023 メイン/飲み会
2018年7月
“イエモ・モモ。バロサへ”
このニュースは、ある意味で既定路線ではあった。
内部的には周知されていたし、ドイツ国内としてもある程度予想していたことではあった。
どころか、ヨーロッパ圏内では暗黙の了解とでも言うべき状況であった。文句を最後まで言い続けたのはドイツ競馬界だけである。サッカー選手ではなく、競馬関係者としてのモモを最後まで求めていたからであった。
フランス競馬界とイギリス競馬界は、むしろ歓迎した。
ドイツという限りなくアジアに近い立地の土地よりも、スペインに居てもらった方が色々と言いやすいだろう、という内心が透けて見えている。
これはサッカーでも同じであった。
口にするのは憚られることであるが、いつまでもドイツリーグに居られることは都合が悪いのだ。
“配信収益”という新機軸を生み出したのは紛れもなくドイツなのだ。
収益規模はスペイン、イギリス、ドイツという順位とはいえ、コンテンツとしての先進性では後塵を拝している。純粋なGDP比較という面を勘案すると、前者は“世界的な知名度”で売っているに過ぎない、いわば外貨獲得によって得られた収益のようなものだ。自国での収益率及び影響力、つまり商業規模の拡大率という観点から見れば、ドイツの一人勝ちともいえる状況であるのだ。ここで、モモが“世界的な知名度をドイツで得た場合”など、考えたくはない。サッカーの資本割合が大きく傾く可能性さえも現実的であると言わざるを得なくなるのだ。
彼らにとって幸いだったのは、ドイツリーグのオーナーはことごとく鬼札を握ることに難色を示した点である。
誰だって、アイアン〇ンのような特殊スーツを身に着けているとはいえ、殺人シュートだの、幕末の殺人技などを食らいたくはないのだ。二重の極みで無残に砕け散った特殊スーツを、オーナーたちは決して忘れて無いのだ。
ドイツリーグには、モモが必要だ。
だが、私は手元に置きたくない。
それが現実であった。
驚くほどに素直に、モモのリーガエスパニョーラ、バロサへの移籍はこうして決まった。
モモがバロサに入団して最初に行った仕事は、バロサのチームキャプテンを宥めることだった。
『君たちは良いかもしれないけど、僕は良くない』
『次はいつドラゴンズを稼働させるんだ? 僕も同行しよう』
『で、映画はいつから撮影開始になるんだい?』
今まではレジョアネらに絡んでいたらしいが、ヤツラが『でもですよ、キャプテン。もうすぐここに首領が来るんですから、そちらに直接話をした方が良いと思います』と。
全力でワシを投げ売りしたせいで、今。
ワシはチームキャプテンであるメインの家にお呼ばれして、一緒に飯を食いつつ半ば尋問のようなことをされているのである。
『そもそも、バカンス行ってた方が悪いじゃろ』
と反撃しても、どこ吹く風である。あれやこれやと、良くも口が回るものである。
ならば方向性を変えるか。
『ところで、メインはワシはどこができると踏んでいるんじゃ?』
しばし考え、
『サイドDFのどちらか、もしくは流動的DF、かな』
※流動的DF……かつてはストッパーもしくはスイーパーと言われていたポジション。DF~MF間の位置で、『敵の攻撃の橋頭保を挫く』もしくは『最前線の敵のエースを潰す』などの仕事をしていた。現在では、1人当たりの仕事量が増えているので、専門的プレーヤーで貴重な枠を潰すわけにはいかないと採用されることが少なくなったポジションであるが、それはDF及びMFの役割の中にシレっと組み込まれているだけなのだ。
『正直、君の圧倒的な決定力は魅力的だ。だけど、僕らのチームはそう言う事は求めていない。攻撃能力であれば、前線だけで十分だ。それよりも、失点数を限りなく少なくするために君は後方で使うべきだと、僕は思っている』
それは真摯で、そして本心であった。
メインは、モモを十分に調べていた。
馬鹿丸出しのフランクフルトチャンネルを見て爆笑したし、信じられないクオリティのバロサ公式の動画で思わず口笛も吹いた。
だが、彼が最も集中して確認したのは、モモが出場した全試合の方である。
そして、気が付いた。
彼は、“1対1”の場面で一度も負けていない、と。
彼は、“ボールロスト率”が限りなく0だ、と。
彼は、“デュエル勝率”が限りなく100だ、と。
※ボールロスト率……ザックリ言うと、一選手がコントロール下に置いた場合の喪失率。基本的に、これ単体では何の意味も無い。パス成功率や、相手のデュエル勝率などを勘案してようやく有効数字になるくらいのデータである。ただし、ロマンはある。
※デュエル勝率……ボールキープした選手が、敵選手と交戦した場合にデュエルと認識される。ぶっちゃけ、どこまでをデュエルと定義するかは永遠の謎。“ボールキープ”の定義が曖昧だからね、仕方ないね。しかしながら、高勝率の選手は対人戦に優れているので、全く無意味とは言えない数字である。カードゲームでも大体、先攻後攻1ターンで勝敗が決するが、サッカーでは数秒もしくは一瞬で勝敗が決まる。
対人戦の鬼。
チーム戦略の破壊者。
メインの中でのモモというプレーヤーは、そう評価された。
非常に強力な“ソロ”プレーヤーだが、戦略的には“ナシ”だと。
『ふうん? キャプテンはそう思うか』
中々に辛辣な意見だったが、モモはどう思うのか。
『まあ、ええじゃろ』
『え?』
これは、試した方のメインが面食らった。
フランクフルトで、あれだけ攻撃を好んだモモだ。
DFに(戦略上の妥当性があるとはいえ)押し込む形を提示されて、それで頷くとは思わなかった。
『本当に? あとでナシは無いからね?』
その素直さに不安を覚える。言うつもりも無かった言葉が、口をついて出た。
『嘘は言わん。何だったら……』
『これから公式配信しても良いぞ』
メインは、あくまで保険として、記録として了承した。
その判断が軽率であると、あとで気が付いた。
『こんばんは。バロサの新88番、イエモ・モモじゃ』
『えー皆さん、こんばんは。メインだ』
配信発言から30分後、メインの家のリビングで生配信を始めた。
ワシの携帯端末は、イエーガー社が作った“はいすぺっく”モデルらしい。こんなナリで、一般的な“げーみんぐぱそこん”並みの機能があるらしい。要するに配信くらいはお茶の子さいさいである、とのことじゃ。
『君ね、モモ。性急すぎない?』
『こう言うのは、グダグダいうよりも早めにやった方が良いじゃろ』
生配信というものは、初めてやる。新チームで新しい事をやるのも、インパクトを考えれば妥当であろう。
・いきなり始まった
・ゲリラ配信?
・お前、そっちでも相変わらずだな
・何話すの?
・いきなり告知が着てびっくりした
『今回は、そうじゃな。“バロサでワシが何をやるか”じゃな』
『おいおい、キャプテンを差し置いて、勝手に話を進めるなよ』
『しかしじゃな、キャプテン。配信という経験では、ワシはベテランじゃぞ?』
『……ぐうの音も出ないな』
・ここどこ?
・二人してワイン飲んでる
・晩酌配信か?
・モモが何をするか?
・映画撮影と、何だっけ?
・サッカーだろ
・ああ、良かった。モモを傍から見ることができて
『コメントには、あとで応えよう。ズバリ、DFじゃ。メインキャプテン、説明をお願いできるか?』
『ああ、君の偉そうな言いぐさはさて置き、僕自身のモモの短評から説明しようか』
・“偉そうな言いぐさはさて置き”
・もうすでにモモの扱いを分かってる
・ああ、そうか
・失点数をカバーするという点で、モモを後方に置くのは正解だ
・そのデータまでは洗わなかったな
・モモ=攻撃のイメージしかなかったけど、守備貢献度か
・フランクフルト大放出の主な原因
・守備貢献が高すぎて、リスクを恐れ無くなるヤツ
・適役ではあるな
『――で、そういう話をモモにして、理解を得られた。だけど素直に頷かれても僕が納得できなかった。じゃあ、世界を証人にしようと考えた。モモが』
『そういうわけで、ワシは来期からバロサでDF登録となるつもりじゃ。諸先輩方、よろしくお願いするぞ』
・僕は聞いてないぞ!@バロサ監督
・LOL@バイエルン監督
・彼を持つという事は、そう言う事なんだ@フランクフルト監督
・そのうち、変なことを始めるから気を付けなよ@公式フランクフルト
・被害者の会
・もう(変な事)始まってる!
・あと何期(胃袋が)持つかなぁ……?
・(オーナー陣がモモ推しなので)逃れられんぞぉ?
・世紀末か? このコメント欄
『さて、これで目的は果たしたな。何をする?』
『僕に振るのか? 目的は果たしたんだから、終わっていいじゃないか』
『いや、これだけだと味が薄い』
『味が……薄い……?』
『そう、配信ベテランのワシが言うんじゃ。間違いない』
『そうかな……そうかも……?』
・惑わされるな!
・前振り入ったな
・椿回でこんなこと言ってたな
・(オーバーヘッドして)『何か、味が薄いな』
・前科アリ
・普通の動画なら、そこでゴールなんよ
・濃厚とんこつ油マシマシくらいの濃度でやっと満足するヤツだぞ
・そうだよ……φトリックで終わってたじゃないか……@フランクフルトCP
・あ、被害者
・稲妻イレブンの被害者だ
・影分身をリアルで食らったやつ来たな
『じゃあ、何するんだ? モモ』
『そうじゃなあ……あ』
・あ
・あ?
・何を見つけた
『そこのワイナリー、開けてみないか?』
『君ねえ? 大先輩の家に来て初めてそれを言うのかい?』
『まま、あとでワシも補充するから、開けてみんか? キッチンを貸してくれれば、ワシもツマミを作るから、のう?』
『……まあ、一本か二本なら』
・アッーー
・インディアンポーカー回、見てないんか?
・バイエルンGKの秘蔵ワインの大半を空けた伝説回
・俺は別に怒ったりしてないぞ@バッセロ
・あの時はご馳走様@シュワイゼル
・ご馳走様っす@フランツ
・その回だけは、なぜ私を誘わなかったのか、と思ったものだ@公式バイエルン
・そうなったら、集る先が私ではなくオーナーになりますよ?@バッセロ
・バイエルンでやれ
・わらわら集まって来たな
『まずはこれか』
『アッ、テメエ……って。そんなに高いやつじゃないな』
『フフフ、まあ見ておれ』
・高いやつじゃないな(98ヨーロ)
・日本円にして、だいたい1万五千円である
・ワインのヴィンテージ的には、まあ
・……ん?
・どうした
・やりやがった
・大当たり年の若いワインを一発で引き抜きやがった
・ファーーww
・何年か寝かせればどんだけの価値になるのか
・ありがとう、買い占めるわ
・そういう配信じゃねーから
『おお、すごいモノじゃないか』
『ま、昔とった杵柄ってものじゃな』
『君が何歳か、いまさら聞かないことにするよ』
・良いデキャンタージュだあ……
・(19歳)
・カンザキなのか? 英才教育なのか?
・伊右衛門家は医者の家系だぞ?
・嘘だあ、馬産の家系だろ?
・非常に胡散臭い家系だな
・大丈夫、胡散臭いのはモモだけだ
・父も弟も真っ当に医学やってるぞ
・“真っ当に”
・隔世遺伝か……
・メインも突っ込まなくて草
『そうして、これじゃな』
『君が僕の家の冷蔵庫を勝手に開けたことは不問にしよう。すごく薫り高いな、これは』
『まずはワインを口に含む、そして一センチ程度、この生ハムを噛んでみろ。飛ぶぞ?』
・ヤバい薬物を進める売人みたい
・滅多なことを言うんじゃない
・被害者その一っす@フランツ
・被害者その二だ@シュワイゼル
・俺たちはソーセージでやられたな@バッセロ
・飲み会限定で、モモのレンタルサービスってやってないっすかね?@フランツ
・一日で2,000は払うよ@シュワイゼル
・クソまじめなお前が言うと洒落にならん、頼むから止めろ@バッセロ
・そこまで言わせるか
・美味そう
・メイン、ご満悦
・『何だあ……これはあ……』
・脱 力 メ イ ン
・酒の顔
・現実で漫画再現するな
・何をいまさら
『いや。何だこれは……。美味すぎる!』
『喜んでもらえて、大変結構。では、ワシも頂くか。……ウム、美味い!』
・こいつら
・いい顔をしおって
・バロサ公式で唐突に始まるメシテロ
・ワイン飲みたくなってきた
・夕食後に何て動画を
・今から行きまーす@ネイマーレ
・ん?
・誰か通ったか?
・さあ
『ちょっと待ってくれるかい? モモ、いや、マスター』
『おう、どうした?』
『妻を呼んできてもいいかい? この感動を分かち合いたいんだ』
『もちろん。美味いもんは、愛すべき者とこそ分かち合うものじゃ』
・マスター!?
・(飲食の)マスター
・※サッカーは一切関係ありません!
・競馬界ではグランドマスターだよ@スタウト
・飲めるようになったんなら、俺の牧場に来いよ!@A・スティーブン
・競馬関係者もワラワラと
・アメリカの飲酒年齢って何歳だっけ?
・21
・ダメじゃん
・OMG! あと二年か……@A・スティーブン
・悪いね。先にモモと飲むのは俺の権利のようだ@スタウト
・それは譲るが、21歳以降になったら俺がお前さんの倍は飲ませるからな@A・スティーブン
・あと、馬にも乗ってもらう@A・スティーブン
・おい、ケンカなら高値で買い取るぞ@スタウト
・お二方は、メッセージアプリでやってもろて
『……妻も驚いていたな。画面には映っていないが、喜んでもらっているよ』
『カカカ、夫婦仲も兄弟仲も、友人関係も良好なのが最上というものじゃ』
『それは違いない。これは“ワイロ”を頂いてしまったかな?』
『悪い顔で冗談を言うな。あくまでも実力勝負、仮に今シーズン全試合でベンチを温める結果となったとしても、それはワシの実力の結果じゃ』
『いいね、潔い』
『それに、割れば年間450(万)くらいの年俸なんじゃ。出さずに腐らせてもサポーターからの文句は出るまい』
『それはどうかな? M&Dで君の実力を良く知っている“どっかの”監督からの大バッシング不可避だと思うけどね』
『仮にも敵チームなのに苦言を呈するのか……』
・どっかの監督
・一人しか思い当たらない
・そういえば、見当たらないな
・確かに。こういう展開になれば、真っ先にコメントしそうなものだが
・僕はね、なんか嫌な予感がするんだ@バロンCP
・キャプテン!?
・あ、14番の人
・じゃあ、今あの人はフリーってコト!?
・“腐らせてもサポーターからの文句は出るまい”
・そんなことは無い
・見たいよ、俺は
・赤いサイリウムも準備してるんだぞ、こちとら
・“宇宙戦争のテーマ”、期待してます
・“宇宙帝国のテーマ”でも可
ピンポーン
『おや、来客か。モモ、行ってもいいかい?』
『もちろん。あ、丁度良い。次の一本と、ツマミも用意するか』
『ああ、好きに使ってくれ』
・誰か来たのか
・メイン中座
・あーあ
・やっちまったな
・どこかで見た展開
『さて、メインキャプテンの許可も得られたんじゃ。どれにするか……。お、これは良さそうじゃな! 飲み頃じゃろう』
・ハイ、無慈悲
・お値段、二千です……
・98→2,000
・仮想通貨でも、もっと緩やかにレートを上げるぞ
・約31万円相当である
・俺は2,300のヤツをやられたな@バッセロ
・ゴチになりました@フランツ
・どうして止めなかった?@バッセロ
・君の酒だから。あとで埋め合わせもしたじゃないか@シュワイゼル
・あれ?それは聞いてませんよ?@フランツ
・呼んでないからね。僕とバッセロ、モモとハセガワか。良い飲み会だった@シュワイゼル
・“ニホンシュ”と言うのも悪くなかったな。あと、日本人組が作った“ヤキトリ”も最高のコンビネーションだった@バッセロ
・おかげで、僕のコレクションも大分放出してしまったけどね@シュワイゼル
・ええー!? 呼んでくださいよ!@フランツ
・だったら、いつまでも先輩に集ってない事だ@バッセロ
『さーて、これで準備はできたか。遅いのう……。こっちは味見でも済ませておくか。……どうも、お世話になっております、奥方には急な来訪で……』
・随分軽めのツマミに見えるが
・見たことが無い組み合わせだな
・『何て! 美味!』
・なんか聞こえたぞ
・画面外の奥方の絶賛の叫びや
・『ワインの奥深さを引き立てるような淡麗なクラッツの絶妙な塩見と風味が、飲むたびに深まるかのような組み合わせね。さながら、水晶で出来た鍾乳洞を探索しながら先へ先へと進み、最後に開けるであろう古代の宝物が眠る宝箱を目指すかのような』
・神の〇じゃねーか
・この空間だけ別漫画やってない?
・奥方、ソムリエ?
・本職のソムリエでも、あの漫画みたいな表現をしないぞ
・ソムリエの力を過信したな……!
ガチャッ
『モモ、追加ゲストだ』
は?
『どういう事じゃ?』
『配信をご覧の皆さま、こんばんは。レアロで監督をやっている、ジデーンです』
『バロサチャンネルで配信してるってことは、自己紹介は不要だろ? ネイマーレだ』
は?
・は?
・え?
・マ?
・なんで?
・ああ、監督@レアロCP
・おいたわしやCP
・何で来たん?
・本当にそれ
『今日は、モモ君が我々に素晴らしい歓待をするという事で、お呼ばれしました』
『すみません、レアロの関係者も見ているでしょう。監督を引き取りに来てください』
『俺は手ぶらじゃないぜ。モモ、これで一品作ってくれよ』
『なあ、ネイマーレ。俺の家はレストランじゃないんだ』
・オーナーには共有しました@レアロCP
・できる男だ@公式レアロ
・ネイマーレのワインは、あれ何?
・中南米のワインであることは分かるが……
・高いやつじゃないな
・これか→30(ヨーロ)くらいのワイン
・言っちゃ悪いが、随分格安というか
・約5,000円のワインと考えると安くは無いんだけどね
・ああ、ネイマーレの古巣にスポンサードしている農場のワインか
・あれ? ネイマーレはブラジル出身では?
・アルゼンチンーチリーブラジルは代表戦ではバッチバチにやり合うライバル関係だけど、商業的な意味が大きいクラブ関係では融通を効かせる関係にある。地理的にも近いしな
・で、育成環境が整っている欧州と違って、中南米では合同出資のトレセン設備を点在させているってわけだ。いわば、国を超えて金を出し合っているわけだな。
・その出資者の作っているチリワインを、ネイマーレが今回持ち込んだってことでFA?
『お、ご名答だ。俺がガキの頃通っていたサッカーアカデミーが、その中南米共同出資のサッカークラブでな。ま、恩返ししてやりてえんだ』
『俺を無視するな。まあ、言いたいことは分かった』
『で、ワシにやってほしい事は何じゃ?』
『ここで宣伝してくれればそれで結構。と言えればカッコ良かったんだが、これと合う一品を作ってくれないか? それが美味けりゃ、一気にこいつの知名度も上がるってもんだ』
『商魂たくましいのう。じゃが、義理を通そうとするその心意気に感じ入った。メインキャプテン、勝手に冷蔵庫を漁ってもいいか?』
『ああ、ああ、好きにしろ。それとメインでいい。お前にキャプテン呼びされると、何か馬鹿にされているような気分になる』
モモ離席。
『さて、ミスタージデーン。どうしてここに?』
『無論、遊びに』
『は?』
『私も手ぶらではない。これを』
・“無論、遊びに”
・カッコつけていう事じゃねえ……!
・気軽に遊びに来てんじゃねーよ!
・M&Dのユニフォームカッコいいですね
・全力で煽りに行くスタイル
・メインの目の前でそれを堂々と着るセンスよ
・……ぶっ高いお酒キター!
・え? ……え?
・お値段、1万です。
・98→2,000→30→10,000
・株価だったら発狂する乱高下
『真面目に答えてください、本当に』
『いや、真面目に答えている。なに、安心しなさい。ホテルはもう取っている』
『何を安心すればいいんですかねえ……?』
・……申し訳ない、メイン選手。ホテルに監督が帰るまで面倒を見てもらえないか?@レアロ公式
・降 伏 宣 言
・迷惑料1万ヨーロ
・高いのか安いのか
『うむ、これは前菜かな? 素晴らしい味だ』
『おお! こりゃ美味えな! モモが作ったのか?』
『知らぬ間にいい酒を開けやがったな、モモ』
選手&監督堪能中……。
『ご馳走様、いい味だった。これはネイマーレの料理も期待できそうだ』
『違いない。期待しちまうぜ』
『このメンツに出すなら、2,000で丁度良かったのかもな。で、一応これ配信してるんですよ』
『知ってるよ』
『それを見てここに来たからな』
『それは結構。なので、ある程度トークで場を持たせたいと思うのですがね』
『いいサービス精神だ』
『俺は別に構わない』
『バロサは、モモをDFで使う。ジデーン監督とネイマーレは正直どう思う?』
・言ったー!
・お前、酔っているのか?
・ライバルチームに聞くことか?
・エンターテイメントではあるな
・聞きたい、非常に
・どうなんだろ?
『まずは俺から』
『おう、ネイマーレ。言ってみてくれ』
『言っておかなければならないことは、キャプテンと俺では視座が違うという事だ。チーム全体を見なければならない、そして、その結果についての責任を、監督ほどではないとは言え負うのがキャプテンだ。俺は違う。得点するのが俺の仕事であり、全体のバランスだのを考えるのは俺の仕事ではないと考えている。だから、ここでキャプテンと俺の意見が違うからと言って、それはチーム内の確執を意味しない。そこは分かってくれ』
『もう、君が何を言いたいのか、半分くらいは予想が付くよ』
『その上で言う。俺は、モモを攻撃参加させるべきだと思う』
・丁寧丁寧に予防線を張ってからの
・言ったー!
・まあ、最後まで聞こうや
『何故?』
『まず前提として、バロサは11人で完結しているが故に脆いからだ。システム熟練度が高ければ高いほど、一人欠けた時の影響が多く出る。特に攻撃面では連携を前提としているので、一人でも機能不全に陥ればその影響は守備面よりも大きく出るだろう。次に、メンバーが不変ではない、ということだ。バロサシステムは、今は完全無欠でも、メンバーの高年齢化、引退。引き抜きだってあるかもしれない。その時になって、攻撃面が不全を起こしています、守備だけは健在です。それはバロサか? 俺は違うと思う。何処かでネオ・バロサとでも言うべき変革を求められるタイミングが必ず来る。そして、その最良のタイミングは今だと思っている。次世代にギザースやレジョアネ、レタールがいる、このタイミングで、だ』
『新機軸への転換か……ならば猶更、モモを底に置いて守備力を担保するべきだと思うが』
『なあ、キャプテン。俺らの守備って、そんなに弱いか? 俺は違うと思う。守備が強固であるならば、ミスっても“失点しない”攻撃面で将来のリスクを取るべきだと俺は思うね。キャプテンは、最小失点、最多得点の最強チームを作りたいんだと思う。誰だってそれは夢見る。だけど、今が常に続くわけじゃない。だから、10人+1人の若手を受け入れる土壌を作った方が良いと思う。その先鋒が、おそらくモモだ。だったら、前線でぶん回して、本当にヤバくなったら守備もできるくらいの荒い使い方をした方が良いと、俺は思うよ』
・まるほどなあ
・攻撃面がアンタッチャブルなら、新人起用する意味ないもんな
・モモを守備でワンポイント起用しても、便利屋くらいしか使いどころ無いか
・それはチームに参加したというか、補助メンバーでしかない
・ネイマーレを勘違いしていた
・良く考えていているもんだ
・“荒い使い方をした方が良い”ホンこれ
・モモは持ってて嬉しい選手ではないからな
・出してなんぼよ
『なるほどな。俺にはない考え方だ。……まだ支度には時間がかかりそうだな。監督はどう思います?』
『……やはりレアロに』
『あ、そう言うのは良いんで』
・雑ゥー
・勝手に自分の持ち込みワインを開け始めるのでさもありなん
・何本持ってきてるんですか、監督
・見た感じ、六本は持ってきてるぞ
・オフシーズンでも持ち込みすぎでしょ
・完全に人ん家で飲み明かす体勢ですやん
『そうだな。フム。……正直、どこでも良いんじゃないか?』
『おっと?』
『ああ、そう呆れるな。この場で“唯一”M&Dで一緒に戦ったから分かるのだが』
『いきなりマウント取りに来るの止めてくれますか?』
『モモは、“戦場の最善点”を嗅ぎ分ける嗅覚が非常に優れている。だから、DFに配置しようが、FWに配置しようが、根本的にやる事が変わらない。どのポジションにしようが勝手に動き出すのだから、どこでも良いんじゃないか?』
『……』
・ハイ、この話終了!
・無駄だったな、この会話は
・マジ?@バロサ監督
・マジ@バイエルン監督
・彼は何回、私の指示を聞いたか@フランクフルト監督
・頑張って!@公式フランクフルト
・こんな狂犬を、U-12監督はどうやって飼いならしたんや
・飼いならしてないぞ
・レンジャーズの小田川がモモの師匠をしていたから、その弟である監督の指示をギリギリ聞いていただけや
・フェアプレイを心がける、を実行させただけで偉大や
・パンチだの出さないからな
・オーナーや監督が犠牲になってないからな
・偉業過ぎない?
・今度、そのオダガワ師を囲んで飲むか?@公式フランクフルト
・是非、モモ操縦の秘術を聞き出しましょう@公式バロサ
・またオッサン共が会議の算段を立てようとしてる
・その顛末が偽青年会(スペインリーグ・オールスターチャリティーマッチ)なんだよなあ
・何もするなよ! 振りじゃないぞ!
『できたぞ。……なんじゃ? この辛気臭い雰囲気は』
『いや、何でもない』
『随分赤いな』
『これは……懐かしい匂いだ』
『※エスパーレ・ニ・カンパーチョ。ま、食って飲んで、それからじゃな』
※存在しない料理です。
『香辛料の効いた……魚介系? いや、肉のエッセンスもあるのか』
『複雑だが、確かに美味いな』
『一番槍は俺が行くっ! ……何だあ! これは! このワイン、こんな美味かったか?』
『随分美味そうに飲むじゃないか! 俺もだ!』
『これは……サンバ・カーニバルだ……!』
・味の想像がつかねえ
・サンバ・カーニバルってなんぞ
・ガツガツ食って飲んでるな
・美味そう
・メシテロ再開
・なんて銘柄だ? 一本30ならダースで買う
・モモの謎料理のレシピを公開してくれ
・一人一本飲み干しとる
・悪魔の料理やんけ
『モモ、お代わりはあるか?』
『残念ながら、無いな。奥方の分も含めて二食分はメインの冷蔵庫の中じゃ』
『最高だよ、ありがとう』
『なあ、キャプテン』
『交渉には応じないよ。監督も』
『フウム。だが、私の持参したワインもサーブしてくれるんだろ? なら見逃そうじゃないか』
『俺、家主なのに見逃された』
『ところで、ネイマーレ先輩。件のワインのリンクは張ってよいのか?』
『先輩はやめてくれ。ネイマーレでいい。ちょっと社長に確認する』
・OK!@公式シコパクア_ワイン
・確認する必要は無かったな
・そりゃ、見てるよな
『お、許可が出たな。動画説明欄に張っとくんで、気になったらチェックしてみてくれ』
『マジで美味いぜ、モモの料理もな! あ、そういえば、この料理のレシピ公開する気はあるか?』
『そんな難しい手順でも無いけどな。どこで公開するか……』
『だったらよ、俺ん家来いよ! そんで、料理動画と……小さいけどホームコートもある! キャプテン椿の配信収録もやっちまおうぜ!』
『おう、それは良いアイディアじゃな。そうじゃ、バロサの若手も呼んでいいか?』
『もちろんだとも』
・ネイマーレの欲望詰め合わせセット
・キャプテン椿&モモの料理とか言う、利しかない。
・彼を招くと、自宅が危険だから気を付けて@フランクフルトCP
・どういう意味?
・古巣が言うと、途端に怖くなる話
その後はつつがなく配信は終了した。
最後まで、ジデーンがモモにダル絡みした。
2018年 8月
一年ほど前に、嘘予告動画を取っていた時期である。
ネイマーレ宅の私設コートで収録することとなった。
江南三人衆が、その場で再び揃う事となる。
『どうも、モモじゃ』
『お前さあ、ちゃんと挨拶くらいしろよ。セカンド所属の新人……RR主役のジョシュアです』
『同じくセカンド所属のRRの片割れ、ボンゴ、ネ』
『で、今回は何をするんだ』
『ボクは何も聞いてないネ』
『ネイマーレからは“椿の技を見せてくれ”って言われとるが……それって面白いか?』
『十分面白いよ』
『最高の取れ高ネ』
『いや、ワシはそうは思わん』
また、変な病気が発症したと、二人は感づいた。
『例えばじゃな? 虎ショットあるじゃろ?』
『あるな』
『有名な技ネ』
『アレを超強化した場合、どうなるか気にならんか?』
『人を爆殺するだけだろ?』
『配信できなくなるネ』
あくまで、二人には理性がある。そして、モモに対する遠慮も無い。
『では、ツインlove……』
『どうせ、俺ら二人が成層圏を突破して地球に戻ってこれなくなるオチだろ』
『究極生命体エンドだけは御免ネ』
付き合いが長いので、モモが何を考えているのか、大体わかる。
『じゃあ、どうしろと言うのじゃ!』
『黙ってクライアントが求めることしろや!』
『椿の技再現でOKネ』
『もう、その辺は古巣でやっとるんじゃが』
『別の人間がやるのが大切なんだよ』
『ネイマーレ先輩も、黙々とアップしてるネ』
『じゃあ、お前そこに居ろよ』
そういって、ジョシュアが指さした先はゴールである。
『椿の技をモモに試してみた、これで行こうじゃないか』
反対意見は、一切出なかった。
モモが、椿の技以外を行使した以外は。
『フェンス・オブ・ジアース!』
地面を殴りつけて、その反動で盛り上がった土でシュートを防ぐ技である!
当然の如く、ネイマーレの私設コートはボッコボコになる。
華麗なオーバーヘッドを決めていい気分であったネイマーレの顔面は蒼白であった。
『なあ、モモ。どういうことだ?』
『アニメの技を出されては、こちらもアニメの技を出さんとな』
一切悪びれない。
『これ、直る?』
『当り前じゃ。その辺りもアニメ再現じゃからな』
そうか、アニメか。
怖いな、アニメ。
俺もある程度は予習しようと、ネイマーレは思った。
料理配信も含め、恙なく収録は終わった。
もう二度と、モモを自宅に招かないと、ネイマーレは固く心に誓った。




