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019 フランクフルト/イエーガー

2015年 11月


ブンデスリーガ第七節。


バイエルンVSフランクフルト


後半五分。


『選手の交代だ! №12に代わり、№18!』

『ヤツが来る!』


僕はその光景を、興奮の坩堝と化す観客席の中で冷静に見ていた。

サッカーは、よく分からない。

でも、サッカーを知らなければならないんだ。

それでも正直、前節ライバルチームだったところから移籍してこちらに来るような人間は信用できないと、子供心にも思っていた。


みんな言う。

――モモはロクでも無いやつだって。

みんな言う。

――あいつは信用できないって。

その“みんな”は、笑顔でモモを罵る。


フランクフルトの観客は、みんな下手糞な嘘つきだった。

モモはロクでもないほどに強く。

時折、謙遜するフリをするけど根っこでは傲慢で信用できない。


僕はサッカーを知らなければならない。

何故なら、僕の実家はフランクフルトの歴史的なサポーターだからだ。

僕の興味のほとんどが別の所にあると知っていても、こうしてスタジアムのプレミアシートを取って置くくらいには、必要な教養なのだ。


僕が初めて知ったプレーヤーは、最悪サイコウで、野蛮人サイキョウだった。

フランクフルトの流儀では、この表現が最も正しいのだろう。


――『シュミット=イエーガー自伝』“サッカーとの出会い”より抜粋



死闘の結果は、フランクフルトの勝利に終わった。

2-0。

それを一部の連中が声高に悪用することは、今更言うまでもないじゃろう。

それはそれとして、内容は基本的に五分五分であって、ここまで足をファンにとっては頗る満足いく試合内容じゃろう。


さて、これからお立ち台に上がるか。



『さてさて、ラストはこいつだ!』

『今でも遅くはないぜバイエルン! こいつを俺らの元に連れ戻してくれ!』

『1G1A! こいつのスコアじゃねーか! 古巣への手加減一切なし!』

『モモ!』


『あー、お久しぶりです、皆さん。裏切り者のイエモ=モモです』


『悪びれない! こいつの肝はオリハルコンか!?』

『オリハルコンに過剰な期待はしないでくれ、彼はモモなんだ』


『どうして、あなた方は負けたんでしょうか?』


『煽る!? え、そんなにバイエルンを煽ることある!?』

『人の心には期待できません』


『まず、ポイントがズレていたんです。ワシが出場して、中盤守備枚数を増やしましたが、そこが誤りです』


『平然と戦術否定する! ヒーローインタビューだぞ!?』

『彼の中では感想戦に近いのかもしれませんね』


『――で、中盤守備のダブついた仕事量を攻撃に転換できた、という点では評価に値しますが、結果的には失敗です。次に――』


『まだやるのかモモ! バイエルンのロッカールームじゃねーんだぜ!』

『その辺の区別を求める方が、誤りなのかもしれません』


『――基本的なチーム戦略を流用する、というスタンスが根本的な間違いですね。あなた方はワシが前節所属していたというのに、何も学んでいない。馬鹿ですか?』


『言った―!』

『正直、私も同意です。型に選手をハメることが前提となっては、本末転倒だと思います』

『平然と裏切るじゃないか』


『要するに、バイエルンはワシに負けたのではなく、チームに殺されているわけです。ご理解いただけるでしょうか?』


『誰か、こいつの口を閉じさせろ!』

『バイエルンファンがお通夜なあたり、的は射っていると思うよ、うん』



ワシは正直に言った。

次の日のスポーツ紙の一面は『モモ、古巣を一刀両断』だった。

練習に行ったら、チームメイトも、コーチもびくびくしていた。

監督室に速攻で拉致された。


そして長時間、戦略談義を行う事となった。


レガトとしては、モモの発言を咎めたかった。

だが、昨日の発言は正鵠を得ているのであって、ならば戦術的な観点で自分が勝ればモモも言う事を聞くのではないか、という打算であった。

気が付いたとき、夕日は地平線に隠れようとしていた。

『モモ、延長戦を申し込んでいいかな?』

『ワインはあるか?』

『もちろん。美味い肴も期待してくれ』

レガトは、行きつけの店にモモを誘った。


『で、こうして、こう』

『ほう。硬いな』

『じゃろ? とはいえ、属人的じゃがのう』

『ああ、君になら』

『時間は稼げる。レガト弟の戦略がこういう目的じゃったと思うが』

『違いない。おっと、杯が空いてるじゃないか』

『『ビール二つ!』』

レガトは、弟よりも理論派ではない。テストの点数で勝ったことも無い。

いい意味でも悪い意味でも、適当な部分が見受けられる。

だが、それは柔軟性でもある。正解が出ないことを、苦痛に思わない性格をしているのだ。

『しかしなあ、バイエルンよりも金が無いぞ、フランクフルト』

『バイルング、カザーン、ケプラーは来期にでも、おそらく若手も遠からずサヨナラバイバイだよ。世知辛いな』

適当人間は口も軽い。軽々しく問題発言を連発するモモとは波長が合う。

「ワシだって、サヨナラバイバイの可能性があるぞ?』

『あるのか?』

『レアロ、年俸120(万)出すとのことじゃ』

『じゃ、無いな。お前は、試合に出たい。たかだか100万そこそこのプレーヤーが、あそこで出場機会を得るのは難しい』

『じゃろうな』


『モモ、ここまでくれば、俺も腹くくるわ』

『酔ってるのか? ビール二つ』

『酔ってねーよ。そんでもって、ビール追加するか普通』

『飲まんのか?』

『そんなもんは水だ水。……三年、250(万)。どうだ?』

『オーナーに確認は?』

『してない』

『今すぐしろ』

『しょうがないな』


フランクフルトのオーナーは、優雅に晩酌を楽しんでいた。

ドイツワインは、白しか飲まない。

※赤の美味しいドイツワインもあります。

電話が、鳴った。

取ってみると、監督レガトである。

この前、バイエルンをケチョンケチョンにしたので気分が良い。

『レガト、こんな時間にどうした?』

『3年、250で、モモとの契約はどうでしょうか?』

話が全く見えなかった。

酔っぱらってるのか、こいつ。査定を下方修正してやろうか。

『一意見として、まあ面白い。だが、何でこんな話をしてくるのか分からない』

『目の前のモモ本人に、オーナーに確認取れって言われてるんですよ』

それを先に言え!

『あー、あー。レガト監督? モモ君と代わってくれんかね?』

『もちろんですとも。でも、俺は本気ですよ』

君が本気なのは分かった。250? 喜んで払うわそんなもの。

『モモじゃ』

知ってるよ。ふざけてんのか日本人は。

いや、ふざけている日本人は、こいつとキリュウインだけだ。

脱衣で今期も二枚目のイエローを貰っていると聞く。話が逸れたな。

『3年で250。本気なのか?』

『条件次第じゃな』

当たり前だな。こいつの単年相場は90(万)だ。それも三年契約する旨味が、モモ側には一切ない。来期には更に相場は上がるだろう。

『で、その条件とは?』

『ドイツリーグの総売り上げ2倍策。貴様も付き合え』

フランクフルト、ではなく?

ブンデスリーガの総売り上げの、二倍?

馬鹿か?

日本の所得倍増計画じゃないんだぞ?

正気か?

モモは、初めから正気ではないのだ。分かっていて、獲得した。この前のインタビューで心底肝を冷やしたし、敵対貴族から本気で心配された恥辱は忘れん。

だが、倍増。私にも思い当たることはある。


『放映権か?』

『中抜きされて終わりじゃろ、バカか』

馬鹿に、バカと言われた……。

『メディアを作る、という考えは悪くない。将来的には考えるべきじゃが、そうではない』

『では……?』

鬼才モモの才覚を、私はこの時侮っていた。

『うむ。ワシは世界の道化になる。貴様も一緒じゃ』

息子たちよ、不甲斐ない父を笑いたまえ。


結果的には、オーナーと息子たちとの心の距離は近づいた模様。



2015年 12月


YouTube上に、フランクフルトの公式チャンネルが開設された。

一発目は、【フランクフルトを紹介します】という、至極真面目な動画。

再生数は、初回相応の高再生数であるが、次からは期待できないだろう。

二発目は、【オーナーがモモを本気で殴ってみた】だ。

トチ狂ったタイトルに、トチ狂った内容。

動画視聴者のコメントは。

・可哀そう

・許してやれ

・こんな残酷なことが

・現代の合法処刑

・バイエルンでもやらなかったぞ

などなど。

攻撃する側のオーナーが延々と傷つく動画は、かなりの反響を集めたのだ。


三本目は、【古巣とマジ勝負/モモ】

マジのブンデストッププレーヤーたちが、インディアンポーカーを本気でやるというアホ企画である。最も視聴数が多い。

四本目は、【戦略会議/レガト】

サッカー戦略を分かり易く伝えるシリーズの第一弾であり、名将と名高いレガト直伝とありリピート率が高い動画である。再生数そのものは最下位であるが。


フランクフルトは、インターネット戦略に躍り出た。

収益そのものは捨てている。

とにかく、“新規層”を増やしたいのだ。


サッカーに限らず、新規層とは宝の山であり、同時に生命線である。

どの分野でも、お金を落とすのは“既存層”である。

理屈の上では、誰だってわかっている。

どれだけ、既存層が重要か。

どれだけ、新規層が得難いか。

だから、知名度だけは上げたい。

一度は、フランクフルトのスタジアムに行こうと思う分母があればいい。

サッカーのルールを知らなくてもいい。

コアなファンにならなくてもいい。

チームの応援歌チャントは知らなくても、オーナーの名前だけ覚えておけばいい。

腹筋防御だけでオーナーの手首を折った最強モモだけ知っていればいい。

結果的に、フランクフルトのオーナーは“世界で最も有名なオーナー”になった。

こうなれば、あとはしめたものだ。


オーナーとは、最もチームに対する権限が強い存在である。

だが、ファンとしては、監督よりも存在が薄い存在である。

しかし、やはりと言うか。

同じオーナーながら承認欲求を満たしまくっていると(外面だけは)見える存在を、羨ましく思うのだ。

二匹目のドジョウを狙いに来たのは、ブンデスリーガでは無かった。

リーガエスパニョーラ、スペインリーグである。

モモの古巣の古巣。

バロサのオーナーが、魔法薬学の根暗教師に扮してパロディムービーを投稿するという暴挙に出たのだ。


フィリッポは、何度も台本を確認した。

RRシリーズはボンゴ帰還により、無事に二作目を制作中である。年齢の関係で原作の七作とはいかず、三作でシリーズは一旦完結する方向であるようだが、数字次第では彼らの後輩が続編を作るかもしれない、とレタールからは聴いている。彼はどこに行こうというのだろうか。

そのレタール謹製の脚本と、撮影スタッフはRRシリーズから流用して一流のメンバーである。おふざけの一発ネタを作る態勢ではないが、『RRメンバーを使って撮影する以上、それはRRです。半端な出来ではむしろ一発ネタにもならないでしょう』と言われてしまっては、私としても言う事が無かった。


『レタール、ここだけど』

レジョアネが、前よりもチームにフィットするようになった。映画作成を通して、コミュニケーションの頻度が上がっているのだろう。

彼は天才で、カリスマだが、それゆえに孤高だった。良いアイスブレイクになったと、内心では喝采を上げたいところだ。


『レタール君、ここの演出は』

原作の校長に扮するのは、バロサの最大スポンサーの会長である。白い付け髭をして扮装してしまえばサンタクロースのようだ。権力で言えば、私などよりも遥かに大きい。大貴族の先代当主であり、次期王を決める会議でも大きな発言力を持つほどの大物だ。

その大人物は、レタールに真摯に助言を求めている。


私はたった一言、レタールに言っただけだ。

『モモのチームが変なことをしているな。私たちも負けていられない』と。

半ば冗談だったが、デイツオーナーが羨ましかったことは事実だ。

例えサジェスト汚染で、『デイツ』と検索エンジンに入力すると、『デイツ フランクフルト』よりも『デイツ かわいそう』の候補が先に上がろうとも、世界的知名度を得ている彼にとってはコラテラルダメージだろう。


だけど、ここまでは求めていない。


『フィリッポ、オーナー。どうぞ』

ナカヒラが片言で私を気遣ってくれた。差し出されたグリーンティは独特の苦みと香ばしい香りが特徴の、日本のお茶だ。

普通ならば下心を警戒するところだが、彼がそんなことを考えていないことをこの現場で十分に見てきた。遠慮なくいただく。


『ボクも最初の撮影では緊張して、5回も失敗しましタ。結局、あるがままが一番ですヨ』

そう言ってくれるのはボンゴだ。選手としての彼は、超人だらけのチームの中ではいまいちパッとしないという印象で、試合の中でも記憶に残り辛い。

だが、放出してから、彼がピッチの中でどのような仕事をしていたのか分かった。彼は黒子なのだ。主演を引き立たせ、円滑に舞台が回るように、文字通り走り回る影の立役者なのだ。

レジョアネが彼を惜しんだ理由が、分かった。


『レタールは完璧主義の男ですが、遊び心も忍耐もあります。おそらく何回も取り直しになるでしょうが、それは失敗ではなく、ダイヤモンドを原石から削り出すための研磨のようなものでしょう』

そう言うのはイングランドから帰ってきたジョシュアだ。

正直、君の放出に最後まで反対していたが、経営陣の圧力に耐えきれなかった私を許してくれ。セカンドチームで再び黄金の三角形を見ることができたときの感動は、君には分からないかもしれないな。何せ、君にとっては当たり前の事なのだから。


日本出身の選手は、皆謙虚だ。

気遣いと気配りと、ユーモアを持ち合わせている。

善良で、良識に溢れ、和を大切にする。


モモとキリュウインは別だけど。

彼らは反面教師だったのだろう。

そう言う事にしよう。


『フィリッポオーナー、撮影の準備はよろしいでしょうか?』

未だに自分は監督ではないと言い張るレタールが、本番の準備が整ったことを告げてきた。

誰もが内心で監督だと思っているが、彼と議論をすることほど無駄なことは無いので、みな言わないだけだ。


『レタール。こういう時は、チームとしての掛け声が必要じゃないか?』

ジョシュアが、場を和ませるように言った。

確かに、RRスタッフも含めて、現場には緊張感が満ちている。

『君には何かアイデアがあるのか? わが友』

聴いたレタールは、好奇に目を輝かせている。

『円陣だよ。俺たちはチームだろ? オーナーだって、会長だって、同じモンを作るチームメンバーじゃないか。で、キャプテンはお前だ』

やはりジョシュアがナンバーワンか。会長さえも巻き込むその胆力。君、スペイン国籍とか要らない?

『なるほどな。一理ある』

レタールはその場で、円陣を組むように指示した。

スタッフは戸惑っていたが、私も正直戸惑っている。

何せ、私の右隣には会長がいるからだ。

その会長本人は、ワクワクと少年の様に胸を躍らせていることが救いである。


『レタール、一言』

『一言か……』

しばし考え。


『フランクフルトに、いや、モモに勝つ! どうせネット戦略なんて考えてアホ動画を作るのは、超ド級のアホのアイツしかいない! 再生数で勝ってやる! これは前哨戦だ! ヤツの泣き顔を鑑賞して、極上のワインで乾杯だ!』

オオオオオッ!

チームは、ここに一致団結し、有言実行となった。


チーム公式動画では初の、フランクフルトのインディアンポーカーにトリプルスコアどころか億再生を記録した。

メイキング動画も後日公開された。

円陣のシーンも、再生数で勝利した後の乾杯シーンもモリモリの、まるで一本の映画のような動画は、たった1ヨーロの有料動画として公開された。

合計で3500万再生を記録したメイキング動画は、本編動画の視聴数の1/10という割合だ。

それは全額RRの制作費用とバロサのジュニアクラスの育成に注ぎ込まれることとなった。

最初にして最高のメディアミックスに成功したバロサに続こうと思うチームは数知れない。

ちなみに、もっとも役得をしたのは会長である。

孫にせがまれて校長のコスプレをすると、素晴らしい反応を得られる。

彼にとっては、それが何よりも素晴らしいリターンであった。


なお、『次は無いのかね?』と事あるごとに会長に聞かれることになるオーナーの心労は無視することとする。



結果的に、サッカーチームのインターネット戦略はある種のスタンダードとなった。

同時に、それは格差を生むこととなる。

最古のアホ動画の老舗、フランクフルト。

世界に冠たるネット戦略の王者、バロサ。

その二チームは、ある意味殿堂入りであり、ブランド力すらある。

だが、他のチームは悩むこととなった。

お笑いが見たければフランクフルト。

真のエンターテイメントが見たければバロサ。

インターネットコンテンツとしての強みを見出せるか。

斬新さ、技術力、スター性。

何もないチームは、時間が無く飽きっぽい新規層獲得に苦戦することになるのである。


なお、フランクフルトがアホ動画の老舗として認知されるにあたり、バイエルンは胸を撫で下ろした。

特大の爆弾モモが、フランクフルトで炸裂したことに、間一髪で助かったのだ、と。



2016年 4月

アホ動画の老舗は、その世界的なネタ認知はともかく、ブンデスリーガ首位独走状態である。

だがそれは、ドイツ国内のサッカー専門誌が指摘するまでもなく、蝋燭が最後の時に一瞬燃え上がる現象だと誰もが確信に近いものを持っていた。

チームメンバーの相場高騰が原因である。

元々エース級の2名は今季限りだと噂されていたが、それ以上にフランクフルトが勝ちまくっていたので他選手の市場評価が吊り上がった。

何より大きかったのは、モモの守備的貢献が大きかったことである。

リスクを恐れてできなかったプレーを、自重なしにすることができる。

ミスをしても、モモがリスクヘッジする。おんぶにだっこであるが、全力を出せる局面と言うのは、サッカーに於いてそれほど多くは無い。

チャレンジによって経験と自信を積むことができる。チャレンジのリスクは、モモが負担する。全く健全ではない完成されたシステムが、首位独走状態を作り出しているのは、皮肉なものである。


2016年 7月

フランクフルト完全崩壊のニュースが世界に発信された。

スタメン11人の内、4人が移籍発表と言う阿鼻叫喚の状況である。


リーグ1位

UCリーグ2位

最小失点記録

素晴らしい成績だ。


来期も同じ成績であると、誰もが思わないだろう。


誰かが気付いた。

『あれ? 移籍リストにモモの名前が無いぞ?』と


モモの相場は200(万)を優に越している。

UCリーグで準決勝を戦ったチーム監督が、

『ヤツを300で買う。そうすれば、我々の勝ちだったのに!』と叫んだ。

おなじみのバイエルン監督である。

・お前さん、飼い殺しにするだけだろ

・本音ではボンゴを400で買いたい男

・バイエルンが買ったとして、地下監禁の未来しか見えない

・監禁できるか?

・さあ?

それを見ていたコメントは中々に辛辣である。


イエモ=モモに最も高額なオファーを正式に出したのは、意外でもなくバロサである。

今のバロサで、日本国籍を軽視する人間はいない。最高権力者カイチョウが骨抜きである。

3年1000(万)。トップチーム保証、出場保証。超絶破格な条件である。

そのオファーを出して、公式声明すらも出した。

バロサの一般ファンは、眉を顰めた。

だが、黄金時代を知っている人間は、歓喜した。

モモ世代はセカンドチームで連戦連勝である。そこに、モモが先にトップチーム加入したとなれば、彼らは更に奮起するだろう。

黄金に魅入られていた者たちだ。ジュニアチームで、あの輝きに陶酔した者達である。

黄金時代の再現を、彼らは幻視していたのだ。

キリュウインとレファールという特級呪物は彼らの視界には存在しない。


『だが、断る』


条件を聞いたとき、バロサのファンは発狂した。

3年250

250!?

ありえない。

あり得ないことだ!

『モモは、身内を人質にしてフランクフルトに脅迫されている』と誰かが言った。

その妄言は世界に発信され、フランクフルトは炎上した。

だが、ドイツサッカー界は至って冷静だった。

“どっかで、この流れ見たな”と。


【オーナーに脅された!】

数日後、フランクフルト公式から、一本の動画が上がった。


『モモ、君にはチームに居てもらうよ』

どう見ても本物にしか見えない拳銃を突き付けるデイツオーナー。

『ほう、契約書ではワシを縛れんと』

レクター博士よりも厳重に拘束されているモモ。

『世間は、正直だな』

『そうじゃな、世間は正直ウソツキじゃ』

『私は、こんなことはしたくない(本音)』

『そうじゃろう。じゃが、世間は貴様にそう望んでいるぞ?』

ガタガタ震えるデイツを、モモは睥睨する。なお、目隠しなので、睥睨しているかも分からない。

『これは、君とチームの契約書だ』

『3年250、条件もその通りだな。それで?』

『私を脅しているのか!?(発狂)』

完全拘束の人間に銃口を向けている人間の吐くセリフではない。

『君は、君は即座にその拘束を解いて、銃弾を弾き飛ばして俺を殺せる……分かるんだぞ!(確信)』

『いや違う』

『!?』

『拘束を解かずとも、こうできる』

セットとして置かれている机が、真っ二つに切り裂かれる。

『見誤ったな』

『アアッ!(慟哭)』


・まーたオーナーが虐待されてる

・ハリウッド行けるよオーナー

・すっごいカウンターパンチ

・脅迫騒動でこの動画出すのがフランクフルトよ

・どうせモモ発案

・『私を脅しているのか!?(発狂)』

・本心からの言葉としか思えない

・『アアッ!(慟哭)』は、デイツでしか表現できない

・老舗フランクフルトは健在だなあ


・3年250は先見の明がある

・青田買いの究極系

・本人が吞んでいるだけ定期

・普通はバロサの条件に食いつくよ

・普通?

・モモだから

・結論出たね。


その動画をきっかけに、炎上騒動は沈静化に向かった。

だが、悪乗りは続いた。


【バロサに脅された!】

RRの面子が、アホ動画に便乗したのだ。

ギザースもノリノリで参加した。何故か、フィリッポもいる。

動画内でのモモ役はギザースである。


○○に脅されたシリーズは、起爆剤となった。

チームカラーを打ち出すモノ、ブラックジョークをかますモノ、いくらでも派生が訊くのだ。

浦賀レンジャーズが配信した【アニキが脅された!】は、別名【アニキが結婚した!】と呼ばれることとなった。伊集院が脅して兄貴との結婚を迫るという、そこそこ面白い題材だからだ。そこから派生して、皆好き勝手に作り、エンターテイメントを生み出し続けることになる。



2016年 9月


ブンデスリーガ第一節。

記念すべき初戦であり、オープン戦であり、その節を占う大事な試合である。

誰もが、フランクフルトのスターティングメンバーに目を疑った。

11人中、日本国籍が8人である。

モモとハセガワは、前節から所属している。

モモが途中出場ではないのは少々残念ではあるが、そんな余裕がフランクフルトに無いことは、ファン及びスポンサーからすれば明らかであるので、いまさら言う事ではない。

イシカワ

カマクラ

タカホ

ミモリ

サイオンジ

タカトキ

要するに、日本代表の年代別オールスターがここに並んでいる形である。

こんなことをする人間を、彼らはよく知っている。

“これで勝てなかったら、おそらく無駄でしかないけれどもモモを火炙りの刑に処してやる”


フランクフルトは、非常に歪なチームである。

先進性と、伝統性が混じり合っている。それはいい意味でも、悪い意味でも。

それは表裏一体だ。良いところだけのチームなんて、この世界には存在しない。Wカップで優勝できるチームにだって言えることだ。

もし、最強のチームができたとして、それはサッカーの魅力を伝えることができるだろうか。

もし、ホームチームが連戦無敗だったとして、それは永遠に続くだろうか。

僕はサッカーチームを応援したことで多くを学んだ。

“完璧は存在しない”

その中で最大の学びは、この一点に尽きるだろう。


モモは確かに、最強のプレイヤーかもしれない。

でも、最善のプレイヤーでもないし、最高のプレイヤーでもない。

あくまで、チェスで言うところの、クイーンとナイトの動きが同時にできる“駒”でしかないのだ。駒としては最強だけど、それを補って余りあるだけの欠点を抱えている。


サッカーゲームで最強イレブンを作る時に僕が彼を採用しないのは。

合理的な理由と、合理的ではない理由が存在する。


――『シュミット=イエーガー自伝』“絶頂と凋落”より抜粋


2016年 12月


フランクフルトは、勝ったり負けたりで現在7位だ。

年俸比であれば、“よくこのチームここにいるな”という結果だ。

僕がチーム最高年俸の時点で、お察しというものだ。

だが、チーム内のモチベーションは悪くない。

僕の家でチームミーティングしたり、僕の家でゲーム大会したり、僕の家の庭で花火大会をしているからだ。

キャプテンってこんなポジションだっけ? 役職手当をくれよ。

ハセガワ、日本チームのキャプテンだろ? 代わってくれよ。

ここが宴会場になるたびに、ご近所さんが寄ってくるんだよ。

『パパ、二段ジャンプして』って、息子にこの前言われたよ。

モモ、宴会芸で二段ジャンプしたんだってね? 漫画みたいな事するね。やめてね?

人間は、空中でジャンプできないんだ。分かるだろ?


ご近所さんは、メディアリテラシーがしっかりしている。

素晴らしい。

モモが影分身しても、壁キックで10メートルくらい飛んでも、ビール片手にはしゃいでいるだけだ。

もう、サーカスに行っても感動できないね。お気の毒様。

あと、近所の子供がこれ出来る? って漫画を持ち込んでくるのはやめてくれ。

キャプテン椿を持ってくるんじゃない。

そして、日本チームは再現するんじゃない。ハセガワもはしゃぐな。君が止めなかったら、誰が止めるんだ。

「あれ、できるんだなあ」って、感動してるんじゃない。

確かにスカイオーバーヘッドは僕も見入ったけど……。

人間が10メートル近く垂直飛びできることに疑問を持ってくれ。


2017年 2月


フランクフルトは、現在4位だ。

メンバーがチームにマッチした。その結果だろう。

日本勢の来期移籍はない。だが、モモは来期でラストシーズンだ。どうなるだろうか?

そのモモは、この家でBBQをするたびに漫画を渡され、その再現をしては喝采を浴びている。

『シュート!』の必殺技は極めて温厚だった。ダブルリフトはモモではなく、タカホが決めていた。人間にできる技は、やはり安心する。

『NARTO』の必殺技は、全力で止めた。「口寄せかあ……カエルは呼べんから、ドラゴンで茶を濁すか?」と呟いていたモモの独り言を聞き取った僕の耳は素晴らしく優秀だ。

『エリアの騎士』も温厚だ。φトリックを目の前で再現したカマクラに、無条件で拍手したくらいだ。そうそう、そういうので良いんだよ。

『ジョジョ』を渡した人は素直に名乗り出なさい。僕の家がキラークイーンされるところだったからね?

『ドラゴンボール』が出てこないのは意外だった。あとから息子から聞いたが、「モモがドラゴンボールみたいなものじゃないか」と言っていた。

『るろうに剣伸』は、イシカワとサイオンジが再現していたな。クズリュウセンって、人間に打てるんだ。へぇ~。

グレン・カイナとかいう技はモモが再現していた。もう何も言うことは無い。

え、『僕のヒーローアカデミア』? 何だそれは。

僕の庭の半分が氷漬けになったのは、きっと幻覚だろう。


2017年 3月


また、フランクフルトがネタ動画の老舗として動き出す。

リーグ成績は四位だ。正直、ここから巻き返すことはできないだろう。前半戦の低迷が祟った。試合数も足りない。だから、開き直って動画を出すことにしたらしい。

【サッカー漫画の技を再現しよう!】

素晴らしい! 極めて現実的だ!


『こんにちは、モモじゃ』

『お久しぶりです。デイツです。モモ君』

『何じゃ?』

『この極めて防御力が高そうなプロテクトアーマーを、私が着ている理由を説明してくれるかい?』

『必要だからじゃ』

『は?』


・お久しぶりです!

・チーム成績の関係でネタ動画作れんかったんか

・そりゃそうよ。首位独走でもしない限り

・遊んでないで試合に勝てよってなるからな

・もう今期はリーグ優勝に絡めないからね

・UCは勝ち進んでいるので、最低限は期待できる

・いうて、バロサとユナイテッドが優勝争いよ

・またオーナーが犠牲になってる

・デイツオーナーの悲鳴は定期的に摂取したくなるからな

・公式からの供給助かる

・『は?』

・またしても何も知らないオーナー


『今回の動画タイトル、知っとるじゃろ?』

『ああ、サッカー漫画の技を再現するんだろ?』

『大正解。で、気になったことは無いか?』

『ない(断言)』

『最も強いシュートが、どれだけの威力か。気にならんか?』

『気にならない(不動の意志)』

『で、デイツのアーマーには、スポンサー様であるイエーガー社の技術で作られたセンサーが取り付けられている』

『もう説明しないでくれ(直立不動)』

『もう説明は要らんな?』

『ここから居なくなりたい(本心)』



【老舗】フランクフルトスレ 420【再開】

テンプレ以下略


モモ、オーナーは君のおもちゃじゃないんだ。


名無しのフランクフルトファン

必殺技三つ目でセンサーがぶっ壊れて良かったね


名無しのフランクフルトファン

ターガーショットで破壊されといて助かったな


名無しのフランクフルトファン

ボールの回転熱でネットが焼き切れるとか言う殺人シュートが来る前で良かった


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あの漫画、結構な割合で殺人シュートあるよね


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イシワキの顔面ブロックが効くくらいの威力のシュートでも一般人は骨折モノよ


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『シュート!』編と『エリアの騎士』編は和み回


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人間にできる技だからね


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すごいなあ……(当然の感嘆)


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ホイップキックって、結構難易度高いんだ


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足の使い方自体を変えなきゃいけないからね


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オクトパスキャッチの件は笑った


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オクトパスじゃないやんけ!


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完全なる力技で片手キャッチだもんな


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限りなく握撃に近いキャッチ


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ボールの方が弾けとるやん


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で、『キャプテン椿』編よ


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オーバーヘッドシュート!

なお、高度


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五メートル……ですかねえ


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若島津の三角飛びって、実際できるんやな


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あの脚力があれば、普通に取れよ定期


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漫画もなかなかトンチキな世界だ


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トンチキを実践する男がいるんだよなあ


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ボカ・ジュニアーズがめちゃくちゃ反応してるな


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椿の原作者がいる南活SCも反応しているぞ


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ブラジルの椿人気はえぐいからな


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バロサのネイマーレも公式で

『マジかよ! オイ!』と大興奮の模様


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ブラジルの10番様だ、面構えが違う。


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ブラジル勢は大体そんなもんだぞ


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作中でブラジルが最強国扱いされているから、愛読者が多いんだよね


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【漫画の必殺技を再現! その1】

見たよな?


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サッカーチームがやる事か?

クズリュウセン!


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見とるやんけ


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木刀とはいえ、抜刀術は奇麗だな


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西園寺は何やってんの


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知らないのか?

ヤツは師範代の達人だぞ


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日本代表は安泰だな


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何を見てそう思った?


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武力


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正直だな



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何で?


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【バロサ&フランクフルト】

何で?


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バロサ公式が言ってるだろ


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RRの面子VSモモ

映像関係では初共演だな。


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経緯が知りたいんですが……


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モモが来期末で契約更新期間に入るから。


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ああ、そういう


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ドイツでは有名でも、今のスペイン国内では無名に等しいからか


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本腰入れて、取りに行くってことね


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ファンに小出しすることでモモを受け入れる土壌を作りたいってことだな


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ポッと出の選手よりも、知ってる顔の方が受け入れやすい


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で、フランクフルトの利益はどうなるよ


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動画収益の分配次第だな


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契約内容がそこに噛んでいれば、フランクフルト→バロサは確定するな


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要するに、分かんないってことだな


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そういうこと



「よう」

「ああ」


バロサの会議室で久々に顔を合わせたジョッシュは、随分背が伸びていた。

精悍な顔立ちと、鍛えた体。少し香水が香るのは、年相応の“遊び”を満喫しているからか。

一人前のツワモノ特有の雰囲気を、すでに持っている。

「ピッチは空いているか?」

試してみたい。その欲求が、ひしひしと沸いてくる。

「モモ、それは仕事が終わってからだ」

ジョッシュは窘めるように言う。だが、その瞳の炎は誤魔化せんぞ。

「1on1。時間1分」

「三本先取」

ガシッと、ワシらは抱き合った。

「変わってないな、ジョッシュ」

「モモは相変わらずだな」

互いに互いの胸を叩いて、離れる。

「ワシに挑むか、ジョッシュ」

「お前が、俺に挑むんだ。モモ」

……。

「というのはどうじゃろう?」

「見てたよな、お前ら」

撮影スタッフは臆面もなく撮影していたし、キャストも楽し気にニャニヤしている。

こういう場面で出てくるボンゴが全く首を突っ込まない時点で、なんとなく察していた。


『素晴らしい! 素晴らしいよ!』

知らんおっさんが出てきた。

『誰じゃお前』

ワシがそう言うと、おっさんの背後に控えていた黒服が圧を強めた。

威圧か? 馬鹿馬鹿しい。

『おっさんの護衛か? しつけが成ってないようじゃの』

『ああ、すまない。すまないね』

こいつは、

『悪いが、口を挟むぞ。そいつも、そいつらも。一切の罰則を科すことを禁じる。家族係累を含めて』

独裁者特有の匂いをしている。


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