者だな


名無しのバロサ民

褒めるなよ


名無しのバロサ民

俺らは去るぜ、クールにな

【大統領の不祥事証拠】


名無しのバロサ民

立 つ 鳥 跡 を 濁 す


名無しのバロサ民

クソッタレ!



結果として、モモが選んだのは、自分のチャンネルなら好き勝手に世界に対して発信できるよな、である。

下らん質問者に対して、対応する必要もない。

何より、好きなコンテンツを、好きな塩梅で発信できるのが実に良い。


【オリンピック特番を】【勝手にやろう】

「どうも、イエモ・モモじゃ」

「こんにちは、もしくはおはよう、こんばんは。イシカワ・カトリーヌです」

「俺はオリンピックには出ないが、モモとカカオが出るからな。石川ヨシノリです」

・三人は、どういう集まり何ですか?

・コウナン繋がりか


「お、正解者が居るな」

「そう、江南小学校のOB・OGなんだ」

「正確には、江南の第三公園で知り合った仲だな」

・ウラサンか

・未だに本家がどっちだ議論があるという


「今回は来ていないが、ボンゴとジョッシュもそこで知り合ったな」

「懐かしい。いつかあそこに行ってみようか」

「それは良い提案じゃな」

・ザオリジン

・聖地と化しそう

・今でもすでに聖地よ


「さて、今回の企画はのう」

「私たち、女子サッカー代表を紹介しよう、という内容だ」

「オーバーエイジ枠でGKカカオが出るわけだが、どうにも注目度が足りないのでは、と俺は思ってる」

・東洋の女王が出るのか

・小田川選手が認める、次期キャプテンか

・伊集院選手の方が通りが良いけどね

・ヨシノリ選手は、来期はバイエルン?


「東洋の女王? ワシは知らんな」

「バイエルンレディースの絶対的守護者、鉄壁の守備と味方を手足のように操る指示を出しているから、だな」

「正直、過分な二つ名だと思うけどね」

「いや、何試合か見たが、その名に恥じないと思うぞ」

「この話は止めだ。顔が赤くなりそうだ」

「そうしよう。……俺の来期の動向は、そうだな。チーム状況によるだろう」

「フランクフルトがどうするか、じゃな。……おっと、ワシの口が滑る事を期待するなよ?」

「モモ君、すでに口が滑っているよ。まるで古巣の財政状況すら把握しているかの言い回しじゃないか」

・ちっ

・イエモ軍団がいるなら、あらゆる情報が抜かれていると思っても良い

・イシカワ放流かあ……

・嫁がいるバイエルンで、という事もあり得るか

・ドイツ圏内からは出ないかな

・西園寺がVVに戻るっぽいし、声がかかる可能性もあるな

・タカトキがどうするか……いや、アイツならドイツ縛りは無いか。

・ハセガワ―タカトキ―カマクラ―サイオンジ―イシカワの五角形は来期には崩れるだろう。

・まあ、分かってはいたけどね


「おいおい、女子チームの紹介じゃぞ?」

「別で話してくれ。さて」

「我らが女子代表を紹介するぞ!」

・キター

・ゴメン


「……以上、二十四人が日本の女子サッカー代表じゃ」

「二十四人? 随分多くは無いか?」

「ああ、ヨシ。男子の方が十八人だから、誤解があるみたいだね。モモ君とか、キリュウイン兄弟みたいに怪我とは無縁の人造人間集団はそれでもいいかもしれないけど、普通は不測の事態を考えて、サブメンバーに余裕を持たせるものなんだ」

・人造人間集団ww

・間違っちゃない

・仮面ライ〇ー的な観点で言えば、モモは龍の改造人間と言われても納得できる


「何と失礼な。トカゲごときでワシを強化できると思うなよ?」

「ズレてる」

「改造人間扱いされたところに憤るところだからね?」

・せめて否定してくれ

・“トカゲごときでワシを強化できると思うな”

・明日のトレンドが決まったな


「さて、モモ君。注目選手は?」

「素人の感想でも良いか?」

「モモが素人なら、玄人は誰なんだよ」

「まずは砥石選手じゃな。カカオは今更言うまでもないが、カカオの意図をピッチ上で体現するのがトイシじゃ。戦術眼が突出して高い。フィールド上の敵味方の位置と、その展望を即座に見分けることに長けている。第二の心臓とも言うべき選手じゃ。予選会の二試合目で見せた……(云云かんぬん)……と、将来が楽しみな選手であるな。続いて……」

「ああ、モモ君。一旦ストップだ」

・世界最高峰のサッカーマニア

・本人がトップレベルの実力があるだけに質が悪い

・砥石選手、お可哀そう

・メスの顔をしている


きっちり、二十四人分の論評を披露したモモは。

ジゴロ野郎という、新たな二つ名を得ることとなった。

なお、複数回のモモチャンネルで紹介された選手は、国内外の別を問わずに、競技の別さえも問わずに論評された。

「おそらく、今大会で数少ないワシと近接戦闘で対等に戦える」と言われたギザースは、

「かかってこい、親友モモ」と。メッセージからでも灼熱の闘志を感じるような投稿をし、SNSを沸かせた。

だが、モモであった。こんなものはボヤである。

とある女子ボクシング代表に言及した時。

「男が女子ボクシングに出てくるのは、いかがなものかと思うがのう」と。

LGBTなんのその、という発言が大火事になるのである。

そこにさらに火薬とガソリンをぶち込むのが、イエモ・モモという男であった。


【私、イエモ・モモ子。この度、女子サッカーに代表で出ますわ】

その一枚のピクチャーは、世界中の度肝を抜いた。

協力者は、カカオと伊集院である。バッチリのメイクと、衣装をワクワクしながら手配したのは彼女達であった。

共犯二名と、主犯一名。

三人が非常に素晴らしい笑顔で映った一枚が、世界に共有されたのである。

色々なところが、紛糾した。

本当に、紛糾した。



【合同スレ】無題 100【これがモモよ】

テンプレ以下略


ヤツは、こう言う事をする。


名無しの名無し民

「性自認が個人の匙加減であるならば、私が女として女性競技に出てもよろしくてよ」

ヨロシクない


名無しの名無し民

男子で出ても余裕で勝てるやつが女子競技は狂っている


名無しの名無し民

おまえのスプリント能力も、怪力も、跳躍力も知ってるんだこっちは


名無しの名無し民

もしかして、結構キレてる?


名無しの名無し民

もしかしなくても、滅茶苦茶にキレてる


名無しの名無し民

「心が女という理由で、男の体で真剣に鍛錬してきた女を殴る事を善しとするならば、同じ理由でワシがそいつを殴っても文句は出まい」

と言うくらいはキレている。


名無しの名無し民

モモってそんなに強いの?


名無しの名無し民

矢田道場の矢田先生が、「シシザと組んで二対一でもボッコボコにされる」と言っている。


名無しの名無し民

怖あ……


名無しの名無し民

LGBTと世界世論の殴り合いだぜ!


名無しの名無し民

とっても楽しそうだね、君


名無しの名無し民

ファッキンLGBT、という立場だからね


名無しの名無し民

LGBT自体は認めるよ?

でも、その権利を乱用するのはいただけない


名無しの名無し民

日本政党が真っ二つに割れましたなあ


名無しの名無し民

「私の正義のテンビンでは、モモが正しい」

ゴウダ先生……。


名無しの名無し民

「男が、女だと偽るのは、実に“女々しい”とは思いませんかね?」


名無しの名無し民

平然と煽る財務大臣よ


名無しの名無し民

紛争地域でも、その話題で停戦協定になるのは草


名無しの名無し民

強烈な男尊女卑の民族同士が紛争していたのだ。

「「モモは男性競技に出るべきだ!」」とまとまるのは、至極当然の事


名無しの名無し民

いつまで経っても終わらん戦争を止める存在だよ


名無しの名無し民

「人に迷惑をかけるな!」

とモモは言った。


名無しの名無し民

どちらかと言うと、迷惑そのものを巻き起こす側の人間である


名無しの名無し民

史上最も厚顔無恥な存在ではある


名無しの名無し民

「ワシは女じゃ! 絶対に女じゃからな!」

世界の誰も、それを信じないのだ


名無しの名無し民

当たり前


名無しの名無し民

人差し指と中指だけでリンゴを両断できるゴリラ人間は、説得力まるで無しですよ


名無しの名無し民

「証拠がない、なのに、男が女の競技に出れるんじゃ! ならば」

あなたが人間競技に出場できるかどうかの査問会議があるのですが……


名無しの名無し民

「モモが、人間かどうか。私にも、分かりません。ですが、とりあえず人間という事にしておきましょう」

一ノ瀬総理……もうちょっと、言いつくろう気とか無いんですかね


名無しの名無し民

「だって、モモが日本国籍な方が、都合が良いじゃないですか」

総理……?


名無しの名無し民

ぶっちゃけスギい!


名無しの名無し民

仮に世界戦争が起きたとして。

モモが居る方が、安心できるだろ?


名無しの名無し民

それはそう


名無しの名無し民

圧倒的にイエス


名無しの名無し民

サッカーボールが一個あれば、敵のステルス戦闘機を一機撃墜できても不思議じゃない


名無しの名無し民

サッカーボール必要かな?

小石一個で撃墜できるのでは?

※正解は、水の一滴である



2020年 7月


オリンピックが、始まる。




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