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020 マジック/ドラゴンズ

独裁者ゼッタイシャ

それは、前世の世界では当たり前のように存在していた存在である。

その条件は、二つに分かれる。


一つ、国会体勢システムとして、それが是となるもの。

意外なことに、魔国はこのパターンである。

魔国は、“最も強きものが棟梁たるべし”という国是ではあるが、実態は少々異なる。

ワシが死んだくらいの魔国首領、要するに“魔王”は、行政に最も優れたも者がその冠を頂いていた。

いくつかの郡に分かれているが、郡長の考えは至って保守的である。

人間の領域に進行する旨味はまるでない。人口の成長的な拡大も無い。

魔国は、飽和国家であるのだ。

これは、当たり前の話だが。

“人口と領地は比例する”。

現代の人間がおそらく驚く点はそこだ。

首都に経済が集約する限り、経済密度と人口密度が比例するのではないか、と。

だが、経済的なお話は置いといて。

人がいない領域を保守することはできないのだ。これを“土のダブつき”という。

魔国は、この“土のダブつき”を嫌う。

激烈な強権でもって、移民政策を敢行するのである。

何故か? 人口過疎地とはつまり、軍略的欠点であるからだ。

サーバンなんて言う、激辛国家がお隣にいるだけに、国家戦略として手を抜けない事情である。


二つ、独裁者カリスマとして、それが是となるもの。

これは、ワシのオクレアンの話である。

王がこれと言えば、これ。

ワシが将軍と言われれば将軍。

先代はとにかく頭がキレた。自分の代で統一国を樹立することに、心血を注いでいた。

要するに、国家が個人を頂くことに是としたパターンである。


それ以外のパターン?

髭共が失敗している歴史を知らんのか?


そして、独裁者を知っているワシとしては、独裁者検定一級の持ち主である。

そして、目の前の独裁者は、独裁者足りえないのだ。


2017年 8月


『おっさん、お前は足りない』

黒服を前に、ワシは言った。

『権力か、暴力か、欲求不満か』

『欲求不満だ』

おっさんは言った。

中東の産油国であって、身分はそのままだ。

“そのまま”を、おっさんは不満に思っている。

どのような美酒を味わったとて、どのような美人を抱いたとて。

満たされることは無いのだ。映画への投資は、まあいたずらのようなものであった。

“第三皇子”

その身分を聞いた瞬間、同情の念が沸く。

王のスペアでもなく、王家の柵だけが付いて回るのである。

『くだらん』

『くだらんか、モモ』

『勝手にするがいい。ワシの視界の外で』

『仮に』

『次の言葉を言ってみろ。その蛮勇はあるか』

仮に、

君の家族が危機に陥っても?

目の前の暴君を相手に、その言葉を吐く蛮勇が、

私にはない。

そこにあるのは、事実だけだ。

“私の首を刎ねて、国ごと亡ぼす”という。

単なる事実だけが、そこにあった。

モモの眼は、如実に、それを語っている。

人を殺すことに慣れた目ではない。

人を人と見ることに飽きた目ではない。

神の眼だ。

人を“選んで殺すことを自ら自覚している”眼だ。

そして、“人を殺すことを理解ワカッテしている”眼だ。

こいつは、何人、何万人を殺したのか。

理性で“人を殺す”事ができるのか。


『すまない、だが。君には、一層の興味がある。夜は空いているか?』

『貴様を潰す』

『掛かってきてくれよ、お仲間も一緒でいい』

第三皇子、イルーンは、王族である。

自暴自棄でも、そこは王の風格を得ている。

楽しい酒宴になると、確信している。


綺羅やかな、最高級のバーだ。

いや、その表現は正確ではない。

淑女が接待する、最高級の場所である。

『モモ。君は僕をどう見ている?』

『ぼんくら』

『おっと、モモには殺意を向けないでくれたまえ。僕の首が物理的に飛ぶんだ』

キャストも付けずに、僕たちは最も見晴らしが良いVP席で飲んでいる。

『自覚はあるよ。でも、君が“ぼんくら”と言う理由が欲しい』

『ぼんくらもどき、じゃな』

『へえ?』

『RR、アニキへの宣戦布告じゃろ?』

これがバレるのは想定内だ。

『だったら?』

『簒奪するには、甘すぎる。貴様、長兄にも次兄にも、悪意は持っておらんな?』

心臓をぶすりとされた気がした。

『貴様は、独裁者を気取っている。が、人間性が優しすぎる』

こいつは……。

僕の内心を知りすぎている。

『経済の魔王になる』

何を言っているんだ? モモ。

『ワシに、かつてそう言った人間がいた。一平民の、両親は織物業を営んでいる少年だった。当時は、七歳くらいか』

君は何歳なんだ? その話をするには矛盾に過ぎるのではないか。

そういった発言は、僕の口からは出なかった。それほど、モモの瞳には、“真実”が灯っていたからだ。続きが聞きたかった。

『ヤツは、半世紀後。四天王になった』

『四天王? 魔王にはなれなかったのか?』

モモはそこで、ニンマリと笑った。裏表ない、純粋な笑顔だ。

『産経卿、イルニシアン。魔王の“右腕”。魔王よりも経済に長ける、経済の王様になったのだ。その忠誠は、魔王に向いていた』

イルニシアン。

僕は、先達がいることに気が付いた。

『やってみろ、イルーン。兄貴たちとの交渉には、ワシも付いていくぞ』

僕は、何ができるのか分からなかった。

でも、これだけは言えるかもしれない。

RRへの巨額の投資は、たった一匹の“巨大な龍”を釣り上げるためだったのかもしれない、と。


『ほう、イエモ=モモじゃないか』

『弟よ、素晴らしい人脈を得たものだ』

兄二人は、怪物だ。

王たる器を、持っている。経済的な成功とは、“彼ら”へのコンプレックスであると、今では自分を客観視できる。

『イルーン』

モモは、僕とたった二人で兄の前に立つように言った。

『王族を、呼び捨てるか』

『神も呼び捨てにしているんじゃ。今更じゃな』

『言ってくれるな』

兄二人と談笑するモモは、物怖じしない。

どころか、遊んでいる雰囲気さえある。

『それで、モモ。愚弟は、貴様を差し出すと?』

『ふ、下らんことを。貴様の喉を掻っ切る牙を持っているぞ』

『ほう?』

『イルーン!』


覚悟は決まった。

僕は、いや、俺は。


『この場で、王位継承を自ら剥奪する! 同時に! 我が配下への手出しは一切許さぬ!』

王位継承権の自裁。これは、王国法に則った手続きである。

こんなものを制定した王は、弟と妹も、兄も姉も“自裁”しまくったロクデナシであるが、それはそれだ。


『ほう』

『へえ?』


『並びに! 経済担当次官の即時罷免と同官への我、イルーンの任官を求めることとする!』



結果的に、イルーンは経済ナンバーツーの席に転がり込んだ。

次官の汚職任免に向けた証拠は、驚くほど速やかに集まった。

王族の兄貴たちが、弟が王様レースからリタイアしたことに対して飴を持ってきた、というお話である。

表向きには経済相次官となったイルーンのお手柄であり、クリーンな政治してまっせ、というアピールであるが。

故に、イルーンは時の人である。

だが、イルーンは。

賄賂は受け取るが、公明でもあった。

『私の先達は、公明であったと聞く。賄賂は受け取っている。だが、賞罰は別だ。利益と罰は全くの別問題だと、私は知っている』

イルーンの言う先達とは、イルニシアンである。

この世にいない先達を、世間は別の人物に求めた。

カジウスという、国家ができたころの行政官である。

新書として『カジウス語録』が出版されて、ベストセラーになった際、イルーンは困惑したが事情を知って苦笑した。

『私よりも、カジウスが子供たちが覚える最初の言葉になるのか。偉人には勝てんな』

と漏らした言葉を、またもやメディアが拾って、再びフィーバーした。

王家三兄弟の中で、出がらしと言われていたイルーンは。

国の中で最も有名な名前となった。


それは、未来の話である。



2017年 8月


イエモ=モモに何させるか問題は、RRチームに丸投げされた。

レタールは、それをレジョアネに丸投げし、レジョアネはレタールに丸投げした。

空中分解が不可避の状況であるが。

そんなことは関係ない。仕事は仕事である。

今回、バロサにお邪魔するのはモモとハセガワだけの予定だった。

当事者モモ目付役ハセガワである。

そこに待ったをかけたのがオーナーである。

『俺も行く。何と言おうとも』

表向きは、来期で終了するモモの移籍交渉をまとめるためである。

裏向きは、バロサのオーナーと会談、ではなく、男二人で飲みに行くためである。

互いに公式動画が配信されるたびに『こいつ、大変だなあ……』と思っていた。

バロサ側にオーナー参戦の打診をすると、二つ返事でOKだ。

そのオーナー二人は、こちらが到着して挨拶をし終わると、いそいそと監督室へと連れ立って向かっていった。

チームスタッフは仕事熱心な男たちだと思ったかもしれない。

真昼間からワインのコルクを抜く気しかない、ダメな大人の見本市が開催されるとは、露にも想像していないのだ。


『ワシには、秘密がいくつかある』

『あと何個あるんだ? 言ってみろよ』

会議室、ではなく食堂でワシらはRRチームとの話し合いをすることとなった。

ジョッシュはワシの秘密発言に、呆れたように返した。

『うーむ。どれから話すか』

『モモ、今回の件に関係ある話でお願いするネ』

ボンゴはとにかく簡潔に話を進めたいようだ。決して、不必要な秘密を聞きたくないわけではない、はずだ。

ならば、これだな。

『相撲、野球、将棋。共通点は分かるか?』

『日本で人気の娯楽か?』

レジョアネが間髪入れずに答えた。間違ってはいない。

野球ベースボール最大の人気国はアメリカだ。おそらく、モモは違う答えを用意している』

レタールは冷静に意見を言った。

『……プロとアマチュアが最も隔絶されている、と言われていた三つだね』

一人だけ年齢帯が違うハセガワが正解を口にした。

その言葉が人口に膾炙していたのは昭和の時代なので、今の若いのは知らんじゃろうな。

『その通り。で、今からワシは戯言を言うが。ワシが知る限り、唯一プロとアマチュアが明確に線引きされる世界がある』

『サッカー、とか?』

ナカヒラがおずおずと言った。ワシは首を振った。

『魔法士じゃ』

『は?』

皆が、バカを見る目をしたし、信じられない詐欺師が目の前に現れたような表情をした。

それは無視する。

『で、ワシは』

人差し指を立て、その先に炎を灯した。

『魔法を、使う事ができる』


バロサの面子は、まあ信じられないだろう。

マジックで指先に火を灯すことなど、造作もない。その真偽を、もしくはワシの発言の意図を読んでいるのかもしれない。

『で、モモ。さっきの魔法士の話と、どう繋がってくるんだ?』

ジョッシュはそんなことはどうでも良いかのように、ワシに疑問を呈した。

こいつ正気か? という視線がジョッシュに集中するが、まるで無視している。

『いい質問じゃ。答えは……まあ、少し試した方が良いか。屋内運動場に行くぞ』


僕は、その日、生まれて初めて魔法を見た。

恐らく、目の前で魔法を見た最初の人間の一人だろう。

『ここでは、映画で使っていたような魔法を疑似的に使う事ができる。死の魔法などの殺傷能力が高いのは発動せんがな』

そういって、モモは僕たちに棒切れを一本ずつ渡してきた。説明を信じるならば、これが魔法の杖らしい。

どうも見覚えがあると思ったら、RRで僕が使っていた杖だ。“レタール”と小さく刻んだ癖のある文字が、その証明だ。

『詠唱は、してもしなくてもいい。だが、した方が発動しやすいはずじゃ』

『“守護霊よ、来たれ”』

『ジョッシュ、難易度は原作準拠にしてあるから、いきなり高難度の魔法は使えんぞ?』

『“武装解除!”』

『レタール、ワシに向かって即座に試す度胸は買うが、まずは簡単なところからじゃ』

仕方ないな。

魔法の一番手は、ボンゴだった。

『“光よ”』

ルーモスの魔法は確かに杖の先に輝いた。君って、何でもできるよね。

それに目を輝かせた我らがキャプテンが『“光よ!”』とハイテンションで叫び、それは過たず成功した。目が痛いくらいの輝きだ。止めてくれ。

その光景は、RRスタッフも見ている。言葉が出ない様子だ。分かるよ。

僕も、映画の中では若き魔法使いだったけど、実際に魔法が使えるとは全く思わなかったからね。

僕らは一時間くらい魔法で遊び、興奮に胸を高まらせながら帰宅した。

帰ってきてすぐに、僕がしたことを説明する必要があるかな?

原作と設定資料集を、再読することとなったよ。


僕らはチーム練習(と言っても、オフシーズンだ。本式の練習は無いので、チームに残るメンバーとの調整程度になる)と、魔法遊びに熱中した。最初に魔法を成功させたボンゴは、持ち前の器用さで次々に原作の魔法を成功させては、その成果を僕たちに伝授する。

決闘クラブもどきの優勝者は、レジョアネではなくジョシュアだった。

確かに、最も強い魔法を使う事が出来るのはレジョアネだ。だが、裏をかくという点でジョシュアに軍配が上がった結果である。

僕らは、いっぱしの魔法使いのような気分になっていた。

七日目に、モモがこんなことを言い出すまでは。


『さて、魔法使い諸君。魔法士との戦いを味わってもらうとするか』


ぐうの音も出ないくらいにボコボコにされた。

これで、『原作で出てくる魔法しか使わない』という縛りを設けているという。

阿保ボンゴが、『じゃあ、魔法士としての全力で戦ってヨ』と言った。

モモはニヤリと笑った。

RRの担当者は、『モモが主人公パーティーにいるのは物語の都合上、著しく不都合だ』と言ったらしい。

当然だ。

魔王ヴォルデモートよりも強いのがいる時点で、何の苦労もなくストーリーは進行してしまうだろう。

杖すら使わずに“魔法不能結界”なる、世界観そのものを粉々にするようなものを発動して、肉弾戦で僕の胴体を真っ二つにした男は、そもそも出演するべきではない。

僕は死んだと思ったが、この場所で起こったことは世界的に“無かったこと”になるらしい。

リタイアした僕は、“ドラゴン召喚”を行使するモモと、それに立ち向かうレジョアネをぼんやりと見ている。

何が“秘密がいくつかある”だ。いくつも、の間違いだろう。

だが、公式動画にアップロードするアイデアが沸き上がるのも事実だ。

この流れなら……ハセガワさんに声を掛けるのが適切だろう。

あの人はすごい。モモが言う事を聞く。

『すみません、ミスターハセガワ。あなたにお願いがあるのですが』

僕の背後で、黒龍とレジョアネが死闘を繰り広げているが、関係ない。

RR番外編の公式動画プロジェクトは、ここから本格始動だ。


『いいかい、レタール。僕はこれで行く』

おおよその原案は通った。だが、黒龍との戦いで脳を焼かれたレジョアネがダダをこねだした。

魔法剣と杖の二刀流で戦いたい。

本音は、黒龍に勝ちたいだけだ。

だが、どういう伝手で手に入れたのか、魔法剣“みたいな”モノと杖を目の前で振り回して諦めない様子を見れば、ため息の一つも付きたくなる。

『我らがキャプテン。君とドラゴンの死闘は、メイキングにでもすればいいじゃないか』

『そうはいかないよ。本編できっちり勝ってこそ、真の勝利なんだ』

全く引く様子はない。君の事は心底尊敬しているけど、今は心底面倒くさく思っているよ。

“偽予告動画”

RR番外編は、VSモモという内容に決まった。

尺は100秒。予告動画では長くもなく、短くも無い。レジョアネが黒龍と決着をつけるような時間も無い。

な に よ り。

撮影時間が足りない。

君は2時間13分(RR二作目)の映画を何日かけて撮っているか知ってるよね?

だったら、この提案は何?

3時間36分?

RR本編よりも長いじゃないか。

夏休みの期間中に撮れる長さじゃねーんですよ?

会議場は、食堂から屋内練習場に場所を変えている。

主に、訳の分からん長物マホウケンをブンブン振り回す人間のせいである。

朝食を摂りに来ただけなのに、『困るよ、レタール。君からどうにか言ってくれよ』って言われた気持ちは、君には分からないだろうね?

その時、僕は一人で来ていたのに、迷惑連中の頭だと思われていることを知った僕の心痛は、君には分からないだろうね?

スポーツ紙に君のクソデカソードが当たり前のようにすっぱ抜かれてるからね?

オーナーにこの前、クソ高いワインを奢られて、『君も苦労しているな』って言われたからね?

フランクフルトのオーナーも同席していて、『どうせ、モモだろ? ドイツじゃ、日常茶飯事だよ』って慰められたからね?


映画プロジェクトは、企画段階で躓いた。何も進まん。

レタールとレジョアネが言い争っているのを見た。おまえら、時間は有限じゃからな?

なので、ワシらはサッカーをする。

公式のシーズンスタートはまだ先の話ではあるが、セカンドチーム以下の非公式戦、練習マッチは組まれることが多い。これは、各チームのセカンドチームのメンバーのトップ昇格の機会を与えるため、という動機も含まれている。

バロサセカンドチームもその例に漏れない。如何に動画撮影でギスギスしようとも、中盤三角形の連携は盤石であり、連戦連勝でワシとしても鼻が高い

黄金からワシとキリュウインなどなどを抜いても、まあ、強いのだ。

だが。

『お前の所の、それをさっさと出してこい!』

これを、相手チームが言ってくる。

仕事熱心である。ワシの戦闘能力を確かめたいのだ。

だがな。ベンチ資格すらない少年Aに向かって、何という言いざまだろうか。

フランクフルトのプレイヤーに、出場機会があるはずがない。


『何じゃこれ?』

毎日のようにバロサオーナーと飲んでいるオーナーから差し出されたプリントを、ワシは凝視している。

『見ての通り、地元開催のサッカー大会のチラシだ』

それは読めばわかる。

『なるほど? で、“スペシャルチームも出るよ!”という非常に気なる謳い文句は何じゃ?』

『これはチャリティーイベントにする予定だ』

『どうして、半裸のキリュウインとレファールが端っこの方に載っているんじゃ?』

『あくまで自由参加という形にもしている。チームは関係ない、という体裁は整っている』

『こいつらがフキダシで、“アイツも来るヨ♡”とか言ってるのはどういうことかのう?』

『ああ、各所に対する根回しは完璧だ。心配しないでくれ』

『レジョアネ以下の面子が腕組して、“かかってきたまえ”とドヤ顔なのはどうしてなのか、説明してくれるか?』

『結構デカいイベントになりそうだ。一部トップチームからも参加者がいるぞ』

『はあ……』

全く引かない構えである。これはもう覆せんな。

『背番号88。これでいいか?』

『もちろん! 頷いてくれると思ったよ』

このイベントに出るだけで、ワシがここに来た理由は達成するのではないか?

そう思ってレタールに、『もう、RRの番外編を作る必要なくない?』と言った。

レジョアネがワシに頭を下げに来た。『もう、揉めないから。頼むから完成まで付き合ってくれ』と。レタールが何を吹き込んだのか、大体を察した。


事は見事に大事になった。

ワシの参加表明は、一分後には公式SNSで拡散され、それを見た核弾頭二つを抱える例のチームが“キリュウインもレファールもヨロシクね!”と発言した。その“ヨロシク”にどのような含意があるのか、考えないことにした。

イの一番に反応したのはレアロである。

監督が、“じゃあ、僕も参戦するわ”と言った。オーナーの許可を得ていない発言だ。

“私は、その許可を出していない”

“ですが、いい機会ですよ。相手を知ることの戦術的価値は計り知れない。そう思いませんか?”

“監督、本音を言ってみては如何かな?”

“他意はありません。この目を見てください”画像付き

“欲望に濁った男の眼だ。どうせモモとサッカーしたいだけだろ、君は”

“そこにチームとしての価値があると、私は申し上げているのです”

“どうも平行線だぞ、これは”

“私も、監督の意見に賛成です。これは是非行くべきだと”チームキャプテン

“おお、君も分かるか”

“……敵が増えたぞ? どういうことだ?”

君たちは、レアロの会議室でやりなさい。公式SNSで討論するな。


黙っていなかったのが、他のスペインリーグのチームである。

地元開催の一発イベントだ。

そこに他チームの招集など含まれているはずがない。せいぜい青年会レベルの地元チーム相手に黄金世代が圧倒的勝利を飾って、『いい思い出になった』で終わる予定だった。

そもそもの発端が、『たまには居酒屋で気安く飲むか』『いいね』でビッグクラブのオーナー二人が呑んでいたところに、地元の取りまとめをしていたオッチャン達が、『どうすんべ、今回のサッカーイベント』『足出そうなんだよなあ』とウンウン言っていたのを小耳に挟んだのが始まりだ。

そこでオッチャン達に話を聞いた二人が、『これは使えるかもな』『ああ、チームイベントではなく地域イベントなら、詭弁ではあるが言い訳が通る余地はある』と悪乗りして、あくまで協賛したという建前を用意して事を進めたのだ。

だから。

“我々のチームも参加するぞ”

“地元でのイベントです。セミプロを含めたプロの方々の参戦はお断りします”

“君の所は堂々と出ているじゃないか!”

“チームとしての参戦はしていません。あくまでプライベートの範囲内での自由参加です”

“ん? ……ところで、プライベートかつチャリティーという条件であれば、たまたま他地域からやってきた”青年会“は参加できたりするかい?”

“あくまで”青年会“ですので、こちらから参加を断る理由がありません”

“すまないが、我々の”青年会“が世話になるかもしれない。協賛もするよ”

“詳しい話は後日しましょうか”

“ウチの青年会もよろしくお願いできないかね? ちなみに、青年会のレギュレーションはあるのかな?”

“おかしなことをお聞きなさる。各地方の青年会に年齢制限があるとは、寡聞にして聞いたことがありません”

“ありがとう。こちらも世話になる。後日お時間を頂いてもよろしいか?”

“勿論です”


一度転がり出すと、話はとんとん拍子に進むことになる。

ワシらのチーム名は、ボンゴが出した。チームロゴもボンゴが考案した。

『魔法と龍』マジック&ドラゴンズである。バロサとRRを使えない中で、ギリギリのネーミングである。魔法の杖と剣を龍が囲む実に中二病チックなロゴを、チームキャプテンであるレジョアネは甚く気に入った。

レタール発案の『レジョアネ軍団』は、当の本人に却下された。

ワシが考案した『筋肉同盟』も、約三人を除いて無視された。

他の青年会チームも、ギリギリのラインで分かるような分からないようなチーム名を捻りだした。そして、おそらく今回しか着ないだろうユニフォームを発注して準備完了である。

周りはそうではない。

話があまりにも大きくなりすぎたので、居酒屋のオッチャンたちは『もう、好きにやってください』と匙を投げた。

投げた先には、今回の黒幕二人を含む、悪い大人たちがいた。その首領は、RRで味を占めた会長である。レタールの動向を探ることに余念がない会長は、RR番外編の進捗云々も把握している。今回のバカげた青年会詐欺のサッカーイベントも把握している。水を得た魚のような活躍で、好き勝手した。気が付いた時には、ワシらの初戦がスペイン国内で生中継されると聞いたときには眩暈がした。


そんな中、古巣であるバイエルンで連絡先を交換したフランツから、メッセージが届いた。

『俺たちも参加できないのか?』

頭を抱えた。それを実行すると、もうUCだ。

今は何とかスペインという括りの中で抑えている。だが、ここでドイツから参戦できるとなると、もう完全に歯止めが効かなくなることが目に見えている。

『ドイツでも同じような事すればいいじゃろ?』

『そうだな』

このメッセージを、何年後かに後悔することになると、ワシは知るはずもない。


ワシの夏休みは、動画作成とこれで終了した。

ドイツに帰る際、ワシを待ち構えていた人垣が見えた。

その中から、報道陣と見える一団がワシに殺到してかかる。


『優勝、おめでとう』

『もう聞き飽きたわ』

『来季はバロサ?』

『さあな』


――殺気?

目を向けると、人生を諦めた目をした青年が、狂気に身を浸そうとしている。

手りゅう弾、その後に銃撃か。

報道陣ごと、ワシを殺そうという魂胆である。

有名人を殺害することで、自分の人生に価値を見出す。

対処は、難しくない。どころか、爆発も銃弾もワシには効くはずもない。

だが、無関係の人間が死ぬことに何とも思わんはずもない。

――ここで置き土産をしておくのも悪くは無いか。

マジック&ドラゴンズは、今回限りのチームだ。

だが、内心惜しくもある。優勝という結果は、あくまで付属品だ。

あのチームで戦った思い出が、最高のオタカラなのだ。その名前を、皆に忘れて欲しくない。


強行犯の投げ放った手りゅう弾を即座に掴み、誰もいない方向に放り投げる。

あっけにとられたソイツが取り出した銃を、発射前に真上に蹴り飛ばす。

打撃で昏倒させて、いっちょ上がりじゃ。


『魔法と龍、忘れてくれるな』

ワシはそう言ってクールに去った。

報道陣は、ワシの雄姿とチーム名を世界に発信してくれるじゃろう。


たしかに、“魔法と龍”は世界の知るところとなった。

誤った形で。

一瞬で暴徒鎮圧をした88番。

偽青年会を見ていない人間にとっては、88というサブメンバー“でも”あれだけ簡単に暴徒鎮圧ができる武闘派集団に映ったらしい。

マジック&ドラゴンズ内最低年俸という事情もそれに拍車をかけた。

『じゃあ、7番とか10番とか付けているヤツは、どれだけ強いんだ?(ゴクリ)』

バロサへのファールが露骨に減った。

レジョアネとレタール、ギザースは握手を断られる。7番、10番、11番であった。こんな奴らと握手をした結果、腕ごと引っこ抜かれることを警戒したのだ。


さらに、間違ったことに。

欧州では、魔法と龍をもっぱら“ドラゴンズ”と呼んでいた。

そして、日本人にドラゴンズというと、『それ、僕も知ってますよ』となる。

だが、話していくうちに、どうやら日本のドラゴンズはベースボールチームである事に気が付く。そして、欧州人はジョークを思いつく。『ドラゴンズのユニフォームを売ってくれないか』と。

魔法と龍のレプリカユニフォームは存在しない。

試合に出るためのワンオフ発注であるので、どこに権利があるかも分からない。

制作会社はデザインがボンゴであることも、その権利をモモに擦り付けたことも、そのモモがスーパー大金持ちに権利保全を頼んでいることも薄々気が付いているが、口に出すことは無い。命は一つしかないからだ。

結果的に、非常に需要があるにもかかわらず、供給がゼロである状況である。

そんな中で、“日本のドラゴンズ”という売り文句は、それなりに有効であった。

日本国籍のボンゴとジョシュアと、モモとハセガワが魔法と龍のメンバーだったからだ。

当の中日ドラゴンズは首を傾げることとなる。

何故か、インターネット発注で海外からの注文が殺到することになったからだ。

気になったグッズ販売担当者は経緯を調べ、次の週には上司に新たなサービス提供を直訴した。

名前と背番号を、リクエストできる。そんなサービスである。

注文受付自体は、注文フォームを多少いじるだけで対応できる。

上司は、全く期待していなかったが、それは裏切られた。

88.モモ

17.ハセガワ

51.ボンゴ

21.ジョシュア

一週間で、十万件以上の注文が来た。

バロサの街中で、地球の反対側と言っても過言ではない無関係な日本の野球チームのユニホームがちらほらと見かけられるという異常事態が発生した。

なお、中日はユニホーム売り上げによる資金力増加で、チーム強化に成功した。

クライマックスシリーズを制して日本一になった際、中日の監督はこう言った。


『まったく、分からないです。どうして勝てたのでしょうか』


野球掲示板は、そのあまりの鬼畜発言に沸いた。

“どうして勝てたのか分からない、そんなチームでも日本一ですよ”と。

“どうして勝てたのか教えてください。教えてもらったとしても、中日は日本一ですよ”と。

“どうして負けたのか考えてください。こっちは分からなくても勝てますよ”と。

敵対チームに対する煽り、不甲斐ない自チームに対する自虐。

監督の発言は素晴らしいおもちゃである。

他に何も言っていないのに、監督はトンデモない煽りキャラとして定着した。

全ての流れを把握していたのは、サッカー板のバロサスレだというのは、何とも皮肉な話である。野球民が真実を知ることになるのは何時になるのだろうか。


『まったく、分からないです。どうして○○〇のでしょうか』

このワードは、日本流行語大賞の栄冠に輝いた。

知名度と汎用性がすこぶる高いのである。


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